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二対一

 グラウンドで対峙する蘇芳、ライム、そしてモイの耳に、不意にシステム音声が響いた。

『戦闘不能、†暗闇†』

瞬間、モイが地を蹴った。狙われたのは、正面で構える蘇芳ではなく、その背後で援護に回るべく慎重に距離を取っていたライム。

「来ると思った!」

仲間を労う暇もなく襲い来る拳を後ろに下がって避け、距離を詰められないように矢を放つ。が、真っすぐに向かってきつつ、矢の腹をパンチでへし折るという器用なことをされて、思わず舌打ちした。

「キャスト、真空刃カマイタチ!」

「キャスト、タートル

「キャスト、千重波ドルフィンっ」

蘇芳が放ったスキルは盾に防がれ、その隙に今度はライムが攻撃に回るも、巨体をくるりと反らして避ける。モイは完璧に、一人で二人を捌いていた。蘇芳とライムが実力の差を感じて歯噛みしているところに、USAGIから追い打ちの一報が入った。

「おい、せくめとが動き出したぞ」

「はあ?!このタイミングで?!」

蘇芳の苛立つ声に、ライムがため息を漏らす。

「せやろなあ、向こう、残り二人やもん。いい加減ポイント取らんと厳しいやろ」

それまで裏山から動かなかった戦神が動き始めたとの知らせを受けて、にわかにパーティーチャットがざわめく。

「ナル、今どこや」

ライムは、執拗に狙ってくるモイの太い腕を紙一重で避けながら訊ねた。

「もうちょっと粘って!」

課金アイテムが使えない縛りの中では、フィールドの外周を走る電車からフィールドの中心にあるグラウンドへ駆けつけるのに、それなりの時間が掛かる。暗闇が頑なに電車の上でナルを仕留めようとしたのには、負けたり取り逃がした場合にも、ナルと仲間が合流するまでの時間をできる限り引き延ばすという目的があったわけだ。

「ルリは?」

「二人が見える位置にいるよ!私も出たほうがいい?」

未だ迷彩で姿を隠したまま、ルリは二人とモイの攻防を見守っていた。

「いや、そこにいろ」

「まだ待機!」

「うん、俺もそれがいいと思う」

「わかった……」

口々に言われ、ルリはひとまず現状維持に努める。まだ何も貢献できていないことが歯痒いのか、声にそわそわとした様子が伺えた。とは言え、こちらが既に二ポイント先取している以上、隠れ続けて最後まで逃げ切ってもいい。わざわざ的を増やしてやることはない。それが、チームの意見だった。

「今やったら、実質三対一みたいなもんや。いけっ蘇芳!」

「モンスターみたいに言うんじゃねえよ。行くけどさあ」

至近距離での攻撃を仕掛けてくるモイと弓を装備したライムでは相性が悪い。かと言って、武器を交換できるような時間は与えてくれない。蘇芳が無理やりにでも横入りして、モイとライムを引き離す必要があった。

「キャスト、跳躍ラビット!」

「キャスト、加速チーター!」

大きく後ろへ跳んだライムを追おうとしたモイを足止めするように、加速の勢いをつけた蘇芳が斬りかかる。刀身をグローブで受けた瞬間に、後方からライムが立て続けに矢を放つ。

「つええな、クソ」

蘇芳の攻撃を受け止めながら、ライムの矢からも身体を反らし、致命傷には程遠い細かい傷に留めるモイを見て、本人には聞こえないように蘇芳が漏らした。

「当たり前やん。うちも、モイに勝ったことあらへんもん」

「マジかよ?!早く言え!!」

勝算があるのだとばかり思っていたライムがしれっと漏らした衝撃の事実に、蘇芳は思わず振り向いてしまった。と、それを待っていたかのようにモイが距離を詰めてきて、再び攻防が始まる。

 打撃を凌ぐだけで精一杯の蘇芳は次第に喋らなくなっていき、一方のライムはそれでもニヤニヤと笑ったまま、距離を取って援護射撃に回る。

 「慣れてきたな」

観戦席で、USAGIが鼻を鳴らした。

「そうにゃんねー。若者の成長は目覚ましいにゃん」

たい焼きの尻尾を口に放り込みながら、みい子も頷いた。


 そして。

「おいライム、提案」

一旦距離を取る形になり、睨み合いながら蘇芳がようやく口を開いた。

「言うてみ」

ライムが耳をぴんと立てて先を促す。一対一会話でとある作戦が伝えられ、

「……えっぐいこと考えるなあ、アンタ」

ライムが呆れた。蘇芳はモイから視線を逸らさず、じりじりと間合いを計りながら訊ねる。

「乗らないのかよ?」

するとライムは、ニヤア、と心底悪そうな顔で笑い、

「乗るに決まってるやん」

即答した。

「それでこそ!」

瞬間、蘇芳は真っ直ぐにモイ目掛けて突っ込んだ。再びグローブと刀が交わろうとした、その時だった。

「キャスト、閃光弾!」

蘇芳の手のひらから刀が消え、代わりに眩い光を放つボールが現れて砕けた。突然の眩い光に、さすがのモイも動きが一瞬鈍くなる。蘇芳はその隙をついて巨体の横を擦り抜け、

「キャスト、粘網スパイダー

ほぼ同時に、ライムの弓からは粘着力のある網が放たれた。

「やれ、ライム!」

粘網を避けようとしたモイを、蘇芳が後ろから羽交い締めにする。

「キャスト、デスサイス!」

現れたのは漆黒の大鎌。

「えっ、ちょっと、まさか――」

どこかから見ているルリが慌てた。

「そのまさかや!キャスト、真空刃(カマイタチ)!」

仲間もろとも切り裂く刃が、巨体を襲った。


 が、しかし。

「キャスト、刺突(カジキ)!」

ライムのスキルが届く直前、モイの胸から槍が生えた(・・・・・)

『戦闘不能、蘇芳』

『戦闘不能、モイ』

「うっそやん……」

聞こえたシステム音声の順番に、ライムは構えることも忘れ、半笑いで声を漏らす。

「マジかあ……」

蘇芳も、はは、と力なく笑う。

「仕方ねえ、後は任せた」

「……」

 光となって消える二人の向こうには、

「悪いな、これ以上ポイントはやれねえよ」

不敵に笑う、せくめとの姿があった。

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