表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Wild Flower  作者: 朽葉 周
3/6

002 基本は走り込みじゃ

「基本は走り込みじゃ」


心霊術の修練、といって何をするのかと思っていると、とりあえずいの一番に走り込みをする事と成った。

「なんで?」

「気闘術であろうと魔法であろうと、結局は闘いの術じゃ。なら、身体を鍛えるのは基本じゃろうが」

なるほど、と頷きつつ、然し走りこみで強くなれるのだろうか? なんて考えながら、ババ様に言われるままに走り続けるのだった。



働かざる物喰うべからず。

この世界において、この原則は至極当然の話として実行される。いや、これはどの世界においても当然の事で、これが否定されるのは地球においても至極平和な極限られた国でしかない。

つまり何が言いたいかと言うと、ババ様の小屋に曲がりさせてもらっている俺も、物を食うためには何等かの利益を生み出す必要があるのだ。

で、先ず最初に俺が教わったのは、畑の耕し方。ババ様は薬草学も齧っているとかで、ある程度の薬草の栽培と、ソレを用いたポーションの生産なんかをやっているのだそうだ。

で、俺が手伝ったのは、新しい畑の開墾。桑で土を掘り返し、地底の石ころを掘り出し、フワッフワに耕した土に森の奥から貰ってきた腐葉土と混ぜながら土を敷く。

これが結構な労働で、終わった頃には膝、腰、肩が悲鳴を上げていた。

……のだが。


「では、最初の心霊術はヒーリングから始めるかの」

というわけで、ババ様にオーラを用いた心霊術を教わる事に。そうして一番最初に覚えた心霊術は、ヒーリング。


ババ様曰く、心霊術の基本は万物が保有するオーラの姿を視、その力を操る感覚を磨く事にあるという。

魔術ほど論理的ではなく、闘気のように直感で動かせるような物でもない。ただ只管感覚を覚え磨く。これが心霊術の極意なのだとか。

本来は自らのオーラを自覚する事から始めるのが正道な修練方法ではあるのだが、これはかなり時間がかかるらしく、滝に討たれたり断食したりと面倒くさいらしい。何かどこぞの僧侶の修行みたいな方法だ。

で、そんな面倒な手段を回避するために、ババ様は先ずいきなりヒーリングから始めるのだとか。

ヒーリングと言う術を直に受ける事で、オーラの感覚を直接味わってもらおう、と言うことらしい。

中々強引な手法だ、何て思いつつ、では早速お願いしますとババ様にヒーリングをかけてもらうことに。

「ンホオ゛オ゛オッ!!」

「気色悪い声を出すんじゃないわいっ!!」

やっべ、なにこれ、やっべ、きんもちイイッ!! 思わず自分でも気色の悪い声を出すほどに気持ちがいい。まるで柔らかい手でゆっくりとマッサージされた快感を、圧縮して叩きつけられたかのような。

そうして時間にして30秒ほど。あっという間にヒーリングを掛け終えたババ様。

「どうじゃ、感覚は掴んだかいの?」

「感覚、っていうか、何か変なものが見えるように……」

「何?」

ババ様に報告しつつ、周囲をくるりと見回す。

つい先ほどまでと同じ世界。だというのに、その世界はまるで彩を一新したかのように鮮やかに見える。

机一つ、椅子一つにしても、微弱な力を感じる。何より、この小屋の周囲には、何かキラキラした物が見える。

「……おぬし、目の色は何色だったかいの?」

「プレーンなモンゴロイドなので、黒髪黒目ですけど」

「……そうか。いきなり浄眼に目覚めるとは、やはりヌシも勇者なんじゃのぅ」

何か呆れられた。

曰く、俺はヒーリングによる刺激を受けた事で、『浄眼』なるものに目覚めたらしい。この浄眼というのは、目に映らない物を視る事が出来る力だとかで、本来目には映りにくい魔力や闘気の残滓、それらが強弱をつけて見えたり、妖精種のような精霊族、あるいは姿を隠す力を持つ魔物を見抜く力が在るのだとか。

なんだろう、いきなりチートっぽくなってきたぞ。これで俺も無双できるか――っっ!?

「因みに、その力には戦闘力は無いぞ」

デスヨネー。目がちょっと良くなっただけで無双できたら、そりゃ救われるまでも無く平和な世界なんだろうし。

「まぁ、それに目覚めたのであれば話は早い。少しオーラの扱いというモノを実演してやろうかね」

「実演?」

「言ったろ、基本は繰り返しだ、って。見えるようになったんなら、ソレの真似すりゃ良いんだよ」

なるほどと頷き、ババ様のオーラの扱い方を見せてもらうことに。


オーラの扱い方は、基本は循環、そして意志にあるのだとか。

オーラは魔力のように『現象への変換』というモノに固定されない。例えば同じ『回復の術』というモノにしても、魔術のヒールは『自己治癒の促進』であり、心霊術のヒーリングは『生命力の補填』だ。

魔術のヒールは理屈である為に汎用性が高く、術と魔力さえあれば、術との相性が悪くとも最低限の効力は発揮できる。

心霊術のヒーリングはある意味原始的で、いわば『怪我が治りますように』という祈りを直接治癒力に転化しているようなもので、そのオーラの伝達力、意志の強度、集中力によってはかなり効果にばらつきがある。ただ心霊術は魔術とちがい“理屈を飛ばす”為、過去には死者蘇生を成し遂げた、なんて伝説も残っている。

「聞いてると凄い力っぽいんだけど、何で廃れたん?」

「そりゃ簡単だ。扱いが難しいんだよ、この力は」

例えば戦場で。ここでも回復を例に出すが、例えば魔物との戦闘中に怪我を負ったとする。自分以外が大怪我を負って動けず、周囲を治療しなければいけないという危機的な状況。自身すらも魔物から狙われている状況で、仲間の治療に集中できるか、といわれるとかなり難しい。

「逆に魔法は、魔力と術式があって、ソレを起動させられりゃ素人でも使えるわけだ。戦場で便利なのはどちらか、といえば間違いなく後者さね」

オーラを扱うのに最も大切なのは、常に平常心を保ち、冷静な思考を持つこと。国家に仕える騎士でさえ難しい難行を、短い時間を生きる冒険者に修得しろと言うのが無理難題なのだ。

結局熟練者以外は殆ど犬猿される心霊術は自然と淘汰され、戦場においてインスタントに活躍できる魔法が優遇される事となる。

「そもそも格闘戦においては闘気のが勝っているし、闘気を纏っていれば自己治癒能力も上る。自然と心霊術は淘汰されちまったのさ」

「んじゃ、やっぱり心霊術は駄目技能……?」

「ま、一般的にはね」

だが、極めれば心霊術ほど万能の技能は無い、ともババ様は言う。

確かに強化率は闘気に劣るが、然しそんなモノは闘気同士においてだって強弱の差はある。それを動補うかと言うのが武芸者なのだ。

魔術のようにインスタントには使えない。然し使い熟せば、無から炎を生み出し、瞬時に吹雪や雷を生み出す事すら出来るのが心霊術だ。

そして何よりも、実体の無い悪霊、悪魔と呼ばれる存在。それらと戦える数少ない技能。

「使い手こそ少ないが、確りと現存しているんだよ。それこそ心霊術が必要とされる確かな証拠だろうね?」

「なーる」

「……っと、何時の間にか講義になっちまったね。とりあえず、先ずはヒーリングをやってみな。自分の身体にやる分は楽な筈だよ」

「りょーかい」

言われて、自分の身体を対象に、オーラの流れを操る事で、ヒーリング掛けていく。何と言うか、むず痒いような、ぽかぽかするような、不思議な、然し悪くは無い感覚。

「ふん、上手く出来てるじゃないか。なら、今日はそのヒーリングをかけたままで、日が暮れるまで森の周りを走ってな」

「ええー」

「言ったじゃろ、基本は足腰なんじゃよ!!」


言われ、渋々と森の外回りを走り始める。

と、オーラによって常にヒーリングを掛けらている状態の身体は、まるで自分の身体では無い様に疲れ知らずで、気付けば何処まで速度を上げられるのか、どれだけの間全力疾走を続けられるのかと、日が暮れるまで子供のように走り回っていたのだった。






■基本は走りこみ

結局肉体は資本。

■ヒーリング

肉体を“健康な状態”へ変化させる術。回復力を高めているのではなく復元。その為欠損部位を作り出す、なんて無茶苦茶も出来る。

ヒーリングを掛けながらのトレーニングは、常に肉体を限界以上に行使しているため、成長が早い。但し一瞬でも気を抜いてヒーリングを途切れさせると地獄の筋肉痛が始まる。心霊術は集中力が肝である為、一度集中力を乱せば復帰は至難の業。その為強制的に集中力が鍛えられるという寸法。

■浄眼

オーラによって青く輝いて見える瞳。この世ならざる物を捉え、また力を“捉える”能力(視界に限らず気配含む)などが強くなっている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ