058.「戦いの狼煙-4」
やること、目指すべき未来が定まると時間は思ったよりも早く過ぎ去るものである。それはこの異世界でも変わらない。翁の幻……と遭遇してから三日。俺は他から見ると異常な速度で武器を作り上げていた。特に特徴のない長剣、槍、片手斧等だ。乱戦が予想される中、武器が駄目になるであるとかを考えると容易に交換しやすい物の方が良いだろうと考えた結果だ。
(こんなこともあろうかと思って作ってあった、と誤魔化してくれるキロンには感謝しないとな)
武器が錆びたりしないようにと普段から適切な手入れをしている彼らの言うことだからこそ、説得力を持ったと言えるだろう。キロンたちも最初は俺と同じことを考えていたようで、その分を俺がカバーできるとわかると作業は既に各人が持っている武具の打ち直しや改良へと、全体的にシフトしていっている。
こうなってくると見習いたちにも仕事はいくらでもある状態だった。というのも修理などだけなら現地の施設でやったほうがいいだろうという判断で、人員もある程度移動するようだったからだ。俺はそれらの先行する人員についていきながら、出来上がった分を運び込むという依頼を受けることになった。
モンスターからの襲撃が予告された街へは馬車での移動となった。荷物を積み込んだ馬車以外にも何台も連なった状態だ。この状態だとそうそうモンスターにも襲われない。返り討ちにあいそうな状態だと相手にもわかるんだろう。
何日かの旅路の末、目指す街が見えてくる。ガイストールよりは小さいが、外には木材で組まれた柵等が点在している。ここが、やはり騒動の中心になるのだ。
「あの街か……もう大丈夫だろうか?」
「今度は軍まで出てきてるみたいだしな。まあ、直接使者がやってくるかも……しれないな。魔物にそんな考えがあればだが」
何が、とは言わずに俺は同じ馬車に乗っているジェームズらに話を振る。覚悟が決まっているのか、若い2人も雰囲気が少し違うし、ジェームズも含めてなんとなく感じるものが違う。恐らくは別件で、レベルが少し上がったのではないだろうか? それでも答える様子はやや投げやりで、彼らしいなと思えた。
「クリスさんはちゃんと教会が認めたみたいなお触れを出してるって言うし、多分大丈夫なんじゃないですか?」
馬車の中、入り口に近い部分に座って長めの髪の毛をブラシのようなもので手入れしていたコーラルの声に振り返り、うなずく。そう、先日の依頼を終えた後、クリスはガイストールから各所へとこんなことがあったよ、という流れで俺のことを通達してくれたのだった。
協会公認の奇跡を行使した幸運な信徒として。
(うまく引っ込んでくれればいいが……ならばこそ、とくるかもしれないな)
「そうだな……」
俺は人の限りない欲求に少々の不安を覚えながらも、近くに迫った事態に対処すべく、意識を切り替えることにした。人が持ち歩くには色々と限度がある。武具となればそれが顕著だ。対策としては例えば、時間制限がつく手法、その場での各種作成はどうだろうか? そのうち消えてしまうので、理由の追求はあっても、戦争への利用、ということは難しいのではないだろうか? ちょっと強引だが、魔法の1つのように扱えないだろうか?
鍛冶魔法、なんていうのは少々ナンセンスではあるのだが。
ふと、俺は視線を景色に戻す。今のところモンスターの襲撃もなく、今のところは平和そのものだ。俺は次に、今度戦うであろう敵に考えを移していた。
――オーク
丸みを帯びた太った中にも、筋肉質な手足が垣間見れる相手。ファンタジーな作品以外でも、アダルトな題材ではよく使われる醜悪な姿だ。MDにおいてはHPは高いが、特定の攻撃には弱く、狙う場所さえ間違えなければ効率よくダメージを与えられる相手だ。
反面、リーチの短い武装であったりすると苦労する相手である。ある程度の知能を持ち、中には簡易な武具を作る存在もいるというのがMDでの設定だったが、詳細はわからない。少なくとも、しゃべることはできなくても、人語を理解することができる、というのははっきりしていた。
(だからといって予告を出すような頭があるとは思えない。意味がないからな)
獣扱いすれば痛い目を見ることは間違いない相手であり、戦闘となれば、力と少々の技を組み合わせた、侮れない相手となる。が、所詮は奪うだけの存在だ。集落のような物を作ることはあってもそれはただ集まっているだけに過ぎない。
「オークか、数がいると厄介だな」
「俺、オークはちょっと苦手なんだよなぁ。なんかいい手段無い?」
「坊主、よっぽどのことがない限りは自分の得手で勝負するもんだ。避けるのはともかく、切りかかるときのコツなんてものはな」
あれこれと話していた俺たちに横から割り込んできたのは見覚えのない男だった。見た目は山賊の頭、と言ったほうが正しそうな、実用性重視の身の回り。使い込まれた皮鎧に、棍棒、そして槍。槍だけはすべてが金属製で、鈍い輝きを放っている。一般的には木製の柄である槍の中、目をひきつける。
本人の肌は日焼けし、赤黒いが髪の毛はかなり短い。角刈りといえばいいだろうか?
「アンタ、見たことあるな。どこかの傭兵団にいなかったか?」
「いたさ。冒険者なんてそんなもんだ」
探るようなジェームズの視線と問いかけにあっさりと男は応えた。どうやらジェームズは見覚えがあるようで、普段はしない顔つき、何かを探るような冷たい目で男を見ていた。続けて男がしゃべった名前に、勿論俺は聞き覚えはなかったが、ジェームズにとっては十分な答えだったようでその体の緊張が少しとける。
「悪い。古巣だったら面倒だなって思ったんでね。むしろ、俺が好きな面々だったぜ」
「あ、じゃあジェームズが時々言ってたあの人たちなの?」
話に食いついてきたのはコーラル。少し意外だった。俺も姿勢を変え、いわゆる聞くモードだ。この世界では冒険者が傭兵と同じようなことをしている……と思っていたが若干違うようだ。確かにどちらかというと少人数の冒険者と違い、話を聞く限りではもっと大きな集団で過ごすようだ。
「ああ、そうだ。ほら、モンスターが溜め込んだ財宝をどうするかでもめた相手って話したろ?」
「もめた? そういやあん時に兄さんみたいな目をした若いのがいたっけなあ」
男の側も思い出したようで、なにやらうんうんとうなずいている。曰く、近隣の村々を襲ったモンスターを退治する依頼が、それぞれ別ルートでいくつかの傭兵団にあったときのことだという。その数3組。
情報の動きにも時間差があるであろう状況ではちょっとした依頼でも起こりうる状況だ。それが集団前提の傭兵たちへの依頼となれば対象者も結構な人数であろう。まとまりの違う別集団同士での依頼には困難もあったが、とりあえずモンスター退治そのものは無事に終えたそうだ。
ただ、予想外の出来事として、光るもの、つまるところは宝石や金目のもの等を溜め込む性質があった相手だったということだった。ジェームズが昔所属していた傭兵団側は、振って沸いたようなボーナスだ、と山分けを提案したが、男の所属する側は、まず報告の上でいくらかを分けてもらうべきだと提案した。
どちらも当然といえば当然で、既に奪われ、なかったはずのものなのだからもらっても問題ないという考え方もあるし、人為的な面からも報酬として交渉すべきだという考え方もある。
話し合いは紛糾し、危うく同士討ちか?というところで、3組目の集団は男の所属側を支持し、人数でも劣勢となったジェームズの所属する側は折れたらしい。
「俺も下っ端だったからな。何も言い出せなかったんだが、相手の先頭に立って叫んでるアンタの姿はよく覚えてるぜ。できることなら賛同したかったんだが」
「昔のことだ。それに、集団の中にいるっていうのはそんなもんだ。俺の名前はキール。よろしくな」
照れたようにひらひらと手を振りながらニカっと笑う笑顔は、独特の凄みがあった。笑うとは本来……なんていうからな、自然とにじみ出てるのかもしれない。現にコーラルは微妙におびえているし、クレイも緊張している。
「おいおい、本当にあの発言の主か? すごい迫力だな」
「……おお、またやっちまったぜ。酒場の姉ちゃんも引くんだよな。うん」
ジェームズの指摘に、自覚はあったのか慌てたように自分の顔をぺたぺたと撫で回すキール。少し、お茶目なようだ。その後は簡単な自己紹介となり、俺も名乗りを上げる。
「おお、アンタがあの? 聞いてるぜ。今度も期待してるからな」
「こればっかりはな。奇跡頼りってのも危なっかしい話さ。それより、その槍、見せてもらってもいいか? 気になるんだが」
どうやら俺の噂は聞いているようで、期待に満ちた目で見られてしまった。俺は話を途中でそらすべく、気になっていたことを聞いてみることにした。金属槍はコスト的にも修理すると考えてもなかなか出回っていないのだ。
「おう。わかるか? 俺の相棒さ。少しだけだぞ」
「っと、良い重さだな」
慣れた手つきで手渡された槍を持つと、予想外の重量に一瞬声を出す。この重すぎず軽すぎず、振り回した時に良い勢いが乗りそうな重さだ。よく手入れされ、十分強さを感じる。
(こいつは……いい物だ。ん?)
俺は槍の秘密の1つにそのとき、気がついた。この世界の人々では具体的な数値はわからないだろうが、体の頑丈さをあらわすステータスであるVITに相当するステータスがそれなりに上昇している。
俺が今まで戦ってきたような、レベル差のある状況ならばよくわからないだろうが、同格、あるいは普通の人々であればかなりの効果が目に見えてわかる。
フライパンで頭を殴られても手のひらで全力でたたかれた程度になる……はずだ。まあ、痛いものは痛いのだが。
「ありがとう。いいものだな」
「おう。俺の父親が、母親に殴られてでも手に入れたっつーモンでよ。古物だが、かなり高かったらしいぜ?」
俺が返した槍を持ちながら誇らしそうな声。確かにこの性能なら稼ぎのいい冒険者でもそうそうは手が出せない金額になっていそうだ。その後も何かしらの話をしているうち、戦いの場となるであろう近づいてくる。
「なんだか、ピリピリしてます」
「ジェームズ、なんだろう?」
「そんだけやばいってことだ。よし、準備するぞ」
若い二人が何かを感じたのか、馬車から顔を出し、街のほうを向いている。そんな2人をたしなめる様なジェームズの実感のこもった声と共に、俺たちは街へと入った。
街に入ると、どうも予想していたものとは違う熱気に包まれている。さあ準備だ!というより、既に始まっているような気配だ。その割には外には見回り以外は見当たらなかった気がするが……。
「なあ、予告まではまだ結構あったんじゃないのか?」
「何を!って、外から来たやつらか?」
「ああ、そうだ。どうにも騒がしいじゃないか」
近くにいた荷台を運ぶ人を捕まえ、声をかけると怒った様子の彼は、馬車と俺たちを見て納得したようにその声を戻す。あちこちを行き来してるのか、汗だくである。俺は話を聞く代わりにと適当に水筒を取り出し手渡した。
「ありがとうよ。ああ……どうも、襲撃に刺激されてか周囲のモンスターたちの動きがなんだかんだであるらしい。散発的に騒ぎがあるんだ。おかげで時間のあるうちに済ませないとって忙しくてな。っと、行かなきゃ!」
詳しいことは酒場やお仲間にでも聞いてくれ、と言い残して彼は去っていった。そう言われてから見て見ると、確かに周囲の動きもやや急ぎというか……どうも雰囲気が荒々しいな。
宿を取りに行くというジェームズらと別れ、俺は一緒にいる職人見習いたちと一緒にこの街の工房に向かうことにした。




