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マテリアルドライブ~元生産職が行く英雄種蒔き旅~  作者: ユーリアル
第三章

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077.「無造作に転がる転換点-1」

 

 その日は朝から雲1つ無い晴天だった。空を仰ぎ、大きく息を吸えば元の世界では味わえないような爽やかな空気が胸に満ちる。それは全身に活力を行きわたらせるかのような錯覚を俺に与えていた。


 腰に下げた模擬剣の柄に手をやり撫でると、その切っ先までも鑑定できるような気さえした。


「余裕そうだな」


「そうでもないさ。こうやって落ち着いたふりをしていないと視線の熱さに負けそうだ」


 隣に立つジェームズへと答えながらも、気を抜けばじっとりと手のひらが湿りそうな緊張に思わず唇を舐めた。そんな仕草すら、相手に見られているような気がする。


「だな、あちらさんはずいぶんやる気だぜ」


 相手との距離は100メートルは離れている。だから聞こえるはずもないが、こちらのつぶやきが聞こえそうな気がした。それだけ、相手の視線は熱い物なのだ。皆、同じような装備をした男性達だ。


 答えを言えば、フィル王子指揮下の軍人の1部である。対してこちらはジェームズの誘いに乗ってきた冒険者集団。人数は30対30。これだけの人数が集まって何をするかといえば、模擬戦だ。


 謎のスライムたちの出る遺跡から脱出し、そこにあったものをユーミのことは隠しつつフィル王子へと報告に向かった俺だが、その行動は良いことと面倒なこと、両方を生み出した。


 聖女像をはじめとして、持ちだせない物や個人の物にするつもりのない物は国が管理することとなった。それとは別に途中で見つけた財宝の類はなかったものとして俺が貰っていいことになったのだ。それ自体には異存はなく、むしろありがたい。おかげでジェームズたちに依頼金としてお礼が出来たわけだからな。彼らはいらないと言っていたがこういうのはケジメだ。


 ともあれ、問題は聖女像とその祈りに関してだった。ある程度以上鍛えてあれば、祈るだけでそれぞれの理想の自分に近づくという解釈をした王子はあくまでも仮定のものではあると伝えたにも関わらず、自ら行くといって聞かなかった。しかも少数でだ。


 フィル自身がそういう行動をすることはいつものことなのか、それ自体には反対の声は強くなかったようだ。ただ、留守を預かることになる部隊にちょっとした不満が出た。簡単に言えば、自分達も体を動かしたい、というところか。


 どうも先日の戦いの際にもどこかの留守を預かっていた部隊らしい。現に、相手の視線は早くこちらを試したくてうずうずしている物だ。あわよくば自分たちが王子に同行できればと思っていたに違いない。


 フィル王子自身も留守ばかり預けることを気にしてはいたのか、こちらに模擬戦の打診があったというわけだ。模擬戦とはいえ、そのまま戦ったのではけが人も出る。何よりそんな模擬戦を行うメリットが冒険者側にはないのだが……場合によっては兵士として良待遇で迎え入れる枠を作り、さらには依頼金まで出るとなればそれは正式な冒険者向けの仕事となった。


 様々な問題を解決するためにお金を使ったうえ、わざわざ魔法の結界を貼った場所を提供してくれるとなれば人さえ集まればやろうとなったわけだ。ちなみにこちら側の人選は好きにして良いとのこと。


 横でその話を聞いていたジェームズに人選を任せ、今に至るのだ。ちなみにキャニーたちは見学だ。この場にいるのはジェームズとクレイ以外はこの前の戦いのときにいたらしい男の冒険者のみ。別に強さの問題ではなく、泥臭さをお望みであるということが理由だ。ガイストールは冒険者の集まる街であったため、結果として思ったより早く人は集まった。




「本当に切れないんだね。不思議な気分」


 自分の手に割り当てられた模擬剣を当て、何も起こらないことにつぶやくクレイの姿は歳相応の子供のようにも見える。彼は兵士になるつもりはなく、あくまでお金目当てらしいが他の連中も似たような物だ。安定した職業の1つである兵士にあこがれる奴もいることはいるが……。


「普段の訓練でも使ってるのかもしれないな」


 ゲームではジョークグッズとして作れたような記憶があるそのアイテムの見た目は武器そのままだが、ウレタンを思わせる質感である。当然物を切れず、打撃も感触はあるが痛いとまでは行かない。つまり、本当の戦いのように命のやり取りによる決着は無い。


 審判役が何人もおり、専用の道具で致命傷を負ったと判断した者から離脱判定が下るらしい。まるでスポーツチャンバラだな。


「で? せっかく集まったんだ。お互い勝手に殴りあうんじゃー、面白くあるまい」


 背後から声をかけてきたのは、どっしりとしたドワーフを思い出させる体格の男。使い慣れた様子の金属鎧に、持ち手に汚れた布を巻きつけた鉈のようなものを腰に下げている。そのほかの面々も、おもむろに集まってくる。どいつもこいつも一癖二癖ありそうだ。


(俺が指示を出すって言う戦いでもないよな)


「基本はそれぞれの得意な動きでいいんじゃないか? ただ、魔法には気を付けた方が良いだろうな。あっちは手加減できないし、いつもの流れで使わないようにしないと」


 実際、今回は魔法は禁止されたわけではないが相手を殺してしまうことの無いよう、使うつもりは誰も無いはずである。俺が言うまでもなくみんなわかっているのか、それぞれに頷きを返してくる。その胸元で揺れるアクセサリーが今回の模擬戦の判定に使われるものだ。見につけた人物が衝撃を受けると光り、想定される被害がわかるようになっているそうだ。


「便利なものもあったもんだ」


『戦闘ヘルプにもあったじゃない』


 つぶやきに予想外の答えが返って来た。耳元で聞こえる声にそちらを見れば肩に乗っかるユーミ。ただし、その姿はミニサイズの上に恐らくはコーラルのような魔法使いでなければ見えない。この世界での自分の力が強力すぎる事を気にした彼女(?)は自らを小さくし、その力をセーブしている。小さな羽が生えた、見方をかえればいわゆる妖精のような姿だ。


 ユーミに言われて思い出すのは、大体のゲームにはあるだろうチュートリアル。その中の戦闘訓練、という奴だ。確かに言われて見れば、ルールで勝敗を決めておかないと終わりが無い辺り、近いかもしれない。あれも実際に被害状況が目に見える仕組みだった。ということはこれらも遺物か、それを参考にして再現に成功した物品ということか。


 そうこうしているうちに合図を行う人間が両者の間に立ち、旗を掲げる。そして、始まる戦い。陣形対陣形、ということはなく、それぞれの小グループ同士の戦いとなっている。怒号とも思える声が響き、互いの武器が大きな音を立てる。威力は無いが、こういう部分はリアルなあたり、なかなか面白い。


 わずかな思考だがそれでも隙には間違いなく、目の前に兵士の1人が迫っていた。丁寧な、それでいて激しい訓練を受けたのであろう攻撃は、高レベルの俺からしても鋭く、同じレベルであれば俺は相手にならなかっただろう強さを秘めているように見える。


 その動きは、剣士系スキルを主に習得するギルドのメンバーを思い出させ、ちょっとした感傷を俺の中に生み出した。腰を落としながら下がり逆にこちらも剣を突き出すと予想通り回避された。


「しばらくお付き合い願おう」


「ああ、学ばせてもらう」


 短い会話の後、俺は相手と斬り合いを始めた。


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○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/

完結済み:宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:https://ncode.syosetu.com/n1254dp/

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