探索と暴走
異世界無人島生活 三日目の朝
マウリとウルフは食料とテントを持って朝早くから出かけていった。
浜辺の探索が終わるまでは戻ってこないということなので、おそらく数日は戻ってこないと思われるが連絡用にトランシーバーを取り寄せて持たせているので定期的に連絡を入れるよう言ってある。
残ったムサシ達と朝食をすませると、ムサシ達もまた森へと狩りに出かけて行ってしまった。 帰ってくるのは夕方だ。
と言うわけで、家にはゴーレム君達と俺だけがまた残る形になっている。
「ブヒブヒ」
おっと、ピッグルがいるのを忘れていた。
そう言えば、こいつらも非常食として飼うことにしたんだった。
なら今日はまず、こいつらにも住む所を作ってやらないとな。
その後はいよいよあれの問題に取り掛かろう。
「そんじゃ、ゴーレム君よろしくね」
「ゴゴゴォ!」
ピッグル達の生活する場所を作る為、ゴーレム君にはまた木を切ってスペースを作ってもらう。
その間に俺は小屋作りだ。
昨日の作業でコツが掴めたのか昨日よりも木を加工する速度が上がっている気がする。
そればかりか、あれだけの重労働をしたというのに体の方も一晩寝てまったく疲れが残っていない。
確かにこの体は、こちらの世界に来る為に神様が調整してくれたものだが、実際体を動かしてみるとスペックの良さはかなりいいと思われる。 流石は神様仕様の体ということかな。
で、何故か神力の方も一日目より回復がよくて、朝起きて確認してみたら全回復していた。 それも最大値が40も伸びた状態でだ。
思いあたることと言えば、昨日はゴーレム君達と一緒に家作りをしたことだけ。
おそらくはその影響だとは思うだけど、それにしても神力の回復量が増えたのは何でだろう?
考えられるとしたら神力を消費して神力を上げるよりも、体を鍛え、一定の負荷をこの体に与えることでそれが修行と見なされ神力の上昇に繋がっているのではないだろか。 回復量が伸びたのも、負荷を感じた体を癒す為だとしたら納得がいく。
うん。 確定ではないけど、おそらくはそんなに的外れな考えじゃない気がする。
一応今日も、体を動かして作業をするつもりだから、その辺りの確認もやっていこう。
何にせよ、神力が全回復したことで取り寄せに余裕が出来たことは確かだ。 無駄遣いはよくないと分かっていても、必要な物はこの際取り寄せてしまっておこう。 主に、家具とか内装とか調味料とかその辺りを中心に生活環境の底上げを図る。
「ほい、小屋完成と」
ゴーレム君の方も終わったようだ。
家の前には10メートル四方のスペースが出来ていて、ノームによる地ならしも終わっている。
後はそこに小屋を置いて、逃げないように小屋の周囲に杭を細かく打ち込んで杭どうしをロープで結べばピッグルの飼育場の完成だ。
「ほれ、お前達の住む場所はこの中だぞ」
ピッグルを飼育場に入れると、2匹は大人しくその中ですごし始めた。
基本的にピッグルのことはムサシに任してあるので俺がやるのはここまで、ムサシには問題が起きたら知らせるように言ってある。
そして俺は、初日から問題視していた風呂とトイレの問題の改善に取り掛かる。
先に水のことに関して話しておくと、うちの飲み水だったり食事に使っている水は全部マウリに魔法で出してもらったものだ。 現状で言えば火もそうだが、必要なところは魔法で補っている状態だ。
なので、マウリがしばらく戻らないとなれば当然水だけでなく火をどうやって起こすかの問題も起きてくる。
水は、マウリが出かける前にポリタンクを幾つか取り寄せてその中に予め水を溜めてもらってあるので、おそらくマウリが戻るまでは心配ない。 最悪は俺が取り寄せで何とかすればいいというのもある。
火に関してもライター一個取り寄せるだけで何とかなっている。
ただ、突発的なことでこれらが使えなくなった時の為にも、水源の確保はしておく必要があるとは思ってる。
まぁそれも、マウリが浜辺の探索から戻ったら今度はそっちをお願いしてみると言うことでマウリとは確認出来てるんだけどね。
だから、水問題が解決しないと本格的な風呂の製作だったりトイレの下水問題は解決しないんだけど、それでも暖かい湯に浸かりたいしトイレは座って落ち着いてやりたいのだ。
「まずは浴槽から作っていこう」
材料はゴーレム君が切り倒した木。
慣れた手つきで木を細かく切っていき、それを繫ぎ合わせ風呂の形を作って行く。
浴槽自体は簡単に出来たが問題は水。
海水をだと塩が出来てしまうので熱するのは無理。
「そこで取り寄せましたのがこちらのろ過装置。 なんと、海水を入れて陽に当てておくだけで水が出きるという優れもの」
そんなのあるなら最初から取り寄せろ!
と思うかもしれないが、これ一個で神力をまた半分も使った上に時間で出来る水の量は風呂に入る分にはかなり心許ない位しか出来ない。 時間をかければ水はたくさん作れるけど、そんなことするよりも魔法で出した方が早いしコストもかからない。
そんな物を取り寄せる位なら、もっと実用的な物を取り寄せるべきだろう。
と言う事情があるのです。
でも、マウリがいない今風呂に入るなら今しかない、神力に余裕のある今なら行ける!
その思いでおもいきって取り寄せてみました。
きっと俺は、マウリが帰ってきたら襲われるかもしれないがそれでも俺は風呂に入りたかったのだよ......後悔はしていない。
海から海水を大量に汲んできて、ろ過装置に繋いで陽の当たる場所に放置しておく。 後は夕方のお楽しみ。
さて次はトイレなのだが、こちらの現状は穴を掘ってそこで済ませている感じ。
出たものはノームが魔法で地に返してくれているので、いたって清潔であり匂いなどもなく快適。 ただし、和式なのを除けばだ。 俺は洋式派なのだ。
だから座ってトイレが出来ないのは、考え事も出来ないし下ばかり見てしまって気持ちよく落ち着いてトイレが出来ないでいる。
マウリはだからどうした言うけど、俺にはそれがストレスに感じて仕方がないのだ。
後、穴の周りに隠すものがないからそれも何とかしないと、開放感あり過ぎて恥ずかしいんですよね.....。
絶対に譲れない物がそこにはある。
例によってゴーレム君の切った木を使って、今度は人一人が入っても大丈夫な箱状の物を作る。
それを穴の上に置いて、ノームが作業出来るように穴にノーム専用の道を作る。 ノームはトイレの神様です。
「で、肝心の物がこちらです」
何と取り寄せでたったの20で取り寄せることの出来た、座れる便座です。
これで簡易ながらもうちのトイレは洋風に早変わり。
座りごこちはイマイチだけど、それでも座ってトイレが出きるというだけで俺は満足だった。
トイレと風呂。
その二つを劇的ビフォーアフターした結果、朝は全回だった神力がまた半分以下に減ってしまっていた。
ここでやめればマウリに何かを言われるのは確実だけど、それをさせない為に家の改造も同時に行う。
具体的には調味料に家具。
特に家具に関しては、マウリがベッドと手鏡を欲しがっていたので用意する。 手鏡を欲しがるあたり流石にマウリも女の子何だなぁと今更思ったのは内緒だ。
ベッドの枠組みは俺の手作りだが、マットレスと布団は取り寄せで出きるだけ良い物を選んで設置してある。 ついでに、手鏡と一緒に新しい服も置いておく。 俺もそうだが基本マウリも召喚の時に来ていた服しか持っていない。
探索に出ている今はいいかもしれないけど、流石に一緒にいるときに鎧を脱いであの肌にピッタリとくっついたインナー姿で近くを動かれると、目がそっちに釘付けになって一部困ったことになっちゃうんだよね.....。
だから動きやすい服をこの際一着用意する。
と言っても、神力の都合上大き目のワンピースにハーフパンツという実にラフで安ぽい物しか用意出来なかったけど、まぁその辺りは我慢してもらおう。
マウリの機嫌取りの為に、マウリの部屋の改造を重点的にやったのでこれでどうにかトイレと風呂のことは何も言われないと思いたい。
後は、神力がある内に細々と必要そうなもの取り寄せておく。
すると一日してまた、神力が0近くまでなくなってしまった。 今日の働きによる回復を期待しよう。
夕方になってムサシ達が戻って来た。
今日も手には、森で取れた幸と兎の肉があった。
でも、流石にピッグルは取れなかったみたいでムサシは残念そうにしていた。
解体はムサシ達に任せ俺は料理の準備。
新しく、しょうゆ、ミソ、砂糖、マヨネーズとケチャップが追加されたことでうちの食事環境はまた格段に良くなった。
なにより、味のデパートリーが増えたことで作れる料理も増えたのが大きかった。
後は、米とパンがあれば言うことなしかな。
夕食を終え、俺は一人今日のメインイベントに突入する。
「.....はぁ~やっぱり風呂はいいなぁ~」
異世界の星空の下、俺は湯船に浸かって広い空を見上げていた。
勿論、風呂に入る前にはお風呂セットを取り寄せて体も頭も綺麗に洗浄済みだ。
ろ過装置の方も問題はなく、俺一人が入るにはちょうどいい量を確保出来た。 体を洗う際に、貯蔵していた水を少しばかり拝借させてもらうことになってしまったが、それも今日の労働の対価ということで良しとしよう。
「異世界にも星ってあるんだなぁ」
空は満点の星空が広がる。
同じ空だというのに、こんな綺麗な星空を見たのは今が始めてだった。
そこまで余裕がなかったのか、はたまたそんな時間なかったのかは分からないが、ここに来て以前よりも生活は大変なはずなのに毎日が満ち足りている気がする。
今は、明日は何をしよう? あれはどうしよう? など、考えることがたくさんあって苦しいよりも楽しい気持ちの方が強い。
「それもこれも、やっぱり俺一人じゃないってことが大きいよな。 仮に俺一人だったら、今頃泣き言を言って神様に文句言ってただろうな。 皆には感謝だね」
その時また、『だしだし』どっか遠くから聞こえてきた気がしたけど気のせいだな。
「兎に角、まだまだ俺にはやる事が一杯だ。 この綺麗な星空を眺めてまたお風呂に入る為にも、明日からまた頑張らないとな」
アッシュは今は離れたマウリや他の仲間の事を思い、気持ちを新たにする。
風呂は命の選択。 そういうことだ。
異世界無人島国造り 三日目 終了
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