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マイホーム

 マイホーム。それは、この狭い日本に住む者にとって、大きな夢と憧れの象徴である。

 もちろん、ゲームの中であっても、それは変わらない。


 「いらっしゃいませ」

不動産屋のドアをくぐると、NPCの女性がにこやかに出迎えてくれた。あまり広くない室内には、正面にカウンター、そして壁にはたくさんの額縁が掛かっていた。額に飾られているのは絵ではなく、有志が作った島がスライドショーで見られるようになっている。

「本日はどういったご用件ですか?」

「アイランドが欲しいんですが」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

案内されたカウンターの椅子に腰かけると、机の上にタッチパネルが現れた。

「まず、初期の土地を選んでください。後ほど変更することもできますが、変更の際には料金がかかりますので、ご注意ください」

NPCの説明と共に表示された三種類の土地を見る。芝生に覆われた緑の土地、赤い地面がむき出しの土地、そして石畳の土地。俺は少し悩んでから、芝生の土地を選んだ。

「初期状態のアイランドの広さは、約一坪になります。費用は、アイランド契約書が十五万S、土地の代金が三十万S、合計四十五万Sになります」

「おっけーでーす」

タッチパネルに表示された支払いボタンを押す。すると、画面の端に表示されていた450,000Sという数字がみるみるうちに減っていき、ちゃりーんと音がして0になった。俺の所持金から引かれたのだ。動く金額はでかいが、あっさりした契約である。

このままアイランドに移動しますか?」

「よろしくお願いします」

頷くと、不動産屋の景色が突然ブラックアウトし、フローリングの床が芝生に変わった。

「おおー」

空は快晴で、数歩進めば端まで行ける小さな土地の周りには、どこまでも穏やかな海が広がっていた。なるほど、アイランドだ。

 ヘルプを呼び出して確認すると、天候は季節に合わせてランダムで代わり、天気予報はテレビやラジオなどの家具を設置すればわかるようになる。この初期状態のままでも、海釣りは楽しめるらしい。

 まだ何もないが、これで、誰にも邪魔されずに生産スキルが使い放題。素材集めの続きをするかと、マザーグランデに戻る扉を出してドアノブに手を掛け、最後にふと殺風景な島を振り返る。

「……」

しばし葛藤する。そして、

「……カスタムしたい!」

俺は、自分の欲に忠実だった。

「とりあえず、家建てたい!」

ヘルプから、『家を建てる』の項目を探し出し、設置条件を調べる。それによると、家は十坪以上の土地がある場合のみ建てられるということだった。続けて『土地を広げる』の項目を見ると、土地は一坪増やすごとに十万S掛かるらしい。

「ハッハッハ、端金よ」

真青と赤城に聴かれたら引っぱたかれそうだが、生産廃をやっていると、所持金にはあまり困らない。更に、先のウヴァロ杯で貰った賞金も残っているので、貯金は結構ある。即座にメニューを開いて土地の追加購入を決め、一気に十倍に広げた。

「キャスト、ビーズクッションソファ」

説明を読むのが長くなりそうだったので、インベントリから、お気に入りの人をダメにするソファを出して座った。

「ふんふん、まずは一戸建てを建てて、そこから増築って形になるんだな」

そして、カスタムできるポイントを順に見ていき、キッチンの項目で手が止まった。

「ゆ、夢のU字型システムキッチン……!」

思わず涎が出そうになった。

 母の影響で幼い頃から料理が好きで、自分で家を建てたら絶対広いキッチンを作るのだと、ずっと心に決めていた。マゾスキルと呼ばれる料理スキルを極めることにしたのは、もはや必然と言える。中には実際のレシピと変わらないものも多く、開発の中に、料理にこだわりがあるスタッフの存在を感じた。

 家の購入メニューに進むと、間取りを決めるパネルが開いた。キッチンをできるだけ広く取り、リビングダイニングと、その他お生産スキルを使う作業部屋に区切る。風呂やトイレが必要ない分、なんだか殺風景な気がする。もちろん、好みでそれらを付けることもできるらしい。実際に用を足すことはできないが、トイレの狭い空間で読書をするのが好きという人種もいるので、必要なプレイヤーもいるのだろう。風呂は、実際の身体は綺麗にならないにせよ、湯に浸かる感触はあるので、楽しいかもしれない。

 などと考えながら、表示された金額は百二十万。お手頃だ。即座に決済すると、

「おおおお?!」

ただの芝生だった地面がもやもやと動き出し、気がつけば壁に囲まれたフローリングの上にいた。リビングダイニングに指定した部屋だ。まだ何も置いていないのでただただ広く、声が反響するのが面白い。というか、そんなところまでリアルなのか。

「キッチン!」

俺は未だかつてない素早さで立ち上がり、勢い良く隣の部屋に繋がるドアを開けた。何のカスタムもしていないので、木製の台が配置してあるだけだが、最低限のコンロと流し台はある。

「うわぁぁぁああ家建てて良かったあああああ」

そのまま現実の日付が変わるまで、俺はひたすら、夢のマイホームをいじり倒してしまった。


× × ×


【ドM】×くろす×目撃スレ【マザーグランデ最強?】

52 名前:オリバー@とーすとうめえ

 トルマリのカフェでAluminum*様と喋ってた

 何か仲良さげでくそうらやま


53 名前:まる@とーすとうめえ

 同じくトルマリ

 なんか露店一つ一つ見て行ってたぽい


54 名前:モイ@とーすとうめえ

 >>36

 マジかよ 俺もかぐや姫とお近づきになりたい


55 名前:よっぴー@とーすとうめえ

 ×くろす×ってかぐや姫と仲良いの?


56 名前:マオマオ@とーすとうめえ

 >>Aluminum*様ときいて


57 名前:よっぴー@とーすとうめえ

 >>56

 呼んでません


58 名前:オリバー@とーすとうめえ

 さりげなーく聞き耳立ててみたりしたけど

 あのcoolなアルミ様と普通に会話成立してて旋律


59 名前:まっする@とーすとうめえ

 >>58

 奏でんな

 もしかしてくろすの装備ってアルミ製か?


60 名前:マオマオ@とーすとうめえ

 >>59

 様をつけろよ略

 あるみ様製とか羨ましすぎて禿げる…どうやって仲良くなるんだ


61 名前:†暗闇†@とーすとうめえ

 >>58

 会話の内容どんな?


62 名前:オリバー@とーすとうめえ

 >>61

 近寄ったら殺されそうだったからあんま聞こえなかった

 でもくろすがアルミ様口説いてる感じだった

 うなじが綺麗な美人がどうとか


63 名前:マオマオ@とーすとうめえ

 >>62

 アァ?!?!?!?!

 そんであるみ様はなんて?!?!


64 名前:オリバー@とーすとうめえ

 >>63

 落ち着けよ

 気持ち悪いつってたけどまんざらでもなさそうだった


65 名前マオマオ:@とーすとうめえ

 >>64

 しんだ


66 名前:よっぴー@とーすとうめえ

 >>63

 しんだところでスレチだからアルミ板に帰ってどうぞ

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