067.「掘って進んでまた掘って-3」
王族であったフィルの依頼を受け、長い間訪れるものがいないというダンジョンの探索に来た俺。同行してくれたキャニーとミリーの姉妹と共に突入した俺は、いかにもな扉を見つける。ボスでもいそうな扉の前に立った時、ミリーがいつぞやのような冷たい気配をまとわせたのだ。
「え? ううん、ファクトくんは初めてだよね? 私、こうなっちゃうんだ。ごめんね」
「かまわないさ。ミリーはミリーなんだろう?」
(彼女は別に、悪くない……)
恐らくは件の組織にいたときに染み付いてしまったものなのだろう。変わってしまった自分の雰囲気に、申し訳なさそうに落ち込んだ様子のミリーの肩をたたきながら、キャニーの方を向けばうなずく彼女。
「ええ、そうよ。貴女は貴女なんだから、気にしないの」
ミリーが落ち着いたところで、改めて扉と向かい合う。すぐに壊す、というわけにもいかないが鍵開けが上手くいくとも限らず、そもそも見えている鍵穴が本当にそのための穴なのかすら怪しい。
普通に開けるべきか、突入気味に吹き飛ばすか……腕組み悩む俺だった。中に何かが待ち構えてるとしたら出鼻をくじくのもありだが、何もないなら騒ぎ立てることもない。
「さて……どうするかな」
「こそこそしてもすぐわかるし、蹴り飛ばしましょうか?」
言うが早いか、武器を構える姉妹に俺も覚悟を決める。棒をしまいこみ、戦闘用の長剣に持ち変えた。扉はおおよそ俺2人分。素材からして石材でも金属製でもなく、なぜか腐食した様子のない木製だ。
(さすがに蹴りで、というのは突き抜けた時が怖いな。タックルでいくか)
俺は助走の距離をとると、迷わずに肩からぶつかっていく。予想に近い大きな音と手ごたえと共に俺の体は中の空間へと少し進み、よどんだ空気が広がるのがわかった。
視線をすばやく前に向けながら魔法の灯りを放つと、妙に整った空間に、石材で作ったと思われる柱たち。
そして、最奥で光を放つ小さなポールを守るように立ちふさがる2つの石像。あふれる気配が、石像の擬態が失敗であることを伝えている。
「私達、右ね」
「了解した。打撃は任せろ」
俺達が既に正体を見抜いていることに気がついたのか、石像がにわかに動き出し、怪しい紫の光を持った瞳が輝く。その姿は甲冑騎士。体躯にあった大きめの両手剣を構え、鈍重とはいえないが、早いというわけでもない速度で駆け寄ってくる。
こういった相手の場合、生物相手の攻撃をしてもひるまないことが多いし、意味のないことがほとんどだ。やるならば攻撃手段を奪うか、移動手段を奪うといった結果が必要だ。いずれにせよ、長物や鈍器ではない2人は対応しにくい相手だ。出来るだけ俺が早く向かうべきだろう。
おおよそ俺の2割増しと言った様子の高さから振り下ろされる、重量の乗った一撃を余裕を持って回避し、俺は手に持った長剣を人間で言う小手から手首の辺りにかけて力いっぱい振り下ろす。
大根のような野菜を思いっきり包丁で切ったときのような、快感にも近い手ごたえと共に石像の手が壊れるのがわかる。傷つけばいい、ぐらいだったが思ったより手ごたえがある。俺が強いのか、相手が脆いのか……なんとなく後者に思えた。
返しざまの刃で、人間で言う腿のあたりへと斬りつけると、これまた若干の手ごたえと共に刃はしっかりと通ってしまう。
(もろいな。やはりこんなものか)
この動き、強さからして恐らくはノービススタチュー。動く石像として有名なガーゴイル類とは違い、何らかの魔法や儀式によって生み出された擬似生物だ。魔法生物、と呼ぶのが一般的である。
魔力の密度が濃い場所で稀に自然発生することもあるというが、目の前のこれは過去の魔法使い達が使役するために生み出された個体のはずだ。実力は最低クラスで、下手をすれば今の俺ならば、素手でも砕くことが可能だ。
現に姉妹の攻撃であちこちはひび割れ、ついには腰に大きくヒビが入ったノービススタチューは半ばから崩れ落ちた。
「手助けはいらなかったな」
「なんだろ……嫌な気分になった割りにあっさりというか、うーん?」
悩んだ様子のミリーの頭をぽんぽんとたたき、俺は無言で剣先を石像の心臓部分に突き刺す。圧縮された空気が漏れ出すような音をたて、何かが剣先で光り、それもすぐに収まる。俺が剣を抜き取ると、ずぼっと音を立てて小さな玉が不思議そうな顔の姉妹の前へと掲げられる。
「こいつが核だ。なんだったかな、周囲の魔力を取り込むというより循環させて、動力にしてるらしい。これを壊さずに放って置くと、何日かすると復活するんだったかな? だから防衛にはもってこいの仕組みさ。効果は違うが、ミリーがつけられていたアレと同じ原理だからな。嫌な気分がして当然だろう」
俺は姉妹に口を挟まれる前に、つらつらと意見を述べてしまう。ぽかーんとした様子の姉妹だったが、俺が突き刺していないほうの石像がカラカラと音を立て、破片が動き始めているのを見ると慌ててキャニーが俺と同じように心臓部にダガーを突き刺し、沈黙させる。
他にこの部屋に敵がいないことを確認した上で、3人は光るポールの前に立つ。俺はこいつの正体に見当がついているが、そこまでペラペラとしゃべるのもあまりよくない。
どうしたものかとポールを調べた振りをしながら考えていると、キャニーが立ち上がり、腕を組むのがわかった。
「お姉ちゃん?」
「これって……空間を渡るっていう希少な奴?」
俺は言葉に悩んでいた。なぜキャニーがそれを知っているのか? 他にも疑問は尽きないが、少なくともほぼ間違いなく、飛んだ先から帰ってくることができることは俺から明言して良い話ではない。未知にも近い希少なものを前にした冒険者、こうでなくては。
そこで……。
「そうだとして、どうする? 行ってみるか? 戻ってこれないかもしれないぞ?」
卑怯だと半ば自覚しながら、俺はそんな質問をキャニーに投げかけていた。俺自身はゲームの知識として、空間を渡った先が恐らくすぐ死ぬような場所じゃないことはわかっているが、2人はそんな経験はないわけで不安は大きいと思う。
「それがどうしたのよ。あの日、2人とも死んでたかもしれない、それを救ってくれたファクトを信じるわ。貴方がいくというのなら、大丈夫でしょう? それとも、自信が無いの?」
かといって俺が先に言って後に来てというのもリスクを考えると納得しにくいだろう。そう思っていたのだが、彼女の答えはあっさりとした肯定だった。
自信のあるなしではないとは思うのだが、こうも言われてはこちらが受け入れるのが筋ってもんだろう。
仕組みがだめになっていないことを祈りながら、3人で手を組んで柱に触れる。瞬間、俺の体を独特の浮遊感が包み込んだ。




