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百合三昧(短編集)  作者: 渡辺純々
35/42

ヒーローだけど悪の親玉が十歳の女の子だった挙句一目惚れしちゃったから守ることにした

「ステラ、おはよう!」

「おはようございます、アリアお嬢様」

 ここは、超大手秘密結社「デス・ワールド」の末端中の末端組織「アクダマ」。

 社員は私とアリアお嬢様の二人のみ。親玉がアリアお嬢様で、私はその部下。他に手下を雇う余裕もなく、こんな極小組織に本社から派遣される人間もなし。

 素晴らしきかな弱小アクダマ。なんというパラダイス。

「今日の朝ごはんは?」

「三段重ねのパンケーキにフルーツヨーグルト、そしてホットミルクです。あ、もちろんパンケーキにはハチミツたっぷりかけておきますね」

「やったー!」

 ああ、その純粋に喜ぶ姿が可愛らしい。私には十分過ぎるほどの朝ご飯だ。

『いただきます』

 アリアお嬢様は、行儀良くナイフとフォークを使ってパンケーキを一口頬張る。そして、その可愛い顔をほにゃりと崩した。

「おいしーい! ステラの作るお料理ほんとにおいしい。もしかしてステラは昔料理人目指してたの?」

「いいえ。ただ、一人暮らしが長かったので必然的に身に付いただけですよ」

「へえ、そうなんだ」

 料理ができる自分で本当に良かった。これも修行の一環と、食にうるさい今は亡きクソったれ師匠のために殺意を覚えながらも毎日作っていたけれど。今だけは感謝してあげてもいい。あなたの偏屈な性格のおかげでアリアお嬢様に今こんなに喜んでいただけるのだからと。

 アリアお嬢様はふぅふぅしながらホットミルクを一口すする。その鼻の下に付いた出来立てほやほやの白髭が私の脳内を撃ち抜いた。

「か、可愛……っ」

 ああ、もうその初歩的なミス可愛すぎる。いけない、ヨダレが出そう。そんな邪な私をアリアお嬢様は知る由もない。

「今日は何して遊ぶ?」

「残念ながら、本日は遊べません。十時に西支部会の会議が入っています」

「えぇ、やだー。カイギってたいくつなんだもん」

「まあ、楽しいものではありませんね」

「この前のカイギだって、ファントムとかいう変な奴が強いヒーロー倒したからどうのとか、うちの支社を一つ潰したからどうとかって、ぜんぜん意味わかんなかった」

「ファントム、ヒーローにも悪にも属さない謎の存在ですか。まあ、奴が潰した支社の方は活動実績が全くないくせに、本社から活動資金の名目で様々な経費を架空請求して贅沢三昧していたそうですからね。ファントムが潰さなくても、いずれ本社から切り捨てられていたでしょう」

「そうなんだ。だからみんなあんまり悲しそうじゃなかったんだ」

「ええ。むしろ本社側からすれば経費削減できて嬉しいのではないでしょうか」

「……大人ってよくわかんない。やっぱカイギやだー。遊びたいー」

「では、会議をボイコットして私と遊びますか?」

 私としてもむさ苦しい野郎どもが集まる会議なんかより、天使のように愛らしいアリアお嬢様と二人だけで戯れる時間の方が比べるまでもなくはるかに尊い。

 鬼ごっこして逃げるアリアお嬢様を捕まえてギュッと抱きしめてみたり、かくれんぼして見つけたアリアお嬢様をギュッと抱きしめてみたり。おままごとをして、「ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」とか言って困らせてみたい。……ああ、ダメだ、妄想しただけで鼻血が出そう。

 そんな別世界へトリップしている私を無視して、アリアお嬢様は眉間にシワを寄せながらむむむっと呻く。そしてポソリと呟いた。

「……やっぱりカイギに出る。だって、ここは親玉の好きだった場所だもん。だから、私はこのアクダマを守る。ちゃんとカイギにも出て、みんなに認めてもらうんだ」

「アリアお嬢様……」

 先代の親玉はご高齢だったにも関わらず、さきのヒーロー大戦で孤児となったアリアお嬢様を拾い育て上げた。死ぬ間際に「好きに生きろ」とアリアお嬢様に遺言を残したため、今お嬢様はそれを実行している。

 十歳にしてこの決断と覚悟。大人でさえここまで芯の通ったヒーローやヒールはいないだろう。そんな自分にはない強さを持つアリアお嬢様を、私は密かに尊敬している。

 というか、なんと言ってもそんな真剣な話をミルクの跡を付けたままおっしゃるアリアお嬢様の愛らしさが激ツボ。なんなんですかその技。どこで身に付けたんですか。最強すぎてこっちのHPが足りなくなりそうなんですけど。

 そう、こんな私の萌えポイントをぐいぐい突いてくる人なんて、この世界中どこを探してもアリアお嬢様しかいない。

 私は身を乗り出し、名残惜しくもミルクが固まる前にいつものようにアリアお嬢様の口元をナプキンで優しく拭ってあげた。

「アリアお嬢様がこのアクダマを守りたいとおっしゃるのなら、私も全力でそれをお支えいたします」

「ほんと? でも、ステラは元ヒーローだったんだよね。私の味方して大丈夫なの?」

「ええ、問題ありません。ヒーローと一口に言ってもピンキリですから。彼らのドロドロとした裏の顔を見過ぎてしまい、実はちょうど嫌気がさしていたんです。そんな時アリアお嬢様に出会い、あなた様のその純粋無垢で素直なお心に感銘を受けました。私がお守りすべき相手は彼らではなく、この天使のようなアリアお嬢様なのだとその時悟ったのです。ですから、微塵も後悔はいたしておりません」

 ヒーロー界で神と崇められている超有名なヒーローからある日突然呼び出され、アリアお嬢様の暗殺を命じられた。実はアリアお嬢様は愛人に産ませた自身の落し子で、イメージに傷が付くから殺してほしいと。

 自身の保身のために、十歳の少女の命を奪うことを平気な顔をして命じてしまう。しかも、まるで目の前のゴミをゴミ箱に捨てるかのように。

 その瞬間、奈落の底に突き落とされたかのような激しい失望が私を襲った。

 私が目指していたヒーローは、こんなモノだったんだろうか。悪を挫き、弱きを助けるのがヒーローだったんじゃないのか。私が憧れたのは、そんな強くてカッコいいヒーローだったはずなのに。

 神からの命令を断れば、ヒーロー界で生きていけない。ひとまず受けたはいいけれど、アリアお嬢様を目の前にした瞬間、その純粋無垢な愛らしさに思わず涙が出た。

 彼女はこんなにも儚く尊い。それを私が奪うなんて。そんなこと、ヒーローとしてできるわけがない。

 私は命令を実行することができなかった。そんな自分の命を狙いに来た私なのに、アリアお嬢様は「大丈夫?」と言って優しく抱きしめてくれた。

 その時誓ったのだ。私は、私が思うヒーロー道を貫こうと。誰に何と言われようとも、もう誰の指図も受けない。自分で考え、心で感じたことを信じて突き進む。たとえそれでヒーローでいられなくなったとしても。それが私の、ヒーローとしての覚悟だから。

「後悔はしておりませんが、私のせいでアリアお嬢様にご迷惑をおかけしていないかが心配です。元ヒーローの私を受け入れたせいで、周りから色々と言われたりしていますよね? そのことでお嬢様が傷付いていらっしゃらないかと、そのことが気がかりです」

「何言ってんの! 全然傷付いてないし、そんなのへっちゃらだよ。それよりも、ステラが私の前からいなくなっちゃう方がやだ。だって、ステラはもう家族だもん。離れ離れは絶対やだやだやだ!」

「私も、アリアお嬢様と離れるのはとても辛いです。だから安心してください。裏切り者の私に、ヒーロー界での居場所はありません。私が戻ってくる場所は、アリアお嬢様のおそばだけです。ですから、あなた様のおそばを離れることは決してありませんよ」

「ほんとに?」

「ええ、本当です」

「良かったぁ。ステラ、だーい好き!」

「だ……っ」

 アリアオジョウサマ、カイシンノイチゲキ。ステラハハナヂガトマラナクナッタ。

「ステラ大丈夫っ?」

「……だ、大丈夫です。いつものことですから」

アリアお嬢様の満面の笑顔。天使の微笑み、純度百パーセントの愛らしさ。やばい、間近でくらうと破壊力半端ない。

 大好きって言った、今アリアお嬢様が純粋無垢な笑顔で私に対して大好きっておっしゃった。これはもはやプロポーズ!

「アリアお嬢様! 今すぐ私と籍を入れて本当の家族に――」

「うりゃあぁぁ!」

 私がアリアお嬢様の手を握りプロポーズ返しをしている時、突然事務所の扉が乱暴に開かれた。そして、二人の男が挨拶もなしにズカズカと中に入ってくる。

「な、なにっ?」

「アリアお嬢様、私の後ろに隠れていてください」

「う、うん。わかった」

 アリアお嬢様を背中に押しやり、無遠慮な男二人と対峙する。

 見た目のガラの悪さは悪党側に引けを取らない。が、本社の人間であれば、いくら末端組織とはいえこんな社会性を欠いた会社訪問の仕方はしない。

「どちら様でしょうか? 今日ご訪問のご予定はなかったと思いますが」

「あー、無いだろね。だってこれ奇襲だし。それに俺らヒーローだから」

「この事務所ぶっ潰しに来ましたー。おめでとう、君達は俺らの栄光の礎の一つに選ばれたんだ。はい、拍手ー」

「潰すって……」

 男達の下品な笑いに、アリアお嬢様は不安そうな表情を覗かせる。そして、私の服の端をキツく握りしめた。

 こいつら、アリアお嬢様をこんなに怖がらせて。その所業、万死に値する。

「よくいらっしゃるんですよねぇ。弱小組織潰して手っ取り早く手柄を立てようとする、ヒーローの風上にもおけない恥知らずが。そういうの、はっきり言って迷惑です」

「んだとテメェ! 恥知らずはお前ら悪党の方だろが」

「俺らはそんな悪い奴らを倒すヒーロー様。お前らは黙って俺らに倒されてればいいんだよ」

「これが子ども達が憧れるヒーローとは嘆かわしい。いいでしょう、そんなゴミみたいなヒーロー様は、アクダマの一員であるこの私が成敗して差し上げます」

「はっ、弱小事務所の分際で何を……ぶっ」

 男が話し終える前に、私はそのむかつく顔に拳を一発ぶちかました。食らった男は風に舞う木葉のように事務所からぶっ飛んでいく。

「な……っ、ウソだろ!」

「ああ、すみません。怒りで力が上手くコントロールできませんでした。というか、隙だらけな上にあれくらいの攻撃を避けられないとは。昨今のヒーローも落ちたものですね」

「テメェ、言わせておけば……っ」

 もう一人の男が殴りかかってくる。しかし、私はそれを踊るように軽やかに避けると、その伸びきった腕を掴んで背中から投げ飛ばした。男は「うえっ」とカエルが潰れたような呻き声を上げる。

「ステラつよーい!」

「ありがとうございます。ですが、私が強いというよりこの二人が弱すぎるのです」

「そうなの?」

「そうなんです。それよりも。アリアお嬢様、この者達はどういたしましょう。本社へ引き渡しますか? それとも、もういっそここでやっつけてしまいますか?」

 なるべく十歳のアリアお嬢様に合わせて直接的な表現は避けたけど。つまりは今この場で殺してしまうかということ。男達も私の殺気を見て恐怖に顔が引きつっている。

 こんなに無礼な奴らだ。普通の悪党頭なら問答無用で処分決定を下すだろう。しかし、アリアお嬢様は悩んでいるようだった。

「悪の親玉としてはやっつけるべきだけど、痛いのはかわいそうだし……。でも、シャチョウからはもっと悪役らしくしろって言われてるし。どうしよう……」

 まるで究極の選択と言わんばかりの苦悶の表情。大好きなイチゴのショートケーキとチョコパフェを目の前にした時の悩み方とは少し違う。嫌なことを選ぶか選ばないかという、どちらを選んでも喜ばしくない結果という悩み。

「さすがヒーロー界の神の子どもというべきか」

 アリアお嬢様は、性格的に悪いことができないらしい。

 いつも支部長や社長からもっと悪党らしく悪事を働いて人間を困らせろと叱られるアリアお嬢様。そのため、毎日一生懸命悪いことを考えてはいるのだけれど。

「声かけられても無視する? でも、それってすっごく悲しいし。じゃあ、おばあさんが目の前にいても席をゆずらない? でもでも、おばあさんはずっと立ってるの辛いだろうし。そうだ、順番抜かしならどうかな。あー、でもあともうちょっとって時に抜かされると悔しいし。……あー、もうどうしよう!」

 いつもこんな風に最後は頭を抱えてできないと叫ぶ。

 どうよ、このアリアお嬢様が考える精一杯の悪事レベルの拙さ。性格的に優しくてヒーロー向きなのに悪党にならなければと必死に頑張るそのお姿。

 そのいじらしさ、まさに神レベル。その幼い顔に広がる苦悶の表情、マジ尊い。萌え過ぎていつか死ぬ。今だってまだ鼻血が止まる様子はないし、むしろ悪化しているくらいだ。

「マジ天使……っ」

 社長や重役達から能力を買われて本社へ来ないかと何度も誘われてはいるけれど。いくら報酬を積まれてもアリアお嬢様の愛らしさには敵わない。なのでずっとお断りをしている。その代わり、お金の無いアクダマのために極秘の任務を引き受けては資金調達をしているけれど。それはアリアお嬢様には秘密。

「……よし、決めた!」

 アリアお嬢様の声に我に返る。その目には決意が宿っていた。

「ステラ、そいつらのお尻をペンペンしてやりなさい!」

「ぺ、ペンペン……」

 素晴らしい! 誰もがポカーンと口を開けて唖然とするその子どもらしいお仕置き。ペンペンの言い方が拙い上に、どうだと言わんばかりの誇らしげな顔。もうギュって抱きしめてこれでもかってくらい頬ずりしたい。

「はっ、なんだそりゃ」

「さすがガキだな。助かったぜ」

 男二人はラッキーと言いたげにニヤリと笑う。まるで私の愛をバカにされたような気分だ。実に不愉快。

 冷徹レベルにまで急速冷凍された私は、事務所の端にポツンと置いてあった金属バットを手に取る。そして今の顔をアリアお嬢様に見られないように移動すると、男達の前に仁王立ちした。

「了解いたしました、ボス。お尻ペンペンですね」

 これはデモンストレーションと、野球界のホームラン王並みのフルスイングを披露してみせる。すると、事務所の窓にヒビが入り、いくつかの書類が粉雪のようにヒラヒラと舞った。驚愕したのは男達。

「ま、待て! 早まるなっ」

「俺達が悪かった! だから見逃してくれっ」

「あなた達はバカですか? 弱小とはいえここは悪の巣窟、デス・ワールドの支社ですよ。そこにいる人間に優しさが備わっているとでも?」

「や、やめて……っ」

「もう二度とここへ歩いて来れないようにして差し上げます」

 冷徹なまでにバッサリ切り捨て、怯える男達に向かってバットを構える。そして今まさに振ろうとした、その時。

「やっぱりダメぇー!」

 そう叫んだかと思うと、アリアお嬢様は私の所へ走ると、服の端をギュッと摘む。そして、涙目の顔を私に向けた。

「やっぱりお尻ペンペンはダメ。……痛いのはやだよぉ」

「しかしっ」

「ダメなものはダメなのっ」

「アリアお嬢様……」

 しばらく私とアリアお嬢様の視線が絡み合う。もちろん、先に折れたのは私だった。

 潤んだ瞳で見つめられるとか、何のこのおいしいシチュエーション。もう野郎のケツなんかどうでもいいわ。

「我がボスの優しさに感謝するがいい。だが、二度目はない。次来た時はその命無いと思え」

『は、はいぃっ』

 かろうじて理性を絞り出し、金属バットを静かに下ろす。男二人はとてもヒーローとは思えない逃げ足でこの場から立ち去っていった。その後ろ姿を見送りながら私はため息をつく。

「せっかくアクダマとして初手柄をたてられる絶好のチャンスでしたのに。逃してしまって本当に良かったのですか?」

「だって、人が痛がるところ見たくなかったんだもん」

「まあ、アリアお嬢様らしいとは思いますが」

「ごめんね、ステラ。……ヒーローもやっつけられないなんて、私悪党失格だよね」

 アリアお嬢様の視線が下を向き、その可愛らしい声が震えている。

 駄々をこねた時や、擦りむいて痛いのを我慢する時の泣き顔を見るのは大好きなのだけれど。こういう時のアリアお嬢様の涙はやはり見たくはない。

 私はフッと笑うと、アリアお嬢様を優しく抱きしめた。

「ヒーローもピンキリなら悪党もこれ然り。べつに周りの意見に合わせる必要はございません。私は、優しい悪党がいてもいいと思いますよ。その方がアリアお嬢様らしくて私は好きです」

「でも、それでいいのかな。やっぱり、悪党として何か悪いことしなくちゃいけないんじゃないの?」

「私は、アリアお嬢様にはもっと自由に生きてほしいのです。ですから、やりたくないのであれば、無理に悪いことをする必要はございません」

「でも……」

「では、発想を変えましょう。周りから悪いことをしろを言われているのに、何もしない。これはすなわち悪いことにはならないでしょうか?」

「悪いことをしろって言われてるのにしない……そうか、そうかも!」

「でしょ」

「ステラ天才だよ! よーし、じゃあこれからは何を言われても悪いことはしないぞ。言いつけを守らない。それこそが悪いことだもん」

「その通りでございます」

「ステラありがとう。やっぱりだーい好き!」

「だっ……!」

 ヴァルハラへようこそ。今門は開かれた。汝を天国へ導きたもう。

「……って、まだ死んでたまるか! まだアリアお嬢様と婚姻届すら出してないのにっ」

 アリアお嬢様のとびきりのエンジェルスマイルで、危うく昇天してしまうところだった。一撃必殺の御業恐るべし。

 というか、アリアお嬢様の素直さは国家レベルで保護すべき案件だと思う。何故世間は放置しているんだ。誰かに悪用されたらどうする。どう責任を取るんだ。とりあえず、今度社長に提言してみよう。

 アリアお嬢様はぶつぶつ呟く私を見て、不思議そうに首を傾げている。これ以上怪しまれたくないので、私は食卓へ戻るよう促した。

「そっか、急がないとカイギにも遅刻しちゃうもんね。急いで食べよう」

「遅刻することも悪いことになると思いますが?」

「ダメだよ。それだとみんなが困るでしょ。めいわくかけちゃダメ」

「アリアお嬢様は真面目ですね。でも、そういうところも大好きです」

「うん、知ってる」

 アリアお嬢様は意地悪っぽくえへへっと笑う。そんなお姿に幸せを感じてしまって。なんだか私まで嬉しくなった。

 あの時、アリアお嬢様を暗殺しなくて本当に良かった。私の選択は間違っていない。だって、今ほど幸せだと思うことはないのだから。

「そうだ、これうわさで聞いたんだけど。一番のライバル会社だったアンサツ組織のダーク・マターが、たった一晩で潰されちゃった事件があったでしょ?」

「そんなこともありましたね。ヒーローの仕業なのかライバル企業の仕業なのかと色々と憶測がたった割に、未だ誰が犯人なのか不明という」

「そう。実はそれね、ファントムが一人でやったんじゃないかっていうの。Sランク級のアンサツ者がいる組織だよ。信じられる?」

「……へえ、それは興味深いですね」

「でしょ。っていうか、怖くない? さっきみたいにそんな強い相手がこのアクダマに乗り込んできたらどうしよう」

「それはありえません、絶対に」

「どうして?」

「それは……うちは弱小組織ですから。そのファントムとやらが狙うほどの価値はないかと」

「でも、うちは潰された支社みたいにほとんど活動できてないよ?」

「あれは本社を騙してお金を受け取っていたから潰されたんです。でも、このアクダマはそんな悪いことはしていないでしょう? 現にアリアお嬢様は正直に活動報告をし、その結果きちんと上司に叱られているわけですし。ですから、ファントムだって狙いませんよ」

「そっか、たしかにステラの言う通りかも。今のステラの話聞いてちょっと安心した」

「ならば良かったです。それより今日の会議の場所ですが、その近くにパフェが美味しいと評判の喫茶店があるのをご存知ですか?」

「パフェ!」

「なんでも、チョコパフェが人気らしいですよ」

「行く、絶対行く!」

「では、会議が終わった後に行きましょうか」

「やったー!」

 アリアお嬢様の頭の中がパフェ一色になったのを確認して、私はホッと胸を撫で下ろした。

 私がアリアお嬢様の暗殺に失敗したと知ると、神は今度は極秘にお嬢様の暗殺をダーク・マターに依頼した。はじめのうちは来た者から追い払っていたけれど、途中で面倒くさくなって組織ごと壊滅させたのは私だ。

 でも、どうしてそんなことをしたのかとその経緯を話さなければならなくなるうえに、アリアお嬢様に渡すとびきりのクリスマスプレゼントの資金をファントムとして稼がなければならないので、このことはアリアお嬢様には絶対に秘密。



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