闘いと駆け引き
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その大きさもさることながら翡翠の様な鱗の輝きに王子も兵士達も息を飲んだ。
老竜とは云えど、何と云う美しさか。
象牙の如き三本の角は、この世の覇者にのみ与えられた王冠の様にその頭上にそそり立ち、所々破れて裂けた翼さえも竜の威厳を語るに相応しい。
洞窟の一番奥の暗がりに横たわっていた竜は重そうなその首だけを上げると
「儂の血を奪いに来たのか?」
と、驚く程静かな声で訊き、それにベリアル王子が頷く。
「御主が欲しているのは一滴二滴ではなかろう。儂が死ぬまで待てぬか?」
「悪いが御主が息を引き取るまで、待ってはいられぬ」
「そうか……」
竜はしばし物思いに耽るような顔をしたかと思うと次の瞬間、火を吐いた。
冷たく暗い洞窟は、轟音と共に目も眩む程の橙色の光に包まれ、灼熱の炎に焼かれた数人の兵士は消し炭となった。
「久しぶりよのう、火を吐くのは千年ぶりだ」
竜は目を細めて笑っているようにも見える。
兵士が後ろに回り込むと、丸太のような尾でなぎ払う。
死期が迫っている筈なのに、その強さは人智を越えている。
それでも、兵士達は、果敢に挑む。
しかし、僅か数人の兵士ではどうする事も出来ない。
その時、王子の背後から声がした。
「べリアル王子!姫君の御遺体をお連れしました!」
先程、柩を持って来るように命じられた兵士だ。
急に、竜は動きを止めた。
「守り人はどうした?」
べリアル王子はこの問いに一瞬だが勝機を見出だした。
「あの子供なら兵士が捕らえている。余が戻らぬ時は首を斬れと命じた」
先程既に手に掛けたと云うのにまるで未だ生きているかの様な口振り。
「なんと……」
その時、一本の矢が竜の目に命中した。
べリアルが上手い具合に竜の気を反らせているうちに兵士が弱点の目に深く矢を射ったのだ。




