073.「掘って進んでまた掘って-9」
また1匹、黒い芋虫が俺の投げた鉄槍によって貫かれ、息絶える。後方にいた何匹かも巻き添えにしているが、相手が尽きる様子はない。壁からスライムだけでなく、妙な芋虫が出て来てからは長かったのか、短かったのかはあまり覚えていない。
ゆっくりとでてくるスライム、ただし核を攻撃しないとなかなか死なない。こちらの攻撃に素直に倒れてくれるが、駆け足よりは遅い速度で、黒い糸状の攻撃と鋭そうな舌とで攻撃をしかけてくる芋虫。2つの集団はそれぞれのペースで襲い掛かってきた。
そのため、洞窟の中で迎撃という策は早々にあきらめることとなり、今は間合いの取れる部屋の中であちこちで迎撃をしている最中だ。幸いにも、聖女像に貼った結界には見向きもせず、その上で出口となる方向へいこうともしない。まるで、命ある存在を刈り取るのが先といわんばかりの行動。
正直、体より精神が先に参りそうだった。人間は睡眠をしっかりとらないとだめになるというが、今のところはしのげている。合間合間に、虎の子の結界道具を使って作った時間で仮眠しているからだろうか。
「経験値が増えてるのだけはメリットかなっ!」
突進してくる芋虫、闘牛を思い出すようなその体躯と動きに恐怖しながらもすれ違いざまに右手に握ったスカーレットホーンの強烈な一撃が両断していく。その隙を狙うように体を器用に伸ばしてくるスライムの、核があるであろう部分へと左手に生み出した槍を投げつける。
個体差というものはほぼ無いらしく、これまでと同じ位置に核はあったようでシンプルな槍は核を貫いてスライムと共に消えていく。
勿論、時折相手の連携がきまり、俺も被弾する。完全に防御を貫いてくる攻撃はないようで、一撃一撃はたいしたことの無い攻撃が何度も続く。気がつけば俺のHPとなるゲージは半分ほどが黒くなっていた。
回復の手段はあるにはあるが、今は……。
「このぬめりを洗う時間がないな」
スライムの体にせよ、芋虫の体液や死体にせよ、どちらも妙な液体だ。切りかかれば返り血のように体や、武器を持った手に降りかかる。妙な気配を感じるが、酸や毒というわけでもない。ただ不気味にたれるだけだ。最初はそう思っていたが、そのうちに効果に気が付いた。
体力のゲージ、つまり俺の命のゲージが自然回復をしなくなっていたのだ。深呼吸をして息は整えることは出来ても、それとは別であるがために回復してく様子はない。
(まだしばらくは大丈夫だが……)
どこまで時間が稼げるかと若干後ろ向きな考えが頭に浮かんだとき、崩れた壁の向こうに新しい、大き目の気配を感じる。見れば、一際大きなスライムと芋虫。その核と、瞳に相当するであろう部分が赤い光を放っている。
「中ボスって奴か。強そうだな」
見た目は先ほどまでとあまり違いは無い。だが、強さまでそうだとは限るまい。覚悟を決めて、両手でスカーレットホーンを構えなおしたとき、背後に幾人もの気配が生まれ出た。
そして……。
「空より降りる怒りの拳! 雷鳴の拳!」
聞き覚えのある少女の声とともに、芋虫(中ボス)へと光の塊が大砲の砲弾のように襲い掛かる。立ちっ放しの俺の脇を人影が走りぬけ、力強い攻撃が2つに鋭い攻撃が2つ。それらはある意味丸見えといえるスライム(中ボス)の核へと注がれ、両者が大きなダメージを受けたのがわかる。
最初がコーラル、次がジェームズにクレイ、そしてキャニーとミリーだ。
「ふむ。こうだな。行けっ!」
最後に、ここにいる理由がわからない女性の声が響き、MDでは見覚えのある攻撃、バットほどの大きさの炎の槍が背後からこれでもか!と言わんばかりに中ボス2匹へと降り注ぎ、止めをさした。
「よっ! 無事だったか」
「手足あるんだもん、大丈夫だろ?ってなんだこりゃあ!」
全然心配していない様子のジェームズに、辺りに散らばるドロップ品に声をあげるクレイ。ああ、踏むと破裂するかもしれないぞ、うん。
動けないでいる俺に飛び込んできた影が1つ。怒った顔のキャニーだった。すぐ後ろにミリーもいる。こちらはどこかニコニコとしたもの。
「もう、無理しちゃだめじゃないの」
「おー、これだけでもおっかねもちだー! ファクト君、頑張ったんだね」
「思ったより早いじゃないか。それになんで?」
この面々なのだ?という言葉を抜いた発言だったが、皆はそれを十分に理解したようだった。抜けかけた気合を入れ直し、俺も武器を構えてみんなと同じ方向を向く。新しい気配、その数は結構な量。俺一人だったら厳しかったかな。
「まだ……来ます!」
「おっと、詳しい話は迎撃しながらでもできると思うよ」
少女の声にこたえるかのように亀裂から顔を出す芋虫を指差すのは、こんな場所でも研究者然とした服装のイリスだった。全員と話せるよう、敢えて部屋と亀裂との境目辺りで迎撃を開始する。
みんなから聞けた話は、思わず手が止まるほどには驚きであった。偶然には偶然が重なるものなのだなとどこか運命めいたものを感じる。
俺と別れた後、無事に街に、驚異的な時間でたどり着いた2人。そこにいたのはイリスと、依頼中のジェームズたちだった。イリスは新しい遺物を探しにこっちまででてきていたらしい。
そこでジェームズに声をかけている姉妹の話の内容を横で聞いて、遺跡ならば自分が役立つかもしれない、ということでついてきたのだという。偶然にしてはできすぎている。これが実はイベントでした、と言われても信じてしまいそうだ。
(けれど、助かったのは事実だ。それで今は良いか……)
ただ結果を受け入れるには色々と気になるところだ。偶然に遭遇できるのもそれぞれの英雄の資質だとでもいうのだろうか? ともあれ、キャニーたちは他の冒険者を雇うことも考えたそうだが、胡散臭い依頼となる上、そんな単純には人は集まらないと判断した。結果、とにかく駆けつけようということになったようだ。
「助かる。強さはこのとおりなんだが、数がな」
そうして、1人だったころとは段違いな勢いで、モンスターたちはその数を減らしていった。聖女像のあった場所からは1匹残らず駆逐され、ついには崩れた穴へと押し込むことに成功する。
「間違いない。奥でつながってそうだな、少し進んでみようぜ」
それは冒険者としてのカンと、何かあるかもという下心だろうか? 俺も出来ればそうしようと思っていたので、全員そろって崩れた壁の穴へと突入を開始した。




