無人島生活での問題
「さて、とりあえず貰った力の確認は一通り終わったからこれからどうしようか?」
「フム、さし当たって必要になりそうなのは食料と寝床ではないだろうか。 最悪どうしようもなければアッシュの力に頼ることは出きるわけだが、初めから何でもかんでも力に頼っていては使徒の修行にもならんだろう」
「だよねぇ。 今の俺の神力じゃ、取り寄せれる物と質にかなり制限を掛けないといけない状態だからね。 今日の寝床は直ぐに用意出来るわけじゃないからテントでも取り寄せるとしても、何とか食料だけは自力で確保したいとこだね」
ちなみにテントは全員が一緒に入って眠れるサイズで、取り寄せるのに30の神力がかかる。
結構な出費だ。 今の状態でこれはかなりの痛手だけど必要経費ということで今日のところは仕方ないかな。
力自慢のゴーレム君もいることだし、ゴーレム君には斧でも渡してそこら辺の木を切り倒してもらおう。 そんでもって、それで簡単な家でも建てればしばらくは住む所には困らなくなると思う。
それに、地理的なことを言えば今いる浜辺だけでもかなり広くて、浜辺だけでも端が見えない。 で、目の前には先の見えない広い海が何処までも広がっている。 島の内側の方を見ても、浜との境からジャングルのように木が生い茂っていてちゃんとした道は存在しない。 遠くの方に薄っすらと高い山のような物が見えるけど島のかなり奥の方にあってかなりの距離がありそう。
これだけ見て見ても、この無人島はかなりの広さがあることは確かだから、島を探索するにしてもまずは自分達が暮らせるようしっかりとした生活環境を整える必要があるだろう。
まだ始まったばかりだけど、使徒としての修行も国造りも先はまだまだ長そうだ。
「と言うことで、今から食料確保の為部隊を二つに別けたいと思います。 片方は森に入って食料の確保。 出来れば飲み水のある場所も見つけてくれるとベストだけど、何があるか分からないので安全第一でお願いします。 そんで、もう一つの方は折角目の前に海があるんだから魚もきっといるでしょう。 手なわけで釣りをします」
「フム、それで部隊はどう別けるのだアッシュ?」
「そうだなぁ.....今回は一番数がいるってことで広い森での食料探しはゴブちゃん達に任せることにしよう」
「「「「「ゴブゴブ!!!!!」」」」」
「うん、ゴブちゃん達はやる気があってよろしい! そんなゴブちゃん達にはこれをプレゼントしよう」
アッシュが取り出したのは小型のペーパーナイフと子供の遊び道具であるパチンコ。
一応何がいるか分からない森に入るのだから武器は必要だろうと思って用意してみた。 ただ、見てもらったら分かるように完全な武器ではないのでほんの気休め程度にしかならないかもしれないけど、何もないよりはマシだろう。
「そんで、最初に召喚した君にはゴブちゃん達のリーダーとしてこれを送ろう」
最初に召喚したゴブちゃんには、奮発してゴブちゃんの背丈と同じ位の刀を召喚して渡してあげた。
ゴブちゃんは手渡された刀を抜いて軽く振ったりして貰った刀を体で確かめている。
しかも、意外と様似なっているから驚きだ。
小さなサムライぽっくてちょっとかっこいいかもしれない。
「......うん、今日から君の名前はムサシだ。 その刀を立派に使いこなして強いサムライになってくれ」
「ゴブゴブ」
ムサシは刀を鞘にしまうと綺麗に一例。
一体どこでそんな作法を覚えたのやら不思議でならないが、名前に不満もなさそうで良かった良かった。
でも、その刀大事に扱ってね?
結構高かったんだよその刀。
具体的にはムサシ達の武器で神力が半分程飛んだ。
ついでに、釣竿と餌も取り寄せたから残りの神力がマジで心許ない状態です。
だからホントに大事に扱ってね。
そして、早くもこちらは神力が心もとなくなって貧乏生活に突入。
無人島生活は大変です。
「と言うことで、残った皆で釣りをします。 と言っても、釣りをするのは俺とマウリの二人だけだけどね。 ノーム達は2体いるから、片方はムサシ達について行ってサポートしてあげて。 多分、森になってる食べられそうな物に関してはノームの方が詳しいと思うから」
「!!」
「残った方がゴーレム君の手伝いでゴーレム君が切った木の切り株や地ならし土魔法でお願いします。 ゴーレム君は力仕事になるけどよろしくね」
「ゴゴゴォ!」
「ウルフはモフモフ要員として側にいてね」
「ワフッ!」
「と言う訳で、無人島生活1日目スタート!」
アッシュの合図でそれぞれが与えられた仕事を始める。
ムサシ戦闘にゴブちゃん達は森へ、ゴーレム君は早速斧を片手に近場の木と格闘を始めた。
残ったアッシュとマウリは、ウルフを連れ浜辺を歩きながら魚の連れそうなポイントを探す。
ちなみに、マウリも浜辺で鎧は熱いということで鎧を脱ぎ捨ててラフな格好をしてるんだけど、それがまたインナーが体に合わせれピッタリと引っ付いたような服を下に着ていたものだから、体の凹凸がくっきりと分かってしまって目のやり場に困った。
それでまたマウリはマウリでスキンシップに走ろうとするから余計に困ったぜ。
「お、岩場発見!」
「ウム、中々に釣れそうな場所だな。 とりあえずここで一度釣って見ることにしよう」
「ういうい。 そんじゃ、竿はこれね。 餌は安物でミミズしか用意出来なかったけど、マウリはミミズ大丈夫?」
「大丈夫だ。 こう見えて私は虫には強いのだ。 黒くて光る奴が出たとて私はビビッタリしないぞ」
「それはそれは頼もしいことで。 そんじゃ、どっちがたくさん釣れるか競争だなマウリ!」
「望むところだ。 騎士として、挑まれた勝負にはどんなものであろうと全力で勝ちに行くのが流儀だ。 例えそれが、大事な家族で弟であるアッシュであるとしてもだ」
いや、高々釣り一つでそこまで本気にならなくても......マウリの目がマジ過ぎるっす。
で、マウリがマジになってしまった結果、楽しい釣りの筈が会話もないガチの釣りバトルになってしまった。
うん。 何故こうなってしまったのだろう....。
一つ言えることは、次回は絶対にマウリじゃなくてゴブちゃんを連れてこようと思う。
アッシュは寄り添うウルフを撫でながら一人静かに海に竿を向け続けた。
そして、結果から言えば魚はたくさん釣れた。
皆で分けても十分足りる位には釣れた。 ついでにウルフが岩場のカニとか貝を採ってきてくれたので種類もかなりある。
海は食材の宝庫であった。
ただし、釣った魚の大半がマウリによるものだというが解せん。
俺も結構釣ったはずなのに、それ以上にマウリが釣っているのは何故だろう...。
拗ねた俺は、途中で釣りマウリに託し海水で塩を作る作業に没頭した。
おかげで塩をたくさん作ることが出来たので魚は塩焼きにして焼いて食うことにしよう。
ムサシ達も何か収穫あるといいんだけど。
釣りから戻ってみれば空は薄っすらと暗くなり始め夜に入ろうとしているところだった。
ゴーレム君は順調に森林破壊を行って既に大量の木の山が出来上がっていた。
ゴーレム君の切った木の後は、ノームが今も土魔法でせっせと慣らしてくれている。
このまま行けば、明日にでも家を建てるスペースを確保出来そうだ。 働き者の二人には感謝だね。
しばらくすると森の中からムサシ率いるゴブちゃん達も帰って来た。
その手には何やら森で取って来た木の実やなんかで一杯になっていたが、一番はムサシが引きずっている小さな豚だろう。 小さいと言ってもムサシと同じくらいはあるんだけどね。
「どうしたのそれ?」
「ゴブ、ゴブゴブ!」
ムサシは刀を振って身振り手振りで豚を仕留めた時の事をアッシュに話す。
「えっ! 森で見つけたから不意を付いて刀で仕留めたって!」
「ゴブゴブ」
ムサシはそうだとばかり胸を張って頷く。
「安全第一でって言ったはずなんだけどなぁ...」
「ゴブ?」
「あぁ、怒ってるんじゃなくて普通に驚いてるだけ。 魚もいたんだから森にも何かいるだろうなとは思ってたけど、まさか初日でこんな肉にありつけることになるとは思わなかったからね。 お手柄だねムサシ」
「ゴブブー!」
うん。 喜ぶ姿が子供みたいでかわいいな。
でも、こいつどうしよか?
血抜きみたいなのはムサシがやってくれてるみたいだけど、動物の解体とか俺やったことないぞ。
「フム、こいつは食べごたえありそうなピッグルだな」
「ピッグル?」
「ん? あぁ、この豚の名前さ。 私が前にいた世界で家畜として普通に飼われていた奴に似ているから恐らくは間違いないだろう。 こいつの肉は脂が乗って噛みごたえがあってとても上手いのだ」
「へぇ~マウリがいた世界にいた奴なのかこいつ。 と言うことは、他にもこの島にはマウリがいた世界の生き物がいたりするのかな?」
「どうだろうなぁ。 しかし、使徒様の修行場として世界から切り離されただけならば生き物がそのまま残っていてもおかしくはないだろうな。 何にせよ、初日からこんな予期せぬご馳走にありつけるのだから私達は実に運がいい」
「だね~。 食材に感謝を込めてしっかり頂かないとだね」
へぇ~こいつピッグルっていうのか。
何とかしてこいつたくさん捕まえてうちで飼えないものだろうか?
肉は上手いって話だし、家畜として数の飼育が可能なら食料問題がかなり楽になりそうなんだけどなぁ。
明日ムサシに言って、可能ならピッグルの捕獲も頼んでみることにしようかな。
「ウム。 こいつの解体は私に任せてくれ。 こいつの解体は何度かやったことがあるからな」
「ういうい。 そっちはマウリに任せるよ。 他の皆は、ゴーレム君が切った木を薪代わりにして魚焼くから手伝ってね」
マウリがピッグルの解体をしている間に、こっちはこっちで魚を串に刺して火で炙り、カニと貝は小さな鍋を取り寄せて水を入れて纏めて塩茹でにし、解体の終わったピッグルの肉にも塩を振って両面焼きにする。
魚が焼ける匂いと鍋がコトコト沸騰する音、しまいにはピッグルこんがり焼けた匂いが辺りに立ち込めると、俺を含め全員のお腹が盛大に鳴った。
「では、皆揃って...」
「「いただきます!!」」
「「「「「ゴブゴブ!!!!!」」」」」
「ワフッ!」
「「!!」」
アッシュはピッグルの肉にかぶりつく。
「美味い!」
思わず声が出る程のおいしさ。
肉厚もあって、噛めば噛むほど口の中で旨みがましていきあっという間に消えてなくなってしまう。
ピッグルの肉は皆に大好評で皆いい顔をして肉を口に入れている。
海で取れた幸も好評で、今日取って来た食料があっという間に消えて行ってしまった。
まさか初日からこんなに贅沢な食事が出きるなど考えもしなかった。
食事中は皆和気あいあいとしていて、マウリもゴブちゃん達を言葉は通じないが身振り手振りでコミュニケーションを取ったりして楽しそうにしているところを見ると、モンスターだとか人間だとかそういう種族の違いにも問題はさそうなので良かった。
仲良きことは良きかな良きかな。
ホントにあっという間夕食だった。
明日はまた朝から食料探しをしないとだし、家の事だってある。
まだまだこの生活は始まったばかりで、やる事はたくさんあるんだけどさし当たっての問題はこれだ。
「トイレどうしよう?」
いや、マジでどうしようか悩んでるんですよね。
だって、そこら辺で勝手にするわけにもいかないでしょ? うちには女の子だっているんですからね。
でも、ムサシ達は森に入って勝手にしてくるって言ってるし、ノームやゴーレム君に至ってはそういうのは必要がないらしいから困りもしない。
風呂も入りたかったけど、どうしようもないからしばらくはマウリが使えるらしい体の汚れを取る魔法とやらで凌ぐことになった。 綺麗にはなるけど、さっぱりする感じはないからやっぱりお湯は浸かりたいかな.....。
まぁ、風呂は我慢出来る。
だけど、トイレに関しちゃどうしたもんかねぇ.....。
「穴を掘ってそこでするしかないんじゃないか」
「......マウリはそれでいいの? 仮にも女の子でしょ?」
「仮ではなく私は正真正銘女なのだがな。 まぁ、私の場合騎士として野外での演習にはなれているからな。 それに、騎士は大抵男所帯だから自然とそういうのに慣れるというか、気にしなくなるもので私は別にどうも思わないのだよその辺りのことは」
「え、マジで? 俺トイレはどうしても座ってやらないと気がすまない派なんだけど?」
「アッシュの言うことは私には理解出来ん。 だが、どうしようもない以上今日の所は穴を掘ってするしかないんじゃないのか? 何、出たものに関しては私が魔法で綺麗に焼き払ってやるから心配するな」
「心配するし! つーか、この年で他人に自分の排泄物見られるってどんな羞恥プレイだよ! 俺は絶対に嫌だぞ!」
「だがそう言ってもどうしようも.....フム、フムフム。 おぉ、それは明暗だなノームよ」
「何だって?」
「ウム。 ノームが土魔法で穴を掘ってくれるそうだ。 で、排泄物に関してはノームの魔法で土に養分として吸収するようにしておくから見られる心配はないそうだ。 良かったなアッシュ、これで気にすることなく大が出きるぞ」
「女の子が大とか言っちゃだめ!」
でもまぁ、それなら誰かに見られる心配はないのかな?
出たものに関してはノームが魔法で土の養分に変えるって言うんだから......。
でも、やっぱりなんか納得いかないんだよねぇ。
今はそれしかやりようがないから仕方ないけど、やっぱりトイレと風呂だけは一日でも早く何とかしないと、安心・安全・快適な無人島生活を送る事が出来ないではないか。
結論!
異世界生活で何よりも重要なことは、食事よりもトイレであることが分かった。
意外と食事は何とかなる。
でも、出るものに関して周りの人に影響が出きるから何ともし難いものがあると今日俺は知った。
一日でも早く快適なトイレを。
座れるトイレが欲しいとアッシュは願いながら眠りつくのだった。
異世界無人島国造り 一日目 終了