056.「戦いの狼煙-2」
騒ぎが起きてからはや一週間。俺はいくつもの依頼を手早くこなし、今も20本の槍をジガン鉱石を使って作成していた。しかし、出来上がったばかりの槍達を前に俺は沈黙していた。別に失敗したわけではない。
その穂先は鋭く、素材の性能を可能な限り引き出していると自負できる。ほのかに光を帯び、攻撃の際には少し普段よりダメージが多かったり、壊れにくかったりと、さまざまに少しお得な結果を出してくれることだろう。
だが……何かが足りない。具体的にどうというわけではないのだが、もう少し、踏み込んだ結果を出せそうな手ごたえばかりだ。最高位の特殊効果がつけられそう、というわけでもない。もとより、素材によってはその付与できる特殊効果には限界がある。そこらにあふれる鉄素材で麻痺攻撃の強力な物は付与できない、といった具合だ。
正体のはっきりしないもやもやした感触に首をひねっていると、横から槍を手に取る人影、キロンだ。
「良い具合じゃないか。どうした、難しい顔をして」
俺は問われるまま、胸にわだかまるその感触をそのまま口に出す。一通り聞き終えたキロンは、ひとつうなずく。喉のつっかえが取れた時のようなすっきりした顔だった。
「聞いたことがある。俺の爺さんもそうだったんだがな。同じ素材からは同じものしか作れない。当たり前のことだ。そのままでは鉄が銀になるわけでもない、それは間違いない。だが……」
(? 確かあっちには……)
そこで言葉を切り、視線をとある方向へ向けるキロン。その方向には例の倉庫がある。俺の脳裏には、衝撃の名前が刻まれた壊れた武器を含んだ過去の名品たちが思い浮かんだ。
「うむ。あの中には、明らかに既存の素材であることは間違いないのに、どうしてもありえない強度や、性能だったらしいものもある」
一度見てくるといいと言い、例の剣の入った箱の鍵も貸してくれた。
小さな音を立てて扉が開く。中は以前訪れたときと同じく、どこか冷たく、それでいて張り詰めた空気が漂っている。まずは壁に立てかけられた武具達に手を触れていく。わずかな感触とともに、精霊と思われる光が俺の手と、武具の間を行き交うのが見えた。感じるのは作り手の感情か……持っていた人の意思か……。
時折破損しているものもあったが、そのほとんどは無事だった。そして、半数ほどは素材には見覚えのある名前が記載されている。そして、性能を見ると……。
「ほとんどがプラス品……ひとつランクが違うということか」
名前の後ろに、単純で、見方によっては微妙に思えるが+1とついている。プラスの補正が付くと基本性能、要は切れ味だとか頑丈さとかが変わっていく。極めると序盤に手に入るような鉄の剣でも相当な業物になるという。結果、ここにあるものは一番わかりやすい、今もよく使われている素材を使った斧ですら、その性能は別の高位素材を使ったものに匹敵している。
同じ素材の武器とぶつかれば、幾度かぶつけ合ううちに、相手の武器を容易に砕いてしまうことだろう。
「誰か1人に強力な武具を分け与える……ただそうしたのでは国に飲まれるだろうな。強者を囲い、自国の発展と守りに使いたいと思うのはごく自然なことだ」
一人、つぶやきが部屋に響く。考え事をしていると独り言が多くなるのはこの世界でも同じようだ。スキルを全力で使えば今回の防衛に必要な武具を作ることは事実上、不可能ではない。適当に作ったとしても大体の人間が手にしている物より高品質になることだろう。
ただそれは、ドワーフに学んだような精霊の加護の少ない脆さを含んだ物になる。ただ使うのならばありかもしれないが、命を賭けて戦うための相棒としては問題が多く残るだろう。戦場で砕け散りました、では目も当てられない。
「見極めるしかないのか……でもどうやって……俺で、いいのか?」
俺は神さまじゃあ、無い。だから俺から見てその人が英雄になれるかなんてのは主観でしかない。そんな考えで、人生を変えてしまうような武具を与えるようなことをしていいのだろうか? 今さらながらそんな思いが沸いてくる。
(それにしても、どうやって作ったんだろうなこれ……)
見れば見るほど、古老の庵が作ったとされるこの武器の正体が気になる。ゲームには無かったアイテムで、レシピだってわからない。
性能の詳細はわかっても、そうなった理由や、その工程等は当然、わかるわけではない。それでも何かのヒントになればと、キロンは促してくれたのだろう。キロンの心遣いに感謝しつつ、俺は悩む。このもどかしさはなんなのか、何を自分は気にしているのか。と、俺は何かに導かれるように、ふらふらと古老の庵の名前が刻まれた剣の入った箱を開けた。
光を受けた壊れた剣は、残った刃の部分にその光を反射し、強さのある輝きを放っている。ゆっくりと手に取ると、その重さ、強さに改めてまじまじと視線を向けることになった。なぜか、所有者はフリーになっていなかった。
通常、どの武器でも手に持っているか、身に帯びていれば所有者となり、地面に転がっていたり、仕舞われている時には所有者なしとなっている。それゆえに俺は戦場跡に転がっている武具を素材、フィールドに還元することもできるし、武器をそうすることで相手の脅威を減らすこともできた。
だが、目の前の剣は俺以外の誰かを所有者としたままだ。所有者の名前は文字化けしており、不明の状態だ。それでも、俺は誰かこの武器を最後に託された人物の名前だと直感していた。
武器が意思を持つ、ということは実際にはありえないだろうが、それらしきものには心当たりがある。MD時代にも、詳細には公式の発表は無いが、ゲーム中のNPCの発言にいくつか、そういったことに対する言葉がある。
曰く、伝説級ともなれば使い手を選ぶ。
曰く、幾度も修理し、幾度も共に戦い、使い続ければ恩義を感じる。
曰く、無念にも倒れたもの、強い思いで願ったものには使い手の願いが強く残る。
実際に、使用回数が一定数を超えるとボーナスがつくというシステムも数値としては明示されていなかったが、あるらしいという話も聞いたことがある。
「お前も、そんな中の1つか?」
返答があるはずも無く、手の中の剣は沈黙を持って答えるだけだった。俺は何をしようとしているのか? 何のために武器を作り、生きるのか。古老の庵の名前に、MD時代に交わした言葉を思い出しながら、その頃に思いをはせる。手元の刃がわずかに脈動し、光ったと気が付いたときには俺の意識は途切れていた。




