081.「ありふれてるからお約束-2」
「どこ見てんのよ! 私たちだっているのよ!」
荒くれたちが俺や騎士ばかりを見ていることが気に入らなかったのか、それともかく乱のためか、大声をあげて飛び出すキャニーの手には通常の短剣よりもやや長いダガー。売っていた名前がダガーだったのだから仕方ないのだが、もう少し凝った名前は無い物かと思った物だ。
一息に間合いに踏み込んできたキャニーから逃れるべく、相手の男が後ろに大きく下がる。それは馬車からの距離をとることに他ならない。キャニーは敢えて追わず、その場でダガーを構えなおして見せた。今の一撃で打撃が与えられるなら良し、出来なくても馬車から離せればこちらが有利だ。
「……ふっ」
そんな彼女の横を、獣が走るかのように低い姿勢でミリーが走り抜け……いくつかの光が走る。それは彼女の投げたナイフたち。男たちの肩に、武器を持った腕にと刺さるその動きは相当な訓練の過去を感じさせた。思い出は思い出として、使えるものは使う、そんなしたたかさも感じた気がするのだった。
「っと、負けてられないな……」
馬車と守るべき相手を守るために下手に動けない騎士に代わって、俺たちが相手を攻撃するのが一番話が早い。打ち合わせをするまでもなく、それは明白だった。だが俺は敢えて踏み込まずにミリーがやったことを真似することにした。ただし、在庫はたっぷりだ。
「ふはははは! 数だけはあるぞ!」
既にアイテムボックスを持っていることは見られている。だからそれに関しては遠慮することはない。そう思い、仕舞いっぱなしのスキル上げのために作った投げナイフたちをひたすらに投擲した。一般人と比べれば高い腕力のステータス、そして何よりも極まった器用さのおかげでまるでライフルを連射するかのようにキャニーたちのいない場所へとナイフを投げ込んでいく。
半分以上は牽制のために投げているので当たることは無いのだが、当たればどうなるかは倒れた男が証明している。見事に柄部分まで刺さっているから、その威力はいちいち語るまでもない。
瞬く間に仲間が倒されたのを見てか、男達に動揺が走り、陣形らしきものを組もうという動きが見える。だが、それは俺たちの的が増えるだけだ。
「こいつら!? くそっ、応援を呼べ!」
男の叫びに、1人が角笛らしきものを吹き鳴らすと離れた場所に待機していたのか、気配が近づいてくるのを感じる。なるほど……確かに最初から大勢だと逃げられると厄介だもんな。対処できるかもと思わせる人数で襲ったわけか。
(だが……見え見えだ)
「2人とも、いったん下がるんだ!」
「「了解!」」
素早く下がってきた姉妹の視線を受け止めながら、両手を前に突き出して全身の魔力を練る。威力は小さくていいが、範囲は広げないとな。魔法が一回に一発、それもゲーム上決まっていただけのこと。素早く詠唱代わりに魔力を巡らせ、そのまま力を解放した。
「ファイアボール……ショット!」
こっそり練習していた新魔法である。威力は元の火炎弾の2割ほど。けれどその数は指の数だけある。扇状に広がって撃ちだされた火炎弾はそのまま男たちへと飛び、炎を撒き散らした。ちょっとばかり草木が燃えてしまうが、後で精霊には謝っておこう。
「馬鹿な、こんな使い手がこんな場所に!」
悲鳴のような男の叫びに、俺は周囲の林の中に気配が生まれたのを感じ取った。男達の動きは、明らかに目的を持った動きだ。そう、何かに巻き込まれないための。ただの野盗がこんな統率の取れた動きが出来るだろうか?
(ますますきな臭い。まあ、彼らの方が詳しいだろう)
ちらりと後ろの騎士たちを見ながら、感じる気配の様子をうかがう。その方向、人数……一か所にまとまっているなら都合がいい。俺はわざと目立つように背中からスカーレットホーンを抜き放つと魔力を込めてスキル発動の準備をする。
見た目はただでさえ赤い長剣が魔力を基にした赤いオーラをまとっているように見えるはずだ。
「悪いな。運が無かったと思ってくれ。赤き暴虐の角」
できるだけ冷たく言い放ち、目の前の男達ではなく、気配のした林へと向かってスキルを発動させる。轟音と共に、赤い光が解き放たれ、林の一角が赤く染まった。そこに巨大な丸太でもぶつかったかのように林と大地がえぐれていく。同時に響くのは慣れないであろう悲鳴が複数。
対人でこれを使うのはかなりオーバーキルではあると思うのだが、甘い事も言っていられないだろう。恐らくは人だった物が転がっている林には目を向けず、残った男たちを見る。
「最初から矢を撃ってればよかったんだよ。流れ矢が当たったらどうしようって考えたのか?」
怪我をしている騎士の肩や、馬車に矢が刺さっている割に目の前の集団には弓を持った人間が1人もいないのであれば理由は明白だ。伏兵として弓兵を潜ませていたのだろう。目的であろう少女が隠れることができない状態になったため、撃つのをやめたんだと思う。
正面の男達は今起きた事が信じられないのか、固まっている。視線を変えれば、たまたま射線ギリギリにいたのか、2人ほどの男が林から転げ出てくるところだった。手にはやはり、弓。それもかなり大きく、威力は言うまでも無い。けれども、もう2人が弓を撃つことは叶わない。片腕がごっそりと無くなっているからだ。林の中に何人いたのかはわからないが、男達の切り札の1つであった人数なのは間違いないだろう。
「キャニー、ミリー。こちらは任せた。彼らにも手柄を分けた方が良いとは思う」
ちらりと、剣を構えているリーダー格の兵士に視線を向けると、気合のこもった瞳で頷かれた。横にいる少年はわかっていなさそうだが……まあいい。
ここで全部俺たちが倒すより、ある程度は騎士たちが倒した実績があったほうが後々良いかなと思ったのである。
そのまま俺は林から出て来た2人へ向けて駆けだすと、相手も俺に気が付いたのか弓を構えようとし……無理なことに気が付いて弓を捨て、腰から手斧を取り出した。反撃しようとする意志があるなら……仕方ない。
「大人しく投降する手もあった物を……」
相手の顔がはっきりわかるほどの距離に肉薄し、恐怖に染まる相手の顔を見ずにスカーレットホーンを振りぬき、その残った片腕も斬り飛ばした。そのまま残る1人へとまたナイフを取り出して投げつけた。腹に飲み込まれるように突き刺さるナイフに視線を向け、男はそのまま膝をついた。
「あの嘘つきめ……何が雑魚しかいねえだよ……」
致命傷を受け、静かになる直前の男がそう言い、問いただす前に息絶えた。口ぶりからして、こいつらの頭目が嘘つき、という感じではない。
(依頼主……か? やはりな)
そう考えながら振り返れば、ここからでもわかる筋の良い動きで、アルスが最初に叫んでいた荒くれの1人を切り伏せたところだった。




