074.「掘って進んでまた掘って-10」
予想外の救援により、俺は窮地を脱した。余裕が出来たところでジェームズの提案に乗る形でモンスターたちが空けた穴の探索に向かうことになった。奴らが沸いてきた原因が見つかるかも……しれない。
1人の時と違い、手数があるというのは殲滅に対して非常に効果的だった。それでも唯一の非戦闘員であるイリスのことが気になる。
「イリス、いいのか? 無事に帰れるとは限らないぞ?」
「君も面白い事を言うな。目の前に興味を満たすモノが出てくるかもしれないんだ。そこで引き下がるような奴は知識を追う権利など無いさ」
俺の心配に、イリスはあきれたといわんばかりに肩をすくめる。背中に抱えるのは、どう見てもミサイルランチャーのような無骨な塊。まさかこの世界にもこれがあるとは思わなかった。それに、かつての事件を踏まえるとこうした攻撃用の遺物はイリスは好まないと思っていたんだがな……。
「それ、魔力を込めると切れるまでああやって炎の槍で攻撃できるんだって。もっとも、彼女、コーラルは丸一日ぐったりするぐらい魔力が入るけど」
「良いのか?」
俺の視線に気がついたのか、キャニーがそう解説してくれる。どこからかは知らないが、新しく見つけた遺物ということなのだろう。短く心配の声をかけた俺に、イリスは自分の胸を叩いて自信に満ちた顔を向けてくれた。
「私も大人だからね。いい加減乗り越えていかないとと思ったのさ。それに、道具に罪はない……だろう?」
「頼りにしてるよ」
込めた魔力が付き添うなら俺が代わっても良いなと考えながらなおも進むと、それまでどちらかというと狭かった洞窟が急に広くなる。と言ってもさっきまでは俺が手が届きそうかな、といったところがしっかりジャンプしたら届くかな、ぐらいなのだが。
これを全てスライムや芋虫が掘ったことも驚きだが、いまだに奥から相手がやってくるのはもっと驚きだ。
「うへ……何匹いるんだよ」
「打ち止めを期待するのはどうも難しそう……ですね」
「気配が消えない。魔力が循環してる?」
既になえた様子のクレイとコーラルに対して、答えたのはミリー。どうやらじっくり気配を探ってるうちに、奴らの持つ魔力も上手く感じ取れたらしい。こっそりと俺も地図を展開していくと、確かに……同じ反応が沸いてくる。まるで倒した分だけ増えているかのようだ。
「なるほどな。倒した死体がほとんど無いのは体を構成している何かが、一度材料に戻っていると考えるべきだな。どこかにその循環元がいるはずだ」
時折、モンスターの消える前の死体を調べていたイリスはそういって洞窟の奥をにらんだ。観察だけでその結論に至ったイリスのすごさを褒めながらしばらく進む。途中、これはすごい仕組みだが美しくないとイリスが呟く等があったが最初と変わらない戦いが続く。
そして、景色に変化が訪れた。
「アレに聞いたら答えがわかるんじゃないかしら? いかにも、よね」
皮肉に満ちた口調のキャニーが指差す先には黒い光。闇色なのに光だとわかる。だが、辺りを照らす光ではない。映像で見たことがあるブラックホールをそのまま持って来たかのような光景だった。実際、魔法の灯りがゆっくりとそちらに近づいて行ってしまう。
「何かいます。……え? 精霊? でもこれはっ」
『今度は人間……もう、誰でも良いわ』
(しゃべった!?)
コーラルの驚きの声と、その頭に響くような声はほぼ同時だった。俺の驚きは全員共通だったようで、コーラルやイリスはあからさまに驚愕し、それ以外の面々もしゃべる相手だということに驚きを隠せない。
「君は、精霊なのか?」
しゃべっている間にも、そこかしこからゆっくりとスライムと芋虫がその体を持ち上げるように地面からせりあがってくる。俺が光に問いかけるのを見てか、ジェームズたちは無言でそいつらを片づけてくれる。
『精霊? ……ああ、そうかもね』
ぽつぽつと、迎撃の間につむがれる精霊らしき相手の独白。精霊は長い長い時間を経ると、自然とある程度の自我が出るのだという。そして、時を過ごすうちにその自我は希薄となり、また世界に返っていく。古の意志はその直前だということだ。
自らの力の強大さが生む結果を精霊自身が良くわかっていたのだ。
騒ぎを嫌い、とある森の奥に暮らしていた古の意思に近い次元の精霊。あるとき、何者かが近づいてきたかと思うと妙な魔法をかけられたのだという。ほとんどの力と引き換えに、自分という存在に何かが混ぜ込まれた、そんな感じだと。
それから、森は黒に侵食された。何とかしようにも奪われた自分の力ではどうにもならず、精霊は嘆き、大地の深くへと潜ったのだという。せめて、黒、スライムたちが広がらないようにと。広がる空間も限られ、襲う相手がいなければ動きはほとんど無かったようで、孤独な、しかしながら静かな時間は過ぎていったのだという。
だが、少し前から動きが活発になり、穴を掘り始めたのだという。
(間違いなくきっかけは俺だな。なんてこった)
恐らくはここへの進入、もしくは像への接触などがひっかかったのだ。あいつらは俺を狙っていた。それは命を奪うためというより吸収するため、だろうか。俺は奴らにとっては誘蛾灯、もしくは思わず近寄ってしまうだけの魅力ある餌に見えたわけだ。
「どうすればいい?」
『わからない……こいつらは残った私の力を糧に勝手に出てくるから』
つぶやく精霊は疲れた様子だ。長い間の疲労が、色々な意思を奪っているのだ。このままでは……どうにかして助け出したい。
「何か器でもあればいいんですが」
「聖女のお話にあったアレね! 聖女様に協力したという精霊は水晶で出来たランタンに住んでもらったそうよ」
「ランタン……これでいってみるか?」
2人の言葉に、俺はふと、以前の探索で光る精霊を捕らえていたランタンのような箱を取り出す。明らかに普通のランタンじゃあなかったんだよな。視線を感じながら、無造作に精霊へと近づき、蓋を開けてみる。
「とりあえず、解決方法は後から考えるとして、入ってみてくれるか?」
近づくとわかる。間違いなく精霊だ。闇色でなければどこか保護欲を誘う幼い姿。その虚ろな瞳が俺を捉え、見据える。と、虚ろな様子だった瞳に一瞬、光が戻る。
『面白いね。また会えるなんて。何年振りかしら』
疑問を口にするより早く、精霊は箱の中にふわりと入り込み、自然と蓋がしまる。それだけだというのに、まるで周囲のすべてが飲み込まれていくかのように諸々の気配も消えていった。
「あっ」
それは誰の声か、わからぬまま俺も周囲から急に消えた気配に驚き、顔を上げ……さらに驚く。半ばまで実体化していたモンスターもそのまま崩れ去ったのだ。スライムたちは粘液も残さず、芋虫も吐いた糸すらない。
「終わったみたいだな」
「あー、きつかった」
「助かったよ。みんなもな」
ジェームズらに手を上げつつ、しっかりと増援をよんでくれた姉妹や、コーラルたちにも声をかける。依頼金もないのに、わざわざ来てくれたんだ。仕舞い込んであるゲーム時代の銀貨から払ってもいいかもしれないと思っていた。
「何、良い刺激になった。ところで、この精霊、何歳かわかるぞ」
イリスは唐突にそういって、荷物の中から電卓にも似た何かを取り出した。また新しい遺物のようだ。いくつかのボタンと、何か表示されるであろう画面部分がある。非常に独特な形状だ。
「こいつはな、この棒の先にいる相手の年齢がわかるんだ。街の1000人以上で試したから間違いない」
しかも魔力消費はなしだ!と叫んで嬉々とした様子で精霊の入った箱に装置を向ける。反応があるということはこの遺物は精霊を生き物と同じような扱いをしていることになる。
「おお? おおお? でたな。……驚いたな1832歳だそうだ」
『そのぐらいかしらね』
箱の中から精霊が答え、意味深に俺に視線を向ける。気だるそうな雰囲気はそのままだが、元気は多少戻ってきたようだ。奴らに吸われなくなったからだろうか?
(1800? MDの時代より前じゃないか)
イリスは精霊の視線に気がつかず、ジェームズたちへとその装置を向け、次々と年齢を言い当てる。そして、最後に俺へと向けられる。ゲーム設定どおり、20以上30前、だと答えてくれると予想していた俺に反し、イリスの動きが止まる。嫌な予感がするが今さらどうしようもないな。
心の準備をして、敢えて俺の方から声をかけることにした。




