王子の一行
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迷いの森の入り口にたどり着いた時、べリアル王子の一行は奇妙な事に気が付いた。
使者の話によると、迷いの森の手前に村が在る筈だ。竜の居場所もその村の者に訊いた。と。
しかし、此処へ来るまでに村どころか、あばら屋の一軒も見掛け無かった。
森の向こうには山脈で一番高い山が聳える。此処に間違いは無い筈だ。
使者の思い違いだろう。と一行は迷いの森へ歩みを進める。
村の者達は息を潜めて王子の一行が村を通り過ぎる様を見ていた。
兵士の数は少ないが強固な甲冑で身を鎧った屈強な者達。それを従えた王子は馬車の上で虚ろな目をしていた。
迷いの森へ延びている一本道を村人達に目もくれず進む様は異様な光景だった。
守り人が村長に渡した結界の護符の効果なのだろう。
村長と村人達は今更ながら守り人の術の凄さを痛感した。
迷いの森は馬車が通るのがやっとの細い獣道の様な物が在るだけで、途中何度も車輪がぬかるみに嵌まったり、倒木に行く手を阻まれたりした。
それもその筈、この道は守り人が村に通う度にに踏み堅められた道と云うよりは只の通路だ。
馬達も兵士達も、馬車に乗っているだけの王子さえも、疲れはてたその時やっと、白い岩肌に穿たれた洞窟が現れた。
王子の虚ろな目はやっと輝きを取り戻し、兵士の一人が恭しくディアマンティスを捧げ持ち、王子に手渡す。
「やっと……夢が叶う」
馬車を降り、洞窟の前に立ち、白銀の甲冑を身に付けてそう呟くと、王子は先駆けて暗闇の孔の中に赴いた。




