027.「ガイストールの闇-1」
「ドワーフの里も素朴でいいけど、やっぱこういう騒がしいほうが血が騒ぐな」
「討伐ばかりが冒険者のやることじゃないんだろう?って俺が言うことでもないけどさ」
新しい場所にワクワクするという点では同意だ。道の真ん中で立ち止まることができないぐらいには、間違いなくこの街、ガイストールは賑わっている。わずかではあるが通行税でもかなりの物だろう。
ドワーフの里から教会跡へと抜け、ガイストールへの道中は平和そのもので、ジェームズ達は道中の時間を、ドワーフの里で手に入れた武具になじむことに使っていた。俺はといえば、特に装備も増えていないので主に見張りを担当していた。さすがに鍛冶場でもないのに武具を作って見せるわけにもいかないのだ。
(本当はキャンプに入ればいいんだが……夜中にいなくなるというのも万一があるからな)
うっかり、いないことに気が付かれでもしたら厄介である。本当はあの感覚を試し、より自分のものにしたいのだが、チャンスはそのうちあるだろうと思いなおす。ガイストールともなれば、工房の1つや2つあるだろうし、上手く借りることも出来るかもしれない。作ったら作ったで騒ぎになりそうだがその時はその時か……たぶん。
(まあ、いざとなったら宿の部屋でこっそりキャンプを発動し、皆には工房を借りれた、とでも言うしかないか)
ちらりと見るクレイとジェームズは、武器をジガン鉱石を使った物へと変更している。ドワーフの手によって作られたそれらは、通常街に出回っている同じ素材を使ったものより、耐久性や重心のバランスなどで優れているはずだ。実際に一度持たせてもらい、確かめたので間違いは無い。
コーラルに渡した杖、眠れし森は、まだただ魔力増幅量の多い杖、という状態のようだ。武具の真の実力は一体化してこそ、という里のドワーフの助言の通り、これからということなのだろう。ゲームのように習熟度だとかステータスを見れないのがもどかしいな。
「ところで、教会ってやっぱり街の真ん中のほうにあるのか?」
「小さい村でも大体村長の家のそばだったり、真ん中にあるからそうだと思う」
「そうですね、多分、アレなんじゃないかと」
コーラルが指差す先には、教会跡と似たような、長く空に伸びた塔。飾り立て過ぎず、それでいて周囲から埋没しない程度には装飾がある。人間の複雑な気持ちをそのまま体現したかのような建物だ。
「なるほどな。俺はさっそく行こうかと思うけど、皆はどうする?」
「グラントに受けた依頼のついでに採取なんかは済ませたしな。俺は報酬受け取りつつ、次を探すつもりだったぜ。届け物はファクトが直接頼まれたものだしな」
ついでに一杯ひっかける、そう言いたげなジェームズにいつものようにコーラルが突っ込むかと思いきや、彼女は俺とジェームズの間で視線を行き来させていた。既にジェームズについて行く気マンマンなクレイとは対照的な姿だった。
「? コーラルはどうするんだ?」
「えっとですね、よければ私も教会に行きたいな、と」
遠慮した様子だが、要望としては間違いないようだ。何か教会に用があるのだろうか? 視線を向けたジェームズからは、若干の戸惑いを含みつつも了承が返って来た。となれば同行してもらうのに問題はないわけだが……。
「一応、理由を聞いても良いか? 珍しいなと思って」
「はい。笑わないでくださいね? 杖が、行きたいって言ってる気がして……」
彼ら3人はパーティーだ。一人だった俺と違って、できるだけ同じ行動をしているのが冒険者のパーティーの務めというか、基本なのだ。そう考えながら聞いてみると自分でも確証は無いようで、どこか恥ずかしそうな様子でそんなことを言った。
(杖が? そうなると……魔法か精霊関係か?)
俺自身は直接は強い魔法を使えない。せいぜいがいつぞや使ったような光源用の魔法か、各種補助や初級魔法だ。それも精度の問題から、滅多に使うつもりは無い。どこに飛んでいくかもわからない火魔法など、危険すぎる。
その代わりにと言えるかはわからないが、強力な魔法を行使できる武器を作ろうと思えば作れる。もちろん魔法をそのまま使うよりコストは高かったりするわけだが使えないのとは全然話が違ってくる。ともあれ、コーラルは魔法使いとしての素質か、武器の導きで何かを感じているのかもしれない。
「よし、じゃあ一緒に行くか! ジェームズ、集合場所はあの宿でいいんだな?」
「おう。帰ってこないようなら教会に突撃するからな」
ジェームズのボケに、笑いながら俺はコーラルと共に目的の教会と思われる建物に向かう。
目的地は最初から見えているので迷うこともない。近づくにつれ、思ったより大きい事には驚いたが……街が大きければこんなものか。
「あのー、すいません」
「ん? 新顔だな。祈りにでも来たのか? だったらまっすぐ行けばすぐに礼拝堂があるぞ」
俺が話しかけたのは、教会らしき建物の入り口を守っている2人の男の片割れだった。こういう人間がいるということは、意外と荒くれ共がいちゃもんでもつけにくるのかもしれない。宗教は上手くやれば儲かる、そんな印象があるからな。
「ああ、そういうんじゃないんだ。この人、いるかな? 頼まれ物を持ってきたんだけど」
グラントの渡してきたメモのうち、名前のところが見えるように折って見せる。効果はてきめんで、男の表情が驚きに変わり、「待ってろ」とだけ言い残して1人が奥へと走っていった。どうやら俺が思っているより大物のようだ。ドワーフが武器を届けさせるんだ、それなりにはと思っていたが……。
「ファクトさん……」
「ま、いきなり捕縛、なんてことはないだろ」
心配そうな彼女に俺は笑って答える。実際、何かあっても切り抜ける自信はあった。俺を止めたいのならば地竜を何匹か連れてくるぐらいでないとな。しばらくして駆けて行った男が戻り、案内を受けることになった。
「くれぐれも失礼の無いようにな」
案内された先で、俺達はそんなことを言われた。そこまでの相手……そんなキャラ、ゲームにいただろうか?ってここはもう何百年も先なんだ。ほとんどは生き残ってるはずがない……。
そんなことを考えている間に案内して来た男がドアをノックし、中から男性の答える声が聞こえる。若くはないように思えるが実際はどうだろうな。
「客人です。届け物があるそうです」
男の手によって開かれたドアの向こう、即座に目に入ったのは書物、書物、書物。一瞬、図書館にでも来たかと思ったが、そうではなかった。整然と並べられた書架に並ぶ書物も大きさはともあれ、整頓されている気配を感じる。印刷技術がどこまであるのかはわからないが、全部手書きということもなさそうだった。
いくつも壁に備え付けられたランタンのような何かが部屋を十分に光で満たしている。書物の量の割りに、清潔感あふれる空間は、知的な雰囲気を感じさせた。
「ん? 見ない顔だね、君は誰だい?」
「初めまして、だな。俺の名前はファクト、こっちはコーラル。ドワーフのグラントから頼まれ物を持ってきた」
部屋の奥、壁際にあるテーブルで書類を整理している様子の男性が俺たちを見、声をかけてくる。自己紹介もそこそこに、背負ったままのキラースピアを布ごと右手に持ち、持ち上げて見せる。
「おお! それはありがたい。ああ、君は行って良いよ」
男性は立ち上がり、大きなテーブルを迂回して俺の前に来ると、キラースピアを受け取って布を解くと、手に持って穂先までをじっくりと眺める。立ち去る時の男の動きが少し気になったが……まあいい。
受取人がそのまま槍を構える姿を見ると、聖職者然とした姿の割りに、かなり様になっている。見た目は30代後半、この世界としては結構な歳に思える。だが、簡単には負けない、そう思わせる何かがあった。
(この男性、意外とやる……?)
「そうそう、私の名前は知っているかな? ……ふむ、そちらのお嬢さんは知らないようだ。私の名前はクリスだ。本当はもっと長いんだが、本当に長いのでね、クリスでいい」
人のよさそうな笑みを浮かべ、クリスはそう言ってキラースピアに布を巻きなおす。その動きも、昨日今日覚えたとは思えない物だ。恐らくは兵士か、冒険者として戦っていた過去があるのだろう。マテリアル教の関係者としては珍しい前歴だな。
「用事はこれで終わりってことでいいか?」
「この槍の件はそうなるね。ただ、グラントではなく、新顔の君が私のところに来たということは、君が何か問題を抱えていて、それは精霊がらみなんだろう?」
さりげなく飛び出した言葉は、クリスがただものではないことを俺に証明してくれるのだった。さて、何をどこまで話すべきだろうか……。
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