065.「掘って進んでまた掘って-1」
俺は彼女らと共に現場に立っていた。お手並み拝見とばかりにこちらを見る2人、その視線を背中に感じながらも洞窟の状況を確認する。
遺跡やダンジョンといえば何を思い浮かべるだろうか? 古代建築の塊のような廃墟? 禍々しいオーラを放つ古城? それとも……空に浮かぶ大陸? だが、目の前にあるのはどちらでもなかった。
「掘るしかないか……」
目の前には確かに洞窟だったであろう痕跡は見て取れるが、細かくなった瓦礫が土砂のようになり、その上へ草木が生い茂っている。かろうじて穴の上の方は大きな瓦礫が積み重なっているだけなので、ねずみぐらいなら通れそうだが、人は無理そうだ。俺では無理だし、同行している彼女たちでも無理だろう。
(さてと……?)
俺は目の前の問題への対処を考えながら、出発の時を思い出す。
フィルとの面談の後、とりあえずはとガイストールに帰還した俺。というのも、さっそくとばかりに調査を依頼されたのである。そのダンジョン(仮)の情報をキロンと相談した結果は、あちこちに行って来い、ということだった。
まだ見ぬ古代の武具だとか名品が手に入るかもしれないほうが、工房的にも役立つだろうという判断だ。時間がかかることも予想されるので、一度工房からは離脱、またお世話になる時はあるだろうと簡単な別れの挨拶だけをした。
そんなこんなで決まった最初の調査先へは、襲撃のあった街から東へと馬で急いで数日。とある山のふもとにその洞窟……ダンジョンはあったのだという。あった、というのはここ50年は情報がなく、過去にそれらしいものがあったというだけなのだから頼りない話だ。
周囲の環境に危険なものはなく、出没するモンスターも散発的な獣の類で、危険もあまりない。街道からも大きく離れているので訪れる人もおらず、冒険者としても何も旨みがない、あるいは誰かも目の前の状況にかつてのダンジョンが埋まった事を悟り、興味をなくしたのだろう。
今回もあくまで調査で、探索と攻略までは頼まれていない。これは俺の勝手な想像だが、恐らくはフィルもダンジョンとして意味がないことは情報としては掴んでいる。俺に、何かを期待しているのだろう。その何か、が読めないところが悩みだが。
「……で、こうなるのか。偶然とは恐ろしいな」
「? 何か問題でもあった?」
情報を集めるべく立ち寄った酒場、俺の視線の先で首をかしげる少女というべき女性。その体躯はぱっと見に反して鍛えられており、十分しなやかな動きを行ってくれることだろう。彼女の後ろにいる若干幼い感じの残る少女も、見た目にだまされては痛い目を見るだろう実力であることが俺にはわかる。
「いや、問題ないさ。よろしくな、キャニー」
差し出した右手をきょとんと見つめた後、笑顔で握り返す少女、キャニー。たまたまというべきか、それも運命なのか。偶然出会った彼女たちに身軽で潜入、脱出に向いてそうな冒険者ということで誘ってみると快諾された。妹を紹介してなかったわよね?というキャニーの誘導に従い、まずは食事だとばかりにテーブルに着く。そして、妙な縁となった姉妹との再会を俺は果たしたのだった。
彼女の妹の名はミリー、最近は食事もちゃんととれているのか、キャニーをそのまま1周り小さくしたような背格好だが痩せすぎという感じは受けない。
お金になるかどうかはかなり微妙だが、2人が言うには恩返しの1つだということだった。俺はそんなつもりはなかったのだが、ここで断るのも彼女らの心遣いを無駄にするようで良くないと思った。
「じゃ、行きましょか」
「お姉ちゃん以外とは初めてだから楽しみー」
武装している以外は普通の村娘とそう変わらない姿の姉妹をお供にして、馬を進める。道中は至って平和で、あっさりと現場であろう場所が見えて来た。
(何もなかったです、と帰るのもなんだし、頑張りますかね)
適当なところに馬を止め、念のために魔物避けとなりそうなアイテムを装備させて準備をする。ちなみに最初は1人で入る予定だ。1人の理由は、身軽であるということと、俺だけなら何かあっても生き残れるだろうと判断したからだ。
そして、今目の前には崩れた瓦礫に埋もれた穴がある。いきなり突入かというとそうでもない。まだ確認すべきことがある。
(まずは小高い丘のようになっているこの場所がどうなっているかを確かめねば)
「キャニー、ミリー。まずは周辺の確認をしたいと思う」
「わかったわ。確かに別の入り口があるかもしれないもんね」
「これだけぼろぼろだと崩れてそうだねえ」
俺は懐からロープを取り出し、近くの大き目の木に登るべく準備する。姉妹と共ども数分後、木の上に到着した俺の視線の先には目立った穴もない様子の丘。入り口の様子と比べると、何も問題が出ていないことが逆に怪しいかもしれない。
「仮にダンジョンだったとして、空気はどうしてるんだ?」
つぶやきは少し離れた場所を見てくれている2人は届かない。ここに限らず、入り口は1つだけという洞窟にはいつも疑問を覚える。確か現実世界での本などでは、奥に行くほどガスがたまっていたり、酸素の問題があるので生物が少なかったりすると読んだことがある。
小鳥はいないわけだから状態異常に注意しつつ、無理のない探索が必要になることだろう。一通り上から見た限りでは入り口は見当たらない。変な崩落や、怪しい場所が特にないのは良いことといえば良いことだ。
「掘るしか、ないか。2人とも、入り口をなんとかしよう!」
俺は覚悟を決め、2人を呼び寄せるべく声をかける。その間に素早く入り口の前に立つと鉱脈探知を実行する。反応の密度から、正面5メートルは瓦礫で埋まってるように見える。
合流を果たした姉妹の視線を感じながら、状況を何とかできそうなアイテムを探す。
(道を作るのは、これでいっか)
俺は色々と思い浮かべながら、アイテムボックスから叩き付けても問題なさそうな、ハンマーの類を1本取り出す。威力は普通だが、この類の武装はオブジェクトの破壊など、副次的な効果を持つことが多い。斧で木を切るようなものだ。今回はいきなり瓦礫を撤去するより、まずは砕くことにしたのだった。
念のため、手前のほうに零れ落ちている適当な石を相手にしようとそちらに目にしたところで、俺は首をかしげた。瓦礫かと思いきや、彫ったような跡を見たのだ。
「何かの……像?」
瓦礫の1つを手に取ると、どうもただの石というより人の手が入ったように思えたのだ。ふと入り口をふさいでいるように見える瓦礫を見渡すと、いくらかは明らかに異質なものが混ざっている。ぼろぼろなため、何がモチーフだったかはわからない。
「ただの洞窟ではなさそうね」
「ああ。一応奇襲されないように警戒を頼む」
研究者であれば瓦礫の中にあった像も取っておくべきなのだが、この瓦礫の山から像だったものだけを選ぶのはどう考えても無理だ。俺はあきらめて、改めて適当な瓦礫の1つにハンマーを振り下ろす。
「いける、な」
良い音と共に、瓦礫は投擲に手ごろそうな大きさへと砕け散った。その手ごたえに頷きつつ再度の崩落に注意しながら、俺は手前から次々と大きな石へとハンマーを繰り出した。ある程度めどがついたところでステータスを活かして丸ごとどかしたり、あるいはスキルで作り出した盾を、ザルのように使って周囲にかき出していく。
キャニーにはスキルは見せているし、言いふらすような2人でもないだろうから驚いているミリーの姿を楽しみつつどかしていく。冒険者と言ってもここで姉妹に手伝わせるのもなんだか違うような気がしたのだ。他のことをやってもらうとしよう。
「2人とも、余裕があったらがれきから像っぽいものがあったら適当にどかしておいてくれ」
「了解。まあ、わかるものだけだけどね」
「これは……動物さんかな」
まるでウィンドウショッピングでもするかのようにわいわいと騒ぐ2人の声を聞きながら作業を進め、時には大きさも巨大な瓦礫と格闘することしばし。どれだけの時間がたったのか、俺の前にはなんとかしゃがめば人が一人、通れそうな空間が出来上がった。日の光で見える範囲では斜め下に向かって、長さもそれなりにあるように見える。
「……妙な声はしない、と」
耳を澄ました俺は、特に変なことが起きないのを確認して1度そこから離れる。目の前には多数の瓦礫の細かいもの。このまま放っておくのもなんだかゴミをそのままにしてるようで気分が良くないところだ。
(さて?)
どう処理したものかと考えたとき、脳裏に1つのアイデアが浮かぶ。何かを作ろう、と。
スキルによる各種作成だが、当然失敗もある。素材も様々なものだし、何も良いものだけが出来るとは限らないのだ。なまくらが出来上がることだってあるし、その種類の役割をなさないこともある。その原因にはスキルレベルの不足が一番可能性が高いが、中には素材がそれに適さないからということもある。
俺は瓦礫の1部に歩み寄り、意識してそれを素材にして無理やりミニチュアサイズの石の鎧を作ろうとスキルを実行する。 作ろうとするもの自体はちゃんとしたものだが、素材としたものが瓦礫であったためか、一瞬鎧のように形が出来上がったかと思うと、数秒後、崩壊した。だが、崩壊した場所は瓦礫のあった場所ではない。あくまで、俺の手元に近いところである。
実験の結果、瓦礫に次々とスキルを実行すれば移動が楽だろうことが推測できた。だが、今は行わない。2人もいるし、ダンジョンの中がどうなっているかわからない以上、下手に入り口を広げて中からよくわからないものが出てきても困る。
「出来れば腐った何かとかいませんように……」
祈りが何かに通じる事を願って、俺は空間に身を躍らせた。意外と、崩落しかかっていた入り口を除けば中はしっかりとしていた。あるいは入り口は意図的に封鎖されていたのかもしれない。
「見える範囲に異常は無しっと」
取り出したショートソードの先に魔法の明りを固定し、左手でたいまつを掲げるようにして俺は入ってすぐの空間を眺めていた。明らかに人の手が入ったように見える石畳。そして柱や天井。神殿、ではないが何かの地下空間なのは間違いない。風化したのか、あちこちがぼろぼろだが……。
「こりゃ大規模な戦闘や魔法は禁止だな……。2人を取りあえず呼ぶか」
入り口に向けて2人を呼ぶ声を上げた後、続けて中を観察する。少なくともこの中でファイヤーボールをぶちかます!などということはやめたほうがよさそうだ。所々に、元々の明りを沿えたのであろう部分が見つかったので、ショートソードをそこに置き、2人を待ってから探索を開始する。
「何か色が違う物、変だなと思ったら聞いてくれ」
「ファクトは物知りっぽいわよね。そんなおじさんに見えないのに」
「もう、お姉ちゃんったら」
確かに姉妹からすると俺はおじさんかもしれないな、等と少しばかりショックを受けつつ、3人で探索を開始する。やはりただ土を掘っただけではなさそうだ。高さ、広さ、素材や年代などがわかる範囲でも想定外の物ばかりだ。
(覚えはあるんだけどな、この空気。なんだったかな?)
入り口からすぐの空間の高さは人が5人はそのまま縦に出来そうな高さ。広さはヘリポート3つ分、といったところか。外から見てわからなかったことで一番驚いたのはこれだ。周辺はほとんど荒れていない。入り口はなんだったのかという様子で、むしろ良好といって良い。
この綺麗さを考えるとダンジョン全体に何か魔法がかかっているのかもしれない。俺は思い立ち、右手に適当にシルバーソードを持つと地面へと突き刺そうとした。が、妙な手ごたえが返ってきた。具体的には、いつもの地面であれば泥に手をつっこむぐらいある程度簡単に入っていくのだが、今回は砂利に無理やり押し込むような感覚。かなりの抵抗がある。
これは地質が、というような次元ではない。外はともかく、中は何かしらの原因があって状態が良好なようだ。
「2人とも、この洞窟……いや、このダンジョンはまだ生きているかもしれない」
いつ何が飛び出てくるかわからない、そう思いなおして探索を進めることにした。




