039.「先に見える物-1」
地上に戻ると、地下とは違う静けさが耳に届く。どうやらクリスたちは言付けなどを残さずに地下に来たようで、他の人が気が付いてる様子はない。あのまま大事があったらどうするつもりだったのか……まあ、俺が気にすることでもないか。
「コーラル、大丈夫か? まず部屋で休もう」
「はい……すいません……」
緊張が解け、力を使ったことも影響しているのかだいぶふらついている彼女を支え、与えられた部屋へと戻る。ベッドに行けばそのまま寝てしまいそうだが、休める場所についたことで元気が戻ってきたのか俺が差し出したポーションを水代わりに飲むと、運動直後のようにぼんやりとし始める。俺は一人疲れからかぼんやりしかけている思考を引き締め直していた。
(考えるべきことは色々あるが……まあ、今考えても仕方がないか)
と、部屋の外があわただしくなる。クリスたちが地上に戻ってきたのだろう。このまま朝までいると望まずとも騒動に巻き込まれるかもしれない。コーラルだけでも先にクレイたちと合流させた方がいいだろうか?
そんな時だ。部屋の外に明確な気配を感じた。この気配は……覚えがある。ノックされる前に、敢えてこちらから扉を開いて見せた。その向こうで驚いた顔をしているのは確か、ミストと呼ばれていた男性だ。
「さすが、かな。泊まるのか、もう立つのかを聞きに来たのだが」
「それも考えたんですけどね。一応、依頼は終えましたし、いてもお邪魔かなと」
言葉は選んでいるが、こちらの意図は大体伝わっただろうと考えている。その証拠に、ミストは苦笑いを浮かべながらも何度も頷いている。やっぱり面倒なことになるかもしれないようだった。
「今回は念のために私が地上待機だったが、この事態を解決したかった気持ちに変わりはない。ありがとう、そしてすまなかった。これは工房への紹介状だ。クリスから報酬ついでに渡す予定だと前から言われてね……簡単だが地図も入っている。後で訪ねるといい」
こちらの返事を予想していたのか、差し出された封筒はだいぶ前から封がしてあるように見えた。手に持った封筒は意外に重い。手触りは羊皮紙といった感じではなく、紙だ。
そういえば、この世界には書物がある。紙はどう作っているのだろうか? 現実世界のような機械生産をするには文化面はまだまだ機械化がされていない。意外と裏側には国家機密で機械化が進んでいる可能性は十分にあるが、今はまだわからないだろう。
「ありがとうございます。ではこれで」
「元気でな。また会おう」
背中に意味ありげな言葉を受けながら、廊下を歩き出す。一応の解決を見た後でも、夜の教会は何か違う見え方をしている。どこかに何かがあるような、何かがいるような。
(ゲームのやりすぎだな。妄想だけは逞しい……)
外に出ると良い天気で、月明かりが周囲を照らしている。
「ん~~っ! さて、1度戻ろうか」
「そうですね。クレイ達は元気でしょうか?」
横を歩くコーラルが持つ杖をふと見ると、ほんのり宝石部分に光がある気がした。最初は光の加減かと思ったが、どうも違うような……気のせいだろうか。
「コーラル、杖……光ってないか?」
「え? うーん、前よりしっくり来る気はしますけど、特には光ってないですよ?」
改めて見させてもらったが、コーラルの言うとおり、特に光っているわけではなかった。さっきのは光の加減だったのか、月明かりを反射して、緑色に光っているといえば光っているが、俺が見たように思えた発光といった様子はない。
(見間違いか? それとも……)
思うところはあるが、ここで立ち止まっていても仕方がないので、宿に戻ることにする。夜も遅くだというのに、まだ騒ぎの聞こえる街中を歩きながら宿に到着した。主に確認すると、2人は戻っているらしい。なにやら疲れることでも合ったのか、既に寝ている様子なので俺達も今日は寝ることにし、コーラルと別れることになった。
何か考え事のようなものを取り留めもなく考えていたせいでやや寝不足に感じる朝、宿の階下に降りた俺よりも先客としてテーブルにいたのはジェームズだった。既に着替えており、お茶を飲んでいる。
「お、ファクトじゃないか。戻ってきたのか」
「そっちこそ。昨日の内に戻ってたんだな」
宿の主人から差し出された熱いお茶を受け取り、彼のそばに腰を下ろし、様子をうかがうがどうも彼も疲れた様子だな。ただ、彼の場合は戦いに疲れたのか、女性とのあれこれで疲れたのか判断がつかないところがある。悪いという訳ではないのだが……。
「いや、俺達はすぐに戻ってきたさ。活躍したのはクレイだがな」
「へえ。そうか……クレイが」
聞かされたあちら側の事件もどうもすっきりはしない。けれどひとまずの決着を見たということで行動自体は自由だそうだ。そこで俺も新しい依頼を探しつつ、工房に顔を出す予定があることを伝える。
「それがいいだろうな、楽しみにしてるぜ」
「ああ。度肝を抜かしてやるさ」
そんな風にジェームズと語り合っていると、若い2人も起きてくるのがわかった。4人そろったのならまずは手ごろな依頼がないかの確認だ。依頼書の貼られる酒場への道すがら、互いに起きたことをクレイの口から聞くことにした。
「へー、そんなのが売ってたのか。危ないな」
「まったくだ。人騒がせにも程があるぜ」
猫を変化させた謎のアイテム……厄介な話である。確かにガイストールは大きく、歴史もあるらしい街だ。良くも悪くも様々な存在がいるということだろうか。
露店を一通り眺めるのも面白いかな、と考えた時にこちらに見知らぬ少女達が走り寄ってくるのがわかる。街娘、という様子ではなく、どこか歳不相応な色気をかもし出している。ふと見るとジェームズが限りなく自然に、しかしながら不自然に立ち位置を変えたかと思うと、クレイへと少女がぶつかってくる。
その後は事情はわからないが、面白そうなことになっているクレイと少女達を眺め、思わず顔がにやけてしまう。
「何よ、クレイってばずっと女の子と遊んでたの?……不潔」
コーラルの一言とともにクレイはその場に膝をつき、俺とジェームズの笑いを誘う。どうやら彼女らの内の1人が依頼に出て来た子らしかった。……なるほどな。
「いやー、すまんすまん」
「いいよ、別に。ファクトもジェームズと同じ様なところ、あるよね」
すねた様子のクレイはどんよりとしながら歩を進めていく。さすがにからかいすぎたかと思いながらもああいうのは役得と思う方が世の中はスムーズだよなとも思っていた。
4人が向かう先はミストにもらった紹介状と一緒にあった地図。記載内容から、この街の工房と思われる場所だ。3人もぜひ一緒に見てみたいというので4人で向かっている。そこまでにコーラルの機嫌もなおるといいのだが……。
予定の場所に近くなるほど、どことなくそれっぽい建物や、露店、馬車などが目立ってきた気がする。積み上げられた箱、はしご、木材や石材、入り口の広い建物の中には鉱石と思われる石達等。
流れからして、ここで消耗されるものだけという形ではなく、ここから各地へと輸送されるものでもあるようだ。
「何か、煙いです」
「確かに、火をたくさん使っている感じがするな」
俺はどちらかというと慣れていて、むしろ懐かしさすら感じるが彼らにとってはそうでもないようだ。口元を服のすそで押さえながらのコーラルに、ジェームズもやや顔をしかめて鼻をひくひくとさせている。ではクレイはというと、窓際に立てかけられている武具に夢中だった。
「工房が近いってことだろうな、楽しみだ」
「俺、今度は鎧が欲しいなぁ」
口々に好き勝手なことを言いながら、地図に記された建物にたどり着く。視界に入る分には見た目は小さな公民館、と言った様子だ。ただ、見えない位置ではあるが、いくつも建物が連なっているように見える。1つの大きな建物、という状態ではなく、増築を繰り返した結果なのかもしれない。
奥のほうには何本もの煙突が見え、白い煙を吐き出している。メインの入り口と思われる場所の扉は開け放たれたままだ。時折、急いだ様子で人と荷物が出入りしている。
「どれどれ……おお、本格的だな」
邪魔にならないようにと先に1人で覗き込んだ先には、まさに工房があった。
手前は受付のカウンター、荷物を置くのであろう土間のような場所、中間には武具を立てかけるのであろう置物や棚等があり、ここからでは良く見えないが奥のほうが実際の作業場所のようだ。
と、入り口そばにいた職人と思わしき男性が振り返る。
「あれ? ガウディ?」
俺はその顔を見た途端、思わずその名前を口に出していた。だが良く見れば似ているが少し違う。主に髪の毛の量が。どっちが多いかはここでは内緒にしておこう。
「ん? なんだ、弟を知っているのか。アイツは元気にしてるか?」
「ああ、良くしてもらった。元気だったさ。多分、今もな」
上半身はシャツのような肌着1枚、腰から下は作業着、と如何にもだ。全身どこかしらが煤に汚れたのか黒くなっている。そうか、彼の兄か……ガウディ自身はあの豪快さだ、今もどこかで笑いながら働いているに違いない。
「そうかそうか。んで、お前さんは?」
問われて自己紹介をする俺。彼の名前はキロンというらしい。会話をきっかけに、ジェームズ達も入ってくる。若者二人は中の様子に興味津々と言った様子で、ジェームズも口元に笑みを浮かべている。
「実はこんなものがあってな。紹介状になるんだが……」
「うん? 何々……ほぉ。楽しみなことだ。で、後ろの3人はお仲間か?」
「ああ、一緒に見学に来たんだ」
蝋で封がしてあったので俺は中身を見ていないが、目の前の相手が納得するだけの中身が書かれていたようだった。ジェームズたちが物作りをすることはたぶんないだろうが、見ておいて損はないはずだ。
「ミストのお墨付きなら問題あるまいよ。通うもよし、住み込むもよし、好きにしな」
思ったよりもあっさりと、俺たちは工房へと入ることになったのだった。
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