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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
二章

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21/118

カエデ

【大和撫子】Aluminum*様親衛隊スレ【かぐや姫】

340 名前:ケースケ@アルミ様万歳

 やべーよ…×くろす×こそ真のアルミ様信者だったわ…


341 名前:キューティクル@アルミ様万歳

 >>340

 本当それ…


342 名前:nana@アルミ様万歳

 >>340 >>341

 何があった


343 名前:ケースケ@アルミ様万歳

 俺たちは、自分たちの理想をアルミ様に押し付けていたに過ぎなかったんだ……


344 名前:キューティクル@アルミ様万歳

 くろすはアルミ様の全てを受け入れる覚悟があった……


345 名前:みょん@アルミ様万歳

 >>343 >>344

 全部見てた

 いやードM極まってたわ

 これからはくろす先生と呼ぼう


346 名前:ケースケ@アルミ様万歳

 これからは心を入れ替えて

 アルミ様に喜んでもらえるようなことをしようと思う


347 名前:nana@アルミ様万歳

 マジで何があったんだ……


× × ×


 島に戻り、室内に作った作業場に、ある美さんに貰った素材を広げる。その他、露店を回ったりモンスターから剥いだりして集めた布や糸、自分で作ったボタンやスタッズなど、必要なものをずらっと並べる。もちろん、全部最高級のSランクだ。

「おし、始めるかー」

裁縫スキルは、裁縫セットという特殊装備にのみ付けられるスキルだ。この裁縫セットも自作でき、やはりスロットが八つまで開くので、頑張ってSランクのものを作った。本末転倒のような気もするが、過程が楽しかったのでいいじゃないか。

 裁縫スキルを発動すると、持っているレシピの中から、今持っている素材で作ることができる装備の一覧がウィンドウに表示される。選択するとその工程が表示されるので、書いてある通りに作れば完成だ。

 裁断作業は、現実なら型紙を当てて型を写してその形に切り取るという手間が必要だが、さすがにそこまで現実的ではなく、広げた素材に予め切り取る部分が表示されているので、それに沿って裁てばいい。DEXステータスとSランク装備の補正で、そう力もいらない。便利なものだ。一見どうして行うのかわからないような作業にもきちんと理由があるのは、料理と一緒なので面白い。生産スキルの手順のあまりの細かさに、開発に変態がいるに違いないと言われたのも頷けた。

 そしてもう一つ。島の設置物の中に、ミシンがある。これは、縫う作業を半自動で行えるというもので、街の仕立屋の隅にも設置してある。従来なら、表示された線に沿って手縫いで行う作業をミシンでやるので、大幅な時間短縮が見込める。が、いかんせん仕立屋で使っていると目立ちまくるので、途中で邪魔が入ることを恐れてあまり使えていなかった。縫い目が線からずれると性能が下がるのだ。いつだったかある美さんに愚痴ったら、「その間だけ対人設定を切ればいいでしょう。馬鹿なんですか?」と蔑まれた。

 途中休憩を挟みつつ、作り続けること三時間。三着目の靴が完成し、Sランクの性能がついたのを確認して、

「できたー!」

俺は、ビーズクッションソファに背中から倒れ込んだ。トルソーに着せた三人分の服を見て、達成感を感じながら背伸びをする。ドレスシャツ&ベストに、歯車や金具の装飾を施したジャケット、大きなバックルの付いたベルト付きのボトムスに、革のブーツでカエデ装備一式だ。一応レシピには帽子もあるのだが、ヘッド装備は個性の出しどころでもあるので、実際に着てみた二人の意見を聞くことにする。ちなみに、俺のヘッド装備は、ユニフォームがカエデ装備に決まった時からゴーグルと決めている。

「しかし、父さんもよくこんなデザイン考えたなァ」

機械やロボットが好きなことは知っていたが、デザイン画を見せられるまで父が絵を描けることも知らなかった。最も近い存在でありながら、知らないことのほうが多いのだから、親とは不思議なものだ。そんな感慨に耽りながら、昼間の失敗を繰り返さないために、速やかにログアウトした。


× × ×


 四月二十七日。

 今日は寝坊せずに起きることができた。靴を確認すると、母も帰ってきているようだ。朝食は三人分か、と思ったら、

「おはよー……」

目をこすりながら、その母が起きてきた。

「おはよう。早いね、帰り遅かったんじゃないの?」

「うん、でもたまには家のごはんも作らないとねえ。一応、主婦が売りなんだし」

寝癖のついた髪をわさわさと掻きながら、キッチンに入っていく。

「けど弁当作らなきゃだし、ついでに半分作るよ」

エプロンを着けて隣に立つと、そう?と言って母は場所を譲った。

「じゃあ、私はお味噌汁作るね」

「ありがと。母さんも弁当いる?」

「じゃあ、もらおうかな」

「うぃっす」

弁当箱を二つ出して並べ、ミニハンバーグと茹でて冷凍していたほうれん草をレンジで解凍しながら、冷蔵庫から卵とベーコン、鮭の切り身を取り出す。俺がボウルに玉子を割っているのを見て、

「器用よねー、私、玉子片手で割れないんだなァ」

母は、味噌汁の具材を手際よく切りながら言った。

「手の大きさもあるんじゃないの」

母は手が小さい。リコーダーの一番下の穴に指が届かず、ギターのコードも押さえられないので楽器が苦手だと、ときどき愚痴を言う。そして、

「いつの間にか、大きくなって」

自分の手と俺の手をしみじみと見比べた。それから俺の顔を見て、不満そうに眉を寄せる。

「いい加減、顔隠すのやめなさいよ。せっかく可愛い顔に産んだのに」

「どうせならかっこいい系に産んでほしかったよ」

「いいじゃない、最近可愛い系男子が人気ってプロデューサーさんも言ってたよ」

「そうかなァ」

赤城がキャーキャー言われているところを見ると、そんなものはメディアの作り出した幻想か、プロデューサーさん自身の好みではないかと思う。溶き玉子を四角いフライパンに流してくるくると巻き、

「任せた」

「はいよ」

焼けたものをまな板に載せると、母はそれを一口サイズに切って、弁当に盛り付けていく。残りを朝食用の皿に盛った。

「ベーコンは?」

「ほうれん草と炒める」

「おっけー」

言うが早いか、ベーコンを細い短冊切りにして、バターを敷いた俺のフライパンに放りこんだ。続けて、レンジから出したほうれん草も放り込む。炒めている間に、母はミニハンバーグも弁当箱に詰めた。

「普段アシスタントさんにやってもらってることをするのも、新鮮でいいね。私が引退したら、佐藤さんちの夕ごはんの後継者は駆って言っとくわ」

「やめてよ」

できあがったほうれん草とベーコンのバター炒めをお弁当用カップに入れて小分けにし、弁当箱に盛り付けた。また、残りを皿に移す。鮭の切り身を焼き鮭にする頃には、味噌汁も出来上がっていた。朝炊けるように昨晩セットしておいた白米も弁当箱に詰めて、梅干を乗せたら、冷ましている間に朝食だ。

 テレビを点けると、朝のニュースは明後日から始まる変則ゴールデンウィークの話題で持ち切りだった。街頭インタビューで、レポーターが人々の予定を訊いて回っている。それを見て、母が申し訳なさそうに言った。

「ごめんねえ、どこにも連れて行ってやれなくて」

「いいよ別に。親と旅行する歳でもないでしょ」

「ちょっとくらい、寂しがってほしいなァ」

母のほうが寂しそうだ。

「てか、友達と遊ぶ予定があるから本当気にしないで」

「友達?珍しい、例のゲーム買ってやってから、休日に誰かと遊んだことなんかなかったじゃない」

「そのゲームで遊ぶんだよ」

五月になれば、対人戦エリアのアップデートが来るので、それまでにできる限りのことはしておきたかった。二人とも、予定を空けておくと言っていたが、人気者なので急に予定が入る可能性がある。五月半ばには中間考査があるので一週間前から部活休止。家でもプレイできるとは言え、真青は真面目に勉強するだろうから、プレイ時間が少なくなる。試験が終わったら、体育祭の準備が始まる。今度は間違いなく赤城が駆り出され、瞬く間に期末考査だ。三人が揃う時間は限られている。ゴールデンウィークが勝負と言っても過言ではない。

「そんなことだろうと思った。その友達って、ちゃんと実在してるんでしょうね」

「してるしてる。同じ学校の、すごいイケメンと美人だよ」

「え、女の子もいるの?」

「しまった」

口が滑った。隠さねばならないわけではないが、母がすっかり眠気の飛んだ顔で期待の眼差しを向けてくるのを見ると、この滑りやすい口が憎い。

「今度連れてきなさいよ。水曜日以外だったら、頑張って休み取るから」

「別に頑張らなくていいよ……」

何を期待しているのか知らないが、仕事に差し支えるようなことはしないでほしい。息子は残念ながら潔白だ。それに、イケメンもいると言ったのをすっかり忘れている。俺は味噌汁を飲みながら、母の追求を聞き流すに徹した。

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