082.「ありふれてるからお約束-3」
「結局、生き残りは3人か」
縄で縛り上げられた男3人を前に、横に立つ騎士を見る。恐らくは馬車の護衛だったのであろう騎士の中で、アルスを止めていた男性だ。キャニーたちは、怪我をした御者や騎士の治療に当たっている。とはいえ、先ほどのポーション類をいくつか使えば大事には至らないだろうが。
「助かった。礼を言わせてもらう」
「何、気まぐれさ。で、こいつらどうする? 首だけでいいか?」
自らも怪我をした腕に当て布をしたままの姿で、その騎士は頭を下げた。立場のある人間だろうに、素直に頭を下げてくるところはかなり好感が持てる気がする。だから俺もサービスする気になり、わざとらしくスカーレットホーンを男の内、1人の首にそばに向け、引くように動かす。こういった脅しは気分は良くないが、相手の情報を引き出すには効果的だ。
「ひぃっ! しゃ、しゃべる、しゃべるから命だけは!」
「そうか……。じゃあ、雇い主は誰だ。知らないっていったらまずは指だ。大体わかってるんだよ、お前たちだけで襲うと決めたんじゃないことはな」
青ざめる男の前に立ち、テレビや映画で見たシーンのように出来るだけ冷徹な雰囲気をまとってみた。ここには地球の道徳もなければ、世間体などありやしない。自分の味方は守るが、無力な状態とはいえ、敵までそうする必要は無い。
モンスター相手にそうするように殺気を少しばかり出して見ると、男の震えがひどくなる。
騎士は表情を少し変えたが、止める様子は無い。どうやら奇麗事だけの騎士道というわけではないようだ。
「わ、わかったよ……」
1人が折れれば話は早く、他の2人も次は自分だと感じたのか3人そろって口を開きはじめた。俺はその中で出てくる名前に覚えは無いが、騎士たちはそうではないようだった。顔がゆがみ、表情も赤くなったり青くなったりと忙しい。
「だからよ、今日はここを少人数で通るっていうから準備したんだ。騎士たちをその……ぶっ殺して女は連れ去ろうとしてさ」
まとめると、男達は少女、あのアルスが守りたいといっていた彼女がこの地方に少数の護衛でバカンスに来る情報を得、奇襲をしかけたということだ。報酬は俺の感覚から言っても破格。何年も豪遊できるほどだ。あわせて騎士の反応からすると……。
「お家騒動ってとこか? 雇い主は国のお偉いさんじゃないのか?」
「馬鹿な。いくらあの方でもこんなことまで……いや、思えば?」
確認を取るように、隣の騎士へ問いかけるとどうやら騎士には思い当たる節があるようだった。まったく、どの世界、どの場所でも権力だとか家柄だとかはろくなことをしないな。ともあれ、正体不明という訳ではなさそうなのが救いだ。
「な、なあ。もういいだろ?」
「……」
こちらを伺うような男の声に俺は考える。皆殺しもたやすいし、見逃すのも簡単だ。ここは街道そば、安全ではないがすぐに危険でもない。少なくともモンスターは襲ってこないだろう……俺たちがいるうちは。
「よし、いいだろう」
俺の答えに騎士は何かを言おうと口を開き、男達は歓喜の表情を浮かべる。俺は視線だけを騎士に向け、動きを止める。俺が何かしようとしてることに気が付いてくれたのか、上手く動きを止めてくれたことに内心ほっとした。
「が、縄は解かない。運がよければ生きるんだな」
「そんなっ」
きっぱりと告げた言葉に悲鳴染みた声を上げる男。今の男達は両手両足をそれぞれ縛られ、芋虫のように転がることはできるかもしれないが、普通には動けない。なるほど、ここで魔物と出会えば大ピンチだな。
「解いた後に襲い掛かってこないなんて保証は無いだろう?」
非難の声をあげる男に剣を突きつけ、そう言い放つ。そう言われてしまえば何も言えない。ただ、恨みのこもった視線を俺に向けるだけだ。
ここは街道ではあるが、街からは離れている。巡回もほとんどないはずで、モンスターが常にいる様子は無いが、来ないとも限らない。まさに運がよければ、だ。
横を見れば、納得した様子の騎士。さらに駄目押しとばかりにいちいち叫ばれるのも面倒なので、麻痺を与える剣を取り出し、3人とも浅くきりつけて麻痺にさせる。驚愕のまま、息はできても声は出ない様子の3人に満足した俺は立ち上がる。1時間もしないうちに麻痺は解けるだろうが果たして生き残れるかな?
「いこうか」
「ああ……」
立ち去る俺の背中には声は届かず、恐らくは視線は突き刺さっている。隣の騎士は無言。いい気分ではないだろうが、声は無い。その割り切りの良さに、この問題の根深さを感じていた。
「あ! お帰り!」
俺の姿を認めたキャニーが声を上げ、ミリーやアルスもこちらを向く。傍らには服は血まみれのままだが、生き延びた様子の御者の男性も見える。歩み寄ると、少女、恐らくは護衛対象だろう相手が1歩、こちらに歩み出る。仕草1つ1つになんだか雰囲気を感じるな……ロイヤルな気配ってやつだ。
「危ないところをありがとうございます。ファクト様」
少女の声に無言で背後のキャニーたちを見ると、てへっと舌を出して頭をかいている。どうやら何かの拍子にさっさと自己紹介は済ませたらしい。どうせするつもりだったから大した問題ではないけどな。っと、小柄な彼女の前にいると俺が見下ろすようになってしまうな。
「いえ、女性を守るのは全ての男の務めですから。ご無事で何よりです」
「まぁ! お上手ですね。楽にしてください。ここは野原ですもの。私はシンシア。他は秘密です。よろしくしてくださいね」
なんとなく、相手の空気を感じ取った俺は口調を変えて片膝をつく。彼女も笑顔でそれに答え、口元に手をやって上品に笑う。どうやら箱入り……ではないがそれだけでもなさそうだ。身分は関係ない……といったように見えて察してくださいねと言わんばかりだ。
「それでは失礼して……この場を離れたほうが良いと思うが、俺達の馬でも大丈夫か?」
彼女らの馬車は壊され、馬も矢で射抜かれている。だが立場がありそうな相手を歩かせるのも問題だ。せめて彼女だけでも馬に乗せた方が良いだろうと思うが目立ってしまうという問題もあるかもしれない。
「あら、よろしいのですか? 私もそうですけど、御者の方も歩きというのは大変そうですから」
「問題ないわ。貴女と、御者の人と、ちょっと怪我が重かった騎士さん、3人は馬でいいんじゃない?」
「そうそう。私たちは元気だし!」
シンシアが怪我は治ったがぐったりした様子の御者を心配するように言うと、心配された側の御者は動かしにくい体にも関わらず、こちらに頭を下げている。こうして礼が出来るというのは出来た人間、ということだと俺は思う。それを見ていたキャニーとミリーもそれぞれ承諾し、シンシアと代表格らしい例の騎士、御者をアルス、怪我をした騎士は仲間のもう1人の騎士がサポートする形で馬に乗り込んだ。
「このまま東に向かってくれ。小さいが村がある」
騎士の言葉に従い、俺達は歩を進めるのだった。
数時間後、俺達はまだ街道を進んでいた。道中、様々な質問を受け、あるいは質問をし、話題は尽きなかった。ポーションが効いてきたのか、御者たちも随分と顔色が良くなっている。同じポーションでも、治る怪我と治らない怪我があったり、人によって効き目が違うのは研究の余地がありそうだ。
「そうですか。モンスターの調査に」
「ああ。どこの国でも問題らしいからな」
馬上からのシンシアの質問に答え、彼女たちに出会う前にも討伐したモンスターの素材を適当に袋から見せて見せる。嫌がるどころか、覗き込んで来ようとして騎士に止められるあたり、意外とアクティブな子のようだ。
方や騎士の面々も俺が見せたフィル王子からの封書の中身に、納得した様子だった。国際問題になるかと思ったが、ぎりぎりセーフってとこだな。これをくれた王子に感謝である。
「この辺りは国の……いや、保養地があるからな。定期的に対処されているのでモンスターの襲撃は心配しなくて良いんだが……まさか人に襲われるとは」
騎士の1人が語る内容は少し無理がにじみ出ている。彼女、シンシアの素性になんとなくアタリはついているが、口に出して場を引っ掻き回すほどでもない。必要なときにそう動けば良いだけだ。とはいえ、聞いておくべきことはいくらかある。ここではいさよなら、というのも味気ないし、きっとキャニーたちが許してくれないだろうからな。
「なるほど。村についたら少し話を聞いても?」
「ああ、改めて礼もしたいしな。あれだ」
声にそちらを向けば、確かに村。だがいくつかの煙が立ち昇っているのがわかる。火の煙とはどうも違う……まさか? いや、こんな平地であれがあるはずもない。けれども……。
「まさか、火事?」
「ん~? でもあれは燃えてる煙じゃないよね?」
慌てた様子のキャニーと、疑問を浮かべたミリー。姉妹の反応が予想通りだったのか、シンシアのみならずアルスや他の騎士たちの顔にも微笑みが広がる。俺も敢えてここで予想を口にすることも無いなと思い、大人しくついていくことにした。
「ふふ、行けばわかりますよ」
「そうそう、楽しみにしててください!」
品のある笑みを浮かべるシンシアに合わせるように、ずっと俺達を見て何か考えていた様子のアルスが、少年らしい若干高い声で元気よくそう答えてくる。こうしてると仲の良い男女でしかないが……やや複雑な関係があるのかもしれない。
そして村にたどり着いた俺たちを迎えたのは、独特のにおいだった。やはり……温泉だ!




