031.「ガイストールの闇-5」
「どんな魔法、どんな儀式かはこれだけじゃはっきりしないけれども、良くない物なのは間違いないね」
俺が教会内部で見つけた謎の水晶球。それを使う目的はわからないが、物としては魔力を吸っていく危ない部分のある物だとわかる。報告がてら、その水晶球を俺から渡されたクリスは、合点がいったという顔でここ一年ほどで起きている不可解な事件について語ってくれた。
訪れて来た魔法使いの原因不明の昏睡を始めとして、時折倒れる人間がいたらしい。最近は落ち着いているようだが、一時期は数人まとめて倒れたので大騒ぎだったようだ。病気か、はたまた別の理由か、と騒いだそうだが最終的には何もわからず。今考えれば共通しているのは、魔力の運用に長けた人間だったということである。
水晶球は一度調べるから預かるということでクリスに手渡し、俺達は部屋に戻ることにした。
「どうしましょうね? どこかに犯人がいそうですけど」
「そうだな。外部の人間が仕込むには難しい状況下だろう」
わざわざあんな仕掛けまで施して隠していたぐらいだ。確かに夜間は人の目がほとんど無いようだが、それにしたって壁に穴を開けたりなどは難しいだろう。どういった形にせよ、余程念入りに計画したに違いない。とはいえ、同じ施設で同じような症状で倒れる人がいれば疑いの目はいくらか向いていたんじゃないだろうか?
(魔力運用か、俺やコーラルも適用されそう……だな)
魔法使いのコーラルはもとより、スキル的に魔力を消耗している自分も魔力を運用しているといって問題ないだろう。しかもその魔力量はそこらの魔法使いは比較にならないほど多いはずだ。大量生産には大量の魔力が必要だからな、それなりにステータスは割り振っていた。
ふと、コーラルに視線を向けてウィンドウが出てこないか試してみるが、無理だった。やはりステータスが確認できるのは自分だけのようだ。視線を自分に戻すと、そんな自分の魔力はじわりと回復している。ただ、平常時の半分の速度だとしてもやはり、微妙に遅い。これはやはり……。
「コーラル、今も微妙にどこかに魔力を吸われてないか?」
「え? どうなんでしょう。……自覚できるほどには吸われていないようですけど」
言われて意識を集中した様子のコーラルだが、わかるほどには影響は無いようだった。俺の場合は目で見えるからわかる、というところか。一つとはいえ、水晶球を排除できた結果なのか、元々そう強力でもないのか、最近は倒れる人間がいないということだから、効力が薄まっているのかもしれない。
「とりあえず、歩き回って同じ様な反応が無いか、探りましょうか」
「そうだな、近くに行けばより反応がわかるかもしれない」
準備を整え、今日は2人でまずは夜に俺が襲われた場所に行ってみるが、特には何も無い。周囲は信徒や教会関係者と思わしき人間で意外と人通りがある。変な影がいた場所や、女性と思われる幽霊に遭遇した付近でも、特にこれといったものは無く、拍子抜けといったところだ。
「……ファクトさん、右の奥の通路に」
途中、くいっと俺の服を引っ張るコーラルがそんなことを言うので、メインの通路から外れた細い通路に入っていく。雰囲気的には普段は使われていなさそうな感じのする、空気の動きが無い様子の場所だった。突き当りには扉が見える。その前にバケツのような入れ物があることから、物置か何かだろうか。見た目は現実世界で言えば、白塗りの教会の一室、のような扉だ。中央には手前に開くためのノブがある。
「あの中に水晶球から感じたものと近いものがあるみたいです」
「何?」
慌てて周囲を見るけれどたまたま、こちらに近いところに人はいない。ゆっくりと腰の剣に手をやりながらステータスを開くが、確かに回復量がかなり鈍くなっている。部屋よりもさらに減った回復量はもう鈍足と言っていい。俺ですらこれなのだ、コーラルも体で感じているのだろう。
「最初に見回ったときには特に感じなかったところからして、かなり巧妙なやり方だと思います。今は意識するとようやく、という感じですね。いつの間にか吸われている……けれど何もなければ少し体調がよくないぐらいにしか感じないでしょうね」
「となれば確かめないわけにはいかない、か。一応コーラルも警戒を頼む」
「はい、勿論。明るいうちですから大丈夫です!」
満面の笑みで杖を構える姿は勇ましいが、わざわざ明るいうちはということは……昼間でも怖いんだろうな。少しばかりの不安を胸に、俺はゆっくりと扉に近づき、開く。
見た目は綺麗な状態のノブは見た目どおり、素直に動いてくれた。小さな音を立て、開いていく扉。中から何かが飛び出してくるだとか、淀んだ空気が、ということは無かった。
「む? 特に何もなし……か」
一度扉から離れ、開いた隙間から中をうかがうが散らかった様子も無く、妙な光があるというようでもない。警戒を続けながら中に入ると、整頓された物置、という状態で各所にクローゼットのようなものから、壷、棚などが置かれていた。
「うーん、近すぎてちょっとわからないですね」
「コーラル、明り用の魔法を適当に上に向けて投げてくれないか?」
続けて入ってきたコーラルが意識を集中してみるが、特定は出来ないようだった。そこで俺は別の方法で確かめることにした。俺の予想が正しければこの場所で使えば……。
「え? あ、やってみます。ライティング!……あ!」
「やはりか……魔力をそのまま持っていってるな」
天井際まで浮かんだ明りが、とある物へとゆっくりと吸い寄せられるように動いていった。そのまま光が薄くなるようにして弱くなり、最後には消えてしまう。その先にあるのはビール樽ほどもありそうな壷、既に大きな水がめのようなそれに近寄り、覗き込むとそこには何かの粉。
「汚れ落しに使う磨き粉ですね、これ。人数が多いから量も多いですね……」
塩や洗剤というわけではなく、研磨剤のようなものらしい。もしかしてと思いながら袖をまくり、中に手を突っ込んでみると、底の方に木の板らしき物があった。
「今このぐらいまで入ったから……うん。上げ底だな」
周囲を見渡し、同じ大きさの物を見つけるとそちらに中身を移す。まともに持つと相当重いはずだが、今の俺ならなんとかなる。隣のコーラルが驚いているがきっと強い戦士なら同じようなことは軽くできるよ? うん。
そして、見えてきたのは少し古くなった様子の木の板。適当にシルバーソードで端の方をつつくと、上手くめり込んだので引き抜くことにする。小気味良い音を立てて取れた板の向こうにあったのは鈍く光る水晶球。
「当たりだな」
「それです、すぐ仕舞いましょう!」
そんな彼女から手渡された布は、情報としては魔滅布と出た。確か魔力をある程度遮断する奴で、マントとかに使われることもあるやつだ。なるほど、ダンジョンの怪しい場所や、こうして細かい物を掴むときにも使えるのだな……ゲームでは存在しない大きさだから思っていなかった使い方だ。
木の枠で固定された水晶球を取り外し、眺めてみるがこれ単体ではまがまがしさは特には無い。そのまま布で包んでみると、少し空気が軽くなった気がした。どうやら、感じていないところでも影響は受けていたようだ。
「これも届けてきますか?」
「そうだな、行こう」
部屋を出、通路を進むと男性の信徒がきょろきょろとしながら歩いてくるのが見えた。一瞬、これを仕込んだ犯人かと思ったがそうでもないようだ。
「貴方がファクトさんですよね? クリスさんが探してましたよ」
俺の姿を見つけると、駆け寄ってきてそう伝言してくれた後、どこかに行ってしまった。どこにいるかを言ってくれればいいのだが……まあ、最初に出会った場所に行けばいいか。何の用だろうか?
「なんだろうな? もう詳細がわかったとは考えにくいし……」
コーラルと顔を見合わせながらも、クリスがいつもいる部屋へと向かう。少しは状況が動くといいのだが……。外の天気はこれからの厄介さを予言するかのように雨が降り始めていた。
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