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Wild Flower  作者: 朽葉 周
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003 ライフ


「最初は、おぬし、なんぞ武術はやっとらんのか?」

「武術……サバゲを少々」

「さばげ? 鯖?」

ババ様の可愛らしいボケに和みつつ、突っ込み不在のこの空間を如何乗り切るべきかと頭を悩ませる。



俺も日本の平凡な男の子だ。銃器、というモノに対するちょっとした憧れのような感情は存在していた。

鉄のギミック、はじける火薬、撃ち出される鋼の弾丸。そんなモノに憧れた事が無いといえば嘘になる。

で、憧れた結果がサバゲーへの参加だ。その昔、サバゲーの普及を推進する団体さんのやっている、素人向けのサバゲーイベントとかに参加して、暫らくサバゲーに参加していた時期があるのだ。

エアーガンから飛び出る小さなBB弾。不思議と俺はその弾道、というか、何処に向けて撃てば誰に当る、と言うのが何となく解ってしまう。当時の俺も隠れた才能の開花か!? などと調子に乗りつつ、然し自然と学業が忙しくなるにつれてイベントとは離れるようになった。

「つまり、飛び道具を用いた遊びなんだね、そのサバゲーというのは」

「どちらかと言うとスポーツ……実戦を模した運動、かな?」

「ふぅむ……然し、ならお前さんの浄眼は元々の才能だったわけだ」

ババ様の言葉に首を傾げると、ババ様は机の上で手を組み、いつもの講義の体勢に入った。

曰く、この世界に召喚される勇者。その勇者というのは須らく何等かの優れた力を持っているが、これは別に彼らに後付けで能力が付与されている、と言うわけではない。

事の絡繰は、勇者達が異世界からの渡り人である、と言う点にある。

世界を渡り異世界に渡る際、当然その狭間――世界の狭間とも呼べる、何も無い空間を通る。この空間を通る事こそが、勇者の力の秘密なのではないか、とババ様は考えているのだそうだ。

この狭間の空間は、世界では無い。文字通り世界の外側。何も無い空間なのだ。

少し話を変えるが、例えば密閉された袋を高い山の山頂に持っていくと、中の空気が膨張し、場合によっては密閉された袋が破裂するという事もある。

これは中の空気が増えたのではなく、外部の空気が薄くなった事で、袋に掛かる気圧が変化し、結果中の空気が外側に引っ張られる、という現象だ。

ババ様は、勇者召喚においてもこれと似た現象が起きているのではないか、と推測した。

つまり、『世界という平地』から突然『世界の狭間という高山』に引っ張り出された勇者は、その時点で内側の力――魔力や闘気を含む、あらゆる力が一気に肥大化させられる。そうして肥大化した状態で異世界に投げ込まれる事で、その肥大化した状態――つまり才能が増幅された状態で安定してしまうのではないか、と言うのがババ様の予測なのだとか。

まぁこの表現はあくまで独自の解釈による物で、ババ様の語り口調だと「限界法則を超越したいわば無界論理、まぁ論理すらない世界なんじゃろうが――の無圧によって膨張した内なる器、これが連続的な世界間移動による刺激により不安定化し、更に召喚の術式を通る事で何らかの影響を受け、変質した状態で安定化してしまうことにより、常人をはるかに上回る勇者と言う存在として安定するのではないか~」云々と馬鹿みたいに小難しい表現になる。


「まぁいい。ではおぬしは飛び道具は多少扱える、と視てもいいのじゃな?」

「まぁ、いきなり剣を振れ、とか言われるよりは、多少は」

「なら、ちょっとまっとれ」

そういって小屋の奥からガサゴソと何かを引っ張り出してくるババ様。その手には銀色の金属で出来た小型の弓が一本。

「昔、私に仕事を押し付けたエルフが、その対価にと置いて行ったもんだ。コレくらい使えるようになっとくとええ」

言って、その弓を此方に押し付けてくる。

銀色の、如何見ても金属製の弓。然しその重量は異常に軽く、かといって軽すぎず。まるで誂えたかのように……居や寧ろ、何か重量を調整する魔法でもかかっているのではないか、と言うぐらいに手に馴染んだ。

正直、ココロオドロル。


「でも、いいのかババ様。あれもこれもじゃ中途半端になりそうだけど」

「馬鹿をお言い。無論弓を引く間もヒーリングは掛け続けるんだよ」

「マジか」


なんだろうか、ババ様は俺にマルチタスク――並列処理技能でも身につけさせようと考えているのだろうか。俺に出来るのなんて、精々右手で三角左手で四角を描きながら歌を歌うくらいなんだけど。

まぁ何かオーラのブーストでご都合主義な成長補正とか発動するかもしれないし、いいか、なんて気楽に考えて。

「ほれ、練習用の矢筒だ」

「的は如何すればいい?」

「夕飯でも射てくりゃええじゃろ?」

「いや、先ず弓の引き方からやらないと」

一応弓の理屈くらいは知っている。場合によっては銃よりも弓のほうが強い、なんて話はネットでは割と有名な話だ。コンパウンドボウとか。

ただ、知識として弓に関する情報を持っている、という事と、実際に弓を撃てるか、と言うことは全く別の話だ。そのくらいはさすがに自覚している。

「……なら、森の木の幹でも借りな。射た後はちゃんと木にヒーリングかけて、礼しとくんじゃぞ」

「アミニズムかな? りょーかい」


言いつつ、常時自己ヒーリングを掛けながら弓を担ぐ。

森の木の傍。先ず最初に手間取る事となったのは、弦の張り方だ。

そういえばこれ割と難しくて、素人だと弦で指を切るとかいう話を聞いたことがあったような。

「あいてっ」

とか考えていたら、弓を押さえつける力が緩んだか、ぴんと跳ねた弦で指を切ってしまう。まぁヒーリングを常駐させているから、直ぐに傷は塞がってしまうのだが。

ソレを確認して、今度はもう少し慎重に弦を弓に張る。本当、なんなんだろうこの弓。カーボンよりも軽くて撓るってマジイミフ。

そうして銀色の弓に弦を張ったことを確認して、次は矢筒から取り出した弓を実際に番えてみる。

「えーっと、左腕を真直ぐ伸ばして。右腕を引いて、脇は閉じる、だっけ?」

その昔流行ったゲームの主人公に、昔弓道をやっていた、なんていう設定が有った。弓に興味を持った切欠なんていうのは、その程度の物。一応弓道八節なんてルールがある、なんてことは知っているが、ソレが如何いう心得であるか、間で詳しく覚えているわけではない。

要するにニワカなのだ。

まぁそれでも自己流にやるための参考程度にはなる。実際に弓を構えて、矢で狙いを定め、そうして視線の先の木の幹に引き放つ。

パンッ、と音を立てて木の幹に突き刺さる矢。

――あれ、これ案外いけそうじゃね?



「うぶぉぇぇぇぇぇ……」

「なんじゃ情けの無い。この程度の事で吐いておっては先が思いやられるぞ?」

「とは、いっても……」

案外弓が使えそうだ、何て事を調子に乗ってババ様に報告したその結果、俺は森での食料調達を拝命する事となった。

で、案外何とか成りそうだと気楽に森に入り込んだ俺は、其処で先ず自分が生物を狩る……いや、ストレートに『殺そうとしている』という事を、獲物に照準を合わせた時点で漸く自覚した。

そこで第一段階。第二段階は、ソレを自覚した上で、食う為には必要な殺生なのだと自分に言い聞かせ、弓を番う手を放したとき。

そうして最後。弓に射抜かれ、息絶えた獲物――鹿のような生物だった――の光の消えた眼球を見た時点で、ダウンした。

一応の監視役として俺に同行していたババ様はソレを見て若干呆れつつ、俺がそれ以上動けそうに無いという事を察して、仕方ないとばかりにその鹿モドキの解体を買って出てくれたのだ。

……でも、できれば目の前で解体するのは勘弁して欲しい。

「馬鹿を言うでないわ。旅をするならばいつも保存食があるとは限らんじゃろうが。そういう時は駆りをする必要も当然ある。当たり前の事じゃ」

「はじめて、いきものころしたんだよ……」

「何事にもはじめてはある。明日って何時さ、明日って今さ、と言う奴じゃな」

「……なんでその格言があるんだよ」

どうやら先人の勇者が色々トンデモな異界の格言を伝えていたらしい。

いい趣味してる。

「ほれ、良く見ておくんじゃぞ。生物は基本的に腹の皮が柔らかい。此処を縦に真直ぐ切って、後は肉と皮の境界線に沿って皮を剥ぎ取っていくんじゃ。皮は町で売れるかもしれんし、処理も覚えておくといい。内臓は穴を掘って生めよ。浅いと野犬に掘り返されて、当り一帯に地の匂いをばら撒く。そうなったら最悪じゃ。他の魔物は寄ってくる、陣地の近くが血なまぐさくなる、夜は休めなくなるとな。他には……」

「おろおろおろおろ……」

「駄目じゃな、こりゃ」

結局その日は動物の解体を教わる事は諦め、次の機会への持ち越しと成ったのだった。


因みに晩飯はその鹿モドキのシチューだった。美味いんだけど色々複雑だった。勿論完食した。




■サバゲ

サバイバルゲーム。エアーガンを用いての疑似戦闘。やりこむと案外奥深い。但し軽く触る程度ならスポーツ感覚とか。

■エルフの弓

割と難しい。馬鹿でかい和弓ではなく、馬上弓としても使われる小さな物。

謎金属で妙に軽く、カーボンの如く撓る。エルフの魔法で作られた弓とかなんとか。

■解体

グロい。異世界トリップってあんまりこの手の話に触らないから、ちょっとやってみようかと思っただけ。

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