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マテリアルドライブ~元生産職が行く英雄種蒔き旅~  作者: ユーリアル
第三章

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079.「別れは再会の約束」


 そう広くない空間に、俺が物をいじる音だけが響く。仕組みのわからない灯りが照らす室内は乱雑なように見えて必要な物が必要な場所に配置されている。俺の、俺が認めた人だけが入れる空間……キャンプだ。


『へー、こうなってたんだっけ?』


「なんだ、キャンプの中は見たことが無いのか?」


 この中にいるのは今のところ俺と、ついてきたユーミのみ。物珍しそうにあちこちを飛び回る彼女を見ながらも、色々と表で使うべく詰め込んでいた。アイテムボックスに入っていないあれこれが、キャンプには入っているのだ。倉庫、と言えるかもしれない。


 フィルからの依頼を改めて受けた俺はまずは東へと進むことにした。理由は特に無い……敢えて言えば東には日本的島国があるらしいことが地図に記載されていたからだ。今の食生活も嫌いではないが、出来るなら和食も選択肢に加えたかった。


 そんな理由はさすがに隠したままで明日早く出る事をあわせて伝えたところ、ジェームズは元より、クレイやコーラルもすんなりと賛成してくれた。そのさっぱりとした受け答えには別れを惜しむような物は無く、冒険者はそんなものかな?と若干の寂しさを最初は感じたが、彼らなりの流儀なのだろうと思いなおした。


 宿に戻ったところでイリスは早速研究だ!と言いながら馬車に飛び乗ってどこかに行ってしまったが、キャニーたちもまた、いつのまにかいなくなっていた。結局、俺は1人旅となる。ユーミはいるが、まあ実質1人だな。


 急に減った同行者に幾ばくかの寂しさが胸に飛来する。その感情を自覚した時、別れる彼らに何かを渡したいと思ったのだ。掃除ついでにあれやこれやと取り出していく俺。ユーミが珍しそうに声を上げたのはそんな時だったのだ。


『基本の造りは知ってるわよ。でもここはもうカスタマイズしきってるじゃない』


 呆れたように叩くのは鍛冶を行うための炉の燃料。確かに、この空間は既に俺の趣味の姿だ。最低限の居間のような部分を除けば、他は全て鍛冶に関係したスペースになっている。と、ようやく餞別になりそうな目的の物を見つけた。


 手にしたのはアイテムボックスにしまうのも面倒で、当時作ってすぐにキャンプ内にしまっておいた武器の1つ。名前はストライクソード。


 火をふくだとか、雷を呼ぶといったような特別な能力は無く、評価は分かれる一振りだ。そのままでは、という言葉が頭に付く。ある程度の回数使っていると、唐突に特殊能力に目覚めるのだが、その中身はほぼランダムだ。性能そのものは武器の質に依存する。

 その上、一度特殊能力に目覚めると目覚めたときの使用者専用になるという、ロマンあふれる一品である。


 この先、どんな相手に出会うかはわからないがきっと面白いことになる。そう考え、溜め込んであったソレを10本単位で回収することにした。そして、そのうちの1本を手に、炉の前に座る。ただそのまま渡したのでは面白くはない……そうだろう?


『誰の?』


「明日にはわかるさ」


 俺は懐から金色に輝く玉を取り出し、ストライクソードに添えてハンマーを握る。MDのプレイヤーが見たなら、そのもったいなさに叫ぶことだろう。素材は叱られるほどレア、というわけでもないが、それでも体力ゲージが半分以上あるのに完全回復薬を使うようなものではある。


 そんな事を思いながら、俺はストライクソードを鍛えなおすべく、手を振り下ろした。最初は白銀に近かった刀身が、だんだんと金色を帯びていく。思い浮かべるのは少年の顔。目の前の背中をあきらめず追いかけ、横に立つ少女を守る事を考えられる子。


 世界はほとんどの人には優しくない。貴族が豪華な生活をする傍ら、質素な生活を強いられる人もいる。団欒を過ごせる人もいれば、モンスターの凶刃の前にその命を散らす人もいるだろう。皆を守りたい!とある人は言うだろう。だが、人の手が届くのはその長さだけだ。1人が守れるものには限度がある。


 きっと、彼ならそれをしっかりわかってくれる。そんな事を思いながら作り上げ、出来上がりに満足した俺は外で別れの前の夜を過ごすことにした。



 どこか寂しさも覚えながら出立の朝。まだ朝靄も見える頃、俺が馬に外に出しておいたほうが良い最低限の荷物をくくっていると、覚えのある気配が建物の脇から現れる。


 ある意味では予想外。1人ではなくみんなで来るかなと思っていた……それは、クレイだった。


「本当にもう行くんだ」


「ああ、先は長そうだしな」


 その声はどこかさびしそうな弱いもの。表情も、理解はしているが納得はしていない、そんなものだ。手を止め、彼と向き合う。見れば、クレイは出会った頃を思えば立派になっている。

 手に持った刃が命を容易に奪いうるものだという自覚もあまりなく、ただ剣を持っていただけの体も、いつしか――男らしく、なっていた。いつもはジェームズやコーラルと一緒にいるから見えていなかったのだろう。


 やがて自分の中で気持ちはまとまったのか、引き締まった顔でクレイは俺を見つめ、口を開く。


「さよならは言わないよ。必ず!」


 突き出された拳。それは再会の挨拶だ。互いに生き残り、腕を残してまた同じように拳を合わせるのだというものだ。ちなみに昨日までに、ジェームズたちには俺の目的はある程度話している。世界の脅威があるなら、それを打ち払えるだけの英雄を探すのだと。そして、その手助けをしたいのだと。


 突拍子も無い、気の長い話だが、誰も笑うことはなかった。目の前のクレイもまた、俺の話を馬鹿にせず受け止めてくれたのだ。その上で、自分も英雄になるのだと、思ってくれているのだ。


「ありがとう」


 それがわかっているから、俺も短くそう答え、拳を合わせる。まだ子供らしい、それでも男の手になったその硬さに内心微笑み、彼もまた笑ってくれた。


「ジェームズはなんだかわかってるさ、みたいな感じだったよ。後、コーラルは泣くのが我慢できないからだってさ」


「そっか……よし、これをやろう」


 ジェームズは彼らしいやり方だなと思う気はしたがコーラルには気の毒なことをしたかもしれない。クレイがここに来たのはそんな彼女の分もという気持ちがあるんだろう。そのことがなんだか嬉しくて、俺は少し大げさな身振りで背中に手をやると1本の長めの剣を取り出す。


 それはキャンプの中で作り上げた武器。ストライクソード改め、ストライカーブレイド。形はなぜか俺の知っているMDの同じ武器とは少し違うが、感じる印象は同じようなものなので、効果も同じだろう。必要能力を満たし、その上で必要な条件のうち1つを満たせば良い。


 簡単なのは一定回数使うことだ。他にもいくつかあるし、なぜか見えない条件もあるのでクレイ次第では意外と早く発動するかもしれない。本当は後から手紙と一緒に荷物として送ろうとしたものだが、ちょうどいい。


「え? いいの?……って抜けないんだけど」


 喜び勇んで受け取ったクレイの顔が曇る。ついでに重そうだ。そう、必要能力であるSTRに相当する値がまだ足りないのだろう。ゲームでは単純に装備が出来なかったが、この世界では使いこなせない、という形でそれは出てくる。


「うむ。それが抜けるようになったら一級ってことさ。コーラルには杖はまだまだ先があるっていっておいてくれ。ジェームズは……なんだかわかってそうだからいいや」


「う、うん! またね!」


 馬に飛び乗りながらそんなことを伝えると、最後は少年らしく泣き顔と笑顔が混じったような顔で思い切り手を振るクレイに自分も手を振り替えし、薄くなってきた朝靄をかき分けるように馬を進める。


 歩を進める馬の足音が響き、だんだんと人の気配が背中から遠ざかっていく。姉妹には会えず仕舞だったなと考えながら馬を進めていたときだった。


『あら、おまけみたい』


「なんのことだ?」


 出立から30分ほど経過しただろうか? 周りは既に自然あふれる姿になったところで、唐突にユーミが言って肩から前方へと飛んでいく。空を飛ぶ鳥を追うかのようにそちらに視線を向け……首をひねる。


 街道の脇にある木々になぜかくくられた2頭の馬。そして、木の上から影が2つ、飛び降りてきた。


「やっとね。といっても、早く出るだろうと思って先回りしてたのだけど」


「ねむいよ~……」


 現れたのはなぜか旅装束のキャニーとミリー。随分と前から待っていたのか、ミリーは姉の後ろでゆらりゆらりと……まあ、観察はこのぐらいで良いだろう。旅支度、そして待っていたということは答えは1つだ。


「……ついてくるのか?」


「別に、ついてっちゃ駄目とも言わなかったじゃない」


 あきれたように言うだけ言ってみるけれど、勝てそうになかった。今回は彼女に1本とられたって感じだな。確かに、ついてきてほしいとも言わなかったが、危険だから来るなとも言わなかった。危険かどうかもわからないところではあるが。


 研究に戻っていったイリスのように、自分達の生活に戻ると思っていたのだが……。


「お姉ちゃんは素直じゃないから。自分達のいたあの組織が東の流れを持ってそうだというのと、後は心配だかr…ムグッ」


 なにやら続けようとしたミリーの口を慌ててふさぐキャニーの姿に固まり、すぐにニヤつくのを抑えられなかった。1人じゃなさそうだ、ということがこうも楽しみだとは思わなかった。


「ち、違うのよ? これには深い訳がね?」


『人間っておもしろーい』


「ユーミ、そこは混ぜっ返さないのがマナーってもんだ」


 俺はそういって半透明のユーミをつまみ上げ、肩に乗せる。そして、2人に向かい合う。既に1人で旅をするつもりだった時のどこか冷たい気持ちは吹き飛んでいた。


「ありがとな。行こうか」


「んっふー。ファクト君もまだまだだなー」


「……言い出せなかった」


 言い放ってすぐ、若干のてれを隠して俺は馬に飛び乗り、先を行く。背中にかかるミリーの陽気な声に隠れるように聞こえたキャニーの声は聞かなかったことにした。そして、時折襲い掛かるモンスターたちを相手にしながら、俺達3人は道を進んだ。


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○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/

完結済み:宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:https://ncode.syosetu.com/n1254dp/

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