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百鬼夜行

 フィールド選択権はじゃんけんで決めるのが百鬼夜行のしきたりなのだそうで、百鬼夜行チームの他のメンバーが集まる間に決めることになった。そして、ライムが見事に権利を勝ち取ってきた。

 フィールドや条件の細かい設定など、打ち合わせをしていると、

「よう」

「先生!」

ウサ耳紳士がコロセウムの出入り口のほうからひらりと手を挙げて歩いてきた。校内戦の時のナビゲートが非常に助かったので、ダメ元で呼んでいたのだ。

「急に来てもらっちゃって、すみません」

「気にすんなよ、一応顧問だからな。せいぜい面白い試合にしてくれ」

にやにやと笑っていた。らぶぃくんイベント終了と共にタイムアタックの最終順位が発表され、彼の元に王冠が届くはずなので、今のウサ耳ハット姿とはそろそろお別れかもしれない。

「あれ?商店街じゃん」

「俺は商店街じゃねえ」

せくめとさんとウサギ先生は知り合いのようだった。

「商店街の濃縮還元みたいなもんだろアンタ」

「妖怪の親玉がよく言うぜ」

「お?やるか?」

訂正、とても仲が良いようだ。二人が言い合っている横で、パーティ会話で話し合う。

「リーダー、作戦は?」

「とりあえずこないだと一緒で」

この間と一緒、ということは、ひとまず二人は合流重視、開始五分は俺は手を出さないということだ。毎日のように手合わせしているライムはさておき、百鬼夜行相手に蘇芳とルリがどこまで通じるかわからないが――まあ、負けから学ぶこともある。

「ライムはどうする?」

「せやなー、うちも合流しよかな。パターン知られとるし、単独で狙われたらきっついわ」

「オッケー、集合場所は?」

「グラウンドがええんちゃう?拓けとるし、真ん中やからどこに飛ばされても集まりやすいやろ。もしその前に合流できそうやったらそっち優先で」

予定通りに行くわけがないことは全員が重々承知しているが、一応、集合場所は決めておかねばなるまい。イリーガルが起きたら、その度に対処するしかない。

「大丈夫だよ、ただの練習試合だし。気楽に行こう」

不安そうな顔をしているルリにそう言うと、

「そうだね」

少し緊張がほぐれたのか、笑って頷いた。


 「お、来た来た」

せくめとさんが、入り口に向かって大きく手を振る。

「ボス、呼び出し急すぎるよー」

「そうだよ、せめて一時間後とかさあ」

「……」

ぞろぞろと連れ立って現れた面子には、なんとなく見覚えがあった。

 金髪を縦ロールにして、白とピンクを基調としたフリル過多なミニドレス、いわゆる甘ロリファッションの少女と、反対に黒とシルバーを基調としたゴツめの装備で、背中に黒い羽の生えた少年。そして、上半身と下半身のバランスがおかしい褐色筋肉ダルマの大男。ボタンの留まらないデニムのベストを着ており、インナーを着ていないように見えるが、実はベストがインナーで、腰に巻いているチャンピオンベルトがアウターだ。余談だが、腰に巻くだけでなく肩に掛けることもできる。

「あ?予定合わないんなら別に来なくて良かったんだぞー?」

「そういうわけにはいかない」

可憐な甘ロリが、外見に似合わぬ凶悪な笑みを浮かべた。それを聞いて、だろー?と返すせくめとさん。百鬼夜行という集団を端的に表す会話だった。

「左から、マユたん、くらら、モイ」

「ちゃんとアバター名で紹介しない?」

杜撰な説明にそう突っ込んだのは、くららと紹介された黒ずくめの少年。マユたんの正式なアバター名は眞柚良まゆらだった。モイはそのまま。極端に無口で、静かに他のメンバーの姦しい言い合いを聴いていた。

「なんだ、くららって暗闇くんのことかァ。どんな美少女が出てくるかと思ったら」

「ん?俺のこと知ってるのか?」

くららもとい、アバター名『†暗闇†』とは、ウヴァロ杯本戦で当たった。研究者肌なので、かなりやり辛かった覚えがある。

「やればわかるってさ」

せくめとさんに言われ、

「ふーん」

暗闇は、犬歯を見せて笑った。


× × ×


 前から話し合っていた通り、今回のフィールドはまだ実装されて日が浅い、宝石学園フィールド。天候はオーソドックスに晴れ。

 『フィールドに転送します。転送十秒前――……』

システム音声に送り出され、俺が降り立ったのは、

「げっ!」

「どうした」

「住宅街のすっごい端っこだ……」

学校の東側に広がる、近代的な住宅街の郊外だった。あまりの作り込みの良さに、一瞬現実世界に戻ってきたのかと錯覚する。

「マジかよ」

迷彩で即座に身を隠し、辺りを窺いつつ住宅の屋根の上を一直線に学校方面に向かいながら、俺は訊ねる。

「皆は?」

全員迷彩を使っているので、メンバーのアイコンがマップ上に映らない。

「うちは学校の裏山や。視界悪いの勘弁してほしいわ」

ライムの位置は俺ほど遠くはないが、足場の悪い斜面を下って、学校の敷地を横切らなければならない。

「俺は学校の体育館」

「私、西側の踏切のあたり。遠いなあ、グラウンド」

ルリが、俺と正反対の場所にいる。学園エリアは近代日本の街並みなので、電車が走っているのだ。フィールド全体を囲むように敷かれた線路の上を、二両編成の電車が十五分で一周するつくりになっている。

「まあ、なんとかするしかない」

「せやな」

ライムも、事も無げに頷いた。あまり初期位置は良いとは言えないが、この程度の不都合を巻き返せねば、大会に出ても結果は見えている。

「頼もしいねえ」

傍観者が笑う声を聴きながら、俺は走り出した。

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