051.「暗闇よりの叫び-8」
広間でのジェームズとの合流は、落胆の報告から始まった。動いているのは味方ばかり。全員殺してしまったのかと思いきや、動けなくした奴らはどうやら自決してしまったらしい。それだけの覚悟をさせるだけの背後があるということになるのか……。
「あの偉そうなやつには逃げられちまったよ。どうやら顔出しだけだったみたいだ」
「あいつらしいよ。いつも厄介そうな話のときにも、あいつだけ戻ってきてた」
事情を知っている様子のキャニーの話す内容に、一瞬周囲が色めき立つ。だが、彼女が人を背負っていることから、敵ではないと判断したらしい。まあ、見た目が少女のような姿というのが男だらけの連中から警戒心を奪ったのかもしれないがな。まったく、俺もそうだが男ってやつはさ……。
「なるほどな。ファクト、その子は協力者か?」
「そうなるかな」
ジェームズもなんとなく、わかってくれているようで、話をうまく誘導してくれる。キャニーからの反論が上がる前に、話が固まっていくのであった。ここでキャニーと、彼女が背負っている妹であろう子のことを追及されても困ってしまうのだ。と言っても薄々みんな気が付いてるだろうな。
廃屋を探索した結果、予備の武器や生活用の物資のほか、各所での偽造された身分証明などが見つかったそうだ。残念ながら直接の手紙などは出てこず、黒幕の正体は不明なままだ。ただ、その内容、規模から相応のバックが無ければ無理だということになり、依頼としては完了だが、恐らくは別途に何かしらの依頼が出てくるだろうということだった。
確かに、町外れとはいえこんな身近に、そんな行動をしている集団がいるとなれば街としては楽観視できない状況である。キャニーにさりげなく聞いてみるが、先に語った以上のことは知らず、某国、というのも具体的な国名まではわからないらしい。
「きな臭い国っていうと、結構限られるからな。十分じゃないか? この国も他の国も大国は安定してるからな」
ジェームズのそんな台詞の後、探索が終わったようでぞろぞろと冒険者たちも集まってくる。そちらも同じような収穫だったようで外に出て解散となる。
「俺は2人を宿まで送ってくことにするが、問題無いか?」
「ファクトは別に依頼を受けたわけじゃないんだろう? なら、後からどこからか呼ばれるかもしれないが、大丈夫じゃないか?」
さすがのジェームズも、楽しんで来いよ等と言ってくることはなかった。2人とも元気だったらあるかもしれないけどな……そういえばキャニーとはそういう流れでこうなったんだったな。
「さて。どこに泊まる?」
人通りが戻ってきたあたりで、俺は後ろのキャニーに声をかける。なお、そのままだと目立ちそうな妹には適当に外套をかぶせてある。ほとんど同じ体格の子を背負ってるとなれば早めに休ませる方が良いだろう。
「できれば目立つとこの方が良いわね。この場合、後ろめたいからって裏通りとかに宿を取るのはまずいわ」
俺は頷き、できるだけ表通りに面した、普通そうな宿を選ぶことにする。飲み屋も併設されている大きな宿だ。踊るドラゴン……どこかで聞いたようなと思えば、この前ジェームズたちが依頼を受けた店の隣だ。宿屋もやってるんだなっていうか連れ込み系か?
まあ、賑わってるし男1人女2人でも怪しまれないという点ではいいかもしれないな。
「あの宿にしよう。払いは、適当にやっておくさ」
陽気そうな親父がカウンターで待機していたので、部屋を1つと頼むと、親父はなぜか俺とキャニー達を見、にやにやしながら料金と部屋番号を提示してきた。相場はよく知らないが、少し高い気もした。
だが繁華街となればそんなものかと思い、ついでにお湯も頼んでおいた。と、キャニーが何か声を上げようとしたようだが、結局は押し黙るのがわかった。
部屋に入ればベッドは1つ。大人3人で寝ても余裕、つまりはそういうことをしていても余裕、ということだ。道理で親父の態度がそういう奴だったわけである。
「……するの?」
「そんな気分じゃないだろ。かといって別の部屋とかも心配だろう」
キャニーも言い合ってる場合ではないと納得してくれたようで、背中の妹をそっとベッドに寝かす。静かに寝息を立てている様子から、大きな問題は起きていないようだった。キャニーに断りを入れてから、手持ちのポーションを適当に1本取り出し、妹の小さな口にそっと垂らした。コクンと鳴る喉、その効果はすぐに表れる。
「んっ……あれ……ここ、どこ」
「ああ……おねえちゃんよ? わかる?」
俺は壁にもたれかかりながら、姉妹の語り合いを眺める。聞こえてくる声はやはり、戦闘中の姿からは予想もつかない声だ。この世界にあれだけ人を洗脳する技術、もしくは魔法的なものがあるということに俺は内心恐怖し、見つけ次第なくして行こうと考えていた。善悪というより、単純に自分が好きかどうかになるのだろう。
「寝たのか?」
「ええ、ぼんやりと何かしてたというのは覚えてるみたいね」
俺が取り出したポーションを少し目を見開きつつもキャニーは遠慮なく飲んでいく。効果は薄いがVR環境下でも人気のあった爽やかなジュース系のポーションだ。こういう状況で気持ちを切り替えるにはちょうどいい。
「色々と、ありがとう。貴方をどうにかしようとした相手なのに、物好きね」
「世の中、こんなこともあるもんだ。楽しむ前だったのは残念だったけどな」
少し落ち込んだ様子のキャニーをからかうように、俺はわざとおどけてみせる。小さなランプが1つ、部屋を照らし、油らしきそれが燃える音が小さく聞こえる。落ち着いてみれば、キャニーも別に貧相という訳じゃない。背丈やらを考えればそういうパターンもありだなと思える相手だ。
「な、何よっ。確かに今は返せるものは無いけど、それで返せって言うわけ?」
どこをどう勘違いしたのか、キャニーは急に赤くなったかと思うと、俺と妹の間に割って入りつつ、自分の体を抱きかかえるような姿勢をとる。見ようによっては体を隠しているような……ああ。
「そうだなあ。誘った時みたいな感じでやってくれよ」
「っ!! ここじゃ……無理よ」
できるだけ顔に出さないようにしながら、俺はさらにからかってみる。ちらりと後ろを見て、ささやくように言ったキャニーの口調に、俺はこじれてもまずいなと思い、ネタばらしをすることにした。
「何、冗談だ。たいした出費でもないし、怪我もしてないしな」
「~~っっ!!」
真っ赤になって、唐突に音も無く飛び掛ってきたキャニーの攻撃?をあわてて受け止め、それぞれの手をふさぐような形になった。目の前にある彼女の顔は少しの涙と、怒っている感じであった。からかいが過ぎたなと反省する俺。
「本気になって、損したわっ!」
「静かにしないと、起きるぞ」
小さく、それでも抑え切れていないキャニーの声に、俺はぎりぎりと押し切られそうなキャニーの腕力に愕然としながらなんとか喋る。
「誰のせいだとっ! もうっ」
ふっと力が緩み、キャニーのほうに体が動く俺の頬にやわらかい感触。俺だって何も知らない子供ではない。不意打ちには驚いたが、慌てることはなくその報酬を受け取った。
「それじゃ利子ぐらいだろうけど、感謝は本当だから、そのぐらいはね」
「そうか。元本の返却はいつぐらいになりそうだ?」
「私も何もできないわけじゃないから。この街で堂々と冒険者でもやるわ。この子が目を覚ましたら、動けるのか聞いて、一人でやるのか、一緒にやるのか決めるつもりよ。それで返すわ」
目立つ場所にいれば、相手が戻ってきてもなかなか手が出しにくいでしょう、とはキャニーの弁。変にこそこそ隠れるよりは安全そうである。あの偉そうなやつもどこかに行った以上は、またこの街にというとこもないだろう。
「そうか。俺はいつまでいるかはわからないが、何かあったら言ってくれ。それと……出来れば俺の戦闘に関しては黙っていてほしい」
「そうね。気にはなるれけど、助けてくれたんだもの、そのぐらいは当然よね。妹がそばに戻ってきた。それで十分よ」
「なるほどな。じゃあ、俺は戻るよ。ああ、これよかったら」
俺は去り際、キャニーと男が食らったマジックアイテムになるだろう閃光を発するアイテムを1つ手渡し、宿を出る。それで痛い目を見たのを思い出したのか背中に微妙なキャニーの視線が刺さった気がしたが、気のせいに違いない。
数日後、廃屋の集団は詳細不明の荒くれ集団だったということにされ、裏の詳細は不明なままで依頼は表向きには完了となったことを聞かされる。こちら側の推測どおり、街の代表者達も候補が候補なだけにあまり表沙汰にはしないほうがいいと思ったようだった。
その代わり、現地で依頼を受けていたジェームズを含む面々には、以後何かしらの情報を得た際には報告を行う追加依頼が発生したようだった。
また、元気になった様子のキャニーと、その妹が商隊の護衛の際に、奇襲しようとした盗賊を事前に撃退したりといった、いくつかの話を聞く機会もあり、ガイストールの町外れで起きた事件は一応の解決を見たというところだろう。
世界は広く、今もどこかで何かしらの火種は生まれていることは噂などで感じているものの、俺自身の手の届く範囲には無く、もどかしさと、やれるはずのことを隠している罪悪感にも似た何かが胸中を渦巻く以外、おおむね、平和なのは間違いなかった。




