願い
でも、約束はあっけなく破られた。
それから間もなく、私は死の淵に立っていた。
死に直面しているにも関わらず、頭の中にあったのは、彼との約束だけだった。
誰か…
誰でもいい、
何でもいい。
何を犠牲にしてもいい。
どうか…
もう最期の灯火が消えようとしたその時、
その「声」は不意に頭の中に響いた。
「最期の願いにしては面白い」
嘲るような、からかうような、
若いのか、年老いているのか、
男なのか、女なのかすらわからない、「声」。
「来世に記憶を引き継ぎたいとは稀有な奴だ」
「声」は続けて言った。
「人の輪廻は魂の研磨だ。生まれ変わる毎に削られて前の記憶を失っていく」
魂の研磨。
「声」は確実に来世があると知っているようだった。
「来世に記憶を引き継ぐためには、削られるよりも深く魂に傷をつけなければならない」
それはごく自然な口調で語られた、何よりも魅力的な提案。
魂に深く記憶を刻み込むことができれば、彼との約束を果たすことができる。
「ただし、魂ももちろん影響を受けないわけがない。
少しずつ減るはずだった魂の寿命を大幅に削ることになる」
「声」は確かめるように、ゆったりと言葉を紡いでいく。
「それでも、願いは変わらないか?」
「もちろん」
ありったけの命のかけらを集めて答える。
「それ以外に望むものはない」
「声」がかすかに笑った気配がした。
「どうせ退屈な世界だ。お前の願いの行く末を見てやろう」
その言葉だけを頼りに、私の命は途絶えた……




