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かみさまの見ている村で  作者: 秋来一年
3/11

幕間 神さまのみた世界ⅰ

 あの日、私はかみさまになった。

 期末試験最終日、水曜日で部活のない私は、家へと自転車を漕いでいた。

 行きはつらい上り坂を、いまは楽々と駆け下りる。

 七月半ばの太陽は、容赦なく私のあらわになった首に照りつけていた。

 暑いからと括った髪の毛が、こんなとこであだになるなんて。そんなことを考えていたら、頬を汗がつたっていった。

 湿度をはらんだ、日本の、関東の夏。

 いつも通りの通学路に、ソレは唐突に現れた。


「あん、あんてぃーく、てゅーあ……?」


 Antique Tur、と書かれた古びた建物。どうやらアンティークショップらしいお店に、自然と目を奪われる。

 こんなお店、こんなところにあっただろうか。朝は遅刻ぎりぎりで焦っていたから気づかなかったのか。


 自然と自転車を漕ぐ脚はとまり、気がつけば私は、そのお店の扉に手をかけていた。

 カランコロン、と可愛らしい音を立て来客を告げる。

 しかし、出迎える声はない。


 お休みなのだろうかと思って、店を見回すと、店の奥に店主らしき老人を見つけた。

 雑然と置かれた品々の奥にカウンターがあり、そこからこちらを静かに見つめている。

 ぺこりと会釈をすると、いらっしゃいと控えめな返事があった。

 店内には年代物であろう家具や雑貨が数多く並んでおり、全体的に埃っぽい。


 そして、鞄を品物にぶつけないよう注意深く進んだ先で、私はついに出会う。

 その時は、ただのヘッドホンだと思った。

 しかし、私が生まれるずっと前からここに並んでいそうな店内の品々の中で、普通のヘッドホンにしか見えないそれは、特別異彩を放っていた。


 入ってはみたものの、慣れない空気にどぎまぎしていたから、見慣れたアイテムを見かけてほっとする。

 引き寄せられるように手にとって、なんの気はなしに試聴してみた。うん、悪くない。

 値段を確認すると、私の一月分のお小遣いとほとんど変わらない値段が記されていた。日々のおやつを控えめにすれば、買えない金額ではないだろう。


 そういえば、これまで使っていたイヤフォンが、断線してしまったばかりだ。次は、このヘッドホンで音楽を聴くのもいいのではないか。

 テスト終了の自分へのご褒美も兼ねて、私はそのヘッドホンを購入することに決めた。

 会計時に店主から言われた、


「そのヘッドホンは音がいい。音楽を聴く時は、目をつぶってみなさい。きっと、面白いものが聴こえるよ」


 という言葉の意味を私が知ることになるのは、それから数時間後のことである。



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