魔法使い
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その時、何かが破裂する音と共に煙幕が辺りを覆った。王子も兵士達も視界を奪われただけでなく酷く咳き込み目からは涙が出るのを止められない。
「この、竜の守り人マルテンを子供扱いとは、ヴェロアの王子も物を知らぬな」
煙幕の充満する洞窟に守り人の声が響く。それは奥の方から聞こえるようにも、後ろの方から聞こえる様にも、直ぐ近くからの様にも、遠くからの様にも聞こえる。
洞窟の入り組んだ形状のせいか、それとも守り人の術なのか、すっかり感覚を狂わされたべリアル王子と兵士達。
「子供だと思って油断した。兵士達よ!先ずはあの子供を捕らえよ!」
右往左往しながらも数人の兵士達が、煙幕をかき分け守り人の姿を探す。
残りの兵士と王子も後に続いたが、突然、身体の自由が利かなくなった。
まるで見えない鉛の鎖で雁字搦めに縛られて居るかの様。
いくら手を、足を、動かそうとしてもぴくりともしない。否、身体の動かし方を忘れてしまった。そんな感覚だ。
これでは、いくら厳しい訓練を受けた兵士達とはいえ、竜の居る所にたどり着く事も出来ない。
王子は出ない声をふりしぼって、守り人に語りかけた。
「竜の守り人マルテンよ!余が間違っていた!ここは立ち去る!」
どこからか、子供の声が響く
「その言葉、偽りではなかろうな?」
「本当だ、御主の様な最強の魔法使いが相手では、とてもかなわぬ!ヴェロア王国王子べリアルの名にかけて真実と友情の抱擁を交わそうではないか」
やがて煙幕が晴れ、守り人の姿が現れ、王子は、力を振り絞り両手を広げた。
「王子ベリアルよ、ここはそなたの礼儀に応じよう」
守り人マルテンが王子に歩み寄り、友情の抱擁を交わすと共に兵士達の身体に自由が戻った。




