温泉(3)
すみません、短いです。すみません。
「……」
深夜。幸次は、自身の体を固定している美衣の腕をそっと剥がす。むにむにと美衣の口が動き、やがて元の寝息をたてる。
幸次はふふっと笑い、むくりと体を起こす。浴衣が肌蹴て露わになっている華奢な肩を隠し、立ち上がる。誰も起きてこない。
そーっと、歩き、廊下に出る。パタパタパタパタ……一路大浴場へ!
やっと一人で入れる!
どうせ美衣や美穂と入れば色々とのんびりできない事態になるのだ。色々と。1人で入れる時間は大事にしたい。
脱衣所に人がいないことを確認し、浴衣をすぽーんと脱ぐ。タオルを持ち、イソイソと浴場へ。
「ヤッホー!」
ちゃぷちゃぷとかけ湯をし、浴槽に飛び込む。
茶色に染まったお湯。じゃぼん、と潜る。
「ぷはーーー!」
「……」
泳ぎたい。犬かきで。が。
「大人だし……自重するか」
静かに平泳ぎで。
大人は泳ぎも静かにするものである。
すいーっと平泳ぎ。幸次は風呂を堪能した。傍から見ると少女が年相応に、はしゃいでいるように見えることを、本人は気が付いているのかどうか。
「……」
朝。幸次は美穂に抱っこされていた。髪が生乾きでボサボサであった幸次の髪を抱っこで直してやり、朝食の時間になってもそのままであった。1人で朝まで風呂を満喫したのが気に入らなかったのだろうか。
「あ、おはよう。……父さん、朝から大変だね」
「うむ、おはよう」
「おはよう幸太、誰も大変になってないわよー」
「う、はい」
ここで仲居が入ってくる。
「おはようございます。朝食をお持ちしてもよろしいですか?」
「あ、はーい、お願いします~」
「……おい、美穂、お膳が運ばれてくるぞ。そろそろいいんじゃないのか」
「幸次はこのままよぉ? 朝は一緒に入ろうって約束したのに、夜に済ませちゃうなんて。髪ぼさぼさだなんて」
「……」
約束なんてしたっけなぁ……? 酔ってる時にそういう約束事はやめてほしいと思う。
「はい、こちらに並べますねー……、えっとお嬢様のお膳はお母さんと一緒にしてよろしいでしょうか?」
「あ、はい、お願いします。いいわよね? こう……ディアちゃん?」
「え、あーうん、いいよ美穂おばちゃん」
「……!」
焼き魚と、味噌汁の他は矢鱈いと多い小鉢の朝食は、父と母の微妙な言葉の応酬をスパイスにつつがなく終わった。父はほぼ全ての食事を「あーん」で済ませた。
「ま、よく考えてみたら、以前も食わせてもらったことあるしな。うん、全然気にしてない。全然余裕。あむっ。むぐむぐ」
聞かれてもいない感想を勝手に披露する幸次であった。
大事なエピソードを載せようと思ったのですが、ちょっと思い直してもう少し後にしようと思いました。




