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竜の居場所




 ヴェロアの使者はアズウェルとヴェロアの国境の山脈、その一際高い山の麓の村にたどり着いた。


 伝承によると、この村の者達は昔、その山に棲む悪竜に苦しめられたと聞く。


 その者達の末裔が暮らす村。竜に関して何か知っているに違いない。


 途中、街で不思議な話も聞いた。


 ―竜に育てられ、百年子供の姿のままの者が居る―


 ……と。


 村はごく普通の村だ。良く耕された畑には見事な作物、小川は水車を回し何処かで牛や鶏の鳴き声がする。


 「旅人のお方か?」


 ふと、村人に声を掛けられた使者は問い掛けの答えの代わりにこう聞いた。


 「竜を探している。

居場所を教えてくれればヴェロア王家から望みの褒美をつかわす」


 村人の顔が曇ったのを使者は見逃さなかった。





 「り、竜だなんて、昔話に出て来る架空の生き物でしょう?」


 「トカゲや蛇ならよく出るんですがね……」


 「竜? 何それ美味しいの?」


 村人達は口々に的はずれな事を云う。

 しかしそれが反って使者を確信へ導く。何処か必死なのだ。まるで竜を匿っているような。


 「解った。此処には居らぬのだな、他を探す」 

 鎌をかけた。案の定村人達は深い安堵の溜め息を漏らす。


 間違いない。この者達は知って居るのだ、竜の居場所を。


 「折角来たのだから村長に挨拶をしたいのだが」


 気を良くした村人達は快く村長の住まいに案内した。 




 村長の家に着いた使者は人払いを頼み村長と二人きりになるとおもむろに本題を切り出した。


 「竜の居場所を教えて貰おうか、この村の者なら知っているのは判っている」


 老練した村長は白をきり通す自信があったが、使者の次の言葉で凍りついた。 


 「教えなければ村に火を放つ」


 ヴェロアの使者は、村ひとつ焼き払っても何の咎めも受けぬだろう。


 しかし村には老人も子供も居る、先祖代々守って来たこの村が炎に包まれる様を想像するのは惨憺さんたんたる思いだ。 


 「竜は……」


 村長は脅しに屈し、竜の居場所を教えた。


 事もあろうに、絶対教えてはならぬと釘を刺した本人が。


 



 使者が去って行くのを見届けると村長は、山へ向かった。

 守り人に竜の危機を伝える為に。


 





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