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炎の乱舞
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べリアル王子が“勝機”だと感じたそれは、逆に全部の兵士を失う結果と成った。
急所を射られた竜はそれまで持っていた理性も知性もかなぐり捨てて、炎を吐きながら暴れ回ったからだ。
竜の周りに群がっていた者達はことごとく炙られ、人の形さえ留めていない者も居る。
すっかり炭と化した者や、皮膚が溶け落ちた者。誰なのか判別出来ない焼けただれだ顔の、恨めしそうな片目だけを開けている者。
王子はと云うと、姫君の柩を守ろうと運良く岩陰に居たので助かった。
もはや、この荒れ狂う竜に挑む者は自分一人しか残されて居ない。ディアマンティスの刀身には憔悴しきった己れの顔が映し出されていた。
「姫よ、そなたが居らぬ世界など未練は無い」
者云わぬ柩にそう呟くと、王子は炎を掻い潜り、巨大な蛇の様にのたうつ尾を躱し、竜の背中へ剣を突き刺した。




