竜への警告
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村長は涙ながらに事の顛末を話し、どうか竜を安全な場所に隠すよう守り人に嘆願する。
村に火を付けると云うのは単なる脅しだったのかもしれない。そのような脅しに屈してしまった事も誠心誠意謝罪した上で。
だが守り人は何も責めず村長に四枚の羊皮紙を渡した。
「これをそれぞれ村の東西南北に貼って置いて下さい。東洋に伝わる“結界”と云うものです、村に累が及ばぬように」
村長は泣き腫らした目を見開いた。
今は村よりも竜の身を案じるべきなのに。
「此方は老いたりと云えど希代の悪竜と恐れられし竜と魔法使い。心配には及びません。それよりもヴェロアの者が村にまたもや脅しをかける事の方が心配です」
守り人は優し気に笑う。齢十にも満たぬ子供の姿だが、その笑顔は全てを暖かく包みこむ力があった。
村長が守り人から頼まれた皆の薬を携え、村へ戻ったのは陽がすっかり傾き村が橙色の光に包まれた頃だった。
粉屋の爺さんのリウマチの薬。
牛飼いのおかみさんの血の道の薬。
小さいマクダレーネの熱冷ましの薬。
どれもいつもより量が多い。
あんな事を云っていたが守り人は、ヴェロアの王子と刺し違える覚悟で居るのではと、不安が募る。
「なんでお薬、こんなにいっぱいなの?なんで守り人様は来ないの?」
無邪気なマクダレーネの問いに答える代わりに村長はその頭をなでてやった。