王子と竜の守り人
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洞窟の中は冷々として闇が視界を奪う。
到底生き物の気配など感じれられぬこの空間に、巨大で獰猛な竜が棲んで居るとは思えない。
「松明を持て」
王子が命じると、兵士の数の松明が焚かれ、闇は橙色の灯で祓われた。
すると、洞窟の入り口付近の中央に小さな子供が佇んでいるのが見えた。
「御主等、このような洞窟に何の用か?」
子供は王子に訊ねる。
目的が竜の血のほんの数滴だとしたら、分けてやらないでも無い。それで王子の気の済むなら。
「死せるアズウェル第三王女サヴラに竜の血を飲ませたい」
それを訊くや否や、子供の表情が変わった。
「ならぬ!病や怪我で弱りし者ならともかくも死者に竜の血を飲ませる事だけは絶対にならぬ!」
王子の目的が死者の蘇生だったとは。
以前より竜の血は死者には絶対飲ませてはならぬ……飲ませると恐ろしい事が起きる。と、聞かされていた守り人は強く拒絶した。だが、
「ならば力づくで奪うしかあるまい、子供! 其処を退け」
そう云うか云わぬかのうちに、王子と兵士は洞窟の奥に進もうとなだれ込んで来た。
守り人の鳶色の瞳が王子を見据える。




