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マテリアルドライブ~元生産職が行く英雄種蒔き旅~  作者: ユーリアル
第三章

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086.「ありふれてるからお約束-7」


(気まずい……)


 用意された場で、俺は心の底からそう思った。


 場が緊迫しているのは、身分の差があるだろうにもかかわらず、シンシアやその他の騎士、アルスも含めて皆が同じ内容の食事、が理由ではない。ましてやその味がマズイというわけでもない。その理由は……。


「と、いうわけでアルスったら真っ赤になってしまったんですの」


「そ、そう」


 話を振られたキャニーも冷や汗をかきながら答えるのがやっとだった。シンシアは天然なのかわざとなのか、食事が始まって間もなく始まった歓談の途中、俺の乱入事件を話題に出したかと思うと、止める間もなくアルスが過去に起こしたという事件も語りだした。


 お忍びでシンシアが外出しようと隠れて着替えていた部屋を偶然アルスがあけてしまい、下着をつける直前の姿を見てしまうという事件だった。見られた本人は楽しい思い出のように語っているが、話題の主であるアルスはまずいものが見つかった恋人のような顔をしている。


「その辺りは道すがらまた聞くとして、そろそろ本題に入ってもらっていいか?」


「ファクト様は冷静ですのね」


 シンシアは表情を真面目な、どこか大人びた物に戻すと、料理の一つとして混ざっていた温泉卵をスプーンですくい、一口運ぶ。それすら雰囲気があるのがさすがというところだが、今はそのあたりはスルーだ。


「問題は先にはっきりさせておきたいほうでね」


 気になって仕方がない、というのが本音の部分だが、答えながら真正面からシンシアを見る。意思の篭った瞳に、整えられた姿。ただの成金の娘です、だとかそこらの貴族の娘です、などとは誰も信じないであろう姿。そうなると、おのずと立場は限られてくる。


「そうですか……改めまして、私はシンシア・オブリーン。この国の第二王女ですわ」


「おっ、王女!?」


 さすがにそこまでは予想していなかったのか、ミリーの驚きの声が響く。キャニーは……驚きに声がでていないようだ。俺は幸いにも、少しばかり眉を動かすだけで済んだ。まあ、そのぐらいは無いとなとは思っていたのだ。


「アルスや彼らはその護衛、というわけだな。だが立場の割には行動も、人数も不自然ではないか?」


「普段は静かな物なのだ。シンシア様がここに来ることを具体的に知るものは限られる上、事前に街道筋のモンスター退治などは国の政策として徹底して行われている」


「それはわかったわ。でもおかしいじゃない。ここと、私達が出会った場所と、この国の中央とでは位置関係がおかしいわ」


 そう、第二王女などという立場の割には護衛が少ないし、その人数で保養に来るなど無防備すぎる。どうやらこの温泉地への安全を確保するために定期的に行われているらしいが、それにしても頻繁に出入りは出来ないだろう。人もお金も、要人が動くほどかかってしまうものだ。ようやく正気を取り戻したらしいキャニーの指摘ももっともだ。


 そう、単純に言えば、俺達がシンシアたちを救出した場所とこの温泉地は、オブリーンの王都から見ると反対とは言わないが、随分と寄り道する形になる位置関係なのだ。太い街道がこっちに来ているから、というわけでもなさそうだった。


「……それは、見えたんですの。こちらに光が、いえ……光を生み出す者が」


「シンシアは時々未来が見えるんだ。ボクを騎士に推薦してくれたのも見えたんだからだって。ボクが、自分の前に立っている姿を」


 横からそう伝えてきたのはずっと静かだったアルス。黙っていたのは恥ずかしい話をされたことだけが原因ではないようだ。アルスは唐突に立ち上がると、俺の前に立つと真剣な顔で俺を見つめてきた。クレイとは違い、丁寧に鍛えられた騎士的な肉付き。豪快さよりもしなやかさを感じる。


「お願いします! ボクに、力を貸してください!」


「……少し話が見えないんだが?」


「ファクトさんが振るっていたその剣、それは隣国をモンスターの集団が襲ったときに、無数のモンスターを撃退させた剣なんでしょう? その剣を持った男は、どこからか力ある武器を取り出し、どこからか守りの力を生み出すと、そう知り合いが言っていました」


 そういって頭を下げてきたアルスの姿に困惑を隠さずにシンシアを見、騎士たちを見、そして最後にアルスを見る。だがその疑問も続けての彼の声によって霧散した。腰に挿したままのスカーレットホーンを見たアルスはかなり興奮している。どうやら、俺が思っている以上に2度の襲撃は大規模なものだったらしい。


「……確かに俺は普通じゃない自覚はある。だが神話に歌われる様な英雄じゃあない。ここでシンシアを狙う相手を倒せといわれても困るぞ? 貰う物が貰えるなら貸せる力は貸すつもりだ。対モンスターならなおさらな。だが、お家騒動は大概が泥沼だ。情報がほしい」


 少し強い言い方になったかもしれないが、お家騒動というのは古今東西、様々なお話の題材になるほどお約束で厄介な物だ。場の空気が変わった事を感じ取った俺は、改めてシンシアに向き直る。すぐそばではキャニーとミリーが俺に任せてくれる様子であることに内心安堵のため息を漏らす。


「どこからお話しましょうか……そうですね、私には姉と妹がいますの」


 そうして語られる事情。この国は第三王女までいるそうだ。だが、現王である父親は病に伏せ、長女である第一王女が代行を勤めているらしい。母親は既に病死しているとの事。第一王女は良くも悪くも王の娘、増えるモンスターの被害や周囲の戦争へのきな臭さに対して、従来通りの対応を行っているのだという。


 だが、モンスターの被害は末端ではひどいもので、軍の手は行き届いていないのだという。そこで巻き起こるのが戦力増強の要望。だが第一王女は戦力の単純な増加には消極的だった。確かに安易な軍の増強は周囲との軋轢を生み、下手をすれば戦争の火種になってしまう。


 その意味では第一王女の判断は正しいものだ。だがそれは軍の一部の暴走を産む。一部の陣営が、辺境の被害に対して手が足りないことを理由に勝手に傭兵を雇うなどして戦力を増やしはじめたのだ。表向きは志願、現地徴用と称してだ。


 単に手が足りないので傭兵を使おう、というのならまだいい。だが、その一部は徐々に影響力を増やし、あたかも自分達がいるから国は平和なのだと言わんばかりに圧力をかけ始めてきた。確かにモンスターからは守られている。だが、国は不穏な空気に包まれ始めた。


 第一王女としては何とかしたいところではあるが、平和だった時代が長すぎたのか、思うようには動けていない。そこで代わりに動いているのはシンシアなのだという。保養や友好の旅と称してあちこちに出向き、実情を確かめたり噂を集めたり、時には賛同者を増やしたり。


 だがそれは反感も産む。言うなればシンシアは彼らの目の上のたんこぶなのだ。


「今までにも妨害はあったが、直接の手段にでてくるとは……」


「なるほど。大体わかった。だが、俺達にそいつらを討てというなら断る」


 今回は助けはしたが、それとこれとは別の話だ。きりがないことになるだろうというのもその理由の1つだった。究極的には光あれば影があるというように潰しても無くならないのがそういう立場の人間だ。満場一致で苦情一つ無い政治という方がどこか歪だと俺は思っている。


「ええ。ファクト様達はあくまで隣国の使者同然ですもの。そんなことはさせられませんわ。でも、ご一緒にこの国の事を見て回るのは自然なことでしょう?」


 にこやかに、シンシアはそういって自分の胸元に手をやった。言外に俺にいっているのだ。乙女の柔肌の価値はそんな安い物ですか?ってな。事故……と主張するのは簡単だが俺がそうしないだろうことはこの短い間でも見抜いているらしい。それに、だ。


「そうくるか……」


 思わずそう口に出しながら状況を整理する。俺は国を見て回りたい。彼女らは手助けがほしい。その利害を一致させようというのだ。だが、自分を囮にするような行為をどう思っているのか?


「私が賭けますのはこの命。そしてこの国の未来。目指すものは精霊や女神様へ誇らしげに顔を向けられる国。……馬鹿らしいとお思いでしょうか?」


 降りる沈黙。利害だけを考えるのであれば、断る選択肢も十分可能性に入ってくる。それに、そのほうが身軽ではある。誰かの手を借りるということはそれだけしがらみが増えるということになるわけだ。


(蹴るのは簡単。だが……)


─それでは……面白くない。


「いや、気に入った。同行させてもらおう」


 そう広くない部屋に響いた俺の声に、シンシアは顔をほころばせ、アルスも力強く頷いた。姉妹のどこか、わかっていましたよ、といわんばかりの納得した顔が気になったが、ついてきてくれるのならば問題ない。


『この世界にクエストは無いけどね。これも運命かしら?』


(さてね。だが灰色の人生は真っ平だからな)


 耳元でささやくユーミに俺は頭の中だけでそう答え、シンシアと無言で握手を交わしていた。小さくて細い、それでいて意思のこもった手だった。


「で、次の目的地はどこだ?」


「北東へ。そこに火山がありますわ」


 新たな戦いの地で、俺を待つものは何なのか。それはまだ、わからない。



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○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/

完結済み:宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:https://ncode.syosetu.com/n1254dp/

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