069.「掘って進んでまた掘って-5」
人気のないダンジョンの奥でゲームではよくある転送を行う柱を見つけ、その先を探索している俺たちは動く石像、そしてカエルのようなよくわからない魔法生物を相手に戦っていた。カエルモドキが残したのはその体と……。
「この残骸、高いぞ。緑のほうは良い鎧の材料になるし、核は確か何かのポーションの材料になったはずだ」
「え? そうなの? じゃあ私も!」
「自分も確保だよ~」
俺はそういって、適当に布袋にそれらを放り込み始め、2人もお金になるのならと現金な様子で拾い集め始める。しばらく後、細かな破片以外は3人によって回収されるのだった。荷物をまとめ、怪我の確認などをしながら休息をとる。
「こいつ、生き物なの?」
「いや? 確かマナフロッグとかいう奴だったかな? 特徴は硬い表皮に、よく伸び武器でもある舌。そして手のひら部分にある特殊な魔法で、天井や壁に張り付いて獲物を待つ習性。さっきみたいに適当に自分の体表を細かく落として注意をそちらに向けて……というわけだな。門番代わりに昔はよく使われていたらしい」
実力ある冒険者といえど、上から押さえ込まれては実力を発揮できない。そのまま鋭い舌が角度を変えて相手を貫く、というわけだ。攻撃の間もくっついていれば吹き飛ぶことも無いと思うのだが、どうやら同時には実行できないらしい。まあ、同時にやられても困るからそれでいいのだが。
「さて、問題はコイツか」
「お約束、ね。装飾は地味だけど箱は丈夫そうよ。鍵穴が無いんだけどね」
「何かなー? 何かなー?」
3人の前には小さな衣装ケースほどの大きさを持った箱。簡単に言えば宝箱サイズだ。鍵穴も無く、開け口も見当たらない。
(ん? 何か書かれてるな)
プレートが取り付けられており、そこに細かく何かが刻まれている。いつもなら意味が伝わってくるのだが今日はどうも調子は良くないようだ。
「文字のようだが、読めるか?」
「え?……少なくとも今は使われて無いわね。どこかで見たことある感じなんだけど」
「どこだったかなあー? 私もどこかで見た気がするんだけど」
2人の声を背中に受けながら、俺は指先で文字らしきものをなぞる。法則性はあるはずだが俺は古文書解読のスキルなんて持ってないし、現実でも考古学なんてさっぱりだ。けれども……。
(なんだ? この感じ、どこかで見たような)
このゴツゴツとした鉱石っぽく、それでいて淡い印象を受ける独特の文字。常に記憶のどこかにあるこの感じ……。そう、この世界に来る前から常に見ていた気がする。
(……常に?)
瞬間、頭の中でいくつものピースが組み合わさっていく。このフォント、これはMDのフォントだ。マテリアルドライブ、と読むのはわかるが言葉としては読めないタイトル。ゲーム中でも特殊な文言はこんなフォントで書かれていたはずだ。
どこかに何かの祝福でもあったのか、それに気がついたとたん、俺の視界にあったわけのわからない文言が意味を持って見えてくる。
『まだ見ぬ時を渡りし者よ。助けとなればと各地に遺す。願わくば、世界に平和を。唱えよ―世界の楔は心の中に―』
(誰だか知らないが、俺みたいなのが出てくることは予見済み……か?)
どう見ても時を渡る、とは俺の立場を言うのだろう。この世界に来たのはやはり俺だけではなかった、そのことが妙にほっとさせるが、逆にやはり自分も死ぬんだろうなという怖さも感じる。ただ今は、目の前のことだ。
「世界の楔は心の中に」
2人から見れば唐突に妙な事を口走った俺を慌てた様子で2人が見てくる。だが、その2人も目の前で静かに金色の光を放ってずれていく蓋を前に押し黙る。半分ほどずれたところで光は収まり……わずかにはこのフタに隙間が見えた。
俺は力を込めて蓋を掴むと、あっさりと蓋はさらに動き中がはっきりと見えてくる。まるで小売の店に並んでいるかのように立ち並ぶポーション類。そして丁寧に収められたチェーンメイルの類。その他にも宝石の埋め込まれた箱に入るサイズの武器がいくつか。また、隙間を埋めるように詰め込まれているのは現金となる銀貨金貨だった。アイテムはともかく、この現金類はどう持ち運ばせるつもりだったのやら。
(いや? 残された頃にはアイテムボックスはまだ現役だったのか?)
これだけの内容を残せる存在だ。持ち運びに気を配れないということも無いはずだ。となると、そんな心配が要らない環境だったという可能性が高い。
「……すごい」
思考を中断するつぶやき。それはキャニーの声かミリーの声か。見れば声を出したのはどちらかはともかく、表情は2人ともほぼ一緒だった。
「これだけあれば大国でも遊んで暮らせるな」
そこで俺はからかうように声をかける。どう見ても数人で分けるには少々大金だし、かといってここにあると公言するのも困る量だ。いっそのこと、フィルを通じて寄付でもするか?
「そんなことしたら即効で勘繰られるし、刺客が来るわね」
「良い質ね。田舎じゃまず見ない純銀貨だわ。さて……ファクト、貴方が運んでよ。全部はさすがに持ってられないもの。預かってくれないかしら?」
我に返ったのか、キャニーがそういって銀貨を1枚取って確認したうえで極々自然な口調で俺にそう言い、箱の中身を分類し始めた。なるほどな、確かに俺なら持てるだろう。
「えー? ファクトくんは力持ちなの?」
「俺のこれは便利屋じゃないんだがな。とりあえず、ここにそんな遺物がありました、とか言っておけば良いか」
何もわかっていないミリーの姿に俺は苦笑し、箱の中に手をやり銀貨金貨を、通貨としてではなくアイテムとしてアイテムボックスにしまいこんでいく。最初は手持ちと混ざらないかと心配したが、よくよく考えれば前に一般的な銀貨を入手したときもゲームでの表示とは違う形でアイテムとして入手した事を思い出す。
ちなみに現在の所持金は桁で言って10桁ぐらいある。あくまでMDでの所持金なのでこの世界での価値は不明だが、銀貨の質からすると、あちこちの国の予算を超えることだろう。ひょいひょいと消えていく硬貨やアイテムを前に、ミリーが硬直しているのがわかる。細かく聞かれたら面倒かな?という考えがよぎったとき、ミリーは輝いた顔で抱きついてきた。
「凄い凄い! これなら長旅でもへっちゃらだね! だからファクトくんは身軽な感じなんだー!」
……どうやらその辺りは気にしないことにしたようだった。姉と違い、一般的に主張する女性の象徴の感触に内心動揺しながら、俺は銀貨1枚残さず回収していく。金貨銀貨のデザインが変わっていないことから、外に持ち出しても使えないということはなさそうだ。
「無事に抜けたらとりあえず報告して、どのぐらいもらって良いか聞いてみるかな。案外ほとんどもらって良いって言うかもしれないしな」
これらは人同士の戦況をそのまま覆すほどのものではない。お金は単純に影響を与えるし、ポーション類も使いようによっては便利だがいきなり集団を消し去るような強力な攻撃手段というわけでもないからだ。ブツの確保を完了した俺達は、再び歩を進めてダンジョンを探索していく。




