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「ガローシャ国物語」 短編集  作者: 一ノ瀬紅
1/2

僕の靴が連れて行ってくれた場所 1

前回書いたお話「すべては会議で明かされる」よりも少し前(春の初め頃をイメージ)のお話です。

特性判定が終わったのは、フィオナとセドリックだけ。

主要メンバー以外の視点から見た彼らを表現できればと思っています。


もし興味があれば、前に書いたお話はこちらです。

http://ncode.syosetu.com/n6253dr/


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2017/01/11 読み直したら、誤字がありましたので修正しました。

「お土産楽しみにしているね」

「おう。任せておけ」

「王都に行けるなんて羨ましいな~」

「お前も頑張れば行けるようになるさ」

「気をつけていってらっしゃい」

「はい!行ってまいります!」

 町から一番近い駅まで見送りに来てくれた家族に挨拶し、列車に乗り込んだ。


 僕は、マルク・オーウェン。『匠の街 アデルバルジャン』から南部へ列車で五時間ほど行ったところに、僕が住むトルデナードはある。ここは『ガローシャの靴屋』と呼ばれ、多種多様な用途の靴を作るお店が軒を連ねて、各地域から靴の注文を貰っている。

 靴を造る様々な音が町中に溢れかえっていて、町の人達は新しい技能や工具の話、最新の靴のデザインを酒の肴に毎夜酒場で盛り上がるような陽気な町だ。他の町はあまり知らないが、僕はこの町気に入っている。


 そんな僕がどうして王都に行くかというと、五日後に予定している、特性判断を王都で受ける為だ。


 僕が住む国、ガローシャでは、十六歳になると自分の特性を判定され、特性に相応しい職業に付くことが決められている。特性は『魔術』『武術』『技能』『鳥獣』『芸術』『金融』『自然』そして『国政』と大きく八種に分類され、そこからニ年間は、各特性に沿った教育が施され、それぞれの分野で更に自分が目指す道へと進んでいく。

 特性判定は、通常地元にある大聖堂で行われるのだが、成績優秀者は、ご褒美として王都グラバラードで特性判定を受けることができ、さらに数日王都観光ができることになっている。僕は今年の成績優秀者に選ばれ、王都へ行けることになった。王都には各地方の有名なもの、国外からの珍しいものが多く溢れかえっていると聞く。希望を膨らませて、僕は一番のお気に入りに靴を履いて王都グラバラードを目指した。



 列車を乗り継いで四日目、王都グラバラードにある駅まで漸くたどり着いた。そこはそれぞれの都市から集まる列車や人で溢れかえっていた。アデルバルジャンでも十分人は多いと思っていたが、さすが王都、アデルバルジャンの比じゃない。それに特性の『技能』が多くいる僕に地方は、機能性を重視する傾向にあるが、ここでは、各特性の地域の人たちが行ったり来たりしているためか、ごちゃごちゃした感じがした。ただ、共通していえるのは駅にいる皆、希望に満ちたキラキラした目をしていたということだった。


 駅についた僕は馬車を見つけ、王都で泊まる予定のホテルへの向かった。


 

 翌日、十一時には本日特性判定を受ける『オクタビオン』に向かうことになっているため、念のため早めに馬車を捕まえホテルを出発した。

 中央に噴水が備えられているラウンドアバウトを向かって右に曲がると『オクタビオン』まで一本道だと人好きする雰囲気の御者は教えてくれた。

 見慣れない町並みを眺めながら馬車に揺られ、十分は経っただろうか、突然大きな揺れとともに僕の乗っている馬車が急停車した。

「お客様、大丈夫ですか?」

 外から御者が声を掛けてくる。

「だ、大丈夫です。何かあったのですか?」

 僕は、馬車の窓から顔を出した。

「車輪の様子がおかしいようなので、ちょっと見てみます。申し訳ないですが、少し待ってください」

 そう言って、御者は席を降り、車輪の様子を確認しはじめた。暫くすると、外から「困ったな~」と呟いている声が聞こえてくる。

「どうですか?原因は分かりましたか?」

 心配になって、僕は馬車から降りて御者に声を掛けた。

「はい。原因は分かったのですが・・・。車両を固定しているネジが壊れてしまったみたいでして・・・すぐ直せそうもないですね・・・申し訳ないです。事前に確認はしていたのですが・・・」

 御者は大粒の汗を額にかきながら、焦った様子で現状を伝えてきた。僕は余裕を持って出てきてはいるが、約束の時間に間に合うのかどうか気になった。このままここで立ち止まっていても、闇雲に時間は過ぎていく。新しい馬車を捕まえようとしても、目の前を通る馬車は既に人が乗っていて、すぐには捕まえられそうもない、どうしたらこの現状を打壊できるのか考え始めていた。

「どうされたんですか?大丈夫ですか?」

 僕に目の前に、自分が乗っていた馬車よりも一回り大きく豪華な装飾が施されている馬車から一人の少年が降りてきた。少年は背丈は僕と同じくらいで、少し癖があるが鮮やかな赤毛をしていた。赤味を帯びた鳶色の瞳は目尻が少し上に上がり、意志の強さを感じる。歳は自分と変わらないだろうか。乗っていた馬車もだが、彼が着ている服装、佇まいから良い家のご子息である事は想像できた。


「これから特性判定の為に『オクタビオン』に行く予定なのですが、乗っていた馬車の車輪が壊れてしまって動けなくなってしまったんです」

 僕は今の状況を彼に説明した。

「それは大変ですね。僕もこれから『オクタビオン』に向かうので、よかったら僕の馬車に一緒に乗りませんか?」

 少年は笑顔を僕に向けて提案してくれた。彼は笑うと人当たりの良い顔になるようだ。僕はこの状況をどう解決するのか悩んでいたので、その提案を快く受け入れた。彼は、僕を馬車に乗せた後、御者に何か話してから、馬車にに乗り込み、馬車を走らせた。



「『技能』の主要都市にある大聖堂でも特性判定は受けられると聞いたけど、どうして態々グラバラードへ?」

「おっしゃる通り『技能』にある大聖堂でも特性判定を受けることはできるのですが、各地域では、義務教育を卒業する際に成績優秀者として選ばれた人は、近くの大聖堂ではなく、『オクタビオン』で特性判定を受けることができるんです。それで今回グラバラードへ来ました」

「じゃ~オーウェンさんは、その成績優秀者に選ばれたということですね。おめでとうございます」

「あ、いえ。ありがとうございます」

 乗せてもらった馬車の中で、好奇心旺盛に色々質問された。話のする中で、彼はルーファス・カルヴァートという名前であること。同じ学年だが、まだ特性判定ができる十六歳の誕生日を迎えていないこと、『オクタビオン』へは、知り合いの手伝いや友人に会うために行くのだということを教えてくれた。

 それから、トルデナードの町の事、義務教育時代の学校での生活の事など、色々話をしていると気がつけば『オクタビオン』の馬車乗り場へと到着していた。


 僕達は馬車から降り、ルーファス・カルヴァートにここまで連れてきてくれたことにお礼を言おうとしたところ、近くで声が聞こえた。

「ルーファス!おはよう。今日は珍しく早いじゃない」

 可愛らしい声がする方へ顔を向けると、そこには二人の男女が立っていた。まず驚いたのは二人の容姿だった。少女の方は、僕より頭一つ分くらい小さく、髪は肩まで伸び毛先がくるんと巻かれ色は珍しい薄いスモーキーローズの色をしていた。大きな瞳は琥珀が潤んでキラキラさせて、肌は桜貝を砕いて混ぜた磁器のようにほんのりビンク色でとても艷やかで、明るいピンク色の唇がぷるんと可愛く付いていた。人形でもこんなに可愛らしい少女を見たことがなかった。少年の方は、僕より少し背が高くスラリとしている。艶やかな深緑の髪を耳や襟足が見える程度に切り揃え、目は涼やかなアイスブルーで形の良い鼻梁と少女と同じく陶器のような肌ににこやか笑顔を携えていた。二人並んでいると絵本の中の王子様、お姫様がそのまま出てきてしまったように、彼らの周りがキラキラ輝いていた。


「あ、フィオナ、ランドルフ、おはよう。今朝は家で用事を頼まれなかったからさ、何か頼まれる前にさっさと家を出てきたよ~」

 ルーファス・カルヴァートは、二人に目を向けると、人当たりのよい笑顔を彼らに向けた。どうやら彼らは、ルーファス・カルヴァートの知り合いのようだ。

「上手く逃げられてよかったな。でも今日は一人では無いんだね?始めて会う人のようだけど・・・」

 少年の方が僕の存在に気が付き話を振ってきた。

 突然話を振られ、慣れない状況に緊張して直ぐに答えられず戸惑っていると、ルーファス・カルヴァートが、特性判定を受けにトルデナードから来たこと。僕が乗っている馬車にトラブルがあって、一緒に来たことを説明してくれた。

「態々トルデナードからいらして、トラブルにあってしまうなんて大変したね」

 少女は神妙な面持ちで、僕に話し掛けてきた。眉間にシワを寄せた顔も彼女の可愛らしらを損なうことは無かった。

「この時間は、『オクタビオン』までの通りで馬車を捕まえるのはかなり難しいんです。ルーファスが偶然通りかかって幸運でしたね」

少年も僕に笑顔を向けてくる。

「ほ、本当に助かりました」

普段あまり緊張する事なんてない僕だけど、僕の周りにいる人達とは明らかに違う人達と会ってしまったからなのか、緊張して上手く話すことができない。

「特性判定を受けるのに、どこに行くように言われています?」

 少女が僕に質問してきた。

「十一時に『オクタビオン』の大聖堂にくるようにと言われています」

 そう言いながら、上着の内ボケットに入れた案内状を少女見せた。

「大聖堂は、あの中央棟の最上階にあるんですけど、その前に『オクタビオン』の入館手続きが必要なので、中央棟の一階の受付に行った方がいいですよ」

 幾つかある建物の中央に位置する建物を指差し笑顔を僕に向けてくれた。

「折角だから、僕が受付まで案内するよ。大聖堂は同じ建物の最上階だから後は問題なく行けると思うから」

 ルーファス・カルヴァートはそう言って、僕を連れて行ってくれようとした。

「ルーファス。俺達はちょっと頼まれ事を済ませてくるけど、終わったらいつもの所に行っているから、また後でな」

「了解!僕もこの後、フェビアン様の所に寄ってから行くよ!」

 そう話して、お人形の様な二人と分かれて中央棟にルーファス・カルヴァートと向かった。



ルーファス・カルヴァートのお陰で特に迷うことなく、入館手続きを済ませ、最上階の大聖堂へと向かうことができた。彼の話だと、二人は義務教育時代の友人で、卒業後もこの『オクタビオン』で頻繁に会っているのだという。彼からは特性判定が終わった後、もし時間があればもう少し話が出来ないかと誘いを受けた。彼にとって、僕の話は知らないことばかりのようで好奇心を駆り立てるようだ。緊張はするけど、僕も今まで会ったことが無い人達だし、上手く行けばあの可愛らしい少女のもう一度会えると思い、彼から説明を受けた中央棟にある第三閲覧室に特性判定後行くことにした。


もっとサクッとかけると思ったのですが、色々描写を書いていたら結構長くなってしまったので分割します。後半は、今週各予定。

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