044.「暗闇よりの叫び-1」
「暗いな」
「ああ……これは暗い」
まだ始まったばかりだというのに疲れた気分の2人の声がむなしく響く。幸いにも、反響していくようなことはなかったようだがこの先は喋るのにも気を付けないといけないのだろうか。
今、俺とジェームズらの4人がいるのは地下水路のとある入り口。ある種冒険するお話ではおなじみの地下である。ミストからの依頼もその例にもれず、地下で行方不明者がいるという話で、その中には信者もいたということだ。
「これ、誰も管理してないのかな?」
「そう頻繁に出入りしてる様子はありませんね」
若い2人が見てくれた通り、街の開発対象から漏れたのかどこか古さというか、放置された感じを受ける周辺の光景。足元も埃と汚れが積み重なって足跡1つ無い。そんなところも、突入に躊躇させるがそういうわけにもいかないな。
再度の確認を行い、ぽっかりと開いた穴からジェームズを先頭に突入を始める。俺は一番後ろで警戒をしながらも、話の発端を思い出していた。
「行方不明者の探索?」
ミストから語られたのは、信者兼冒険者である男性を探して欲しいという依頼だった。歴史あるこの街だが、それに伴い、歪な区画や施設が各所に点在するそうだ。地下水路もその1つ。街のあちこちに入り口があり、普段使用されるルートはともかく、増設や封鎖が繰り返されていて全容ははっきりしないようである。
結果として、今は場所もわからなくなった過去の建造物や倉庫のようなものへの通路もあるらしい。随分と悪党には優しい環境だ。ちなみにそんな中に、教会に関する建造物もあるらしいこともわかっている。
「そうだ。教会からの依頼で、1人で探索を行っていた冒険者がいる。過去、住民の小競り合い程度のことしか起きていなかったからな。特に問題はないと判断されたのだ」
ところが、戻る期日になっても帰ってこないのだという。精々、灯りに困る程度だと思っていた側からすれば慌てるわけだ……。事故でも起きたのか、誰かに何かをされたのか。
「冒険者の特徴は?」
「少し背が低い、中年男性だな。装備は……依頼を受けた時には手斧を持っていたな。防具は皮鎧などだった」
(地下に降りたらアンデッド軍団がいました、なんてことは多分ないだろうな)
そのほか、特徴になりそうなことを確認し、頭の中でぐるぐるとめぐらす。何かしらイレギュラーなモンスターか、犯罪者がいたか、といったところだろう。足を滑らせて水に落ちた、という線は薄そうに感じた。
「わかった。連れ戻せばいいんだな?」
「無事なら、そういうことで頼む。ああ、見つからなくても戻ってきてくれればいい」
何かあって報告もせずにどこかにいってしまった可能性も考慮したのか、ミストはそういい、依頼料としてかそれなりの重さを感じる布袋をテーブルに置く。確かにそういう可能性も……あるわけだ。むしろただの事故とは思っていないように感じる。
(予知めいたものが……? 考え過ぎか)
「一般的な探索依頼の相場にしたがって用意した。たまたま彼らに先に会ったので、話だけは通してある」
「彼ら? っと、来てたのか」
裏口から手を振っているのはジェームズら3人。どうやら俺達を4人でセットとして認識していたからか、俺を呼びに来たというのが正しい訪問理由のようだ。俺は今、キロンの工房にお世話になっているが弟子入りで泊まり込むというわけでもない。事情を説明すると、快く頷いてくれた。
(教会もいい商売先なんだろうな……)
そんなことを思いながら、最初の角を曲がる。魔法の灯りはあるが暗めで、少し先までしか見えない。一応は何かいた時に刺激過ぎないようにという配慮だが……どうだろうな、今のところマップには赤い光点はいない。だが、これも万能ではない。本当は俺が遭遇するか、視界に収めたモンスターの動きを見るための物なのだから。
「さてと……どうも嫌な予感がするな」
「まあな。油断はするつもりはないが……こうも暗い上に匂いがあるとな」
前と後ろで若い2人を挟んでるので自然と俺たちの会話は聞こえるわけだが、曲がりなりにも2人も冒険者だ。危険は承知の上だろうし、俺の言葉もただの確認でしかない。
「魔法の灯り、増やしませんか? 4人なら襲われても何とかなると思いますけど、奇襲は防ぎたいです。それに足元が少し……」
「どぼん、はやだよな」
いつ言い出そうかと思っていたが、ちゃんと提案されたので頷いて灯りを増やす。増やしても、明るいとまでは行かないのがこういう場所の厄介なところだ。灯りに照らされ、どこまでも続きそうな暗闇がぼんやりと輪郭をまとっていく。
どうしてかはわからないが、こうなってくるとホラー映画やら、ゲームでの地下水路でのイベントなどを思い出してしまうのは人間らしいということになるのだろうか? 足元にたまにいる良くわからない虫を避けながら進むと、カツンカツンと、4人の足音がバラバラに地下に響く。今のところは、モンスターも行方不明者もいない。
「臭いが、きついですね」
「余り整備もされてないみたいだな。少し横に行くと壊れたままだぜ」
「何かいたほうがすっきりするけど、いないほうがいいよね」
吐き気を催すほどではないが気になるほどには異臭が漂っている。さすがに口元を押さえるコーラルの姿は冒険者としては駄目なのかもしれないが、致し方ないなと思う。クレイと2人してジェームズが覗き込んだ横道は通れないようだ。
(こういう場所では意味があるかはわからないが……)
俺はふと気になり、マテリアルサーチを実行する。鉱脈なんかを見つけるための物だが建造物の素材にも反応する。思ったとおりであれば、素材の違いから道が浮かび上がるようになるはずだ。背後で展開されたスキルに、コーラルが背中で反応したようだが黙っている。先日の事件で少し成長した彼女のことだ。周囲の精霊が一斉に反応したことに気がついているのだろう。
俺の持っているスキルは……近いうちに、上手く3人には説明するべきなのかもしれない。自分が、この世界では過去の物となったスキルたちを使えるということを。
ともあれ、実行されたスキルから周囲の精霊たちの反応を探る。空気中にも精霊がいないわけではないが、土であったり何かの塊であったり、そういったものと比べれば明らかに数は少ない。自然と、地図のように反応が出てくるのだ。マップ表示が面倒だった時にマップ代わりに使ったこともある。
(確かにあちこち崩れてるな)
反応を見る限り、縦横無尽という言い方が正しい形であちこちに水路は伸び、いたるところで途切れている。精霊の反応が強い部分は崩落したか、埋め立てられてしまったのか、とにかく通れないと思うべきだろう。どう汚れているかわからない水に落ちないよう、痛んだ通路を4人は進む。




