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げきま部

 真青は俺との約束を取り付けると、友人に呼ばれてどこかに行ってしまった。

 俺は慌てて、×くろす×名義でやっているトゥルッターの、本日の対人戦の申し込みに断りのメッセージを入れる。さらに、普段は絡んでこないクラスのヒエラルキー上層部からの詮索をかわすなど、慣れないことをしてどっと疲れてしまった。


 昼休みの話の後からそわそわと落ち着かない様子だった真青は、終礼と同時に振り返った。

「それじゃ、約束どおり、お願いします」

あわよくば適当に用事ができたと言って断るつもりだったのだが、女神のごとく光り輝く満面の笑顔を見せられて、断れるわけがなかった。

 鈴木がついて来たそうにしていたが、

「鈴木君、これから部活?また明日ね」

にこっと可愛らしく微笑まれれば、パソコン部になす術はない。

 「あの、どこ行くんですか」

生徒昇降口とは逆方向にしずしずと向かい、渡り廊下を通って旧校舎に向かう真青の後を、何かあったらごまかせる距離から追いながら、俺は思わず敬語で訊ねる。すると、

「秘密基地」

クラスのアイドルは、形の良い唇を持ち上げ、ふふ、と妙に艶めかしく笑った。

 旧校舎の階段を上り、息苦しい無言の時間の後、真青が立ち止まったのは三階の教室の前だった。入り口には何のプレートも掛かっておらず、廊下側の窓は曇りガラス。更に、分厚い遮光カーテンが引いてあるため、中の様子は窺えない。

「ここが、私たちの秘密基地」

「私"たち"?」

首をかしげた俺の前で、真青はためらいなくドアを開けた。すると、室内から予想外に明るい光が漏れ出てきた。

「巧!」

真青は、俺の腕を引いて室内に飛び込んだ。

「春果。と、誰?」

茶髪を短く刈った男子生徒が、背もたれの広いオフィスチェアを回して振り向いた。大きなPCモニターに向かっている姿が不似合いな、彫りの深い体育会系のイケメン。どこかで見た顔だった。

「昼にメッセージ送ったでしょ。また見てないの?」

「え?ああ、悪ィ」

確か、去年の体育祭で応援団に入っていた、隣のクラスの男子だ。名前は赤城巧。スクールカースト最上層、校内指折りの人気者で、クラスが違ってもキャーキャー言っている女子の姿をたまに見る。

「見つけたの、新しい三人目!」

「マジか!」

赤城は、嬉しそうに口元を綻ばせた。仲良さげな会話を繰り広げる美男美女に、俺はおそるおそる挙手して訊ねた。

「……真青さん。どういうことでしょうか」

「とりあえず、座って座って」

上機嫌の真青に手ずから椅子を引かれ、俺はぎこちなく腰を下ろした。視線を彷徨わせ、目の端に映ったものを見て、

「なんで、マット?」

思わず疑問が口を突いた。なぜか、椅子から立ち上がって倒れ込むのに絶好の位置に、ダブルベッドサイズのマットレスが敷かれているのだ。

「休憩用」

赤城が答えた。今一つ答えになっていない気もするが、パソコンのような長時間同じ体勢を取る機器を扱う際は、一時間に一度程度休みを取って体操などをするのが健康には良いらしいし、深く気にしないことにする。

 真青も別の椅子に腰掛け、面談のような配置で、顔面偏差値の高い二人と向かい合わせになった。

「紹介するね。佐藤君、こっちは二組の赤城巧。巧、うちのクラスの佐藤駆君」

どうも、と改めてお互いに頭を下げた。真青が俺の下の名前を知っていたことに衝撃を受けたことは、黙っておく。

「どこから話したらいいかな」

真青が赤城に訊ねた。

「まずは、この部屋のことからだろ」

「そっか」

頷いた真青は、あのね、と前置きしてから話し出した。

「ここは、私たち『現代電脳遊戯の究明及びマルチメディア活用研究部』、略して『げきま部』の部室なの」

「激マブ?」

ちょうど真青のような見目麗しい少女を差す死語を口にすると、

「違う、げきま部」

"ま"にアクセントを置いて訂正された。

「実際のところ、『ゲームで気ままに遊ぶ部』の略なんだけどな」

くっくっと、赤城が肩を揺らして笑う。

「てことは、ここ部活なの?聞いたことないけど」

「だろうな。大っぴらに募集してないし、俺らも表向きには帰宅部ってことになってるし」

しかし、こうして放課後に教室と備品の使用を許されているところを見ると、どうやら学校公認の部活動らしい。

「私と巧と、昼休みに話した中学からの友達の三人で遊ぶために立ち上げた部活なの」

秘密基地という言葉の意味。誰にも知られず、自分たちの好きなことができるこの場所は、確かに秘密基地と呼ぶにふさわしかった。

「だけど、その三人目が家の事情で転校しちゃって。ホラ、うちの学校って、部員が三人以上いないと廃部になっちゃうでしょ?」

ははあ、と俺はようやく話が飲み込めてきた。要するに二人は、友人が抜けたことで秘密基地存続の危機に陥り、新入部員を探しているのだ。

「事情はちょっと読めた。でも、それなら一年を勧誘すれば?まだ今の時期なら、他の部活に入ってない奴がいるんじゃない?」

廃部を阻止したいのなら、後続となる部員がいたほうが良いのではないかと、俺は提案した。もちろん、この何かに巻き込まれそうな不穏な空気から、一刻も早く逃れるためだ。

 しかし、真青は首を振った。

「それだけじゃないの」

背中まである黒髪が、さらさらと揺れる。

「春果が連れてきたってことは、佐藤もとーすとプレイヤーだろ?」

「う、うん」

もはや隠しても仕方がない。この秘密基地に比べれば、些細な秘密だ。

「じゃあ、夏の学生大会のことは知ってるよな」

「一応」

 コンピューターゲームがスポーツとして認知されてきたことを受け、国内外で大会が開催されるようになって久しい。仮想現実、いわゆるVRシステムを利用したスポーツゲームの大会などは注目度も高く、トッププレイヤーは現実のスポーツ同様ファンやスポンサーが付いたりもしている。

 とは言え、日本では古くから根付いた『コンピューターゲームはオタクの遊び』という偏見を未だ払拭できず、将棋や囲碁のように賞金が出るまでには至っていない。

 トレジャーストーンでも、今年の一月にアバター対戦機能を使った公式大会『ウヴァロ王国杯』が行われたが、賞金はゲーム内通貨とゲーム専用課金ポイント、そして副賞はアイテムというささやかなものだった。

 プレイヤーの個人情報などは出ず、有名になるのはアバターだけ。家のいつもの環境で気軽に参加できたので、俺も副賞のレシピ目当てに参加して――うっかり、優勝してしまった。


 それはさておき、宝石学園杯と銘打たれた次回大会は、前回大会と少し様子が違っていた。完全に個人戦だったウヴァロ王国杯とは対照的に、今回の参加条件は『同じ学校に通う三人から五人一組でパーティを組むこと』。ここで言う学校とは現実の学校のことで、つまりはリアルの友人同士でチームを組むことがルールとなっていた。


 要するに、だ。

「お願い、げきま部の部員になって、一緒に大会に出て!」

俺が彼らの思惑に気付くと同時に、真青は顔の前で手を合わせて、俺を拝んだのだった。

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