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マテリアルドライブ~元生産職が行く英雄種蒔き旅~  作者: ユーリアル
第三章

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092.「赤い息吹の根元で-5」


 今、俺たちは火山のふもとにいる。中央からの悪感情を気にせず、治安維持のためにと自らの管理下での兵力を増やしているという将軍を訪ねた俺たちは、彼と協力して火山の魔物退治を行うことになった。色々と気になる点はあるが、モンスター退治に異論はなく、いざというところで……将軍は策もなく正面から突撃することを選んだ。


 その突撃からの結果は、とても単純な結果を産む。つまりは、正面からの衝突から始まる総力戦。顔合わせをしたときの、将軍の凛とした雰囲気はそこにはなく、まるでガキ大将が暴れるかのように、剣を振るう将軍が先陣にいた。


 高笑いをあげながら、暴走気味でありながらも的確にモンスターの間接部位や、もろい部分へと攻撃を仕掛けていく。危なげなく戦う姿はとてもお飾りとは思えない。シンシアからは、戦力が足りなくて手を出せなかった、と聞いているが、これはもしや……。


「ファクト、上!」


「おおっと」


 天井に張り付くようにくっついていた小型のスライムが降ってくるのを見るや、とっさに後ろに下がり落ちて来た相手の核を貫くように剣を突き出す。独特の硫黄のようなにおいを撒き散らしながら、スライムは絶命した。そのままであれば武器も溶けてしまうほどの強酸性のスライムだった。何度も同じことをやると武器が駄目になりそうだ。


「キャニー、助かった」


「そんなことより、本命が来たわよ!」


「ここから、仕掛ける?」


 洞窟の奥を睨む2人に従いそちらを見れば、自らが発光しているかのように赤い表皮のゴーレムと、まるで赤いタイル地のようなハイリザード。ハイリザードはともかく、ゴーレムのあの肌はどこを触っても熱そうだな、と思っていると横を影が通り過ぎる。


「ふははははは! ゴーレムはもらったぁ!」


 誰かと確認するまでもなくわかる。本当ならこんな風に出てきてはいけない立場……将軍だった。実力はかなりの物なのか、吠えるハイリザードをまずは1匹、両断している。


「くっそ、絶対倒すと襲撃が終わるから敢えて手出ししていなかっただろう!」


「これで! あ、ファクトさん!」


 先ほどから考えていたことを叫びながら、近くで戦っていたアルスへと駆け寄る。ちょうど、1匹の大型のスライムをアルスは倒していたところだった。その手にある剣は両手剣へと変わっている。砦で譲り受けた一品だ。これ1本しかないために誰か兵士が使う訳にもいかず、使い手のいないそれを将軍はアルスに譲ったのだ。重量と取り回しのバランスが良く、アルスも気に入っているようだ。


(これもよくわからないな。これほどの1品を、あっさりと譲るなんて)


 気になるところではあるが、戦力が向上するのは良いことだし、特に呪いの品ということも無い。そんな剣を握る彼の肩を一回たたいてハイリザードらの中にいる、一際豪華な装備の2体を指差す。どう見てもこの集団の頭、そして副官、といったところだ。


「あいつらをやっておこう。じゃないと将軍が全部持っていってしまう」


 同じくそばで騎士数名と戦っていたエイリルに目だけで合図を送り、頷きあう。簡単なことで、アルスにも経験と、外向けの実績を与えなければならないのだ。俺を先頭に、すぐ背後にアルス、という形で油断無く槍を構えているハイリザードのリーダー格へと突撃する。

 途中、さえぎるように割って入ってくる相手は、横合いからの氷の槍、アイスコフィンの投擲効果が足止めとなる。


(二人には後でしっかりとお礼の言葉をかけないといけないな……)


 戦闘中の2人のフォローは的確で、その敏捷さとあいまって、あちこちでモンスター側の決定的な隙を生み出していた。環境故、凍り付いてもすぐに溶けてしまうのが難点だが、十分な隙だ。


 アイテムボックスから無造作に、アルスとは逆に白が目立つ、プラチナのような輝きを放つ両手剣を取り出すと、右に構えたまま走り続ける。この剣には目立った特殊能力は無い。MDでは、RPGで言えば後半の街で無造作に売っているような扱いの市販品だ。

 それでもその装備条件は比較的甘く、俺でも扱えるという点は大きなメリットだ。そして俺はアルスに手本を見せるようにわざとわかりやすく、副官のほうへと向きを変えて、叫ぶ。


「ブラッディ・クロス!」


 仰々しい名前の割りに、実は初級と中級の間程度という、扱いが易しい部類に入る両手剣スキルだ。ほぼ真下から上へと救い上げるような攻撃と共に使用者の移動に補正がかかり、すばやく相手の背後へ抜けると、無理やりねじ込むかのように左から右へと二撃目が放たれる。使い勝手の割には習得難易度は低く、俺もよくお世話になった一撃だ。


 ぼとりと、あまり気分のよろしくない音を立てて、ハイリザードの副官が肉塊と化した。そのあまりの手ごたえの無さに驚いた。今の一撃では重傷は与えられてもそのまま倒れるような相手では本来無いはずだ。精々が3分の1程度の体力を減らせれば良いなと思っていたのだが……。


「ブラッディ・クロス!」


 止まり掛けた動きを元に戻したのはある意味で予想通りの叫び。振り向けば、リーダー格のハイリザードを、アルスが俺と同じスキルで切り伏せていた。しかも、俺よりもその威力はわずかに高い。さすが前線タイプ……いや、さっき肩を叩いたときに見えた情報から行くと彼は……プレイヤーの血筋だ。


「やった……出来ました!」


(ああ、うん。わかりやすくやったんだが、才能って恐ろしい)


 自分のしたことが信じられないとばかりに、驚いた顔のまま俺のほうへと駆け寄ってくるアルスは歳相応の笑顔だ。確かに発動できるだろうと思っていたレベルのスキルではあったが、本当に一発でやり遂げるとは……それだけ、プレイヤーの血統というのは特殊なのかもしれない。


 努力した結果が結ばれる。この世界において、プレイヤーというのは万能の才能を持つ。努力した方面にそれだけの結果が得られる。冷静に現実として考えるととても贅沢で恵まれた話だ。才能が、必ずあるのだから。


 そうでない人間から見ると、プレイヤー、そしてその血筋はチート同然だろう。恐らくは、元々のこの世界の住人の中にも同様の素質を持った人間がある程度いるはずだがそう多くはないだろう。


─だからこそ、彼らは英雄足りうる。


 どこか漠然としたそんな言葉を思い浮かべながらも、残りの敵を倒すことに集中した。程なく、事前の会議より随分と手ごたえのないモンスターたちが死屍累々とフィールドに横たわっていた。


 視線の先ではアルスは元より、エイリルや騎士達、そしてグウェイン将軍ですら興奮に頬を赤くしている。シンシアの懸念であった、将軍がクーデターを起こすつもりなのではないか?という考えは懸念に終わり、モンスターという脅威の一つも排除されたのは間違いない。今の将軍の剣からは威圧感はあっても禍々しさは無い。


(これは俺の予想が当たったか?)


 俺は魔剣の力をいくつかの予想していたのだが、どうやらそのうちのひとつ――狂戦士化する能力の剣─が正解のようだった。文字通りの狂う、ではなく、どちらかというと戦闘馬鹿、といえば良いだろうか?


 目の前の敵を倒す、敵を倒すための作戦を立てる。長く敵と戦える作戦を考える。そんなことばかり気にかかるようになる効果だ。そして戦いではある種の快感が味わえる。突入時の暴走気味の言動や、戦闘中のハイテンションな様子からもほぼ間違いないだろう。

 この状況はある程度はゲームで言うINTインテリジェンスMID(マインドの能力で抵抗できる部類となる。将軍が普段は少し強引だが国のために動いているのも相応のレベルの人間だからだろう。戦闘となると抵抗できなくなっているようだが……。


 適当なレベルの冒険者に渡せば、その日のうちにモンスターの巣につっこんで、骨となる、という感じだ。


「アルス、君は良い騎士になれるな。精進したまえ。むしろ戻ったら手合わせを願おうか!」


 豪快に笑う将軍に、若干ぎこちないながらも笑顔を返すアルス。ここだけ見れば、激戦後のほほえましい光景だ。出会いが違えばいい子弟のようになっていたかもしれない。


(あれは鍛錬も激しそうだ……なっ!?)


 背筋を走る猛烈に嫌な予感。その何かを刺激しないよう、ゆっくりと辺りを見渡すが何もいない。横たわるモンスターらの死骸、そして時折蠢く溶岩。吹き上がる炎。火山フィールド特有の雲の様に空中を漂う赤い光。


(赤い……光?)


 脳みその片隅を刺激するその光に俺は右手をこめかみに持っていき、頭痛に耐えるかのように押さえつける。先ほどから俺の中の何かがガンガンと警告を鳴らしている。間違いなく、ヤバイと。咄嗟に地図を見るが俺たち以外には反応が無い。遠くにはモンスターらしきものがいるがそれも離れている。


(なんだ……何かが)


 まだ嫌な予感は消えない。俺はその感覚に顔をしかめながらも状況を整理する。


 ここはムスペル火山。モンスターは倒した。先ほどからの嫌な予感はともかく気配は無い。倒したモンスターもボスとはいえなくても十分に強力な相手だった。


 だが、想定していたよりかなり弱かった。本当ならばもっと苦戦していそうな感触だったのだが……。


(そういえばMDでは火山にあんなハイリザードはいなかったな、いたとしたらユニークボスの……)


 それからは長かったのか短かったのかはあまり覚えていない。脳裏にひらめいた予感に俺はがむしゃらにアルスへ向けて走り出し、その背中を突き飛ばした上にすばやく振り返り、少しでも攻撃をガードすべくいつか作ったディフェンダーの一振りを取り出して構える。


 が、防ぎきれなかった。


「ファクトくん!?」


「いやぁぁ!?」


 そらすことには成功したが、ディフェンダーは砕かれ、俺の腕ほどもある爪の1本が肉を貫く嫌な音を立てて俺の腹辺りを貫く。耳に届く姉妹の悲鳴を感じながらも目の前の存在を睨む。現れたのはアルスの頭上に固まっていた赤い光が実体化したもの。強靭な鱗と鋭利な爪、正面から睨まれれば一般人は恐怖に意識を失うであろう頭部。


 レッドドラゴンである。


 俺に向けて突き出された右腕の鱗はまだ傷も少なく、爪も磨かれた宝石のような輝きを放っている。不幸中の幸いというべきか、相手はまだ若い。20メートルといったところか。俺一人の力でも攻撃は止まり、威力も俺を一撃とまではいかなかった。成竜の一撃であったなら、俺の胴体は今頃真っ二つになった挙句、後ろのアルスもミンチだ。と、目の前の巨体は大きく後退し、距離をとる。


「急所はそれたか……」


 自らの攻撃が相手を殺せなかったことが不満なのか、口元から炎を愚痴のように吐き出しているレッドドラゴンを正面から睨みつけながら背後に声をかける。


 まだ口から血は出てこない。内臓がやられたであろうダメージであるが、まだ……行ける。俺の体は、元プレイヤーの力はこんなもので負けはしない……そう自分に言い聞かせた。現に体力ゲージはまだ色が残っている。


 気合を腹にこめ、にらみつけた相手は追撃を仕掛けてくるでもなく、こちらを観察している。どうやらしばらくは時間が稼げそうだ。


「アルス、無事か……」


「は、はいっ」


「ファクト殿! 今参るぞ!」


「動くな!」


 驚きと恐怖に支配されかかっているようだが、返事をするアルスに微笑みつつ、じりじりとそちらに近寄った。対照的にひるむ様子も無くサポートに入ろうとする将軍を声と左手で制する。俺の真剣な声にか、将軍はその場にとどまってくれた。


 今相手を刺激しては総崩れになってしまう。目の前の相手がただの虫けらではないことを感じ取ったのか、ゆっくりと下がり、様子を伺い続けるレッドドラゴン。


(だが、モンスターはモンスターだ。すぐに仕掛けてくる)


 俺は瞬間、そう考えながら力が抜けそうになる足で踏ん張る。押さえた右手から、確実に血が抜けていく。この状況で打てる手は少ない。攻撃のチャンスは1度か2度。


 どうする……どうするファクト!


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ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/

完結済み:宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:https://ncode.syosetu.com/n1254dp/

― 新着の感想 ―
[一言] かなり序盤の頃から思っていたが、周りの目を気にして強い装備をつけないのは慢心してるとしか思えない。今回は物語の主人公ということもあり、やられなかったが死んでもおかしくはなかった。 詳細は分か…
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