あ゛あ゛あ゛~
春ですね~
「お父さん、そろそろお昼ご飯の準備しようよ」
美衣は草むらにしゃがみ込み、ごそごそやっている幸次に声を掛けた。幸次は広いつばの帽子をずらして美衣に向き直る。
「ん、もう大分採れたし、そろそろ飯にするか。おーい、美穂~!」
手には山菜が握られている。4人で食べられる分だけ。
「はいはい、じゃあこの先の広場で準備しましょ」
一家は、車で一時間ほど走らせ、ハイキングに来ていた。山の中故、まだ若干肌寒いが、日が出ているところはそれなりに暖かく、歩いていると心地よい汗をかく。ついでにすぐに食べられそうな山菜を採って、昼ご飯にしようというわけだ。
「おう。あ、この辺の広場、ノビルが生えてるな。味噌持ってきたっけ?」
幸次は目を輝かせて辺りを見渡す。これから食せるであろうその味覚、思わず喉が鳴る。
「持ってきたよ! 父さん、相変わらずソレ好きなんだな」
「まあな、そうそう好みは変わらんだろ。突然甘党になるわけでもなし」
外見は美少女になって、帰還した父。昔と好みが変わらない父を見て、幸太は嬉しそうに笑う。このような、ふと昔の父を感じられるとき、家族の間には何とも言えない暖かい感情が流れることがある。
「癒し系美少女にして父。か。幸次もバージョンアップしすぎだね」
美穂のつぶやきに、この時も、全員が父を見て笑っていた。
「あ゛~~気持ちいい~」
キャンプチェアにふんぞり返ってノビルをかじる。ぴりりとした辛さと味噌がよく合う。そこへビールを流し込む。
「あ゛~」
薄い金の髪が、ふわりと春風に揺れる。アルコールで頬をうっすらと染める少女は絵になる光景だが、左手にはノビル、右手にはビール。
「俺も飲みたいんだがなぁ、来年美衣が免許取ったら俺も飲もうっと」
途中採ってきたイタドリの新芽と、タラの芽は天ぷらにした。タラの芽は高いところに出来るのだが、幸次の魔術でどんどん採れる。マナーのよくない山菜取りは枝ごと切ってしまうのだが、幸次がいるとそのようなことをせずとも採れる。
「イタドリっておいしいんだね」
「あく抜きしたほうが食べやすいが、天ぷらならこのままいけるな。数は食べられないだろうけど」
「天つゆ、やっぱり欲しいね」
「むむ、悪かったな」
出発前に、天つゆを作っていたところ、完成したそれを魔法瓶に詰めようとしたところで、盛大にひっくり返したのだ。まあ、誰にでもある失敗ではある。今日のところは塩、だ。イタドリの芽もそうだが、タラの芽は特に塩が合う。
「こぼれたのは、やっぱり魔法で元通りって訳にはいかないの?」
「ううん、やれば出来るかもしれんが、シンクや床にこぼれたのを集めた天つゆ、食べる気にはならんだろ」
「そうだね。魔法でも出来ないこともあるんだね」
「そうだな。何でもできたら詰まらんしな」
魔術では天つゆを救えない。意外な魔術の限界を認識し、でも美味ければいいよなぁ。と、ノビルを齧る。
ビールを飲む。天ぷらをつまむ。ビールを飲む。そろそろ熱燗に切り替えようか。
ごくり。
「あ゛あ゛あ゛あ゛~~」
ノビルは割とどこにでも生えてます。堤防とかその辺。
おひたしが食べやすいと思います。
※ 2014.4.26 表現を変えたり、加筆したり。




