工事中の道路
以前から小説を書いてみたいとは思いそれを披露する媒体が無いな~と思っていましたが、「小説家になろう」さんのお陰で披露する事が出来ました。曲がり曲がった恋愛を楽しんで貰えたら幸いです。
ほんの一瞬だけど僕には一生の様な時間だった。あの人の目と僕の目が合ったのは。入学当初から一目惚れした彼女とろくに会話もせずただただ片思いのままでいた。もう錆びて動かなくなって歯車が何事も無く動き出した感じがする。きっといずれは止まるけれどこの瞬間だけはそれが楽しく思える。過去も未来も忘れるぐらい今が楽しかった。
同じクラスにすらなった事ないし、すれ違う事すらなかったのに放課後下駄箱で出逢った時の衝撃さ。本当に出逢えたのは彼女だったのだろうか?下を見て歩いていたから確実な証明は出来ないが、雰囲気が彼女だと確信してしまった。嬉しさの反面、汚い面でいたからその場に立ち会うのが申し訳ない気持ちで一杯だった。こんな事ならちゃんと清潔にしておけば良かったと。彼女と出会えるならもう少しオシャレにしていたのに。ただでさえ不潔な見た目なのにそれを隠さず生きていた自分に猛烈な後悔に染まっていた。夕焼けに照らす彼女がさらに綺麗に思えそして、自分がさらに汚いと思ってしまった。彼女の綺麗さより自分の汚さが勝ってしまい彼女の事を考えている暇など無かった。そんな自分を見られたくないそんな気持ちで逃げたくなってしまった。勿論、彼女は僕の思考など考えている訳も無く目が合ったかもしれない後はそのまま靴に履き替え玄関から消えていった。果たして彼女はいたのだろうか。しかし、掴めた雰囲気だけは彼女だと疑う事をせず信じていた。きっと彼女だろう。薄らいでいく記憶はそう思いこませた。最早、彼女の事など幻かの様になってしまった。
帰り道、合ったはずの目を思い出す作業で一杯だった。ちゃんと自分の目で見たはずなのに全然思い浮かばない。何故、好きな人の目を覚えておけないのか。役に立たない英単語の方がスラスラ出てくる。忘れてしまったら復習すれば良いのだろうがそれが勉強の話であって今回は違う。復習するには彼女その物が必要だからだ。幻だと思っている人に会えた事すら奇跡なのだが、それをどんな目なのか見返す為にもう一度遭遇しないといけないのだから最早至難の業と変わらない。それでも覚えている事は途轍もなく綺麗な目をしていた事だ。夕焼けに負けないぐらい目の輝きだけは覚えている。あの目で僕を見ていたのか。先ほどの後悔がもう一度やってきそうになったのでそこで考えるのを止めた。僕はこんな場所で何をしているのだろうか。電灯が漸く本来の力を発揮しだした時間に僕は無駄な妄想を繰り広げている。こんなループを繰り返すぐらいなら力振り絞って彼女と会話すれば良いのに。そう簡単なはずなのに実際行動に移そうとすると体が動かない。もう、彼女の付近に接近すると結界の様な物で遮られてしまう。アホらしいが、今の僕には目が合う事が限界。それで満足な様にも思えてきた。そう思うといつもの帰り道が違ってみえる。単純な考えで変わる帰り道が可哀想だが今の僕には幸せな事なのさ。今日も工事中で道幅が狭い道が広く感じる様になった。なんてアホなんだ俺は。
いつも通りの授業を繰り返していると次第に彼女の事など忘れていった。毎日会える訳でも無く反省会など開く訳でも無く、彼女の事を考えている暇などは微塵も無い。それ以外に楽しい事は沢山ある。彼女だけの世界があるならばそちらの世界にお邪魔するけれどそんな世界に進出する条件は全く当てはまらない。入る前に侵入者として射殺されるだけ。纏わりつくオーラだけで敵わまないのにその中に入る事など不可能。だから、違う事で気を紛らわそうとしている。読書にゲーム、ネットにスポーツ、一応学生なので本業の勉強も。それだけでストレージは一杯で彼女を入れる余裕は無い。アップロードをしないと無理。そうして僕は、自分を保っている。一度もアップロードした覚えは無いけれど周りの大人という生物は成長したねと褒めてくれる。成長って何?爬虫類に良く見られる脱皮と同じなのか?そんな事を繰り返して僕はそんな上っ面な会話を聞き流していく。進まない人生が進む気がしない。何か変化を感じられる方法は無いのか。出来る範囲内で変えようとしてみたが、結局は戯言の様に消えていく。大人ってどうやって進化していくのか不思議でしか無かった。変わるって一体何?そんな事を考え続けていたら放課後になっていた。今日も先生はふざけた生徒を叱っていただけでそれ以外何も無かった。あれ以降何も考えなかった下駄箱で運命の出会いが出来るかと想像するのがこの学校での唯一の楽しみ。ここに来ると考えも無かった彼女の事を想う。今日も彼女は現れない。まだまだ工事中の道路が、どんどん狭く感じてしまう。
口の運動でしか無い昼食の時間、何もする事が無いこの時間が窮屈でしょうがない。それならまだ授業していた方がマシ。居心地の悪さが僕の時間を奪う。嫌われている、そう感じざるを得ない。周りは口にして嫌いなんて幼稚な事を言う歳では無くなって陰湿な手口で相手に伝える事をする様になる。そんな周りを気持ち悪くなって僕は授業以外教室にいる事は無くなった。次は一体誰があの教室から抜け出すのか楽しみだ。そんな僕は、図書室に居座る時間の方が増えた。この本に溢れた室内には学生特有のいじめもなく、ふざけた馬鹿もいない幸せな空間。こういう所で勉強が出来ればな。ポジティブな気持ちで居れる数少ない安堵な環境。何故、こんなオアシスな場所を知らなかったのか、悔しい気持ちになった。沢山の文字に囲まれた生活は僕を楽にしてくれるこの気持ちを共有していたい。そんな事を思い文字を読み続ける。そんな中、僕は図書室に違和感を覚え始める。以前に感じる存在感がある。この平和な場所に何か異物な気持ちが芽生え始めた。図書室の奥の方へ行った事が無い僕からしてみれば未知の世界で怖くても行けなかった行ってみるとそこにはお宝に負けないぐらいの雰囲気を醸し出した人物がいた。正しく彼女だった。こんな場所で会うなんて思わなかったので準備が出来ず近く本を落としてしまった。幸い彼女はこちらには気付いてなく本に集中していた。一体何を読んでいるのだろう、そんな事を考えつつ足早にその場から去って行った。
奥の方には、彼女がいる。そんなプレッシャーに読んでいた本が読めなくなった。それまではちゃんと読めていたはずの文字が全く頭に入らなくなっていた。この室内の奥には彼女がいる。気配を察した動物の様に居ても立っても居られなくなっていた。出会えた事の嬉しさとその後どうすれば良いのか分からなくなって焦っている状態が、体の震えを増していく。この場をどうすれば良いか、考えているうちに思考が止まり選択肢が無くなっていく。最後には読書を切り上げ帰宅するという選択肢しか無くなっていった。考える事を止め、僕は図書室から離れていく。読んでいた本の内容も全て忘れページを捲るだけだった。
あの図書室には彼女がいる。同じ環境に居れる、そう思いこれからもあそこへ通い続けようと決心した。不純な理由でも続けられる自信があるのだから。そう決意し、下駄箱に。久しぶりに学校が楽しいと感じれた。良い事もあれば嫌な事もある。学校なんて博打の様な場所。メリットもデメリットも混在し過ぎて混乱してしまう。こんな中立した施設は地獄でしか無いけれどその中にも幸せはある。ちょっとしか無い幸せも精神研ぎ澄ませば快楽になる。今日はぐっすり寝れると確信した時に後ろからちょっとしか無い幸せが現れた。そう彼女だ。神様は、地獄にも細やかなプレゼントをしてくれる。これが最後なら酷い不幸だが、今はそんな事は気に出来ない。ただただ彼女の事で頭一杯だから。現れた彼女に振り向く事はしなかったが、彼女が後ろからやってきた事は分かった。僕が靴を履き替え帰ろうとした時、後ろから肩を叩かれた。勿論、現場には僕と彼女しか居ないのだから。だから、疑問無く振り迎えると目の前には本が有った。それは、僕が借りていた本。頭の中はそれだけしか無かったけれど思い当たる節は、僕はその本を図書室に忘れてきたという事。彼女に気を取られ自分が本をバッグの中に入れるのを忘れていた。僕とした事が、こんなミスをしてそれにそのミスを彼女が見ていたなんて。これを情けないと取るか功を奏したと思うか、正解は分からない。しかし、初めて面と向かえた事は嬉しかった。下ばかり見ていた僕が、初めてと言わんばかりに彼女の顔を見ていた。滅茶苦茶綺麗な顔をしている。やはり、他の女子とは全然違う。このまま見続けていたい。そんな願いは叶わないが、僕は勇気を出して彼女にお礼を伝えた。そうすると彼女は、満面の笑みでお辞儀した。なんて優しい人なんだ。無礼な奴しかいない学校にこんな礼儀正しい子なんているんだ。そして彼女が持っていた。本を受け取り、バッグにしまったのを見ると彼女は優しい声で、
「さようなら」
この声を聞き、初めて明確に僕は彼女の事が好きなんだという事を感じた。今日は帰り道を満面の笑みで帰る。工事中の道路が一生終わらなければ良いのに。そう思い僕は家に帰る。いつか彼女と共に帰りたい。以前この道工事中だったんだよ、そんなしょうもない会話で盛り上がってみたい。彼女の笑顔は復習しなくても良いぐらい脳裏に焼け付けて夕焼けの街に消えていく。
恋愛が上手下手の判定なんて出来ないし、何が器用で不器用なのか分かりません。ただ、好きという感情をちゃんと伝える事が出来る人なんてそうおりません。色んな恋愛をしても良いと思いますよ。だから、恋愛してみたいという気持ちを込めてみました。あまり、賛同出来る恋愛ではありませんが、「こういう恋愛もあるんやで」という事を知って貰えれば嬉しいですね♪