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作者: ガルド

『ウィッカンリードの翼』



【プロローグ】



――2070年、アルバトロス船内。

・万尋とアイナが二人で会話をしているシーンを入れる。

内容的には本編の中心的な議題になる「努力」と「才能」の話。

(ヒロインであるアイナが出てくるまで少し時間がかかるため、プロローグで時系列をすっ飛ばして先に出てきてもらうことでヒロインアピールをする&この物語が「努力と才能」の話であるということを読者の無意識に刷り込ませる)



【ある昔話】(『とある飛空士への誓約』1巻の演出を参考に)



――2061年、ドイツ

幼いアイナ(8歳)と余命2年のオルガ。

アイナを膝に抱きながらマジックデバイスを作成しているオルガ。

オルガは自分の死後にはアイナをウィッカンリードの大将である雄悟へ託そうと思っていること、アイナが祖父をとても愛していたこと、アイナは両親に先立たれていること、「翼を預ける」という言葉をアイナへ教えるオルガ、すでに魔法技師としての才能の片鱗を見せ始めているアイナ。

このあたりの情報を仕込む



――2062年、日本

小学四年生の頃の葛木万尋と東宮瞬司。

幼なじみである二人の描写。

どっちが最強のウィッチになるのか、意地を張り合う無邪気な二人。(瞬司の冷めたところや嫌みな性格はある程度描写する、それでも2人には確かな友情があったことが分かるように)

場面中で数カ月時間が飛ぶ。

瞬司の父親(ウィッチクラフトの英雄東宮薙)が海外のプロチームのコーチに就任することになり瞬司も海外へ引っ越すことに。

泣きじゃくる万尋、涙をこらえて別れを惜しむ瞬司。いつか二人で世界一を決める大会で戦う約束をする。



――2063年、ドイツ

祖父の墓石の前にただずむ10歳になったアイナ。

そんなアイナの元へ複数の人影が近づく。

アイナと雪花の出会い、オルガに頼まれて君を迎えに来たと言う大将、すでに旅支度を終えていたアイナは少ない荷物を背負うと大将と雪花に促され、アルバトロスへ向かう。



――2067年、日本

中学三年生になった万尋。

両親の離婚、家を出る母親と話をする。

高校を迷ってる、という悩みを打ち明ける。

この時点ですでに自分には才能がないんじゃないか、という疑いは持ち始めているが、それは今の自分が考えてはいけない、と思い、ひたすらプロのウィッチを目指して邁進している。

・母親はそんな息子になんて声をかけるだろうか?



【第一章】



見開き(2P)を使って魔法の設定をざっくり説明してしまう



万尋の夢(短めを意識)

・読者にはなんの説明もなしにいきなりウィッチクラフトの試合シーン。

カテゴリーCの大会に出場するも序盤、圧倒的なスピード不足を味わい、追いつこうと加速、重度の沸血に見舞われやがて墜落。夢から醒める。墜落は夢だが、つい先日、実際に大会に参加して無茶な飛操を行い、途中リタイアしたのは実際にあったこと。


――2070年、日本の夏

夢から覚める。

高校三年生の夏休み初日、推薦で大学は決まってしまっている。

この時点で万尋はもう自分の才能ではプロのウィッチにはなれない、と諦めてしまっている。(自分は諦めたと言い聞かせている、というのが本当のところ)(夏休み直前の大会参加は万尋にとって最後の挑戦だった)

現在では、それでもなんらかしらの形でウィッチに携わる仕事につけるようにと考えている。父親の経営しているマジックデバイスの店を継げればそれもいいかな、みたいな。

・万尋の頭には幼なじみである瞬司を支える箒技師コンストラクター、という未来も少しある

 →後にアイナと出会い「甘かった」と打ちのめされる未来でもある。また、本当はウィッチを諦め切れていないのに、  妥協でそんな考えがあったために瞬司にもキレられることになる

朝、リビングでテレビをつけると、今一番注目されている新人のプロウィッチとして瞬司の活躍を報じるテレビを見かける。

・日本人として去年、カテゴリーCで世界一に輝き、今季からカテゴリーBに参戦。新人でありながら善戦している、との報道

・さらっと一般人から見たプロのウィッチ、そのチーム、さらに特殊なチームであるウィッカンリードの説明をしておく。

・頭角を現し、約束した夢を現実のものとし始めている幼なじみと、それが叶わない自分。くどくならない様に注意しながら胸に痛みを覚える万尋を描写する。

場面としてはだらしない父親を起こし、朝食の支度をし、男二人で朝食をするシーン。

・父親・二郎のキャラクター描写、家がマジックデバイスの工房をやっている情報の開示。

二郎が今日の夜にあることが決まるから、夕飯は家飯の支度をお願い、あと今日から店の工房使用禁止だから、と万尋に伝える

・あと父親が先日あったウィッチクラフトの大会について触れ、前シーンの夢が現実であったことについても示しておく。

・ブルームを外に持っていくなら、最近MDを狙った引ったくりがここらへんで出たらしいから気を付けてね、と二郎から忠告される(伏線)



自分の家でブルームのメンテナンスをしようと思っていたのにあてが外れたため、行きつけの専門店へ本体を持ち出して出かけることにする万尋。(その店は万尋の家からは少し遠い)

店では仲のいい店主と話をする。

万尋の地元はウィッカンリードの本部がある街としても有名で、どうやら今は飛行船アルバトロスが街に戻ってきているらしい、という話を店主とする。

また、店主との雑談で高校を卒業したらどうする、という話をする。

店主はうちで働いてくれたらうれしい、といったようなことを冗談めかして話す。

・進路の話になり、魔法技師という将来も真面目に考えている話を店主とする。店主が未来の「オルガ・ランドオルフ」か、と茶化す。オルガの名前先出し。マジックデバイスに携わる者にとっては皆が知ってる名前(そうでない人間にはそこまで知られた名前ではない)であることを表現。また、父親である二郎は一時期直接指導を受けたことがあり、親子揃って筋金入りの大ファンであることを開示しておく。

万尋はブルームを預けるつもりで来たが、店主はもし自分でやりたければ工房を貸す、と言ってくれる。(もちろん使用料はきっちりいただくけどな。わははは)

万尋はお礼を言って工房を借りることにする。



朝一で店まで行ったのに昼食を食べることも忘れて夕暮れ時まで工房にこもり切ってしまった万尋。

夕飯をどうしようかと街を歩いていると、二郎の言っていた引ったくりの犯行を目撃する。

犯人はスカイ・ブルームに乗ったままものを引ったくり、そのまま飛操。万尋はその危険な飛び方に憤りつつ、すぐさま自分のブルームを使って犯人を追いかける。(ちなみに、本来は街中でブルームを使用するのは違法行為)

魔法犯罪者との空の追いかけっこ。

・スカイ・ブルームの起動描写、MADとMCD、MODの関係にさらっと触れる。

・ここで『ハンドリング』『加速』『防護』といったウィッチクラフトに必須技術をすべて実演で説明する。犯人は攻撃魔法を使って応戦してくる上に、複数犯で計5人に渡り奪った荷物をリレーする。しかし、飛操フライトレースに関しては相手は素人だったため、万尋にもなんとかなる。(このとき、犯人たちのリレーが3人を越えたあたりから相手の顔色が変わり始める。おかしい、こんなに長く飛べる人間がいるわけがない、と騒ぐ。万尋は途中から沸血症状に襲われるが、経験からまだ飛べると判断する。最終的に5人目の犯人を捕まえることになるが、その5人目もしきりに万尋に何者だ、と聞いてくる)

万尋は犯人を捕まえると、しばらくして後を追ってきた警察官へその男を引き渡し街へ戻る。引き渡すとき、警察官からもこんな長距離をひとりで飛んできたのかと驚かれる。心の中でどんなに持久力があっても、瞬発力がなければウィッチクラフトではなんの役にも立たないよ、と自虐する。



街へ戻ると引ったくりの被害にあった身なりのいい年配の男性(獅子島雄悟=大将)からお礼を言われる。

・万尋の大将に対する第一印象は「ヤクザの親分」みたい。結構びびってる。

・雄悟の近くには先ほどは居なかった二人の男性の姿がある。モブキャラなので大して紙面は割かないが、雄悟の腹心である「佐々木慎一郎」と「ジェームズ・ジャクソン」の二人。

男は万尋の顔を見てすぐに「二郎の倅か」と呟く。驚く万尋に君のお父さんとお母さんとは何度か仕事をした仲だと話す。

付き人の黒人の方が男を「大将」と呼ぶ。黒人が「近くに居たのにお守りできなくてすみません」と謝るが、気にするなと言う大将。

黒人は「魔法具の工房が潰れそうになると、その周辺にはハイエナまがいのゴロツキが溢れて治安が悪くなる」と吐き捨てる。雄悟は黒人に「ジム、少し黙っていろ」と言う。(伏線)

その後、大将は改めて万尋へ感謝の意を示し、なにかお礼がしたい、と言う。恐縮した万尋がそんなのいいです、と断る。すると大将は「分かった、今日のことは憶えておこう。俺は受けた恩は決して忘れない」と言って去っていく。

付き人の日本人の方は行儀のよい目礼をし、黒人は「グッバイ、グッドボーイ!」と陽気に言って街の中へ消えていった。



家に帰ると二郎が良いニュースと悪いニュースどっちから聞きたい? と聞いてくる。悪いニュースから聞くと二郎の店、葛木工房を畳むことにした、と言われる。不幸中の幸いでこの土地と店の道具の買い手も見つかってるし、引っ越し以外でお前に迷惑はかけないよ、と二郎。

重大なことをあっさりと打ち明けられて困惑する万尋。同時に父親の軽薄な態度や言動に怒りも感じる。

良いニュースというのは、明日から一カ月万尋の住むところが決まった、という内容だった。再び困惑する万尋に、二郎は実は明日からもうこの家使えないんだ、出ていかないと、と言う。そして、住むところ、というのは一カ月間の住み込みバイトで、その仕事先はウィッカンリードの船、アルバトロスだと言う。話が見えてこなさ過ぎて置いてけぼりを喰らう万尋。二郎は土地を買い取ってくれる企業というのがそもそもウィッカンリードで、併せて息子もしばらく預かってくれないかと相談してたところ、先ほどOKがもらえた、と説明する。家族に相談もなしか、とか、息子のバイトを一言も断りなく勝手に決めるな、とか、万尋も本気で怒りだすが、「ウィッカンリードの船に乗るの、嫌なのか?」とすっとぼけて聞いてくる二郎に「嫌なわけあるか!」と答えてしまう。



翌日、二郎から受け取ったメモを頼りに指定された港へ向かう万尋。住み込みバイトだと聞かされているので、着替えやトラベルセット、自分のスカイ・ブルームは持参している。

周囲には人気がなく、健全な港として機能してるようにはあまり見えない。本当にこんなところでよかったのか不安になる。ふと物音がして背後に人の気配。約束の人かなと少し安心したところで、ドンッっと体に衝撃を受け、気を失ってしまう。



万尋が次に目を覚ますと、なにやら倉庫らしきところに寝かされていた。窓があり、そこから外の様子を覗くと、どうやら自分は空を飛ぶ乗り物に乗せられているらしいことが分かる。

つい昨日、黒人が「治安が悪い」と言っていたことを思い出してさっと血の気が引く。自分は人さらいにあったのではないか、と思う。そんなことを考えていると、倉庫へ赤毛の同世代くらいの女の子が入ってくる。

万尋があんたは人さらいの仲間なのか、と尋ねると女の子は不機嫌そうに顔を歪める。

「私は雑用係をひとり船に乗せるって聞いてるけど、あんたでしょ」「あんた、名前は」高圧的な女の子の態度にたじたじになりながらも「葛木万尋」と名乗る。

自分から聞いたくせに「あっそ」と興味のなさそうな少女。いまいち状況が掴めていない万尋は、ここはどこで、君は誰なのかを尋ねる。「ここはウィッカンリードの飛行船アルバトロス。私はここの技術部特殊研究員、アイナ・ランドオルフ」「船は一カ月間日本に戻らないわ。その間、あんたこの船の雑用係。きりきり働きなさい」。アイナの態度に自分は一体どうなるんだと戦慄する万尋。



【第二章】



翌朝、同室の男の子と改めて自己紹介する。男の子はドニ・バルデスと名乗る。

歳は万尋と同じ、ウィッカンリードの第二カヴン(プロのウィッチ養成スクールのようなもの、二軍チーム)所属、今回の航海には水夫として搭乗していること、第二カヴンの選手はそうやって雑用係をやりながら一軍の練習や試合を間近で勉強するのだ、といった事情も教えてもらう。

また、本部が万尋の住んでいた街からほど近い山の中にあり、そこにはウィッカンリードメンバーの寮や技術部員の研究施設、公式戦も可能なほどのウィッチクラフトフィールドも完備であることなども知る。

万尋は自分の自己紹介をする。このとき、自分もドニと同じ水夫だ、と名乗る。だから色々と基本的な仕事や船のことを教えてほしい、と。ドニは話は聞いてるよと請け負ってくれる。

それにしても昨日は色々大変だった、アイナの部屋を蹴りだされた後、途方に暮れてるところを助けてくれて本当にありがとう、と改めてお礼を言う万尋。元々万尋の世話をするのはオレがやる予定だったんだよ、とドニ。

それにしても、あのアイナとかいう女はなんなんだ、と憤慨する万尋に、まあ姫はちょっと特別なんだよ、とドニがなだめる。

アイナとのやりとりを思い出す万尋。



回想。

なぜ自分は気を失っていたのか、あのとき自分の後ろにいたのは君なのか、といったことを頭のたんこぶをさすりながら聞く万尋。しかし、アイナは「知らない」「うるさい」果ては「ウザい」とまで言い捨てて、「ちなみに、ここ私の私室だから。起きたならさっさと出ていって」とにべもない。なんとかもう少し詳しい話を聞き出そうとするが、最後はアイナの操るマジカロイドに部屋を蹴りだされる。

その後、ちょうど廊下を歩いていたドニによって救われることになる。

回想終了。



ドニと連れ立って部屋を出る万尋。

ウィッカンリードの水夫がしなければならない基本的な仕事の流れを教えてもらう。この日はまず船内の清掃をドニと二人で行う。掃除をしながら話をする二人。昨日あの後大将と会ったのか、と聞くドニ。会った、と万尋が言うと、緊張するよな、と笑うドニ。笑いごとじゃないよ本当に、と昨夜のことを思い返す万尋。



回想。

「驚いたかね?」船長室、大きな椅子に座り巨大な机を挟んだ先でヤクザの親分のような男が重々しく言った。その男は万尋が助けた引ったくりの被害者の男だった。男の名前は獅子島雄悟。空賊ウィッカンリードの最高責任者、通称大将。その後ろには街で見かけた部下を二人、ここでも侍らせている。

その近くには二十代中頃の美人が控えている。名前は獅子島雪花せっか。大将の娘であり、このアルバトロスの副船長兼航海士だと言う。大将はあまり多く話をせず、大将が話した内容を雪花が詳しく語って聞かせる。

雪花が迎えに行ったアイナが手荒なことをして申し訳なかった、と謝る。人見知りが激しくどうやって声をかけていいか分からずついやってしまったんだと思う、と言われる。内心抗議の声をあげるが、口には出さない万尋。

次に雪花から労働条件に付いて話がある。与えられる仕事は二等水夫(本職の水夫の下に付く、ドニのような立場の雑用係)。船仕事だから自由は拘束されるし、きつい肉体労働になるが、給料は見合ってると思うわ、と雪花。

(また、ここで船の構成員に関してざっくり説明がある。船長、航海士、一等水夫と二等水夫、技術部員が務める機関士、箒技師団〈コンストラクターズ〉、そして操手であるウィッチが所属するカヴンが主だった構成員)

万尋、契約内容に問題なしと頷いて回想終了。



一仕事終えてようやく朝食。ドニに食堂を案内してもらう万尋。

食堂で雪花と出会う。どうやら万尋を待っていたようで、ドニと別れて雪花と二人で食事をすることになる。

「あなた、瞬司の幼なじみなんだって?」というところから話が始まる。ウィッカンリードに来る前の瞬司、その後の瞬司、二人は共通の話題でしばらく盛り上がる。今は副船長の私ではない、という彼女は昨日よりも少しだけフランクに万尋と接する。余裕のある態度、明るさ、面白いもの好き、優しそうに見えて実はドSなど、雪花の人物描写。

話の流れで後でカヴンの練習を見に行こう、という話になる。



雪花と別れ、再びドニと合流。

仕事を当直のやり方など、具体的な仕事を教えてもらい始めるが、万尋は少し上の空。衝撃の展開が連続してどこか夢見心地だったが、じわじわと自分が「あの」ウィッカンリードの船に乗っているのだという実感がわき始める。緊張、興奮、喜び。



雪花にカヴンの練習場を案内してもらう。

このとき飛行船アルバトロスの概要や設定について雪花に教えてもらう。全長約960m、現在魔法を用いた世界で唯一の乗り物であること、甲板の大部分はカヴンの練習場として用いられていること、それはブルームの防護魔法と同じ理屈で甲板が外気から守られているから可能であることなどを教えてもらう。

そのまま雪花と二人で瞬司の元へ向かう。有名になってしまった幼なじみを相手にちょっと緊張しながらも、再会の喜びを分かち合おうとする万尋。しかし、瞬司はなんの感慨もなさそうに万尋へ所有ライセンスとカテゴリーを尋ねてくる。雪花、瞬司の態度をたしなめるが聞く耳を持たない。

「瞬司はカテゴリーBでも活躍してるもんな。すごいよ」「僕は、カテゴリーCに挑戦したけど、ダメだった」愛想笑いを浮かべる万尋。眉ひとつ動かさない瞬司。「万尋、お前なんの契約でこの船に乗った」「二等水夫、って説明された」「水夫……。プロのウィッチは諦めたってことか?」「……」うん、とも、いいや、とも答えられない万尋。そして、「まだ練習があるんで失礼する」とさっさと行ってしまう瞬司。

「なによ、今の態度!」と憤慨する雪花。「いいんです。あいつの性格はよく知ってますから」と万尋。



その後、仕事があるという雪花と別れてひとりで甲板でカヴンの練習を見ていく万尋。高いレベルの練習、高価ま設備、瞬司はもちろんそれ以上の才能を持つウィッチであふれるウィッカンリードのカヴン。住む世界の違いをぼんやりと感じている万尋。



夜。部屋でドニとウィッカンリードというチーム、また企業としての顔について話をする。万尋が知っていることを話し、それにドニが補足していく。チームのカテゴリーA操手の話題も。キャプテンのウォルフガングの名前なども出しておく。

その中で、早朝などカヴンが練習場を使う前に場所を借りることができるかを聞く。ドニはその手の相談は李黒老師だな、と教えてくれる。

その後、二人で老師の元に行く。ドニから老師はマジックスポーツ指導のスペシャリストで、ウィッカンリードが抱えている数名のコーチのうちのひとりだと道すがら教えてもらう。

李黒に自主練するため練習場を貸してほしい、と相談すると快く貸してくれる。

・(この後のプロットで、もうちょっと老師の出番増やせないだろうか)



翌早朝、ひとりでウィッチクラフトのトレーニングを行っていると万尋。

そこを「あんた、なにしてるの?」と、アイナに発見される。改めてアイナへ自己紹介する万尋。やっぱり興味なさげなアイナ。

そこへ夜番を終えた雪花が合流。雪花がアイナに万尋の連れてき方について説教したりなんだりと、3人で少しだけ会話する。



アイナが去った後、雪花へアイナについて質問をする万尋。

万尋が興味を持ったのはアイナのマジカロイド。それがアイナ自作のオリジナルMODだと聞き、ますます興味を強くする。また、昨日説明された技術部員と彼女の扱いの違いが気になり雪花に聞くと、アイナは色んな意味で特別なのだ、と分かるような分からないような説明をされる。



【第三章】



アイナに興味を持った万尋は積極的に彼女に関わろうとする。

食堂に現れたアイナの正面に座って話しかけるもすげなくされ、アイナへ届け物があれば配達役を立候補して部屋行っては邪険にされ、珍しく部屋の外で機関士と仕事をしているのを観察していると仕事の邪魔だと怒られる。(短シーンの連続描写)



本人とコミュニケーションを取ろうとしても上手くいかないため、万尋は今度は周囲の人間にアイナはどんな人間なのかを訪ねて回ることにする。

ドニからはよくアイナに関わろうという気になるな、ドMかよ、と呆れられる。

(アイナはよく相手のプライドを傷つけるようなイラっとする暴言を吐く)(万尋は自己評価が低いため、その手の発言にあまりイラついたりしない)ドニ以外にもカヴンのモブ、技術部員のモブともアイナについて会話する。ほぼ全員から、すごい奴だけどお近づきにはなりたくない、という共通した評価を聞く。(短シーンの連続描写)



・瞬司視点

万尋がアイナにちょっかいを出しているらしい噂を船内のあちこちで耳にする。

ウィッチを諦めたと思ったら、今度は技術屋の物まねか、昔から器用じゃないくせに色んなことに手を出して、どれも中途半端に終わる気の多い奴だったと、少し過去を思い出す。

昔を思い出したことに少しイラっとする瞬司。水夫なら水夫、自分の仕事に専念しろ、と心の中で毒づく。ぼうっとしていたために万尋が近くにいたことに今更気が付く。少し気まずそうに挨拶する万尋。そのことが、余計にイライラを増幅させる。「気安く話しかけんな」と言い捨てて万尋の元を去る。



・万尋視点に戻る、場面はその直後

瞬司の言葉に傷ついていると、雪花がやってきて「嫌な奴!」と憤る。「大丈夫です。僕が悪いんです」。少しだけ瞬司について会話する。

その後、万尋はアイナについて雪花に質問する。「あいつ、友達いないんですか?」「私は友達のつもりなんだけどね。あの子がそう思ってくれてるかは分からないわ」そこで雪花の語るアイナ評を聞く。あの子はみんなが思ってるほど強くもなければ大人でもない、ただ物凄い才能を持ってしまっただけのわがままで臆病な子供なのだと語る。アイナも本当は悪い子じゃないのだとフォローする雪花だったが、万尋はまっすくに「そうだと思います」と答える。少し驚く雪花。これまで第一印象でアイナに対する苦手意識を持たなかった人間は、雪花の知る限り自分を含めても初めてだと言う(雪花も昔はアイナが苦手だった)。万尋とアイナの相性の良さに気が付いた雪花は「君だったらアイナを変えてくれるのかも」と言う。

それは本当は親の役割なんだけど、あの子は早くに死別しちゃって、しかも若くしてこの船で大人に交じって仕事をしちゃってるから、と雪花。両親いないんですね、と万尋。うん、その後オルガさんのところにしばらく居たみたいだけど、オルガさんも亡くなっちゃったからね。オルガ……さん?。そうよ、オルガ・ランドオルフ。え、アイナってオルガ・ランドオルフの親戚なんですか? 親戚っていうか、直系の孫よ?



・アイナ視点

最近入ってきた万尋とかいう男がしつこくてウザい、というモノローグが入りながら、自室で作業しているところ。しかし、ここまでめげずに何度も関わってくるなんて、いったいなにを企んでいるのだろうか。猜疑心。

そこへ、勢い込んで部屋へ入ってくる万尋。驚いて声も出ないアイナをよそに、万尋は「オルガ・ランドオルフの孫って本当?」。あまりの勢いに呆気にとられて素直にうなずいてしまうアイナ。「そっか! そうなんだ! 僕、大ファンなんだ。握手してもらってもいい?」まだ自失のアイナの手を取ってぶんぶんと握手をする万尋。アイナ相手に自分がどれだけオルガを尊敬しているのか、オルガがどれだけ偉大だったかを交えて語りまくる。(ついでに、一時期父親がオルガに師事したこともあったことなども)

ようやく自失状態から立ち直ったアイナは握手を振りほどき、万尋の語りに茶々を入れたり修正を入れたりし始める。だが、万尋は嫌がることなく「そうなのか」と素直な反応をする。少し拍子抜けするアイナ。また、自分自身敬愛する祖父をベタ褒めされて少し気分が良くなっている。浮ついた気持ちだったため、ポロっとアルバトロスの動力部にはオルガが製作した秘蔵の魔法補助機構が使われているのだ、と自慢してしまう。見たい、と喰い付く万尋。

一瞬後、はっとらしくないことをした自分に気が付いたアイナは恥ずかしさで赤面する。そして、当然万尋の意見は「ダメ!」と却下。どうして、と食い下がる万尋に機械室の最深部は技術部員でも仕事がないときは立ち入り禁止区画よ! とピシャリと言って聞かせる。



・万尋視点に戻す

翌日からより一層アイナにしつこく付きまとう万尋。

食堂で、廊下で、練習場で、だんだんずうずうしくなり始め、用事もないのにアイナの個人作業部屋にまで押し掛けるようになってくる。雑用やるよ、とアイナの技術者としての仕事を一部請負はじめる。朝練ももちろん続けており、水夫の仕事とアイナの雑用係のダブルワークに夜は死んだように眠る万尋。ドニにも少し心配されるが、好きでやってることだしこんな濃い体験はこの一カ月を逃したらもう体験できないから、と万尋。(短シーンの連続描写)

しかし、何度お願いしてもダメなものはダメだ、とオルガの遺産は見せてもらえない万尋。



・アイナ視点

徹夜仕事明けのアイナは船の甲板を通って自室を目指している。

そこでひとりで朝練をしている万尋を見かける。しばらく、声をかけずにひとりで彼の練習を眺めているアイナ。その姿からは遠くても一生懸命さが伝わってくる。アイナはその姿、想いは「美しい」ものだと感じる。



・アイナ視点継続

どれくらい見とれていたのか、気が付くと万尋の方もアイナに気づいており声をかけてくる。

「ひとりでなにやってるのよ」「飛操フライトの基礎練習だよ」「あんた、ウィッチだったのね」「うん。ウィッチだよ。プロにはなれなかったけど、僕はウィッチだ」「命をかけるほどのスピードで同じところをぐるぐる回るなんて、わたしはバカのやることだと思うのだけど」ひどいなと苦笑する万尋「あんたは、ウィッチクラフトが好きなの?」(アイナにとっては他人の好きなものを聞くなんて初めてのことだったが、アイナは万尋の練習する姿を見て、聞いてみたいと思った)「ウィッチクラフトが好きかどうかだって? ……う、うーん?」煮え切らない返答を意外に思うアイナ「好きじゃないの?」「よく分からない」「よく分からない?」「うん。よく分からないっていうのが素直な気持ちだよ。ウィッチクラフトをするってことは、僕にとって当たり前のことだった。だから、好きかどうかなんて今まで考えたこともなかったな」「じゃあ、もしかして嫌い?」「あはは、嫌なところはたくさん知ってるよ」「例えば基礎練習ね。これ、反吐が出るくらいつまらない上に、超辛い」「でも、良いところもたくさん知ってる。例えば一番でゴールリングを抜けた瞬間。その瞬間のはじけるような幸福感と爽快感は、言葉にはできない」「好きとか嫌いとか、そんな単純な言葉じゃ表せないよ。ウィッチはみんな、そうなんじゃないかな」「理屈じゃないし、たぶん感情でもない。本能、なのかな。空を飛ぶ奴の魂ってやつはさ、たぶん生まれたときから空を飛ぶようにできてるんだよ」「分かる?」「分かんない。男のロマンってやつ?」「ちょっと違うかな。そう、例えば、アイナにとってのMDと同じってことだよ」「一緒にしないで。わたしはMDが好きよ」「でも、MDに関わるとイライラすることって、あるよね」ある、と心の中で答えてしまうアイナ。「でも手放せない。手放すことなんて考えたこともない。きっと理屈じゃないんだよね。お互いさ」笑う万尋。胸の内がグルグルするアイナ。

こんな気持ち、他人に対して抱いたことなんてなかった。嫌な奴、ではない。嫌い、ではない。でも話してるとむかつく。わたしを変な気持ちにさせる。悪い奴。そう、悪い奴だ。ちょっと苦手かもしれない。でも、嫌じゃない。変なの。なんでわたし、こんなにあいつのこと考えてるんだろう。



・万尋視点に戻る

その日一日、物凄くアイナからの視線を感じる万尋。目が合うとふいっと視線を逸らされてしまう。しかし、視線を感じる。物凄い人相の悪い不機嫌なしかめっ面でこちらを睨んでいる。朝、偉そうなこと言いすぎて機嫌を損ねたのかな、と思い明日で謝ろうと考える万尋。



翌日、万尋が謝ろうとすると、「はい。これ読んでおきなさい」とブ厚い書類を渡される。困惑する万尋に、機械室に入る時の注意点をまとめておいたものだと説明するアイナ。その説明に、動力炉を見せてもらえることになったと分かった万尋が喜ぶ。しかし、「先に言っておくけど、その冊子の内容を頭に叩き込んでこないと中には入れないわ」と言われ青ざめる万尋。「暗記は得意?」というアイナの言葉に首をぶんぶんと振る万尋。「そう。わたしの気が変わらないうちに死ぬ気で覚えなさい」とアイナ。(アイナ、こんなの一回目を通せば覚えられるでしょ、と言うが全力で抗議する万尋)



万尋、そこから冊子の暗記に努める。当然朝練と水夫の通常業務はこなすが、これまでアイナに張り付いていた時間をすべて暗記に充てる。ドニに受験生みたい、と笑われる。

二日後、アイナに覚えた、と伝える。万尋、心配そうに「セーフ?」と聞くと「セーフ」と悪戯っぽく笑うアイナ。万尋、いつも笑っていればいいのに、と思うが怒られそうだから伝えない。



その翌日、夜中にこっそりアイナの部屋へ訪れる万尋。

二人で薄暗い船内を静かに移動する。このとき副船長室の前を通る(布石)。偽造パスワードで機械室のロックを開ける。「え、偽装って。ここのセキュリティ大丈夫なのかよ」「わたしが作ったセキュリティに不安が?」「さいですか」

通常の機械室を通る。ここの管理、調整、場合により修理が技術部員の機関士の主な仕事だと説明される。このとき、アルバトロスの動力、飛び方について改めて説明を受ける。アルバトロスの外見は超大型の帆船の形をしているが、当然空を飛ぶためには魔法の力を使っている。使用する魔法は主に重力魔法で、帆で風を受けて通常の帆船を同じように推進力を得ている。甲板を守っているのは風力魔法で、重力魔法と風力魔法、共にウィッチが飛操に用いる技術を同じもの、その超拡張版だと説明される。万尋、超拡張版って簡単に言うけどその拡張が一番の謎だ、と突っ込みを入れる。魔法は空素を消費して行使される。この空素は人間の心臓で生成される物質だが、人の体で生成されるものであるが故に量に限界がある。現代の魔法学では空素の人工生成や外部保存には成功例がない。よって、魔法の半永続的な行使、及び超大規模魔法の使用は現在の魔法学では不可能とされている。どちらも人間の保有できる空素では実現しないからだ。だから、大規模で、しかも永続的な魔法行使が必要な魔法動力による乗り物というのは実現しない、というのが定説である。だからこそ、ウィッカンリードという組織はウィッチクラフトに興味のない人間にも知られるほど有名なのである。ウィッカンリードが保有するアルバトロスは、どう見ても現代魔法学の範疇から外れて動いている。アイナが言うには、その秘密がこの先にあるという。

機械室の中に、さらに厳重にパスコードで守られた隔壁。そこも突破し、ついにアルバトロスの心臓にたどり着く。「これが、おじいちゃんが発明した『コルマキーナ』と『アブソード』よ」そこにはビル二階分に相当しそうな、複雑にコードの絡み合った巨大な機械があった。「万尋、あんたさっき『空素は外部保存できない』って言ったわよね。ここにある『コルマキーナ』はね、それができるのよ」ととんでもないことを言い出すアイナ。二つの装置の説明をしてくれるアイナ。『コルマキーナ』は専用の魔法式を打ち込むことで空素を外部保存する装置。中には疑似血液が循環しており、魔法学的に人間の心臓と同じ働きをさせることで空素を傷つけずに保存しているのだと言う。ちなみに、このバカでかい装置のほとんどはコルマキーナの部品。『アブソード』は大規模魔法をコントロールするための補助機構で、空素を外部保存できるコルマキーナと一対の装置。本来は魔法式が術者の脳内にある『空素保存領域』に干渉して魔法を起こす。しかし、機械で魔法を使用する場合、その脳を介すことができない。だからアブソードは接続したコルマキーナから空素を吸い上げる。アブソードに魔法式を接続すると、アブソードは疑似的な脳として機能する。少なくとも、魔法式はアブソードを人間の脳だと勘違いして作動する。オルガ・ランドオルフはこれ以外にも空素を外部生成する装置とか、魔法を制御できる人工知能を構想していた、最終的には完全に人間と対等なアンドロイドを目指してたみたい、その前に死んじゃったんだけどね、と語るアイナ。

その内容にすごい、と目を輝かせる万尋。直接会って話がしたかった、と悔しがる。呆気にとられるアイナ。「引かないの?」「なんで?」と万尋。これまで何回かこの話をしたことがあったけど、だいたい頭がおかしい人扱い、雪花ですらマッドサイエンティストだってちょっとだけ呆れてた、と言う。

万尋はその人たちが言うことも分かる気がするけど、と少し苦笑して。でも、その目論見もすごいし、面白いと思う、と語る。それに、今目の前にあるこれだけでも十分にすごい。これがあれば、今まで机上の空論だった色んな魔法学上の問題が解決する、と。しかし、そこで万尋はこれが秘蔵されていることに疑問を持つ。

オルガはこの技術の扱いをアイナと大将の二人の判断に任せる、と残したのだという。大将は公表は必ずするが、時期を見たい、と。アイナは今すぐにでも公表するべきだと思っている。大将は科学者じゃないから……と悔しそう。万尋はまあ、魔法学の歴史が変わるくらいの大発明だから、僕らじゃ分からないくらい扱いはデリケートなのかも、とフォローする。

万尋。だって応用の幅は無限大だよな。コルマキーナはもちろん、こっちのアブソードだってたぶん研究を重ねれば単体でできることはいくらでもあるはずだよ。そうだ、別燃料の使用はルール違反だからコルマキーナはウィッチクラフトに使えないけど、アブソードだったら。止めなさい、アブソードと人間を繋いだら脳を介さずに心臓から直接空素を奪われて死んじゃうわよ、とアイナ。しかし、万尋はぶつぶつとなにかをつぶやき聞いていない。「万尋?」「いや、うん。駄目だ。アイナの言う通りだ」「なにか思いついたの?」「うん。ちょっとね。でも、駄目だった」「ただ、ちょっと気になることがあるから、アブソードの機構見せてもらってもいい?」

さすがに素人の万尋に触らせることはできない、とアイナ。そうすると今度はアイナに指示を出して色々なところを見せてもらったり部品の役割を説明してもらったりする万尋。



・アイナ視点

アイナ、人使いが荒いとキレかけるが、万尋が怖いくらい真剣な目をしてものを考えているのを見て、今だけは大人しく使われてあげることにする。否定してはいたが、万尋にはなにかアイディアがあるのだ。まだ、それを人に語って聞かせる段階ではないというだけで。アイナにも似たような経験はあった。こういう時は、他人が余計な詮索をして思索の邪魔をしてはいけない。



・万尋視点、翌日

副船長室に二人並んで立たされている万尋とアイナ。あの後、二人は雪花によって現行犯逮捕される。「アイナ、私にも立場というものがあるわ。笑って済ませられることと、そうでないことがあるの」雪花がそう言ってもむっつりと黙って不機嫌な態度を崩さないアイナ。おろおろとする万尋。なにか弁明をしようと口を開くが、アイナと雪花の両方から黙っていろ、と怒られてしょげる。

「まず、万尋くん。君が昨日見たものは他言無用でお願いね。外に情報が漏れたと分かったら、君の身の安全の保障しかねるわ」威圧するような口ぶりではないものの、これまでは感じなかった雪花から漏れるただならぬ気配にぶんぶんと勢いよく首を縦に振る万尋。ああ、この人はやっぱり大将の娘なんだな、と思う。そしてアイナに向きなおり、「罰として、あなたの特権は一時的に剥奪します。それから、今日から二週間、あなたにもカヴンのメカニックとしてのデータ収集と現在彼らが使っているブルームの調整を命じるわ。一人でやってもらうことになるけど、あなたならできるわね?」「一人で?」青くなるアイナ「できるわね?」うむを言わせない雪花。アイナは不承不承頷くが、万尋を指さして、こいつは助手として使わせてもらうわよ、と言う。「いいでしょう。彼にも罰則が必要ではあったし、アイナがそれでいいのなら、当直時間以外でなら万尋くんのことは助手として好きなように使いなさい」「万尋くんも、それでいいわね」「は、はい」「作業には明日から当たりなさい。以上よ」



アイナが青くなった理由を僕は翌日に身をもって理解する、と万尋。

タイム測定、機材運び、ブルームのトラブルシューティング、あっちこっちで呼ばれて走り回る万尋、アイナと操手の喧嘩の仲裁など。(短シーンの連続描写)



「これ、二週間続くの……!?」ヘロヘロの万尋。「だらしない。わたしは部屋で自分の作業進めるから」「手伝えることある?」「一人の方が効率がいいからほっといて!」真っ赤になってアイナ「怒らなくたっていいじゃんか」と万尋。

その後、万尋も自室に帰って机に向かう。作業をしていると部屋に戻ってきたドニがのぞき込んでくる。慌てて隠すも見られてしまう。「図形? しかも、魔法について書いてあるってことは、もしかしてMDの設計なの?」「なんでもない。ちょっとしたラクガキだから。気にしないで!」「なーに恥ずかしがってんだよ。分かった、もう覗かねーよ」その後、机で寝落ちしてしまう万尋。



数日後。

カヴンの数人が練習の合間に輪になって雑談している。その輪の中に万尋も加わっている。このときもある一人が細かい注文をアイナへ伝えてほしいと万尋に頼んできた。アイナに用があるとみんなまず万尋に言いつけるので、万尋は余計に大変なのだと最近ようやく気が付いた。

「みなさん、そういうのはアイナに直接言ってくださいよ」「アイナと日常的にコミュニケーションが取れるのなんて、お前ぐらいなんだよ」「だってあいつ怖いじゃん」「僕だって下らない事アイナに言いつけると怒られるんですよ!」「はっはっはっ、何言ってんだ。お前はそれが仕事だろ」「ひどい……」「落ち込むな。冗談だよ」と別な人がフォローしてくれる。

フォローしてくれたのはウィッカンリードのカヴンのキャプテンでもあり、カテゴリーAの操手であるウォーリー(ウォルフガング)・ブラウン。ウォーリーについてさらっと紹介する。あと個人戦であるウィッチクラフトのプロチームで、キャプテンが設定されているのは珍しい、ということにも触れておく。ウィッカンリードでは個人練習はもちろんのこと、複数で行ったほうが効率のいい基礎トレーニングを取り入れたり、実戦形式の練習も多く行っているため、個が集まった集団というよりもチームとしての側面が求められるという。現在ではまだ数は多くないが、カヴンがチームという形式を取ることは今後増えていくはずだ、とはキャプテンの談。

カヴンの人間ともそれなりに親しくなったが、こうした雑談の輪の中に瞬司の姿はいつもない。このときに限らず、瞬司は集団から浮いているように思えた。そのことが気になり、万尋はキャプテンに尋ねることにする。「キャプテン、瞬司ってカヴンではどんな風なんですか?」キャプテンの評価、カヴンの他のメンバーからの評価を聞く。ちょっと自己中心的なところもあるけれど、練習熱心で能力も高いから俺もみんなも一目置いている。恐らく遠くない未来にカテゴリーAまで登りつめる、俺もあまりうかうかしてられない、など。

このときの雑談も、遠くで一人で休憩していた瞬司がそろそろ時間だと練習再開を促したことでお開きとなる。



また別の日。

ウィッチの飛操能力を機材を付けて1試合分飛ぶだけで数値化してくれる装置を目にする万尋。魔法力を数値で表すという試みはすでにされていたが、それをここまで簡単に、しかもウィッチクラフトに特化した形で測定してくれる便利なものが存在したのかと驚く万尋に、わたしが作った試作品だから流通はしてないわよ、とアイナ。ウィッチの能力を測定するとは言え、飛操速度以外は基本的に魔法力を測定する機材だから、改良して特許を取ったら教育機関相手に売るつもりだという。相変わらず話の規模がでかい。

主な測定項目は「平均飛操速度」「空素保有領域」「魔法式処理速度」「血中空素量」「一回拍出量」の五項目。目に見えるところに瞬司のテスト結果がある。「平均飛操速度:302㎞」「空素保有領域:ルビー」「魔法式処理速度:411MBps」「血中空素量:0.81%」「一回拍出量:171ml」。

アイナに自分もやっていいか聞き、測定してみる万尋。「平均飛操速度:259㎞」「空素保有領域:パール」「魔法式処理速度:512MBps」「血中空素量:1.60%」「一回拍出量:179ml」。改めて絶望的な数字に自虐的な笑いが漏れる。



・シーンを分ける、モノローグのみ

現在のウィッチクラフトのカテゴリーAのテクニカルレギュレーションでは、平均速度は300㎞を越えなければ勝負にもならない。レギュレーションがほぼ同一であるカテゴリーBでは290㎞越え、カテゴリーCだと270㎞あたりが目安になる。つまり、プロとして戦うのであれば、まずこの数字を出すことが最低条件になってくる。その上で始めて、相手との駆け引き、コースとの駆け引き、マシンとの駆け引きが始まる。カテゴリーC以下のランクではレギュレーションが大きく変わりスピードも落ちるので、万尋でも十分に戦うことができる。しかし、万尋の空素保有領域では、ブルームのレギュレーションをカテゴリーA仕様に変更しても、その性能を引き出せない。無理をして瞬間速度を上げることはできる。しかし、その結果は墜落しかありえない。保有領域内の空素がカラになってしまえば、飛び続けることはできない。ガソリンタンクの中がカラになれば、機械は止まるしかないのだ。万尋の検査結果として出た「パール」という等級は空素保有領域の最低のランク。一方瞬司の等級はいわゆる天才と称されるルビー。万尋から見て二ランク上の位であり、一般に容量の違いは百倍だと言われている。どんなにマシンの性能を上げても、どんなに持久力があっても、どんなに魔法使用効率を高めても、百倍の差を埋めて同じ速さで飛ぶことはできない。だから、諦めるしかない。よく分かっただろう。諦めるしかないんだ。自分に言い聞かせる万尋。



また別の日。

アイナに寄せられる意見やお願いをまとめていたところ、万尋は「ピーキー」「高性能だが使いづらい」という声が多いことに気が付く。そのことをアイナへ伝えると「具体性がなくて分かりづらいわ」と一刀両断される。万尋はその場にあったアイナが調整を終えたばかりのブルームを手に取り飛操してみる。「ああ、なるほど使いづらい」と頷いて、細かい調整をアイナへ伝える。なるほどと素直に頷いて再調整を施すアイナ。しかし、なぜこんなことになるのか分からないと万尋。こんな微調整レベルの問題は試しに飛んでみれば分かることなのに。そうね。…………。会話か続かず変な空気になる。「アイナ、もしかしてブルーム乗れないの?」真っ赤になって怒り狂うアイナ「わ、わ、わ、わたしが、カナヅチだと。あ、あ、あ、あんた、今、そういったわね?」「言ってない。そこまで言ってないよ!」マジカロイドでタコ殴りにされる。「笑ってないよ! 冤罪だって!」基礎フレームの開発には携わっても、調整は専門じゃない、など言い訳をまくしたてるアイナ。

その後、落ち着いたアイナへ万尋が乗り方を教えるよ、と提案する。当初は断るアイナだったが、オルガの遺産を見せてくれたお礼がしたい、とゴリ押す。しつこい万尋に断るのも面倒くさくなったアイナが折れる。



日が変わり、アイナと万尋の休憩時間。

カヴンの練習の邪魔にならない甲板の片隅でアイナに飛操を教える万尋。まず万尋が実演して見せ、アイナに真似を促すが壊滅的にセンスがない。だから嫌だったのだ、笑いたければ笑いなさいよ、と拗ねるアイナに「笑わないよ」「僕は他の誰よりもできなかったから。できなかったときの悔しさも、恥ずかしさも、憤りも分かるから。絶対に笑ったりしない」と万尋。「大丈夫。僕はそもそも魔法を使うことすら最初は怪しかったから。アイナは普段から自在に魔法を使ってるんだから、僕よりよっぽど向いてると思うよ。要は、コツの習得と慣れなんだよ」と丁寧に一から教え始める。しばらくすると、飛べないまでも浮くことはできるようになるアイナ。初回講習の終わりに、教えるのが上手い、そういうのに向いてるんじゃない? と褒められる。



・瞬司視点

アイナが万尋と飛操訓練を始めたことを知っている。またちょろちょろと余計なことを、と思っている。自分の面倒もまともに見れないくせに、他人のお節介を焼いている場合かと憤る。

アイナが一人のときを見計らってブルームのパーツ開発に関する相談に行く。万尋のことについてアイナに聞こうとして、聞いてどうすると思いとどまる。用が終わったらすぐに立ち去ろうとするが、万尋に見つかって呼び止められる。しかし、それを無視して瞬司は立ち去ろうとする。それでも追いすがって話をしようとする万尋。怒りが頂点に達した瞬司は足を止める。

攻撃的な口調で「お前は俺をどうしたいんだ?」と問い詰める。「どうしたいって……。懐かしい友達に会って声をかけることが、そんなにおかしいことなのか?」「はん。別におかしくはないがな、お前のそのお友達ごっこに俺が付き合ってやることになんのメリットがあるんだ?」「メリットって……」「俺はな、プロなんだよ。ここでやってることは全部ビジネスなんだ。お前のおままごとを持ち込むのは、頼むから止めてくれ」二の句を告げられなくなってしまう万尋。しかし、顔にはまだ凍り付いた愛想笑いが張り付いたまま。瞬司はそのことにまたイライラする。「空気の読めないお前でも理解できるようにはっきりと言ってやる。虫唾が走るから、その『お友達ヅラ』を今すぐ止めろ」愛想笑いすらも壊れる万尋。



・万尋視点

瞬司が去った後、しばらくその場に立ち尽くす万尋。その後、自失状態でふらふらと歩き出す。

プロを諦めたことを瞬司は許してくれなかった。だから絶交された、と万尋は理解する(実際にはこの理解は瞬司の主張とはずれている)。だけど、僕だってお前が嫌いだ、と万尋は心の中で毒づく。どんなに頑張っても瞬司のようにはなれなかった。もちろん瞬司の努力なんて知る由もない。もしかしたら、彼の方が何倍も努力をしているのかもしれない。でも、それだって瞬司の持つ才能があってのことだ。スポーツはどこまで行っても実力主義の才能至上主義。どんなに努力しても届かない才能の壁は確かに存在する。これまで僕は、その壁をどこまで努力だけで登れるのかに挑み続けてきたつもりだ。無邪気に飛ぶのを楽しんだ時代ははるか昔、己の才能を探し求めて足掻き、どんなに肉体を苦しめても開花しない才能に絶望し、その絶望すら飲み込んで持てる力を最大限に生かして壁を登ることを決意した。でも、未だ壁の頂点すら見えない。もう疲れた。僕にはもう、努力の仕方が分からない。涙が流れた。それでもなお、才能の神様は僕のことをいじめ足りないらしい。才能がなくて、体も、心も、すべてを壊してでも戦い続ければ良かったのか? それが覚悟なのか? そんなもの、持てる者の傲慢じゃないか! 才能がなかった人間はどうするべきなんだよ。これが才能もないのにのこのこと戦場にやってきた愚か者が受ける報いなのか。ふざけんなよ。動悸がしてその場にうずくまる。激しい咳に襲われる。胸が苦しい。涙がぼたぼたと頬を伝う。くそ、ふざけんなよ。



・アイナ視点

少し離れたところから万尋と瞬司のやりとりを一部始終見ていた。聞いてはいけない話だ、と思いながらもその場から足が動かなかった。その後、物陰の奥へ消えていく万尋の姿を見送った。そっと近づくとすすり泣く声が聞こえてくる。アイナはその場でじっと立ち止まり、声が聞こえなくなり、万尋が十分落ち着けるまで静かに待った。やがて万尋のため息と「よし」という小さな声を聞いてから物陰から飛び出した。「なにこんなところでサボってるのよ!」一喝と同時にマジカロイドでまだ屈んだままだった情けない万尋の姿を蹴り飛ばす。「痛ってぇ! なにすんだよ!」「うっさい! 飛操訓練の続き、やるわよ。わたしは暇じゃないの! キリキリ動きなさいよね」「分かったよ。ちょっと顔洗ってしゃきっとしてくるから」「早くしないよね!」泣いていたことを隠す万尋と気づかない振りをするアイナ。



それからの二週間の日々は瞬く間に過ぎていった。忙しくしているうちに瞬司のことは心の隅に置いておけるようになった。それは決して消せないけれど、ふと気を抜くといつでも視界に入ってきて僕の心を支配しようとするけれど、それでもなんとか心の中で折り合いをつけることはできるようになった。僕は彼に心の一角に居場所を作ることにした。消そうとしても消えないのであれば、せめて端っこの方に居座らせることにした。そうすれば、今は彼と戦わなくて済む。いつかは決着を付けなければならないけれど、それはきっと今じゃない。今は悲しみも絶望も棚の上に置いておいて、目の前にあるやれることをやろうと思った。きっと、今彼を直視してしまえば、また僕は歩けなくなってしまうから。

目を逸らし、やれることをやれるだけやったこの二週間は本当に色々なことがあった。水夫としての通常業務、アイナの助手仕事、アイナから文献を借りながら進めるから余計に受験勉強みたいだと笑われる設計作業、忙しくてあまりやれなかったけどたまにアイナとの飛操講習も継続して続けた、そして今週末に行われたアイルランドGP。(短シーンの連続描写)

そして今日、アイルランドGPの快勝を祝して、現地のお祭りが始まる明後日から三連休のボーナスが降りることが発表された。祭りは三日三晩に渡って行われるという。カヴンの男連中は派手好きのお祭り男が多いため、朝っぱらから食堂で大盛り上がり。ドニと一緒に食事を取っていた万尋もその空気にあてられて少し楽しい気分になる。しかし、ふとアイナを見ると浮かない顔をしているのが気になった。



その日の夕方、場所はアイナの私室。すっかり助手が板につき、アイナも自分の仕事の一部を任せることに違和感を感じなくなっている。助手とは言え、MDに関する技術はブルーム以外では一般人に毛が生えた程度の万尋は少し専門用語が分かる小間使い程度の手伝いしかできないが、それでもいつも一人で作業をしていたアイナにとって簡単な作業を人に回せるのは格段に効率をあげているようだった。作業を進めながら、万尋はアイナになにか心配事でもあるのかと尋ねる。「なんで」「朝、三連休の話をしてたとき、なんか落ち込んでるように見えたから」「別に気のせいでしょ」そう言いながらもため息をついているアイナ。「明日は?」本当に自然に、明日はいつ頃ここにこれるのか、と聞いてくるアイナ。「当直だから、いつもより遅くなる」「ん。分かった」(短くまとめる)



翌日、雪花を捕まえてアイナの様子に心当たりがないか聞いてみる。そこであっさりとオルガの命日が近いせいだと教えられる。例年は船のルートを可能な限りドイツに近づけて、同郷のウォーリーにブルームで送らせてたんだけど、今年は先日のアイルランドGPと次の日本GPに向けての航海ルート的に、ドイツへブルームで寄れるほど近づけなかったのよ、と雪花。「ドイツの人は結構お墓参りを大切にするみたいだし、アイナにとってオルガさんは、両親以上に特別な存在だったみたいだから、毎年やっていたお墓参りができないのはかなり気になるんじゃないかしら」「なるほど」と万尋。ちなみに、アイナのおじいさんのお墓ってドイツのどこにあるんですか? と聞く万尋。ヴァルプルギスの夜とかで有名なブロッケン山の麓ね、と教えてもらう。もうひとつ、航海に世界地図使ってますよね? コピー取らせてもらってもいいですか? 



自室で世界地図のコピーを広げる万尋。今度はなんだと興味津々のドニに定規取って、ペン貸して、電卓取ってきて、と色々お願いを言いつけまくる万尋。気安い良い友人になっている二人。そして、「できた」



アイナの部屋へ飛び込んで、「アイナ、連休になったらドイツへ墓参りに行こう」といきなり切り出す。「バカじゃない。無理に決まってるでしょ」「アイルランドからドイツまで、いったい何キロあると思ってるのよ」「約2050㎞だった」「?」「試算したんだ」これを見て、と万尋が飛行プラン書をアイナに見せる。「時速100㎞の安全運転で飛び続ければ、まあさすがに途中何度か休憩は挟む必要あるけど、丸一日に足りないくらいで付けるよ」「それは数字上じゃそうよ。でもね、車じゃないんだから、20時間もウィッチが飛び続けられるわけないでしょ」アイナ、書類に目を落として。「これ、自分で書いてるじゃない。空素回復に必要な血中空素量1.32%って……。カテゴリーAのウィッチでも0.8%しかないのよ」

『血中空素量』とは血液に含まれる空素の割合を示す数値である。魔法使用者の空素回復力を示すものであり、その人間の心臓が一度にどれくらいの空素を生み出せるかを表したものでもある。あまり詳しいことは分かっていないが、運動などで心臓を鍛えることである程度数値が伸びることが分かっている。とは言え、トレーニングをしていれば自然と備わってくる能力でもありウィッチはこれを特別鍛えたりはしない。ウィッチクラフトでは短い時間での爆発的な空素の使用を前提とするので、魔法使用の持久力を象徴するこのステータスは「あれば嬉しいけど必須でもない資質」として捉えられている。

万尋は呆れるアイナに「そんなことは分かっている」と少し拗ねたように言いながら、次に別の紙を渡す。以前、アイナが試作したという能力測定器の結果だった。「血中空素量:1.60%」とある。それを見たアイナは「嘘……」と絶句。しばらくして、憤慨し始める。「なんて使えない才能なのよ。あんた、器がお椀くらいしかないくせに、吸水口が蛇口じゃなくて配水管くらいあるってことよ、これ」「どんなに心臓が空素を効率よく生成しても、保有領域がパールしかないんじゃ、作った空素を受け止めきれないじゃない! あんた体の中でどんだけ空素を無駄遣いしてるのよ!」「あんた、ウィッチなんでしょ」「そうだよ」「速く飛びたいんでしょ!」「うん」怒り心頭のアイナ。だが、怒りのはけ口がなく、癇癪を起してどしんっと音がするんじゃないかと思うくらい力強い地団太を一度踏んだ。そして、力なく「なんて、なんて不器用な体なのよ。なんであんた、そんなに不器用なの?」「いや、僕に言われても」「あんたの体じゃない」「そうだけど」

「はぁ。要するに、あんたの体はだらだらと長時間魔法を使い続けることに適したものだってことなのね」「そうだな」だから三日あれば十分にドイツまで行って戻ってこれるのだ、と説明する万尋。しかし、アイナは少し黙ってから、行かない、と言い出す。勝手にわたしがおじいちゃんのところに行けないから拗ねてたなんて決めつけないで! と怒り出す。万尋、じゃあ僕が一人で行ってきてもいい? なんであんたがおじいちゃんのところ行くの! そりゃ尊敬してる人のお墓だしね。生前会えなかった無念をここしばらく痛感してたところだから、ちょっと会ってくるよ。場所も分かったし、行ってきてもいい? わたしに聞かないで! 勝手にすればいいでしょ!



部屋をたたき出されてやれやれと一人で旅支度をする万尋。携帯食料、水筒、地図、お金、防寒具、ブルームなど。



三連休の初日、雪花に外出届を出す万尋。本当に一人でも行くの? と雪花。はい、と頷くと、ならそこの角に届けてもらいたいものを用意しておいたから、お使い頼めないかな、と雪花。荷物は見ればどこに届けるのか具体的なことも分かるようにしておいたから。ブロッケン山麓の詳細な地図も受け取る。



角を曲がって荷物を確認しようとすると、そこには物などなく、旅支度のすんだアイナが居た。「バカには監視が必要だから。雪花に頼まれて仕方なく」とぶつぶつ言っているアイナ。万尋、素直に喜ぶ。



アイナが用意した二人乗り用のブルームにまたがる。アイナが用意したブルームというのに少し顔が引きつる万尋に、ちゃんと微調整は伊織モブにお願いしたから安心していいわと言ってから脛を蹴るアイナ。船を飛び立つ。



二人で他愛もない会話をしながら飛んでいく。(どこの国でも法律で町の上をブルームでは飛んではいけない、というものがあることなど触れる。だから、直線に進めばいいというわけではなく、きちんと計画的なルートを通って行かなくてはいけない)

雑談。アイナが暇だと言って万尋を質問攻めにする。幼い頃どんなだった、学校ってどんな場所なのか、そこでどんなことをして生きてきたのか。万尋、律儀にひとつひとつの疑問に答えていく。(ブルームの周囲は風の防護魔法で守られているため、同乗者同士で会話することは問題ない)(話をしながら、沸血症状が少し辛い、くらいの描写をちょっとだけ挟む)(途中、テントを張って野宿するシーンも挟む)(短シーンの連続描写)



早朝、オルガが生きていた頃、アイナと二人で住んでいた屋敷にたどり着く。(アイナの両親はアイナが生まれて間もない頃死別、この屋敷は今もハウスキーパーによって維持されている、などの情報に軽く触れる)アイナはフラフラの万尋を客間へ案内してしばらく寝ているように言う。アイナの言葉に甘えてその場は寝ることにする万尋。



・アイナ視点

昼過ぎ。屋敷の裏庭。まるで公園のような個人墓地。ハウスキーパーには最低限の維持しか命じていないし、アイナ自身この家に帰ってくることは年に数回くらい。だから毎回帰ってきたら広い墓地を自分の手できれいにするのが習慣だった。今回も張り切って掃除していると、屋敷から万尋が出てきた。疲れているのだからゆっくりしていていい、と言って聞かせても、やるよ、と言って自分も手伝い始めてしまう万尋。二人でお墓をきれいにする。作業をしながら、アイナがどうやって自分が育ったのか、オルガはどんな人だったのかなどを語って聞かせてくれる。(直接表現は避けるが、アイナが万尋に恋をしている決定的な心理描写を入れる)



・アイナ視点継続

日が落ちたころ。アイナは自分の恋心をすぐに自覚する。帰り道の飛操が始まるとき、飛び立つとき、行きのときしたよりも強く、万尋の背中をぎゅっと抱く。(すぐ場面転換)



・万尋視点

二人が船に帰ると、万尋のアホな飛行プランの話が船中で話題になっている。現地の祭り帰りで興奮冷めやらぬカヴンの男連中に甲板に到着した瞬間もみくちゃにされる。みんなでワイワイやっているところにキャプテンが現れる。その場でカヴンの練習に参加してみないか、と誘われる。元々、四週目はドニのような第二カヴンの連中を練習に混ぜる予定があったので、別に一人増えたところでどうということはないのでどうか、と。ドニと二人で喜ぶ。アイナは集団からは離れたところにいたが、万尋が手を振ると少しだけ笑ってくれた。



翌日。ドニと万尋の第一カヴン練習参加初日。

二人ともハードな練習に息をあげながらも、なんとか付いていく。

その夜、練習でふらふらになりながらも自室へたどり着く二人。ドニはさっさと寝てしまうが、万尋はそこから机に向かいMDの設計図をさらに進める。しかし、あるところで手が止まる。練習で疲れてるのに、そこからさらにこんなものを書き進めることに意味はあるのか? 自分を慰めるためだけの哀しい妄想なんじゃないか? 休息だってスポーツ選手には必要なのに。僕は今、こんなことをやっているべきなのか? いっそ、破り捨ててしまおうか、と図面に手をかける。だが、ここで自棄になって破いたって、それこそ自己満足だと思い直す。もうちょっとだけ、もうちょっとだけ、書き進めてみよう。時計の針は午後十一時を指していた。



・瞬司視点

同時刻。午後十一時。

個人部屋を持っているキャプテンの元を瞬司は訪ねていた。今日の練習なんなんですか、軽すぎる、と瞬司。まあ、うちの練習初参加の人もいるからね、とやんわりと言うキャプテン。なぜ、彼らに合わせて我々がレベルを下げなければいけないんですか。後進を育てるのはプロのチームとしても、チームのキャプテンとしても、僕の大切な仕事なんだよ、と毅然とした口調のキャプテン。しかし、瞬司は引かない。第一カヴンの練習に付いてこれないのなら、ここにいるべきではない、と口調を荒らげる。口を慎め、それは君が決めることではない、と少しだけ怒りを表現するキャプテン。睨みあう両者。やがて、君のストイックさは信用している、と戦わせていた視線を外して言う。君は正しい。しかし、いつも自分だけが正しい、という考えは改めるべきだ。勝利へ至る道筋は常にひとつではない。君には期待しているよ、と肩をポンと叩くと話は終わりだとばかりに瞬司に背を向けた。その背中をギリッと睨みつけてから退出する。



・万尋視点

翌日。これまでさんざん万尋のことを無視していた瞬司が話しかけてくる。「おい。俺と試合しろ」カヴンだけでなく、かなり大勢の人がいる前で、かなり大きな声で言ってくる。瞬司がどういうつもりで言ったのかは分からないが、これは断れる状況じゃないな、と思う万尋。その場にはアイナもいる。試合を受ける万尋。カヴンの能天気な連中は無責任に盛り上がり、逆にそれ以外の人間は万尋に取り消すべきだ、試合なんてするべきではない、と止められる。万尋の内心、そりゃプライドは高い方じゃないけど、男として取り消すことなんてできるわけがない、と思っている。



試合前。万尋は船に来てから自分専用に改良を重ねてきた試合用のブルームを取り出す。「地力、魔法能力面で劣る自分は、こうしたMD知識に精通してより自分に適したものを使うことで他人と差を付けるしかない」という万尋の思想の提示。

万尋だって勝てるとは思っていない。競い合うことすらできないだろう。瞬司は万尋に恥をかかせるために勝負を挑んできたんだ。それくらい分かる。それくらい嫌われたんだって分かった。だけど、自分だっていつまでも同じ人間ではない。アイナという天才をこの三週間、一番身近で見てきた。そこからたくさんのことを学んだ。おかげで万尋のMD技術や知識は飛躍的に向上した。改良を重ねたブルームはかなりの自信作だ。勝てないまでも、競れないまでも。たった一瞬でいい。一瞬でも瞬司の背中を脅かせたら、自分はまだウィッチなのだと証明できれば、ちょっとは瞬司も万尋のことを認めてくれるかもしれない。だから、これはチャンスなのだ。



模擬戦用にリングを展開したフィールド。船は海の上に着水している。

カヴンのお調子者(モブ。要名前と簡単なキャラ設定)が公式戦を真似て実況を行っている。模擬戦用のルール説明。コースは一周10㎞のコースをより速く飛んだ方の勝ち、二周目以降なしの一周勝負、当然ピットインはなし、など。



レース開始直前の緊張。ブルームに跨る。レースが始まる。

小競り合えたのは最初の数秒だけ。気が付くとぐんぐん離されていき、実力を度外視した加速を万尋が行ってもまったく追いつけない、あっという間に圧倒的な差が開く。飛べば飛ぶほど絶望は深くなっていく。結局、6㎞も飛んだところで万尋は飛ぶのを止めてしまう。分かっているつもりだった才能差、実力差が分かりやすい形で現実になっただけ。だが、その差が、自分が想像していた最悪のものよりも、もっとずっと大きかった。苦しい思いをして、自分が築き上げてきたものはいったいなんだったのだろうか。英雄になりたかったわけでも、誰かに褒めてもらいたかったわけでもない。どうしようもない現実と戦って、「戦える」ということを己に証明したかっただけだった。そんな小さな願望すらも、許してもらえないのか。万尋の中にあった、少しだけ残っていたウィッチとしてのプライドとか、意地とかが粉々になる。



試合後放心の万尋。瞬司は勝利するとそのまま万尋に話しかけても来ない。他のみんなはしょうがないと励ましてくれる。特に、ドニとキャプテンがフォローしてくれる。しかし、そんな声を万尋はほとんど捉えることができない。輪から抜けて座り込んでしまう。キャプテンは今はそっとしておいてやろう、と言って各自練習や仕事へ戻っていく。



・アイナ視点

アイナは怒っていた。特に、万尋が試合を飛びきらなかったことに怒り心頭だった。こうなることは分かっていたはずだ。なのに勝負を受けたのだから、どんな惨めでも飛びきることこそが、万尋自身の名誉を守るために必要なことだったはずだ。あんな腑抜けた飛操では、瞬司の言う中途半端者という誹りを受け入れたことになってしまう。万尋は瞬司が言うような中途半端者ではない。絶対に違う。だから、万尋は最後まで飛ばなければならないかった。

アイナの怒りはそれだけではない。傲慢な上から目線で万尋をいたぶるためだけに喧嘩を売った瞬司にも怒っていた。また、飛びきらなかったことはもちろんだが、それ以前に負けると分かっている試合をそもそも受けたこと自体にも、アイナは怒っていた。意地だかプライドだか知らないけど、これだから男って生き物は!

そうしたぐるぐるした怒りをきちんと言葉にできないまま、「さっきの情けない飛操はなに!」と座り込んでいる万尋に怒鳴り込む。万尋の目はこれまで見たこともないほど生気のないものだった。立ちなさいよ、とそれでも立ち向かうアイナ。



・万尋視点

恥ずかしい。悔しい。みっともない。消えてしまいたい。

「もう放っておいてくれ」「いじけてるなんて、それこそみっともないわ」

ここまでボロボロになった自分に、まだ鞭を打つアイナにいらいらが募る。もちろん、アイナが意地悪で言っているとは思わない。だが、今は放っておいてほしかった。どんなに気力を振り絞っても今は立ち上がる気力なんて湧かないし、どんな忠言も心をささくれだたせるだけだ。なのに、何度言ってもアイナは立ち去らない。駄目だと分かっているのに、アイナへの苛立ちが止められない。だんだんと口論になっていく。最後には、「天才様はいいよなぁ! きっと僕ら凡人と違って『どうすればいいのか分からない』なんて下らないことで悩んだことなんてないんだろうさ! なんたって天才だもんな!」、アイナに頬を引っぱたかれる。アイナの顔を見ると泣いている。万尋、居たたまれなくなってその場から逃げ出す。罪悪感でさらに潰れそうになる。



アイナと喧嘩して数日、お互いに顔を合わせずに過ごしていた。そうこうしているうちに、アルバトロスは日本へ到着してしまう。万尋も積み荷降しなどの水夫としての仕事を行う。作業をしながら考える。もうじき、一カ月という約束の時間が終わってしまう。まだウィッカンリードを去りたくない。瞬司とアイナとの関係を、今のまま終わらせたくない。なんとかして、ここに留まる方法はないだろうか。そんなことを考えていると、ドニから大将が呼んでいる、という知らせを受ける。



大将の部屋へ通される。大将の脇には相変わらず付き人が二人居る。雪花も同じ空間に居ることに少しだけほっとする万尋。大将は相変わらずカタギだとは思えない威圧感を放っていておっかない。一カ月前と同じように決定事項は大将から言葉に少なに伝えられ、詳細は雪花が補足する。雪花もいつもと違いよりオフィシャルな態度を取るため、それを感じたとき万尋はより緊張する。

大将から一言労いの言葉。その後は雪花が引き継ぐ。雪花も万尋に礼を言い、給金を渡す(電子マネー、MADを通じてその場で受け渡す)。アイナはあなたのおかげで良い方向へ変わったと思う、とほほ笑む雪花。顔を伏せる万尋。お節介かもしれないけど、この後アイナの部屋へ行ってあげてほしい、と雪花。万尋、はいと頷く。大将が、先日の瞬司の件は申し訳なかった、と口を開く。「あれもまだプロとしての自覚や器に欠ける。客人である君に恥をかかせるとは、俺からもきちんと言い含めておくので許してやってくれ」。客人、という言葉がズシンと万尋の心に響く。ウィッカンリードの一員として、ずいぶんメンバーとは打ち解けたつもりでいた。しかし、この人にとっては自分はあくまでも客人なのだ、と今更のように実感する。何度も自分の話を切り出そうとするが、喉がひり付いて声が出ない。動悸がする。目の前のボスが自分をファミリーとして歓迎するビジョンが見えない。切り出して、失笑され、断られるのが怖い。自分の中に生まれた恐怖に震えていると、瞬司の「おままごと」という台詞が頭をよぎった。万尋は完全に口を閉ざしてしまう。その後、雪花は二郎さんから迎えに行くまで日本支部に留まってほしい、という連絡を受けている旨を万尋に伝えるが、万尋は上の空。最後に、「以上よ。万尋くんから何かある?」と促されるが、一瞬声を震わせて「いえ」と言ってしまう。深く頭を下げて退室する万尋。



アイナの部屋(アルバトロス内)の前にたたずむ万尋。

謝りたいのだが、自分の態度が酷すぎたため、なんと謝ればいいのか分からず扉を開けるのを躊躇している。そこへ瞬司が通りかかる。「邪魔だ。半端者」と言う瞬司、瞬司を認識して固まってしまう万尋。その万尋を蹴り飛ばす瞬司。「なにすんだよ!」「俺はアイナに用があるんだ。どけ」ついにキレる万尋。「昔の約束を破ったことは確かに悪かったさ。だけど、僕がお前にそこまで恨まれるようなことをしたか?」「約束? 恨み? 自意識過剰も大概にしろよ。俺は邪魔だ、と言ったんだ」「邪魔なだけでここまでする奴があるか! 言いたいことがあるならはっきりと言えよ陰険野郎!」ため息をついた後、万尋の胸倉を掴み上げる。「命をかける覚悟もない奴が、俺と対等な口をきくんじゃない。お前はすべてが中途半端だ。雑用係で雇われたかと思えば技術屋気取り、そうかと思えば今度はウィッチだ。お前は勘違いをしている。ここは何でもできて、なんでも真面目に取り組めば褒めてもらえる学校か? 違う。ここに居るのはみんな自分のすべてをかけて戦い、究極を目指すプロだ。ここに命がけでない半端者はお前しかいない」

万尋はようやく自分の勘違いに気が付き青くなる。瞬司は昔の約束なんて気にもしていなかった。本当に自意識過剰だ、と恥ずかしくなる。「頭に刻め。命をかけられない奴は目障りだ。二度と俺の前に面を見せるな」そのまま廊下に投げ捨てられる。瞬司はそのままアイナの部屋へ。瞬司が居なくなった後、万尋は図星を突かれた居たたまれなさから、その場から逃げ出してしまう。自室に飛び込んで荷物を掴むと、自分のブルームに乗って家へ向かって飛び去る。



・アイナ視点

自室の扉が開く。「万尋?」「悪かったな。望みの相手じゃなくて」瞬司が入ってくる。「別に」素っ気なく答えるアイナ。「ずいぶんとあの半端者を買ってるんだな」「万尋はあなたが言うほど半端ではないわ。あなたは万尋を意識しすぎ」「俺があいつを意識してるって?」鼻で笑う瞬司。「気のない振りをしてるけど、瞬司はいつもどうやって万尋を効果的に傷つけようか、ずっと考えているように見えたわ」「それは考えすぎだ。あいつと関わりすぎて、お前も頭がお花畑になったのか?」「わたしの知っている東宮瞬司という人間は、本当に興味のない人間にはもっと徹底的な無視をするわ。でも、今のあなたは言っていることとやっていることが逆」「話にならないな。お前だけは他の人間と違うと思っていたが、あいつのおままごとに感化されて堕落したってことか」「おままごと、おままごとってバカにするけど、万尋はプロのあなたよりもよっぽどブルームについて詳しいわ」「バカバカしい。なぜブルームのプロが居るのにウィッチが詳しくなる必要がある。より高次元でのものを目指した結果生まれたのが分業化と専門家だ。ひとりですべてを完結させる職人性なんて前時代的だ」「本気でMD技術者を目指しているわけでもないのにブルームの設計や調整に手を出し、本気でウィッチを目指していないのにフィールドで空を飛ぶ。これのどこが半端じゃないっていうんだ」「本気で命をかけている人間を侮辱している」「昔、あいつは俺のことを『天才だ、天才だ』とほめそやかした。だけどな、プロの世界ではそんなことは当たり前のことだった」「そうさ。はっきり言ってあいつは凡人だ。なにひとつ、ウィッチクラフトに向いている才能がない。だけどな、それがいったいなんの言い訳になる? 才能にも色々あるだろうが、これだけは言える。この世界に天才でない奴に居場所なんてない。凡人なら凡人らしく、自分の領域から出てくるべきではないんだ」「もしかして、あなたは万尋のことが心配なの?」「違う。なぜそうなる」「俺は覚悟のない奴が俺の道を塞いでいることが我慢ならんだけだ」「確かに万尋にはまだ覚悟がないのかもしれない。でもそれは、未来永劫、彼が手に入れないもの?」「なにが言いたい」「そんなの、あなたがたまたま覚悟するのが早かっただけの話じゃない。なんの、どんな覚悟なのかは分からないけど、万尋は必ず覚悟を手に入れるわ」「要するに、あなたは友達が自分に追いついてこないのに焦れて駄々をこねてるだけなのよ」「ずいぶんあいつの肩を持つじゃないか。本当に変わったな」「惚れてるんだろ、あいつに」「…………」赤くなりながら殺気立った目で瞬司を睨むアイナ。「はあ、これだから女は」「下衆の勘繰りよ」ふん、と鼻で笑う瞬司。「さて、楽しい雑談はここまでだ。アイナ、次の仕事だ」アイナ、瞬司から書類をひったくる。



・万尋視点

自分の家にがあったところへ降り立つと、そこはすでに更地になっていてなにもない。父親から家と店を土地ごと売った、と一カ月前に聞かされていたことを今更のように思い出す。変な笑いがこみあげてくる。二郎に連絡を取ろうとするも、上手く通信できずまったく連絡が取れない。途方に暮れてしまう万尋。その場にうずくまり、動けなくなってしまう。



翌日。家から近くにある土手でなにも手がつけられずにぼうっとしている万尋。昨日、なくなってしまった実家を見てからふらふらとここにやってきて、宿も取らず寝ることもできず、ずっとここで座り込んでいた。視界の端で、土手で子供用のブルームで遊ぶ子供たちを捉えながら、もうなにもしたくないと思っている。その背中にタックルでもかまされたような衝撃が走り、土手を転げ落ちる万尋。しばらく驚きと痛みで混乱していたが、少し落ち着くと目の前にアイナが居た。どうやらアイナのマジカロイドでぶっ飛ばされたらしいことに気が付く。ぶっ飛ばした側のくせに半泣きのアイナ。それを見て、万尋も正気を取り戻す。立ち上がり、アイナに向き合う。心配させてごめん、酷いこと言ってごめん、泣かせてごめん。心配してないし、傷付いてないし、泣いてない。でも、絶対に許さないから、とアイナ。そう言って万尋にぎゅっと抱き着く。「うん、でも、ごめん」そう言って意識を失ってしまう万尋。



・アイナ視点

急に意識を失った万尋に戸惑うアイナ。しかし、すぐに寝ているだけだと気が付く。土手に座り膝枕をしてあげる。そして、万尋の髪をなでる。寝顔を見て、優しい気持ちになるアイナ。でも、その後すぐに胸が痛くなる。モノローグ。わたしからはもうなにも言わないよ、わたしがなにを言ってもあんたを苦しめることになるって分かった、だから、どうしたいのか、あんたが自分で決めて。きっと決められる人だって、信じてる。



・万尋視点

数時間後、万尋起きる。膝枕に気が付いて二人して照れる。アイナはツンな態度でごまかす。

その後、こんなところで万尋がなにしていたのかを聞いてくるアイナ。万尋、実家が更地になっていたことを話す。承知のことではあったが、実際に見たら思っていた以上にショックだっただけ、と説明する。その後、万尋は自分のウィッチクラフトへの想いを語る。

「今はもうその時の気持ちを思い出せないけど、昔は本当に純粋にウィッチクラフトが好きだったんだ。そういう記憶はある。たぶん、まだ瞬司と一緒に飛んでる頃だな」「無邪気だったから、自然と考えたよ。プロになりたいって。テレビに映る彼らのように、世界中の空を飛び回って、たくさんの強敵と切磋琢磨して、いつか世界一をかけて瞬司と戦う。そんな夢を見た」「それが叶わない夢だってはっきり悟ったのは、いつだったかな、たぶん高校生になってからだと思う。でも、そんなにショックはなかった。その理解って言うのはさ、ある日いきなり『そう』と分かるわけじゃなくて、ちょっとずつ、心の中にある夢の形に傷を付けていくようなものなんだ。傷が重なって、ひびが入って、それでもすぐに夢が形を失うわけでもない。でも、少しずつひびは大きくなっていく。だから、壊れる頃には心のどこかが薄々感づいてるんだよね。でも、それを直視しちゃうと今すぐにでも壊れちゃうから、ずっと目を背けていただけ。壊れたなって思う瞬間なんてのは結構あっけなくてさ。『あーあ』とか『やっぱり』って感じ」「でも、前にも言ったかもしれないけど、僕にとってウィッチクラフトっていうのは僕自身とは切り離せないものだった。だから、夢が壊れたくらいで手放すことなんて考えられなかった。すぐ思いついたのは父親と同じMD技術者っていう道だった。すぐ思いついたというよりも、僕の中ではずっと前からウィッチがダメならこっち、って決まってた。口に出してみるとすごくかっこ悪いね。でも、ずっと前から決まってた」「たぶん、そこが瞬司と違うところだし、瞬司が覚悟がないって言うところなんだと思う」「なくなっちゃった実家がね、MDのなんでも屋だったんだ」「僕がウィッカンリードへ行くきっかけでもあったんだけど、店をやってる父親がね、突然廃業するとか言い出したんだ。確かに僕の父親は僕に店を継がせる気は微塵もないって言ってた。これはおれの店だーって。だけど、僕は実際のところ少しもその言葉を信用してなかった。なんだかんだ言って、あれだけ大切にしていた店をどうこうできるわけがないって、高をくくってたんだ」「同時にね、自分がMDエンジニアの職に就けることも、そこでブルームに、ウィッチクラフトに携われる仕事ができることも、疑ってなかった。だって実家がその専門店なんだ。できないわけがないと勝手に思い込んでた」「だけど、帰ってみたら家も、店も、ちゃんとなくなってた。まあ、当たり前なんだけど」「『しょうがないから僕が店を継いでやるよ。本当はプロのウィッチになりたかったんだけど。まあ長男だしね。MDエンジニアならブルームを通してウィッチクラフトとも関わっていられるし、MDをいじるのは嫌いじゃないから、しょうがないけど継いであげよう』」「そんな台詞を考えてた」自覚してみれば恥ずかしいことに、僕は店を言い訳にして、しかも言い訳に使った上にその存在に依存していた。「瞬司はよく覚悟って言葉を使ってた。僕が甘えた考えを持ってることに、あいつは気づいてたんだな」「面白くもない身の上話に付き合ってくれてありがとう。なんだが、気持ちの整理ができた気がする」「ウィッチクラフトとどう向き合っていくべきか、もう一度よく考えてみるよ」

「大丈夫。あんたなら必ず正しい答えが出せる」確信に満ちた声に照れる万尋。「あ、ありがとう」「でも、すぐに出せるか分からないよ?」「そこはもうちょっとかっこう付けられないの?」ジト目で睨まれる。「うっ。ごめん」

「うん。じゃあ、これからどうするのかは決まったことだし、中途半端だった飛操講習の続きをやろうか」と万尋。「今やるの?」驚くアイナ。「室内に引きこもってウジウジしてたら答えが出るわけでもないし。だったら体を動かして、なおかつ有意義なことしてたほうがいいかなって」



土手を降りてグランドでアイナに飛操訓練を始める万尋。

少しして、アイナが万尋にちょっと待ってほしいと伝えると、いきなりマジカロイドを操って物陰からひとりの少年をつまみ出す。「こそこそ隠れて何やってたの?」「うわっ。なんだこのロボ! 離せっ!」万尋、アイナに少年を解放してあげてと伝える。解放されて落ち着くと、「遠くから見てたら、そっちの兄ちゃんがブルーム教えてるのが分かって。オレも聞きたかったから、つい」「兄ちゃん、ウィッチなんだろ?」「ま、まあ」プロではないが、今この少年に言うのも野暮だろうと思う万尋。「オレにも飛び方を教えてくれよ!」「えっと」アイナの様子をうかがう万尋。「なによ」ジロっと睨まれる。「一緒でもいいかなって思って」「嫌がると思われていたことの方が心外だわ」ツーンっとそっぽ向かれる。その後、アイナは少年に向きなおり、「アイナ・ランドオルフ。ウィッチ見習いよ」ちょっと表情に乏しいのが怖いけど、アイナは手を差し出した。握手を求められているらしい、と気が付いた少年がぱっと笑顔になった。「久住圭一。オレもウィッチ見習い」「一緒ね」「へへ」握手する二人。アイナ、小さく微笑む。



万尋、圭一からヒヤリングを行う。まとめると、圭一は小学六年生の十二歳。彼のクラスは男子は全員地元のリトルクラフトチームに所属しているが、圭一だけがブルームにちゃんと乗れないため、仲間外れにされているのだと言う。「別に仲間外れが悔しいんじゃねーんだよ。オレはブルームで自由に空が飛びたいんだ」「分かるぞ。男だもんな」「さすが兄ちゃん。話が分かる!」ヒヤリングは続く。

「コモンマジックは問題ないんだな?」コモンマジックの簡単な説明。扉のロックの開閉や、照明のオンオフなど、魔法装置の「スイッチを押す」魔法。もっとも単純な魔法で、魔法式を必要としない。現在、民家や公共施設での装置はMDと非MDの割合はほぼ半々。そのため、コモンマジックが使えない者は国からも魔法障害者として補助金が出たりする。

「兄ちゃん。バカにしてんの?」「大切なことなんだよ。十二歳くらいだと、人によっては魔法神経がまだ十分に発達しきってない場合があるんだ」「コモンがそもそも使えないとなると障害レベルだけど、たまに不発する小学生なんてのは別にそこまで珍しいものでもない」「いや、別にそれもないよ」「それならMCD、そうだな……魔法望遠鏡は使えるか?」「ああ、理科室にあるやつ。使えるよ」「MCDの起動も問題なし。でも、ブルームは上手く扱えないんだな?」「ブルームだって起動はするんだ。ちゃんと飛べないだけで」「分かった。たぶんMCDの並列処理が苦手なんだな」「なあ兄ちゃん。オレ、飛べるようになる?」「安心しろ。僕が必ず飛ばせてやる」



明日、また同じ場所で会う約束をしてその日は少年と別れる。

土手に二郎が来ている。「や」と片手をあげて挨拶をする軽薄な親父。アイナともまたここで会う約束をして別れる。



新しい家へ二郎と一緒に帰る。家は集合住宅。マンションだった。

ヒロくんと連絡が付かなくて焦った、でも見つかってよかった、おれも新しい職場で働き始めてて結構バタバタしてんだよね、と二郎。お気軽口調の二郎にむっつりとだんまりを決め込む万尋。息子の様子を見て少しだけ真面目な口調になる二郎。「色々あったみたいだね」「まあな」「色々聞いてもいい?」「もう少し待ってくれ」「分かった」



翌日から圭一の本格的なトレーニングが始まる。

(短いシーンの連続描写)3から4シーンほど連結。時間にして三日間の出来事。



最終日、万尋とアイナが見守る中、少年は見事にブルームで飛び回って見せる。

万尋にかけよりお礼を言う圭一。これまで色んな大人に教わってきたけど、こんなに分かりやすく教えてくれたことはなかった。兄ちゃんは昔話に出てくる魔法使いみたいだな、と褒める。「バカだな。僕は自分の知ってることを伝えただけだ。それはお前の努力、お前の実力だよ」「そんなことねーよ。オレ、兄ちゃんみたいなすげーウィッチに教われてラッキーだった」「すげーウィッチ……か」と反芻する万尋。圭一は、「オレ、兄ちゃんから教わった特訓、毎日続ける。やればやるほど力が付くんだろ?」「ああ」

「それでな」少し恥ずかしそうにしながら「いつか、誰よりも速くなるんだ」万尋、その言葉に強く心臓を撃ち抜かれたような気がする。「それで、いつかワールドGPで兄ちゃんと戦う」「生意気言うな」と万尋は少年の頭をぐりぐりする。



少年と別れた後の万尋とアイナ。

「いい子だったな」「生意気なガキんちょだったわ」「結構仲良くやってたじゃないか」「子供は苦手だと思ってた。自分でも意外」。その後、万尋は「今から夢のない話をするけど、いいかな」うなずくアイナ。「はっきり言って、圭一がプロのウィッチになれる可能性は極めて低い」「数日見てて分かったけど、あいつは本当に不器用で魔法のセンスがない」「普通の奴がなんとなく感覚でできるところが、あいつはできない。なんでそうなってるのか、自分が何をしようとしているのか、ある程度理解して納得しないと、それができない」「これはもう本当にセンスがないってことだ。そんなもの、一つ一つ理解しようと思ったら魔法大学の学生クラスの知識や頭脳がいる。MDが理解しなくても制御できるように導いてくれるんだから、それに素直に従えばいいのに、あいつはそんな簡単なことができない。生意気なだけじゃなくて、あいつはへそ曲がりなんだ」「万尋そっくり」ぼそっとつぶやくアイナ。「何か言った?」「なんでも」

「まあ、だけどだ。この世に絶対はない。ブルームの制御をあの年齢から理解して扱うことができるなら、できたら、ではあるけど、たぶんハンドリング技術は数年後には秀でた乗り手になるはずだ」「問題は加速魔法がどれだけ扱えるようになるかだけど、これに関しては十二歳の段階じゃまだなんとも言えない。言えないけど、僕の勘があいつは全然ダメだって言ってる。経験的にあのタイプのウィッチが速かったところを見たことがない。でも、もし僕の教えた地味で、辛くて、面白くもない基礎トレーニングを、本当に毎日実践し続けたとしたら、もしかするかもしれない」「空素保存領域は一応天性の才能ってことになってるけど、最新の研究では十五歳までのトレーニング次第では伸びる可能性があるっていう結果も出てる」「魔法力はまだ、どこまでが天賦の才で、どこからが努力の領域なのか、はっきりしていないところが多い」「だから、僕が小学生の時に持ちえなかった知識と、覚悟があれば、僕とは違う結果になることだってあるかもしれない」



その日、家に帰ると室内にはMD資料が散乱している。

その部屋で、万尋は少しだけ二郎と真面目な話をする。

二郎の子供の頃の夢はなんだったのか、二郎にとって畳んだ店はどういう存在だったのか、今の仕事は好きか、今の自分に納得しているか、色んな質問をする。そして、自分はなんだかんだ二郎が店を潰すわけがないと思っていて、潰すと言われても現実感がわかなくて、先日それが現実になったのを見てショックを受けたこと、店のことは結構好きだったから本当は継がせてほしかった、それを家族に相談も説明もなしに勝手に潰してしまったのは本当に恨んでいる、と自分の心は話して少し責める。二郎は「悪かった。ごめんな」と謝ってくれる。でも、お前の一番やりたいことはそれじゃないだろ? と二郎。万尋、頷いて、そして「例えばなんだけど」と切り出す。夏休みがもう明けるけど、やりたいことがあって、そのために学校に行ってる場合じゃなかったとき、学校行かなくてもいい? 大学、推薦決まってるけど、行けなくなるかもしれないけど、いい? これから、一生モノの怪我をするか、下手をしたら死んじゃうこともあるかもしれないけど、そういう賭けをしてもいい? 二郎、パパはそんなこと許可できません。千波(母親)が悲しむから、生きてちゃんと結果を出しなさい。



夜、自室でちょこちょこと作り続けていたブルームの設計図を完成させる。

名前は「ペンタグラム」。オルガの遺産であるアブソードと5つのMCDを搭載した、「万尋が瞬司に勝つ可能性を追求したワンオフ機」。アブソードの持つ空素強制吸引によって、通常ではありえない5つのMCDを同時に操る設計。一度動き出したら止めるまでノンストップで心臓から直接空素を搾取するモンスターマシン。アイナの言う通り、普通に考えれば人間が使えば死んでしまうものだ。だが、二つのMCDをアブソードの制御にあて、万尋ほどの血中空素量があれば、なんとか扱える。そういう設計のブルームだ。



モノローグ。

諦めた振りをするのはもうやめよう。

そもそもMDに詳しくなったのも、ウィッチクラフトのトレーニング法やうんちくに強くなろうとしたのも、地味で辛くて面白くもない練習に耐えてきたのも、すべては「速さ」という最も基礎となるステータス、その才能がなかったからだ。その差を埋める手段として選択してきたものたちだ。それでも差は埋まらなかった。ならどうするか。別のもので埋めるしかない。ではなにで埋めるのか。……天才との差は、天才で埋めるのが一番だ。

キャプテンが言っていたように、ウィッチクラフトはチームで戦うもの。ウィッチが凡人ならば、コンストラクターが二倍三倍の才気を発揮すればその差は埋まるはずだ。凄いのは僕でなくてもよいのだ。天才の凄さを引き出せる自分であればよい。幸運なことに、僕は常識の通用しない天才に心当たりがある。僕を媒介にすることで、彼女の才能をこれまでにない形で引き出す。アブソードという未だ世界の常識外にあるパーツを使いこなせるコンストラクター。その才能を、僕が引き出す。あえて露悪的に言うなら「僕が彼女を使う」。天才だろうがなんだろうが、自分の目的を果たすために使えるものはなんでも使う。実際のところ、頭の隅では、そんなことを、その方法を、ずっと考えていた。

でも、それはいけないことだと、彼女に対する不誠実だと思っていた。いや、今でも思ってる。だけど、それは僕が決めることじゃない。彼女が決めることだ。それでも言い出せなかったのは、ただ単に怖かったから。凡人の僕が、天才のアイナを使う。使われてほしい、と頼む。普通に断られるならまだマシだ。失笑され、相手にされなかったどうする。そうした脳裏の囁きが思考の底に重低音で響き渡っていた。

人に失望されるのが怖い。人に呆れられるのが怖い。人に嫌われるのが怖い。だけど、怖いからなにもしない、という選択はもう許されない。失望するならしてもらおう。呆れるなら呆れてもらおう。嫌われるなら嫌ってもらおう。そうなったら悲しいし、そうなる可能性を思うと恐怖で身が竦む。だけど、それくらいの覚悟は、最低限持たなければ。圭一が信じる「すげーウィッチ」は、きっと戦う前から試合を投げ出したりしない。そして、アイナが信じると言った葛木万尋という人間は、きっと諦めの悪さだけが取り柄だから



【次章】



土下座している万尋(ギャグ調、前回シーンをさんざんかっこつけて終わってからの、これ)。場所は二郎と万尋の新居。二郎は仕事に出かけており、万尋がアイナを家に招いた。

面食らうアイナに「なんでもする」から一生のお願いを聞いてほしい、と頼み込む万尋。とりあえずその姿勢を止めて、と言うアイナ。それでも土下座を解かない万尋。アイナ、とりあえず願い事を聞いてみないことにはなんとも言えない。瞬司に勝つ、そのために協力してほしい、と万尋。勝算があるっていうの? というアイナにペンタグラムの設計図を差し出す万尋。それに目を通すアイナ。気でも違ったの? もし仮にこんなものが完成したとして、これを使った人間は死ぬわ。アブソードが直接心臓から空素を求めた結果、まあ起動三分で心臓発作が関の山よ。万尋、試算はした、僕になら使える可能性がある。アイナ、もう一度図面に目を落とす。ここがダメ、ここもダメ、これ不可能、とアイナは図面にダメ出しをしまくる。こんな図面でMDは作れないわ。だいたい、アブソードはアルバトロスから持ち出せない。よってこれを実現させるためにはまず大前提としてアブソードのコピー品が必要になる。それに、アブソードは色々な規格の外にあるから、コルマキーナ以外と組ませてMDとして機能させようと思ったら、まずそのための研究と実験から始めなくちゃいけない。つまり? と万尋。普通ならどんなに短くても三年がかりのプロジェクト。万尋、そんな……、いや、もしアイナが付き合ってくれるなら何年かかったって。その言葉を遮るアイナ。プロジェクトって言ったでしょ。どんなにわたしが天才だからって、一人でできる内容じゃないのよ。お金もかかる。今からあんた一人で膨大な金を引っ張ってこれるわけ? 金策して、プロジェクトチーム作って、完璧な図面を完成させて、プロのウィッチに相応しい肉体を鍛えるの? どだい無理なのよ。わたしやあんた一人二人が頑張ったって。落胆する万尋。しかし。こら、勝手に諦めるな、とアイナ

。え? と顔を上げる。言ったでしょ、一人二人が頑張っても無理だって。あんたは声のかけられるウィッカンリードのメンバーに可能な限り連絡をつけて明日ここに集めて。わたしも何人か必要な人間に声をかけるわ。あと、超特急でプロジェクトの企画書を作るから、あんたの部屋とパソコン借りるわよ。用事は全部メールして。今から勝手に扉開けたら殺すから。そう言ってうむを言わさずに万尋の部屋に引きこもってしまうアイナ。



翌日。葛木家で開かれる第一回プロジェクト会議。参加者は万尋、アイナ、雪花、ドニ、キャプテン、李黒老師、二郎。ドニは万尋が、二郎は勝手に参加。残りの三人はアイナが呼び出した。アイナは一晩で作ったとは思えない綿密な企画書を全員へ配る。そしてプレゼンを始める。アイナはペンタグラムの開発を「ウィッカンリードの秘蔵するオルガの遺産、その技術転用実験」とお題目を変え、ペンタグラムはその実験作ということで計画の中に組み込んだ。その価値や必要性を説き、かかる時間、費用、人材も具体的に示す(製作期間は自分で三年は必要だと言ったくせにたったの半年に書き換えられていた)。アイナは万尋が依頼したペンタグラムの作成をウィッカンリードという組織が全力で取り組む一大プロジェクトに書き換えてしまったのだ。見事なプレゼンを披露し、そして、その最後に「今言ったことはすべて建前よ」とひっくり返した。わたしは万尋からペンタグラムの作成を依頼され、わたしはそれを作ってみたいと思った。でもわたしだってプロ。だからわたしなりに筋は通す。それがこのプレゼンよ。ここにいる皆にはそれを分かった上で協力してほしいの。キャプテンがペンタグラムの意義を質問する。万尋が、瞬司に勝つために僕が考えたブルームです、と説明。キャプテンはそれで納得する。その後、全体でいくつか質問が飛び交ったが、最終的には全員の協力を取り付ける。(「アイナ、こんなことできたんだな」「なに言ってるの。あんたが教えてくれたのよ。一人でできないなら、できる人に頼るべきだって」<布石回収><布石未設置>)

しかし、まだこれは本決まりではない。これはあくまでも根回しであり、本当にプレゼンをしなければならない相手は大将だ。アイナと雪花はそのまま大将を説得しに日本支部へ向かう。



残った男衆でスケジュールを詰めていくことになる。

今回の真の目的は瞬司に勝つこと。まず、万尋が瞬司と同じフィールドに立つためには公式戦では不可能。瞬司はカテゴリーBのシートを持っているが、万尋はライセンスを持たない素人だからだ。そうなると自然と非公認大会ということになってくる。半年後はちょうど公式戦のオフシーズンでもあるため、都合は良い。また、ペンタグラムの性質上連戦はできない。よって予選のない、かなり荒っぽい大会でなければならない。そうした諸条件から絞っていくと、三月中旬に韓国で開かれる賞金大会がヒットした(参加費は三十万円ほど。万尋、ウィッカンリードの給金と貯金を合わせればなんとか支払える)。そこへ照準を合わせていくことに決まる。トレーニングはプロジェクトが承認されれば李黒老師が見てくれることにもなっている。そこで、ドニが瞬司に挑戦状を出すべきだ、と言い出す。キャプテンが同調し、必ず届けよう、と頷く。万尋、周囲の勢いに押されて書くことにする。



挑戦状の本文をそのまま書く。

大会名、場所、日取り、もう一度戦いたい旨、意気込みなど。



・瞬司視点

読み終わった瞬司が顔をあげる。便箋を綺麗に折りたたんで封筒に戻す。

「バカバカしい。キャプテンだって、あいつが本当に俺に勝てるとは思っていないでしょう」「まあ、普通に考えれば無理だろう」「彼一人だけだったら、間違いなく無理だった。アイナが協力したところで、奇跡が起きなければ勝負にすらならないだろう」「だけど、参加している全員に熱意がある現場というのは、たびたび奇跡としか思えないことが起こり得る」



万尋の特訓とペンタグラムの開発が始まる。

万尋はウィッカンリードの日本支部に住み込み、李黒老師が付きっきりでアスリートの体へと一から鍛えてもらうことになる(シーンの中で、最低限の体はできている、と老師に褒められる万尋)。アイナはアブソードの複製、実験、図面の改稿を進めていく。(短いシーンの連続描写、少し長めに、だいたい七シーンくらい?)



【次章】



三月中旬。大会当日。

アルバトロスに乗って会場入りする万尋。瞬司とは六カ月ぶりに顔を合わせる。万尋は日本にとどまったが、アルバトロスは夏を過ぎてからも世界中を飛び回りGPを転戦。カテゴリーBの選手として、瞬司は表彰台は逃すものの年間四位という成績を出してシーズンを終えていた。

瞬司と二三言葉を交わす万尋。憎まれ口を叩きながらも瞬司は「少しはマシな顔つきになった」と万尋に言って別れる。



選手控室。アイナと二人きり。

「勝てるわね」とアイナ。「もちろん」と万尋。

仕上がったペンタグラムなら、万尋でも問題なく150㎞以上の速度が出せるものに仕上がっていた。瞬間的な速度はむしろ瞬司のブルームより速いくらい。だが、無制限にその速度で飛んでいては万尋は死んでしまう。ぎりぎりを見極めてアブソードをコントロールしなくてはならない。アイナがアブソードのコントロールについておさらいをする。ペンタグラムの柄に回転式グリップが付いており、この絞りによってアブソードの空素吸引量をコントロールする。機能的にはバイクに付いているアクセルグリップと変わらないが、絞れば絞るほど自分の心臓を酷使している点は忘れるな、と釘をさされる。

アイナ、「二つ、約束しなさい」「一つ、わたしにここまでさせたんだから、死んでも勝ちなさい」。任せろと頷く万尋。「二つ、必ず生きて帰りなさい」そう言って椅子に座っていた万尋の頭をぎゅっと抱きしめる。アイナがちょっと震えていることに気が付く。「大丈夫。信じて」と万尋。頷くアイナ。そして、半泣きの潤んだ瞳で、万尋を睨むと「あんたに、“わたしの翼を預ける”」そう言ってペンタグラムの起動用魔法式が詰まった弾のケースを渡す。頷ずいて受け取る万尋。(プロローグ伏線、“翼を預ける”はアイナにとってはほとんど告白と同義。万尋には伝わってない)



フィールドに立つ万尋。くじ引きで決まったポジションに付く。周囲を見渡すと百人近い参加者がいる。本来は安全性も考慮し、公式戦では十人前後でしか一度のレースを行わないため、このごった煮感も非公式戦ならではだ。選手たちの中から瞬司を見つける。他にも何人かえも言わせぬオーラを放っている選手を見つける(レース展開で瞬司以外にも競い合うことになる選手を三人前後描写しておく)。

観客席に目をやると、大将とその付き人二人、雪花、ドニ、キャプテン、李黒老師、二郎、圭一とその母親がいるのを見つける。無線からアイナがピットインスペースで準備が完了したことを告げる声。ふと、瞬司と視線が交わる。弾をブルームに装填し、ペンタグラムを起動。ブルームにまたがって宙に浮き、スタートの合図を待つ。



・試合

(展開未定)



ラスト、瞬司に競り勝ち万尋が優勝する。

ペンタグラムは大破。万尋、まともな着地ができず地面に転がる。アイナが一番に駆け寄って万尋を抱き起す。万尋、勝敗をアイナに尋ね、自分が勝ったことを知る。近寄ってきた瞬司に一言「努力は必ず報われる!」「寝てろ、バカ」



【エピローグ】



病院に入院している万尋。

静かな病室で、驚くほど濃密だった半年間を懐かしむ。回想。一応、今のところは異常が見られない、しかし、未知のMDが使われている以上その副作用は見えないところに現れている可能性が高い、と医者には釘をさされる。

だが、一応であっても異常は発見できなかったので、今日で退院の予定。この日は万尋の通っていた高校の卒業式でもあり、朝一で退院するとそのまま学校へ。(会話もなく説明中心に淡々と描く)高校の出席日数は足りていたので無事卒業、大学も奇跡的に推薦を取り消されなかったため、何事もなければ春休みを経た後に大学生だ。



卒業式を終え、友人から誘われたお別れパーティーを断り、一人寂しく校門を出ようとする。すると、「万尋」と呼び止められる。声の方を向くとそこには瞬司の姿が。アイナもいる。アイナにせっつかれて瞬司が嫌そうに話し始める。お前を勧誘しに来た。ウィッカンリードの正式なメンバーとしての誘いだ。万尋、一瞬ぽかんとした後に、満面の笑みで頷く。三人で日本支部へ向かって歩き出す。「万尋、支部へ戻ったらすぐに試合だ」「ペンタグラムも今はないし、無理だよ」「そんなの俺には関係ない」「負けず嫌い」「うるさい」

そして、「凡人の力を思い知ったか」と勝ち誇る万尋。「凡人? 誰が」「いや、僕だよ僕。お前が言ったんだろ」「そうだな。間違いを認めよう。俺の見込み違いだった」「は?」「お前は天才だったよ」「なんだよそれ。僕が天才なわけないだろ。嫌みな奴だな」「いや、お前は天才だった。俺には想像もつかない方法と努力で天才である俺に勝った」「だから、お前は天才だったってことなんだろう」「嫌だよ、気持ち悪い。ていうか、なんだよその理屈」。アイナ、「でも万尋のこと、色んなメディアが取り上げてるわよ。“超新星の天才現る”って」「え゛、なにそれ」「これから頑張れよ、超新星」と瞬司。「万尋、天才は褒め言葉よ」とアイナ。「はぁ、もうなんでもいいけどさ」。

モノローグ。この世に僕ほど『天才』って言葉に深い苛立ちと、同じくらいの大きな誇らしさを、まったくの同時に感じた人間は存在しないと思う。たぶん、未来永劫現れない。こうして僕は天才の仲間入りを果たした。




(メモ)


・飛操(ひそうorフライト)……スカイ・ブルームを操って飛ぶこと

・アルバトロスのサイズもある程度具体的にしていかないといけない

 →甲板でカテゴリーA操手がトレーニングしたり、コンストラクターが作業するのに十分な広さってどれくらいだ? ちなみに、現在の世界最大全長の船は約500m、飛行船は過去に約260mが存在した。写真見たけど400mの時点でクソでけぇな……。いや、でもロマンを追って約1km級(969mとか)にするか? どうでもいいけど着水場所がすげえ問題になりそうだな

  →アルバトロスの外面は帆を張った船そのもの、帆の形が空を飛ぶのに特化した形になっているくらい。コルマキーナとアブソードを用いて重力をコントロールし、風を帆で受けて進む。オルガの遺産を用いた運用のため、機関士には高い専門性が求められる

アルバトロスは常時魔法の力で空飛んでていいわ、やっぱ。力の強い企業であるため、国家検閲からも身を守れている、というのが現在のオルガの遺産を守れている論拠

・瞬司の信条。努力は必ず報われる。報われないのはそれが自己満足だから。必要なのは正しい目標設定と、そこに至るためにすべてをかける覚悟。……この情報差すタイミングある?


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 えと…これは天野先生の新作を期待してもいいという事でしょうか…。
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