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Wild Flower  作者: 朽葉 周
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005 そろそろ装備を用意せんとな

「そろそろ装備を用意せんとな」





ババ様の小屋に間借りさせてもらい始めて、既に二週間。

最近森の“中”でのハンティング、あるいは上位の魔物から隠れるスニーキング、獲物を追い詰めるトラッキングなどの技術を学んでいた。

本来なら猟師の技術らしいのだが、これは色々役に立つ、ということで、色々と汎用性の高い心霊術を応用した心霊術版の各種技術を学んでいたのだ。

今の俺なら、肉眼で千里を見渡し、闇を見抜き、気配を感じ、逆に此方が闇に溶け込む、なんて真似も出来る。それハンターじゃなくて暗殺者、ってツッコミは不要な。

でだ、ソレにあわせて自己流心霊術――超能力の開発も行なっている。

現在の俺の超能力は、たぶんほぼ何でも出来る。さすがに時間を巻き戻したりは出来ないが、多分一瞬くらいなら止められるんじゃないだろうか。実際やってみたところ、文字通り死ぬほど疲れて一瞬止められたかどうか、と言う程度。本当に止められたのかもわからないほどの一瞬。その後疲れすぎて死掛けて、慌ててオーラを回復させたのだが、やっぱりそういう高等技術は基礎を確りやってからでないと自殺行為っぽい。

ただ、テレポートはかなり使えるようになってきた。とはいえあくまでも短距離ジャンプに限定される。長距離ジャンプは多分出来るが、目的地もないし失敗が怖いので試していない。長距離ジャンプは目的地の気配を掴まなければならないのだが、今の俺だとどうしても気配を掴むのに少し時間が掛かる。ショートジャンプは主に戦闘時、相手の周囲を飛び回ったり、鞄の中から荷物を瞬時に取り出せたりと色々便利だ。


で、相変わらず器用貧乏という表現がぴったりな感じでスキルを伸ばしていた俺なのだが、いつものように森の中での自己修練を終え、獲物の角の生えた兎――イッカクウサギを手に、ババ様の小屋へ戻ってきたところで、ババ様にひょんなことを言われたのだ。

「装備って、鎧とか?」

「鎧もそうじゃが、鞄とか、靴とかもそろそろ買わねばなるまい?」

そういってババ様は俺の姿を指差してみた。

今現在の俺の格好は、学校の黒い学ランの上下、その中に白いシャツ、といった極普通の格好だ。日本では、と付くが。

「この先更に訓練を続けるのであれば、矢張りある程度の防具は必要じゃろうし、それ以前に衣類もそろそろ買わねばならんじゃろ」

「衣類って、一応浄化でいつも洗ってるんだけど、臭い?」

そう言って心霊術の“浄化”を使ってみせる。オーラを使い、不浄を祓うという術なのだが、これが風呂要らず洗濯要らずと、かなり便利な技だったりする。戦闘には使えないけど。

「臭くは無いんじゃが、もうボロボロじゃろうが」

言われて見て見れば、確かに学ランは所々ボロッちくなっている。心霊術には、オーラを身体に纏うことで防御力を上げる、と言う術が有るのだが、俺はババ様に「痛みを持って覚える」方式での訓練を促されていた為そんな上等なスキルを使うことは許されず、常にヒーリングを常駐させていた。その為学ランは魔物に噛み付かれたり切裂かれたり刺されたりと、文字通りボロボロになっているのだ。

「まぁ仮に衣服は変えんでも、最低靴は変えんとの」

「あー……」

俺がこの世界に召喚されたとき、俺は学校に居たのだ。ウチの学校は基本指定された学ランを着ていれば、派手でなければ靴は何でもいい、と言う学校で有った為、俺の靴は白いスニーカーをはいている。

が、このスニーカーは基本的に街歩きの為の靴だ。オーラを得て、森の中で馬鹿げた運動量を続けている現在、靴底は既にぺらぺらに磨り減っていた。

「でも、靴って合うのを探すの、案外大変だと思うんだけど」

「心配無いわい。近場で市をやっとるらしいからの。ダンジョン品の靴でも買えばよかろう」

「ダンジョン品?」


疑問に思ってババ様に話を聞いてみたところ、この世界にはダンジョン、地価迷宮が存在しているらしい。またファンタジーな、と思わずぼやいた俺は悪くない。

で、このダンジョン、古の魔神が作ったととか神が人に与えた試練だとか竜族の暇つぶしとか言われている代物で、その中には階層が深くなれば深くなるほど強くなる魔物と、その迷宮の各所に置かれた様々な道具が存在しているのだ。

深く潜れば潜るだけ、より強い魔物と出会うが、その代り優れた武具に出会える確率が上る、と言うわけらしい。

で、そんなダンジョン由来の武具には、一つ変わった性質がある。それが、オートアジャストと呼ばれる機能だ。

極々簡単に言って、自動調節機能。たとえば靴。ダンジョン内の浅い階層でドロップするアイテムらしいのだが、この靴基本は大人向けのサイズをしている。ところが、コレに子供が脚を差し込むと、その途端子供の脚のサイズに合わせて靴が変化するのだという。逆に脚のサイズのほうが大きかった場合にも同じ事が起こるらしい。他にも、剣や槍の重心だとか、そんなモノもある程度は重心が自動で調節されるのだとか。無論オートアジャストには限界があり、本当に武器を確り使おうと思えば、専門の職人の下で確りとした調整を施す必要があるのだが、上級の武器防具ならともかく、低階層で数多くドロップする靴を買う、と言うので有れば、その性能は十分と言えるだろう。

「と、言うわけでダンジョンの街、アッカーへ行くぞ」

「りょーかい」

説明を終えたババ様。その指示に従い、俺も即座に準備を始めた。とはいえ基本着の身一つしかない俺の準備といえば、荷物を運ぶ為の鞄を背負うくらいしかないのだが。

「よし、では行くぞ」

と、此方の準備が終わったと見届けたババ様は、そう言いながら、全身から銀色に輝くオーラを放ち始める。

――まさかこれは――ッッ!!

「転移、アッカー!」

瞬間、俺の視界は銀色の光に包まれ、綺麗さっぱりその場から消えうせたのだった。




「転移するならするって言ってよババ様」

「すまんすまん。然しいい経験じゃろ?」

言われて、苦々しくもババ様の言葉に頷く。

ババ様が装備を買う為の街、アッカーに移動するための手段。それは、俺が未だ試すに試せていない、心霊術の大技の一つ、テレポートによる長距離移動だったのだ。

多分自分でも使うことは出来る、とは思っていたものの、然し現在この世界で俺が知っている土地というと、召喚されたお城の儀式場とババ様の森くらいしかない。その程度の距離であれば、長距離転移をする必要もなく、ショートジャンプで事は済んでしまうため、今まで試した事は無かったのだが。

実際、ババ様に連れられてこの街まで長距離ジャンプを経験して、漸くわかったことが一つ。

「……今の俺じゃ出力不足だな」

「む、其処まで解りおったか。やはり勇者というのは違うの」

ババ様の長距離ジャンプを経験してわかったこと。それは、今現在の俺のオーラでは、出力が圧倒的に足りていない、という事。


ババ様の講義曰く、この世界はたゆたう混沌の海の上、その水面を泳ぐ泡のようなものなのだという。

心霊術によるテレポート。これは、いわば泡の内側を飛び越えて目的地に移動する手段なのだとか。出実際ソレを経験したことで、俺はババ様の言う混沌の海というモノを実感として感じ取る事が出来ていた。


なるほど、世界を渡る『門』を開くことは出来る、と言うババ様の言葉はそういう事なのか。要するに門を開くというのは、『テレポートによる移動と同じ』事なのだ。大まかには、ではあるが。

例えるなら――同じ空を飛ぶ技術でも、地球の中を高速移動する飛行機と、別の惑星まで行くスペースシャトルくらいの違いはあるが、共に大規模高速移動手段という点では同じ、なの、かな???


まぁ要するに、このわけの解らない例えで行くと、現在の俺は小型の自家用飛行機。ババ様は軍用ジャンボジェット輸送機ぐらいの能力を持っている。

此処から俺は、まず何とかして宇宙を航行できるスペースシャトルにまで進化する必要があるのだ。

その事を理論的には大雑把に理解していた俺だったのだが、こうして長距離転移を実際にその身を持って味わう事で、いわば超高高度飛行で擬似的に宇宙体験をした観光客の如く、身を持ってその凄まじさを実感したのだ。


「まぁ、出力だけならば幾らでも補い様はある。それこそ城の連中と同じく地脈でブーストするなり、という方法もあるでな」

「……あぁ、その方法もあるのか。でもそもそもの話、そのエネルギーを扱えるだけの技術力を得なきゃ成らないわけでしょ」

「ま、そうじゃの」


とはいえ収穫は大きい。

俺が元居た世界に変える為の手段、『世界を渡る方法』。その、この世界から出る手段はオーラの出力を上げればいい。世界の外側『狭間の世界』を渡るのも、このまま心霊術の技術を磨けば多分なんとかなる。最大の問題点として、もといた世界の座標を調べる手段が無い、というのがあるが、それはまぁこの世界の『カミサマ』とやらを探して、その存在に座標を教わるなり、ソレを調べる手段を教わるなりできればいい。

正直やるべき課題は凄まじく難しい物だが、然し道筋としては明白なのだ。超人的に心霊術の腕を磨く必要がある、というかなりの無茶振りではあるが、何をすれば言いのか判らないという手のつけようも無いような状況ではない。ある意味『順調』と言っても問題は無いだろう。

「と、ほれハルカ、考えるのは帰ってからにせんか。アッカーの市もあいとる時間は決まっとるんじゃぞ」

「あ、りょーかい」

ババ様に言われて視線を上げる。確かに、考える事は何時でも出来るのだ。ならば今は、折角街にまで出てきたのだし、其方を優先するべきだろう。

「では行くぞ」

そういって歩き出すババ様。その背中を追って俺も歩き出したのだった。



■トラッキング

雷電が2と4の間に習った技術。面倒くせぇ……。

■イッカクウサギ

鋭い角を持って突撃してくる魔物。

味は普通の兎と同じで鶏肉っぽいらしい。

■ダンジョンアイテム

ダンジョンのアイテムは拾って直ぐ装備できる。

■たゆたう混沌の海の上、その水面を泳ぐ泡

私の聖典はスレ○ヤーズ。


最近ハードで死ねる。

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