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マテリアルドライブ~元生産職が行く英雄種蒔き旅~  作者: ユーリアル
第三章

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071.「掘って進んでまた掘って-7」


 俺は祈りの中にいた。雲が途切れ、日の光が差し込んだときのような感覚。全身を満たすやわらかく、それでいて暖かい光。俺は近いものに覚えがあった。

 完全回復の魔法、そして専用の回復ポイントで回復したとき、一番近いのは、全ステータス強化のアイテムを使ったときだった。


 見れば俺のステータスは全てが光っている。だが、その数値そのものは特に増えた様子は無い。元々減るものでもない上に、増えてもいない。これは一体?と考えたところでどこからか何かの意思が伝わってくる。明確な言語ではなく、その意味だけが浸透してくる。


(人の可能性を見れる? あるべき姿?)


 明確にはわからないので、なんとなくの解釈が続く。相手は精霊なのか、それとも聖女と呼ばれた誰かなのか。それすらわからないままその意思との接触は続く。


(俺は……自分を知って成長できている?)


「ファクトくん! ファクトくんったら!」


「はっ!?」


 横合いからかかった声、そして体を揺さぶる感触に意識を戻す。横を見れば心配した様子のキャニーに、体を掴んでゆする姿勢のミリー。どうやら少なくない時間、こうしていたらしい。


(なるほどな。ゲームとしてステータスを把握し、自分でどれをあげるか俺は、俺達は選べた)


 立ち上がって石像を見上げながら、かつての経験を思い出す。ゲームではレベルアップごとにステータスは任意のものをルールの範囲内で上昇させることができた。こういったゲームとしてはオーソドックスな仕組みだ。それにより多彩なキャラクター達が世界に生まれた。


 だが、現実として生きる上では思うようにならないのは当然だ。レベルが上がったからと、望むような強さになれるとは限らない。それは才能の差であったり、自覚できているかの差もあるかもしれない。いずれにしても、余分なのびしろの無かった俺と比べ、逆にのびしろがあったらしい姉妹は、それを引き出されたことになる。


 むやみやたらに強くなるのではなく、努力が報われるということか。


「面白いな。世界中から冒険者が押し寄せそうだ」


 俺はつぶやき、2人に像の秘密をそれとなく語る。最初は驚いた様子の彼女らに、フィルに報告した上で有効活用させるべきだと伝える。秘匿し、自分の国だけのものにするのか、料金を取って使わせるのか、はたまたこれが火種になるのか。


 どれもありえることだとは思う。だが、隠したままでいつか誰かが見つけ、騒動になるほうがよっぽど怖い。


「よし、この辺りで帰るか」


 俺は元気にそういい、2人もうなずきかけたそのとき。


――音がした。


 最初は小さな。続く大きな崩れる音。振り返ればそちらは光が届いていない闇。気配ともいえない何か妙な物が現れていた。1匹……いや、何匹かわからない何かが。


 俺は感じる嫌な予感に従い、迷わず魔法の灯りをそちらに投げつける。


「何……あれ」


「嫌だ。あれは……嫌だよ」


 崩れた壁。そして瓦礫。その上にしみこむように揺らめく、黒。俺だけじゃなく、2人にもわかる。


 あれは、イレギュラーだと。


 動く石像も、カエルも恐らくはこの場所に昔からいたもの。だが、アレは違う。この世界のモンスターであることに間違いは無いようだが、崩れた壁の奥から精霊に関するものと思わしきプレッシャーがにじみ出ている。


 黒いもの以外に、何かがいるのだ。すぐそこなのか、もっと奥なのかはわからないが……どろどろとした何かが徐々に形を戻していく。形自体は見慣れた姿、スライムだ。だが、普通なら見えやすい核は色のなかに埋没している。


「くっ! とりあえず仕掛けるしかないな!」


 俺は自分に言い聞かせるように叫び、牛ほどの大きさのスライムへと攻めかかる。伸ばされた水飴のように迫るスライムの一部を回避と同時に切り裂くが、悲鳴をあげる様子も無くスライムは黙ったままだ。


「「はっ!」」


 姉妹の息の合った投擲も、嫌な音を立ててスライムの中に沈んでいくばかり。こちらを敵と認識したスライムが大きく跳躍し、飛び掛ってくる。空を飛ぶスライムという図式に驚愕しながら、それを何とか避けるとスライムは長椅子へとその体をたたきつけるように着地した。


 粘性のある液体をぶちまけた嫌な音。偶然、長椅子に押し出されたのか表面近くにうっすらと玉の様なものが見えた。たんこぶのように出てきたそこは間違いなく核。


「そこかっ!」


 偶然か、祝福か。とにかく現れた目の前のチャンスを逃さないよう、俺は無理な姿勢のまま切りかかる。スライムのカウンターというべき一撃が剣を持った右手を包み込み、腕全体を蝕む痛みに悲鳴をあげそうになるが剣を握る手は離さない。確かな手ごたえの後、スライムはその場にどろりと崩れ去った。


「……いけることはいけるな」


 俺は傷の具合を確認しながらそうつぶやき、2人に振り返る。すると、2人は倒せた安堵よりも恐怖にその顔を染めていた。


「こんなの……」


「この気配はまずいわね」


(! なんて数だ……1度には出てこられないようだが……)


 穴の向こうに、少なくとも同じやつらが二桁はいる。そのことを感じた……同時に、鈍い痛みが腕に走っているのを思い出す。すぐにその事実に俺は呻いた。


 俺が……痛みを感じている。とても威力が高いようには見えなかった攻撃ともいえないような物で、ダメージを受けている……! つまりは姉妹は俺と同じように受ければそこが溶けてしまうといったことすらあるかもしれない、そういうことだった。


「何体いるんだ……」


 どうも気配が混ざって正確にはわからない。そして、気配の向こうに何かがいる。そうこうしている間に、どろりと2匹が互いを押し合うようにしてこちらに出てくる。大きさには違いがある。片方は犬ぐらい、片方はポニーほどだ。小さければ核に当たる可能性も高くなり、3人の攻撃は数度の攻防の後、それを貫く。だが……。


「増援を確認。詳細不明、対処困難」


「そうみたいね。きりがないわ」


 崩れた壁の向こうは洞窟のようで、かなりの広さがあることがここからでもわかる。そのうちをどれだけやつらが埋めているかはわからないが、気配は濃密だ。このまま3人で何とかできるか?いや、それなりにはいけるだろうがリスクがあるのは間違いない。


 ならば……。


「二人とも、俺はここで奴らを足止めする。二人は町に戻ってフィルから援軍を確保してくれ」


「何言ってるのよ! 私だってやるわ!」


「そうだよ! なんで一人なんて!」


 抗議の声を上げる2人に答えず、俺は懐から消耗品をいくつか取り出し、その中の1つを聖女の像のほうへ、もう1つを崩れた壁と投げる。甲高い音を立ててはじける水晶のような石のはまったペンダント。とたん、うっすらとした膜が聖女の像周囲と壁の穴を覆うような形に広がる。一定の物理ダメージを防ぎ、プレイヤー以外の侵入を防ぐ結界アイテム。デメリットは値段と、範囲外に動けないこと。


 ネットゲームにおいて、狩りといえば定点に陣取っての物か、移動しながらか、いずれにしてもこのようなアイテムに需要はあまりない。ましてやこのアイテム、対人には効果がないのだ。俺とて在庫は2桁しか持ち合わせていない。


「仮にどうなってもあの像があれば便利だからな」


「聞いてるの?」


 俺はそういって、光の膜にまとわりついているスライムをにらみながらアイテムボックスから有効そうなアイテムを無造作に選び出した。そんな俺の手を掴み、キャニーは責めるように顔を覗き込んでくる。俺はそのままキャニーを抱きかかえるかのように顔を寄せ、同じ方向……膜の向こう、空いていた空間にどろりとまた姿を現してくるスライムに警戒しながら、口を開く。


「あれが転送できないと決まってるわけではない。途中相手にした連中は、決められた場所しか動けない、そういう相手だ。だがスライムは違うだろう」


 しゃべりながら取り出したスカーレットホーンを床に適当に突き刺す。他にも使えそうな武器は……っと。まあ、なんとかなるだろう。たぶん。


「確かに今の数なら3人で全部防げるかもしれない。だが防げなかったら? 数がもっといたら? 下手をすればあれが平和なはずのこの地域にあふれ出す。ここからは俺のカンだがあれは自然発生していない。何かがある。外に出すわけにはいかないんだ」


 再び虚空からアイテムを取り出そうとした俺の右手、スライムの攻撃で少し荒れた手を今度はミリーが掴む。彼女の顔は涙目だ。戦闘中は冷たい表情をするはずの彼女が、泣いている。


「……私達2人じゃ時間稼ぎにしかならないし、どちらか1人だけが戻るのじゃ、万一があったら全てが無駄。そういうことなんだね」


 俺は頷き、促すように2人を見る。信じてる、そうつぶやいたのは姉妹のどちらだろうか? あるいは両方かもしれない。まだ納得していない様子のキャニーの手をとって、ミリーは下がっていく。


 後に残るのは嫌な音を立てるスライムと、俺。そして像。連携も何もなく、膜に体当たりとまとわりつきを繰り返すスライム。後1時間もすれば1回目の膜はダメになりそうだ。相手はただの野生だけで動いているのか、それとも知性を持ってやってくるのか。


「いずれにしてもだ。遠慮はなしでいかせてもらおう」


 俺は見咎める存在のいない空間で、いつかのMDを思い出しながらアイテムボックスの画面をあちこちに展開。消耗品、武具、それらが様々に選べるような配置になる。武器生成はそろそろだろうが今は無理。


 援軍がいつやってくるかも不明。馬に仕込んでおいたアイテムは強行軍を可能にするだろうが、それでも明日にでも、というわけにはいかないだろう。上手く倒しつつ、結界を張るアイテムを使っていけばかなりの時間は稼げるだろうが、ずっと防ぐだけの在庫があるとは思えない。


「ま、元々有限の力だからな」


 覚悟を決めた俺は無造作に床につきたてた10本ほどの武器から、黄金色に輝く槍を掴み、構えた。


 そして、孤独な戦いが始まる。



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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/

完結済み:宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:https://ncode.syosetu.com/n1254dp/

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