いざ森へ
異世界無人島生活 七日目の昼
「ただいまアッシュ」
「お帰りマウリ」
「ワフッ!」
「と、ウルフ」
マウリが探索に出て既に4日が過ぎたとこでようやくマウリとウルフが戻って来た。
4日ぶりにマウリは相変わらずの美人さんで、この探索の間も何度か森から出てくる魔物と戦闘になったとトランシーバーで報告は受けていたが、怪我をした様子もなく出かけた時と変わらない姿で戻って来た。
魔物とは、モンスターが凶暴化した姿の事でうちのムサシ達のように人とコミュニケーションがとれるような奴じゃなく、逆にこちらを餌と認識して襲ってくる厄介な存在で、モンスターと
と魔物はまったくの別物である。
幸い、この辺りには魔物は来ていないので俺はまだみたことないが、森に入っているムサシ達は何度か森でその姿を見かけたそうだが気づかれないうちは手を出さないようにしているそうだ。
まぁ何にせよ、マウリに限ってそうそう危険なことはないだろうと思っていたけど無事に帰ってきてくれて何よりだ。
それよりも驚いたのが、マウリと一緒に出かけたウルフの方。
前は、俺の側にいて大人しかっただけのウルフは、この4日ですっかりと男らしい顔つきになっていて、心なしか体付きも良くなっているように見受けられた。
マウリによれば、魔物との戦闘の際に怪我をしてしまったことで自分の弱さを知ったらしい。 そこでウルフは、自分を鍛える為にマウリに弟子入りして戦闘経験を積み、今ではR位の相手なら単独で勝てるのではという位までその実力を上げているそうだ。
そして、すっかり俺ではなくマウリを主と認め懐いてしまってルディという名前まで付けられてしまっていた。
ホントになにがあったんだろうねウルフ。
ペットが主を簡単に鞍替え何て酷いじゃなか.....いいさ、俺には非常食だけどピッグルがいるもんね。 非常食だけど。
ちなみに、ウルフのレベルは上がっていたけど進化までは至っていなかった。 今後の更なる成長に期待しよう。
マウリのいなかった間のこっちの方のことも話しておこう。
この4日で変わった事と言えば、森をまた少し切り開いてピッグル達の小屋の側に畑をを作ったことだろう。
一列10メートル程のものを5つ作り、そこには取り寄せで召喚したにんじん、玉ねぎ、じゃがいも、キャベツ、ピーマンと取りあえず手頃な野菜の種を植えて育てている。
畑の開墾は当然俺も手伝ってはいたが、ゴーレム君の力技で開墾はサクサク進み、ノームの土魔法で畑の土は栄養分を多く含んだ土へと作り変えられ、野菜を育てるには申し分ない畑が完成した。
思えば、家作りの時もそうだったがゴーレム君とノームは本当に良く働いてくれていい仕事をしてくれている。 うちの土木チームは優秀なのだ。
ムサシ達が戻り、皆で泥だらけになりながら種を植えた。
畑の水やりと管理はゴーレム君とノームがやってくれるらしく、彼等に任せておけばおいしい野菜が取れるようになるだろう。
まだ種を植えたばかりなので野菜が出来るのは当分先のことだが、一歩一歩確実にうちの生活環境は良くなって行っている。 非常食も元気に育っているからね。
後は木の伐採を手伝ったり、切った木を家の家具に加工したり、皆の食事を作ったりと俺も頑張った。
そのおかげで、うちの家の中はマウリがいない間にかなり様変わりしている。
「私がいない間に随分この家も住みやすくなったな」
そうですともそうですとも。
とりわけあなたの部屋は頑張って改造しましたからね」
「フム、このベッドはいいな。 柔らかくてとても寝心地がいい」
「気に入ってくれて良かったよ」
「ウム、他の家具もいいものばかりだし、何より新しい服まで用意してもらえているとはな」
「まぁ、何時までもその格好だけじゃね。 マウリも女の子なんだから、可愛い服の一着でもあればなと思ったんだ。 神力の都合上高い物じゃないけどね」
「いや、それでも気持ちは伝わっているさ。 ありがとうアッシュ。 大事に着させてもらう」
うん。 今度は洋服ダンスでも作ってあげよう。
まぁ、本当は風呂とトイレで俺が暴走したから埋め合わせの意味が強かったんだけど、この分ならきっと許して貰えるだろう。 うん。 多分大丈夫.....。
神力のことで言えば、この4日で俺の神力の最大値は400程まで伸びた。
最初の日が10しか増えなかったことを考えると驚くべき成長だ。
成長の理由としては二つ。
一つは、増えた神力に伴い取り寄せる物の質と量が増したこと。 これに関して言えば、どんな形であれ神力を消費することで最大値が上がることは分かっていたが、消費する神力が増えることで最大値の伸びも上がるようだ。
二つ目は肉体の成長。
これは、俺の体が神力と言う神の力の素になるものを体に入れているので、それに合わせ体を動かしたり鍛えたりすることで俺の体に受け入れられる神力が伸び、使徒として俺が成長しているということ。
器の体が成長すれば、当然体に入れておける神力も多くなる。
そして、大きくなった器に消費した神力が大きければ、当然それを補おうと神力の回復具合も伸びる。
二日目に神力が急に増えたのはそういう理由からだ。
結果的に神力を使うだけじゃなく、器となる俺の体の方も鍛えていかないと神力は増えないし使徒の修行にもならないみたい。
それが分かってからは、ゴーレム君達の仕事手伝って体を鍛え、小まめに取り寄せで神力を消費しているので結果的に今の成長に繋がっているし、ほぼ完全な状態まで神力を回復させることも出来ている。
俺だって成長しているのだ。
「それで、そっちの方はどうだったのマウリ?」
「ウム、2日かけてようやく浜辺を抜けることが出来たが抜けた先はまた森になっていた。 流石に今回はその先には行かなかったが、途中連絡したとおり道中森と海から魔物の襲撃を何度か受けた。 幸い、私が知っている魔物だったし比較的弱い部類の魔物だったから特に問題なく倒すことが出来た」
「そっかそっか。 多分その森も、この陸地伝いにづっと続いてるんだろうね」
「おそらくはな。 流石にそこまでの広さを調査しようと思うと、私一人では厳しいだろうが次はそっちの方に行って見るのも悪くないな。 それでこれが今回の探索の調査書だ」
アッシュはマウリから浜辺の地理が書かれた紙を受け取る。 マウリはそれに、どこでどんな魔物に襲われたかも書き込んでくれていた。 これは今度、島の地理を把握して行く上で魔物の出る領域を外して探索する事に役に立つ。
また、この島の生態系を知る上でもどんな魔物がいたかを記録しておくのは大切なことだ。
いずれ、島の内部も開拓しようと考えれると魔物の出る領域は避けて通れないからなるべく何処にどんな魔物がいるのか情報は多い方がいい。
今回マウリが行った浜辺の方角だけでも、距離にしたら10キロ近くはある。
それだけでも、如何にこの浜辺が広いのか伺え知れるけどこれもまだまだ島のほんの一部に過ぎないだろう。
何にせよ、それが分かっただけでも今回は十分な成果だと思う。
「ご苦労様。 もう直ぐムサシ達も戻ってくるだろうから、今日は一杯食べてしっかりと旅の疲れを癒すといいよ。 折角ベッドも作ったんだからね」
「ウム、そうさせて貰おう」
それからしばらくしてムサシ達が森から戻って来た。
手には今日も食料が一杯だ。
俺はそれを受け取って夕食の準備に入る。
調味料が増えてからはマウリは初めて皆で取る食事だったので、その美味しさには満足してくれたようだ。
ちなみに、取り寄せには食料品の制限はないからカップメン何かも取り寄せようと思ったら出来る。 でも、折角異世界の無人島で生活しているのだから、あんまりそういう世界観みたいなのを崩すのもどうかと思って取り寄せる品は気にして、極力自力で何とか出来るように考えていたりする。 まぁ、いざとなれば解禁するけどね。
そして、何度も言うけどトイレと風呂だけは譲れない。
隙を見てお風呂とトイレの事も話して見たけど、「無駄遣いは程ほどにな」と言われただけど怒られることはなかった。 逆に、一緒に風呂に入ろうと猛烈に誘われ断るのに大変だったけど、風呂上りのマウリも色っぽくて見ている分にはお腹一杯になって息子が......。
「ゴブ、ゴブゴブ」
「えっ、ここから少し行った辺りで水場を見つけたって?」
夕食も終わり、風呂にも入ってのんびりしていたところにムサシが今日の報告に来た。
一応ムサシ達にも紙とペンを渡して、簡単に自分達が通った場所は記録しておくように頼んであった。
で、ムサシ達が見つけたのはここから半日ほど東に行った場所にある水場。 近くには魔物の存在がちらほらといたらしいが、それほど強い魔物ではないらしく水場には水を求めて生物が集まってくるからいい狩場になりそうだった。
とのことだった。
「ゴブゴブ?」
ムサシが行って見るか聞いてくる。
「水場ねぇ....確かに、距離的にもそんなに遠くないみたいだし一度行って見るのもありかもしれないな」
「また旅の話か?」
「うん。 ムサシ達が森で水場を見つけたんだって」
「ほう、水場か。 今は私の魔法とろ過装置で海水を水に変えて使っている状態だから、手間のかからない水が確保出来るのはこれ幸いだな」
「そうだねぇ。 何時何が起こるか分からないから、必要な物は揃えられる時に揃えておく必要はあるよね」
「では、明日は皆でそこに行ってみるとしよう」
「いいの? マウリは今日帰って来たばっかりなんだから、明日位はゆっくり休んでくれてもいいんだよ?」
「いや、あのベッドで今日一日休めば疲れなど簡単に取れるだろうから問題ない。 それに私は騎士で体力には自信があるのだ。 私は何時でも待っているぞアッシュ」
それはどういう意味ですかね?
いや、そっちの意味ですよね.....うん、分かってたけどね......。
「だがそうすると、ここに残る者が少なくなってしまうな」
確かにね。
ムサシ達ゴブちゃん達は案内役として当然行くとして、マウリが行くならもれなくウルフも一緒に連いてくるだろう。 そこに俺が加わってしまうと、うちのお留守番はゴーレム君とノームだけになってしまう。
現状で言えば特に魔物が襲って来ているなんてことはないのだが、万が一が無いとも限らない。
「なら、神力も増えて余裕も出来たことだし召喚で仲間を増やそうか」
「ムッ、次に召喚を行うのは10日後のはずじゃなかったのか?」
「ガチャでの召喚はね。 それとは別に、一度召喚した仲間は神力で新しく増やすことが出来るんだよね」
ただし、召喚出来るのはゴブリン、ウルフ、ノーム、ゴーレムのみ。
レア度Lはその性質上替えが利かないので数を増やすことは出来ない。 まぁ、マウリみたいな強キャラを簡単に呼べたらバランスがおかしなことになるから当然だね。
召喚コストで言えば、Nは一体で10。 HNは50。 Rは100だ。
今までは直ぐに仲間を増やす必要がなかったし神力にも余裕がなかった。 けど、明日になれば神力はまた回復するはずだし、余裕を残しても半分を召喚コストに回しても大丈夫だと思う。
「アッシュの力にはそんなものもあったのだな」
「まぁね。 だから、明日召喚で仲間を増やすからここの事は心配しなくてもいいよ」
「フム、ではその方向で準備しよう。 今回は一日で行って帰れるとは思うから食料の心配はいらないが、その分魔物の出る森に入ることになる。 アッシュ、せめて自分の身を守れる武器を持っておいたほうがいいぞ。 無論、私も皆もアッシュのことは全力で守るつもりでいるがな」
「そっか.....そうだよね。 森に入るとなれば、魔物との戦闘も覚悟しないといけないのか」
う~ん、俺にそういうの出来るだろうか....。
「分かった。 そこら辺のこともちゃんと考えておくよ」
「無理はしなくていいからな。 最悪全部私達で何とかするから、アッシュは安全なところにいてくれ際すればそれで....」
「いや、そこまで過保護にしなくても俺は大丈夫だからね」
皆が心配してくれるのは嬉しいが、俺だって男なんだからやる時はやるさ。
明日は俺の、華々しい姿を皆に見せてビックリさせてやろうじゃないか。
翌日。
「それじゃ、召喚!」
俺は新しく、ゴーレム一体、ノーム一体、ウルフ一体、ゴブリン四体を新たに召喚。
新しく召喚したものには家の警備と俺のいない間の仕事を頼む。
これで一先ず家の方も問題ないだろう。
「さて、こっちの方も準備はいいかな?」
「ウム、何時でも出発出来るぞ」
「ゴブー!」
マウリもムサシもやる気十分。
「じゃぁ......目標は森の水場の確認! 出発!」
ここに来て初めての冒険にアッシュは旅立って行った。
次は明日です。