025.「北の地で-7」
別行動分も外伝として同日に投稿予定です。
作業場を飛び出し、きょろきょろと辺りを見ると、里の入り口の1つに20人ほどの集団が見えた。随分と大荷物だな……あれは、モンスターか? それにしても大きいし数もいる。
先頭を歩く集団の横にいるのは体格差から、3人はジェームズたちだろう。ドワーフは全体的にがっしりしてるというか、樽を縦に伸ばしたような体格をしているからな。
「おお、皆も戻ったようだな。あれは……随分と大物を仕留めたようじゃな」
隣にきたグラントも驚くほどの戦果ということらしい。それにしたって採取が依頼だっただろうに……運がいいのか悪いのか。生きて帰って来てるのだから運は良いのだろうな。
相手もこちらに気が付き、若い2人が勢い良く手を振ってくる。
「3人とも、無事だったか!」
「よう! まー、すんなりとは行かなかったがよ、無事さ」
よく見ると3人ともあちこちが汚れているし、防具の一部は外れてしまっている。結構な戦いだったようだ……俺も行っていれば、いやそうとも限らないか。
そこまで考えて気が付く。彼らが採取に向かった先は日帰りが微妙な距離だったはずだが……。
「そうそう! ファクト、ドワーフってすごいんだな! 森が勝手に動くんだ!」
「森が、動く? トレントでもいたのか?」
「えっとですね。実は……」
それからコーラルが語ったところによると、最初は採取のために移動をし、そこで順調に採取自体は終わったらしい。その帰り道に魔物に遭遇し、激戦を繰り広げた時にドワーフと合流、助けを得て倒し、一緒に帰ることになった。その際、ドワーフがまっすぐに森の道を作り出したから早く帰ってこれた、ということらしい。
獲物を降ろしているドワーフ達は確かに屈強で、数名は魔法使いっぽいけどそれでも肉体がすごい。やはり武具を作るからには使えないとということなんだろうか?
「という感じで、かなり距離を短縮できたんです。結構危なかったんですよ」
「そうか、もう少し早ければこれが間に合ったかな?」
コーラルに、出来たばかりの例の杖を見せる。太陽の光の元、綺麗に光る緑の石部分に3人と、周囲のドワーフの視線が集まるのがわかった。気のせいか、石の中の精霊も喜んでいるような……まさかね。
「あ! 新しい杖じゃん! すげー! カッコいい!」
杖を持ったままの俺の手元にまるで犬のように駆け寄る少年の姿に思わず笑みがこぼれる。自分は装備できないというのにこの喜びよう。男の子、ということだろうか? それとも、仲間の物だからかな? なんとなく、両方だと思った。そういう俺自身も、この世界で初めてスキル無しで作ったと断言できる新しい武器に、内心興奮しっぱなしだ。
「ほっほ。まずは体を休めたらどうじゃ? 色々と聴きたいこともあるのじゃろう?」
グラントの提案を合図に、みんなして片付けと泊りの準備に入る。俺が作業していた建物の横に、泊まるためのスペースがあったのでそこで今日は就寝予定だ。
……が、色々な作品で語られている例にもれず、俺の知る限りのドワーフは宴が大好きである。あれだけの獲物をしとめて帰って来たのだ。騒がないはずが、ない。
里の憩いの場であろう酒場のような空間に、俺たち4人以外にグラントや何十人ものドワーフが入り乱れていた。冒険談であったり、土地独特の話であったり、貴重な鉱石の話であったり。そして、今回の魔物の話であったり。コーラルはどこかのテーブルに1人、魔法使いを探して話を聞きに出かけている。
ジェームズやクレイも、ドワーフ自慢の武器達に目を輝かせ、いつの間にか仲良くなっている。話が盛り上がってはとあるドワーフがふらりと席を立ったかと思うと、近くの自分の工房から新しい武器を持ってきてはさらに盛り上がる、を繰り返しているようだ。本来ならかなりの値段が付くだろう武具が無造作に転がっているさまはまるで高級品のバーゲンセールだな……。
その上、ドワーフは必要以上に儲けるつもりはないようで、聞こえてくる範囲でもその要求してくる金額はお得なものだった。思わずみんなには隠している手持ちの金で買い占めてしまいそうになるぐらい……まあ、やめておこう。
互いの技術を確かめ、語り合うのが楽しいようで2人が実際に買わなかった武具の製作者達も、特に不機嫌な様子は無い。これでどうやって生活をしているのか若干謎である。
「彼らは好みの武器を見つけられたようじゃの」
「そうみたいだ。本当は俺が作れれば話が早いんだけどな、せっかくの機会だからドワーフ謹製のほうが良いと思ってる」
「ふむ……お主、相当自信家じゃな。その言いようでは、物は今の自分の方が良い物が作れるはずと言っているも同然じゃ」
指摘に、ぎくりとする。確かに今の俺は無意識にか調子に乗っていたようだ。学んだばかりだというのに、何を言っているのだろうか? ゲーム時代のステータスやスキルがどこまで通用するかわからない状況で何を分かったつもりでいるのか。
「少し頭が冷えたよ。ありがとう」
「いや、言い方が悪かったの。あれだけ精霊に愛されているのだ。上手く付き合わねばいかんぞ、ということよ」
グラントはそういって、エールのような飲み物を一息に飲み干す。顔は赤くなりながらも、瞳はまだまだ素面、そんな感じだった。その瞳が鋭さを増して俺を射抜く。自然と俺も姿勢が整ってくるのを感じた。
「お主とてわかっておろう。大きな力、都合の良い何か、は容易に様々なものを引き寄せる」
「ああ、だからここに来たようなものだしな。俺自身は英雄にはきっとなれない。けれど、英雄が手にする物は作れるんじゃないか、そう考えている」
どうしてそんな武具を作る必要があると考えるのか、はグラントは聞いてこなかった。一言、そうか、とだけ言って酒を飲み進めていく。俺も手元のグラスからアルコールの強いそれを一口飲み、空へ向けて長い吐息を吐いた。
「ただ、道を曲げてはいかん。自分を信じ、進むようにな。そうすれば自然と、精霊が導いてくれるだろう」
宴の喧騒を他所に、2人の男は無言で飲み進めるのだった。
翌朝、出発の準備をして里を出るべく先に3人が家を出たとき、グラントが俺を呼び止めると包みを何やら取り出してきた。長めの、何か。見た感じは槍だろうか?
「ファクトよ、これを持って戻ってみんかの。配達依頼……となるわけだが」
手渡されたそれを確かめると確かに槍だった。ただ、特別な属性は感じず、純粋に貫く力だけを特化した感覚を受ける。確かめて出てきたウィンドウには、━キラースピア━とある。あまり人気は無かったが、低レベル時代に重宝する人もいたような気がする。どうやら命中の他、所謂クリティカル確率に補正があるようだ。
「これをどうすれば?」
「ガイストールにとある有力者がおる。教会の関係者じゃがの。その者に渡して欲しい。お前さんがどんな状況かはわからんが、力になってくれるじゃろう」
手渡されたメモによると、そこそこいい立場にいる人間のようだ。そこまでしてもらうわけにはいかないと、咄嗟に返そうと顔を上げると、深い感情をグラントの瞳に見つけ、動きを止める。
「遠慮せんと、受け取っておけ。なあに、ワシはこれでも200歳は超えておる。若いもんを導くのも仕事よ。それでも何かをしたいなら、またいい酒でも持って訪ねて来るがいい」
「ありがとう。それしか言えないが……」
「ファクトよ、ワシにはお主が誰で、どんな物を背負っているか、全てはわからん。だが、世界は、精霊はいつもお主のそばにおる。耳を傾けるのを忘れぬようにな」
最後にグラントはそんなことを言って、俺の背中を勢い良くたたいて送り出してくれた。
「ファクト、それ何?」
「街にいったら教会のお偉いさんに届けてくれだってさ。クレイも行くか?」
布に包まれた明らかな長物にクレイがさっそく声をかけてきた。しばらく眺めた後、自分が買った物ののほうがいいと感じたのかあまり執着した様子は感じない。
「んー、俺はパス! だって教会って真面目すぎる!」
「なるほど。上手くいきゃ、後ろ盾が出来てファクトも堂々と色々できるってわけだ」
嫌いな食べ物が出て来たとばかりに顔をしかめるクレイとは対照的に、ジェームズはこのお使い染みた話に込められた意味をちゃんと察したようだ。そう、これはただのコネづくりなのだ。
「ああ、そう願いたいね。平和なのが一番だよ」
「きっと、大丈夫ですよ」
昨晩、ドワーフの魔法使いに様々な魔法を口伝してもらったようで、どこか上機嫌のコーラルはそんなことを言って、可愛く笑う。手にした杖も優しく光を反射していた。
俺も良い天気の空を見上げ、先を疑いがちな気持ちを切り替えるように、大きく息を吸うことにした。
何がこの先にまっているかはわからないが、やれることをやるだけだ……!
意見感想、その他評価等いつでもお待ちしております。




