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×(カケル)青春オンライン!  作者: 毒島リコリス
一章

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12/118

弱点は光

 攻略サイトも参照しながら、石の配置について研究し始めた真青の後ろ姿を見て、勉強熱心だなあと感心する。好きなことなら勉強も厭わないというのは、オタク気質の人間全てに言えることだが、彼女も実はそちら寄りなのかもしれない。

「俺も、試しに何か別の武器使ってみるかなあ。佐藤、何か案あるか」

赤城はあくびをしながら、そう訊ねた。

 彼の戦い方は、真青に比べてかなりバランスがいいので、これといって俺が提案できることはない。下手に弄って崩れるようなことがあっても困る。少し考えて、

「大剣以外の、近接武器を試してみるのはアリじゃない?」

大剣は一撃の威力が全武器種中トップだが、素早さに難がある。片手剣は、威力は落ちるがもう片手に盾を持てるので防御力が上がるし、刀は防御力に不安が残るものの、威力が大剣に次いで高い上、スキルの多彩さにも定評がある。武器によって特性が違うし、使ったことがあると、相手にしたときの対処も思いつきやすいので、色々な武器に触れてみるのは大事なことだ。

「なるほど。後で動画でも見てみるか」

ウェブ上には、動画サイトにプレイ動画が数多く上がっている。くろすが戦っている動画も、自分では載せたことがないのにゴロゴロ出てくる。時々、それらの動画を研究して勝負を挑んでくるプレイヤーもいるが、そう簡単に負けてやるわけにはいかない。

「あとは……スキルを見直してみるとか。モンスター相手とは有効なスキルも違うから」

「オススメは?」

タートルかな。魔法スキルだけど、INTじゃなくてMDF(魔法防御)依存だから、壁剣士なら十分な硬さが出ると思う。魔法も物理もある程度防げて勝手がいい」

魔法スキルは、杖を装備していると多少威力にボーナスが付くというだけで、どの武器を装備していても使うことができる。というか、とーすとのスキルは概ねそんな感じだ。何なら、ハンマーを振りかざして真空刃を放ってもいいのだ。

「盾か。そういや、あんま気にしたことなかったなあ」

なんせ、通常のモンスターが相手の場合は、相手の攻撃を防ぐより火力で殴ったほうが早く片付く。

「盾なら、MDF+30の予備持ってるよ。巧にあげるよ」

ノートの上で、ああでもないこうでもないと仕入れた情報をこねくり回していた真青が、言うが早いか顔を上げて、画面の中のタクミにトレード申請を出した。本当にフットワークが軽い。

「助かる」

タクミが石を受け取ると、真青はまた、ノートに目を落とした。

 赤城も同じように攻略サイトを確認し始めたので、俺も自分の席に戻る。しかし、考えることは戦略ではなく、大会用のサブアバターのことだった。

 ランクに関しては、二十九日からの二連続三連休もあることだし、それなりになるだろう。問題は、名前と外見だ。先ほどの有意義な会議で、テーマカラーは白ということまでは決まっている。ここはひとつ、こてこての追加戦士っぽさを追求するべきか。などと、二人とは違う方向で真剣に検討する。やっぱり、銀髪に赤目が定番だろうか。そうなると、ネタに走るよりも、少しラフでクールな印象を与えるアクセサリーのほうがそれっぽい。眼帯や包帯はさすがにやりすぎだろうか。目元を覆う装備は、見た目にそう見えるだけで、実際いは両目でクリアに見えるところが面白い。

「ねえ、佐藤君。……佐藤君、なんか楽しそうだね」

「えっ?!いやァ、はは……」

不意に話しかけてきた真青に、ニヤニヤしているところを思いきり見られた。夢中になると周りの環境のことを忘れてしまうのは、悪い癖だ。またしても死にたい気持ちになりながら、なるべく普通の顔をして訊き返した。

「なにか、御用でしょうか」

「今持ってる石の配置を変えてみたんだけど、どうかな」

試しに、マサオの装備を改めることにしたらしい。俺はゴーグルを一旦上げ、真青の画面に表示された装備一覧を覗く。と、今までバラバラに配置されていたINTや魔法攻撃スキルが杖にまとまり、見やすくなっていた。他のステータスについても、比較的見た目に響かず入れ替えやすいヘッド装備に魔法の命中率を左右するDEXを入れるなど、真青なりに考えていることが窺えた。

「いいんじゃないかな。まあ、俺も人並みにしか詳しくないから、実際に使ってみて、やりやすいように調整していくのがいいと思う」

「うん」

と、頷いて俺の顔を見た真青が、ゴーグルを上げた。大きな丸い目が更に丸くなる。普段あまり人と目を合わせないので、見つめられるととても怖い。

「な、なんでしょうか……」

じわじわと遠ざかり、目をそらしながら、俺の顔に何か付いているだろうかと手で顔を隠す。すると、真青は俺の手首を掴み、無理やり俺の顔を覗き込んできた。

「佐藤君、そんな顔してたんだね?!」

側溝の蓋をどかしたらザリガニを見つけたような、無邪気な笑顔で真青が言い、

「ひっ」

俺はノーガードで光魔法を受けて、呼吸の仕方を忘れた。

「何してんだお前」

尋常ではない俺の様子に気付いた赤城が、真青の首根っこを掴んで引き戻してくれなければ、灰になって消えるところだった。必死で酸素を取り込んでいる俺をよそに、赤城のぞんざいな扱いに真青が口を尖らせる。

「佐藤君、いつも前髪で目が隠れてるから、髪上げてるところ初めて見たんだもん!巧は驚かないの?」

「むしろ、さっき初対面で前髪長えって驚いたわ」

左様でしたか。ヘッドセットとゴーグルを着けると、ゴーグルに前髪が挟まってゴワゴワするので、ヘッドセットをカチューシャのようにして前髪を上げるのだ。目元なんか、ここ数年親にも見せていないのに、と、裸を見られたような恥ずかしさを覚えて、俺は慌ててゴーグルを戻した。

「いつも、前髪上げてたらいいのに」

「何をおっしゃいますやら……。別に、良いものでもないでしょう……」

「結構カワイイと思うよ?」

久しぶりに直視した他人の目が、よりによって超強力な真青の目だったものだから、まだ手汗と動悸が治まらない。なんと油断ならない生き物だ。

 俺は、掴まれた感触の残る手首をさすりながら、椅子ごと真青から遠ざかった。

「おら、時間ねえんだろ。持ち場に戻れ」

「はぁーい」

真青を追い払う赤城が、俺のほうを見てにやっと笑ったのが怖かった。

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