028.「ガイストールの闇-2」
「詳しい部分は俺もしっかりと覚えているわけじゃないのだが……」
そんな我ながらちょっと情けないセリフから田舎から出て来たこと、多少腕に覚えはあるので冒険者と鍛冶職人を兼業した状態であったこと、色々あって地竜を含んだモンスターとの戦いに身を投じたこと。そして、どうにかして地竜が倒せたことを一通り話した。その中でも地竜を倒した時のことは今後の動きにも関わるから念入りに話すことになる。
「……なるほど、それはまさに奇跡としか説明がつかないね。今は使えるのかい?」
「いや、今はどうやっても無理な感じだ。夢中だったからな」
実際には魔力も回復し、もう少ししたら使えるのだが言う訳にもいかない。まだどういった扱いを受けるかはっきりしていないからだ。探るような視線にボロを出さないように注意しながら、俺は誤魔化すように話を続けた。もしかしたら、過去にも同じような人間がいたかもしれないのだ。そしてそんな人たちが、話に聞いたように無事に過ごせたかはわからない。
「ふーん。ま、いいかな。精霊様も嫌っていないみたいだし」
「貴方、いえ、クリスさんは精霊が見えるんですか?」
「いや? この街のマテリアル教の幹部としては残念なことに、なんとなーく、光っぽく見えるだけさ。その人が好かれていれば輪郭をぼんやりと明るく覆うし、逆に嫌われていると暗いか、まったく光らないから便利だけどね」
驚いたコーラルの問いかけに対する答えはやや重め。それでも明るく振る舞うあたり、人間が出来ているということだろうか? ついでにコーラルも好かれているほうだ、と教えてくれる。杖のことをいっているんだろうな。
「それで、どうにかできそうなのか? 出来れば拘束されて作るだけの生活は勘弁してほしいんだが」
「勿論。私を含めた幹部に認められば晴れて君も奇跡を行使したものの一員さ。何よりこの街じゃ、武具の精霊は大事にされている。一気に街の仲間入りも可能!ってわけさ」
「見てないのに、認めることが出来るものなんですか?」
少々大げさに身振りと共に俺へと答えていたクリスの動きがそんな疑問の声に止まる。確かに彼女の言う通り、見てないのにOKだというのならねつ造し放題だ。と言ってもそうそうそんなこともないんだろうけども……。
「そこなんだよねえ。実はこれに関する話自体は、既に私のところにも来てるんだよ。こういうことがあったけど、アレは教会の奇跡なのか?ってね。だからあらましというか、起きたことは何人も目撃している以上、奇跡の状況証拠は十分なのさ。そうだね……後は、君が……目撃されていたファクトという男がそういう人間である、ということを何かしら示せば良い」
「どうやって? 同じことをやれっていうのは無茶だぞ?」
電話もない環境で情報伝達が思ったより早いことに内心驚きつつも、奇跡認定の方法を聞き出すべく会話を続ける。ただ、少なくとも後1週間と少しは武器がスキルでまともには作れない。
「簡単なことさ。君が奇跡を起こしうる、信仰を持っている人間だと示せれば良い。というわけで、何日か泊まってくれると嬉しいね。頼みたいことがある」
「頼みたいこと……教会がらみ、ですよね」
「そうそう、ここでちょっとした調査をやってもらいたいのさ」
クリス曰く、ここ1週間ほど、教会のいろいろな場所で変な声を聞いたり、暗い何かの塊が目撃されているらしい。実害はないそうだが、亡霊の仕業か!などと騒動になっているそうなのだ。ちなみにこの世界には幽霊がいる。正確にはスピリットと分類される精神体のようなもの、なのだが。
「要は探偵の真似事をして、解決には精霊が手助けしてくれたと表向きは宣言するわけだ」
「そのとおり! 今言ったように君に泊り込んでもらい、解決してもらう。そうすれば教会のために身を呈す信仰心ある若者の一丁上がり!ってわけさ。話の材料さえあれば後は私がなんとかできる」
そういって胸を張る姿はとても教会のお偉いさんには見えない。どう見てもそこそこ儲かってる会社の役員、みたいなイケイケムードである。勢いがあるのは頼もしいし、話自体はありがたいのだが……。
「何でそこまでしてくれるんだ? クリスにはメリットがないだろう?」
「なあに、マテリアル教は来るもの全てに手をってね。ま、本音は面白そうだからなんだけどさ」
すんなり返って来た返事はある意味でとても共感できるものだった。確かに……面白いかどうかって大事だよな。儲けが無いとなればなおのことだ。笑うクリスからは俺の思い描く聖職者の気配は微塵も無いけれど、人間としては信用できそうだなと感じられる。
「さらに本当のところを言えば、このまま自分達でやるとただの不備というか、浄化をさぼってるからだ、ってなるのさ。そこに颯爽と現れる青年! その信仰心で事件は解決! なんという前途ある青年だ!ってね。ま、そこまで上手くはいかないだろうけど、多少は上書きできそうでしょ?」
まるでマジックの種明かしをするかのように、にやりと良い笑みを浮かべるクリス。その顔を見て確信を深める。これは……逆に付き合いやすい相手だなと。何せ、メリットデメリット、要求することがはっきりしているのだから。さらに本音が隠れているということもあるんだろうけど、見抜けないのならこちらが悪いのだ。
「了解した。どこに泊まれば良い?」
「ああ、右手の奥に部屋があるよ。1部屋だけど。君も一緒で良いよね?」
後でジェームズに伝えに行くか、使いを頼まないとなと思っていると、クリスが聞き捨てならない一言を言った。そういえば、コーラルはこの依頼を受ける必要はないんだが……と彼女を見ると、乗り気の表情だった。
「私も、いいんですか?」
「勿論」
「いやいやいや、男女同衾はいかん!」
我ながら古臭いなと思いつつも、思わずそう叫んでいた。コーラルは俺から見ても美少女だ。お相手に、とするには範囲外なのだが……第一、クレイがきっと……っとこれはまだ聞いたことがないから勝手な想像か。
「何か問題でも? まさか、聖なる教会の中で不埒なことに挑もうとでも?」
「え? そうなんですか?」
慌てる俺とは違い、2人とも考えてもいなかったとばかりにこちらを見て来た。そんな2人の追撃に、俺は慌てて首を横に振る。変な評判は立てられたくはない。
「じゃあ問題ないよね。宿はどこだい? 使いを出すよ」
クリスは近くにあった鈴を手に取り、静かにそれを鳴らす。しばらくして、信徒の1人と思われる女性が1人、部屋にやってきた。ジェームズとクレイがいるはずの宿の名前と場所を伝え、伝言を頼むことにする。
(クレイが下手すると乗り込んでくるか? どうだろうなあ?)
1時間ほどして、「俺達は修行でもしている」とシンプルに返事が返ってきたのには驚いた。そんなこんなで、俺の、正しくは俺とコーラルの奇妙な教会での数日が始まるのだった。
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