フォーグレンの神官88
銀の龍の白い炎が倒れこんだミルを襲う。
死を覚悟したミルの前で、白い炎が砕けた。
「ミルか。久しぶりだな」
ミルを救ったのは水の副大神官ネスだった。
「……ネス様……」
ミルは驚きと喜びで涙腺が緩むのがわかった。
「ネスか!性懲りもなく邪魔するのか!」
デイがネスの姿を確認し、苛立ちの声を上げる。同時に水の龍が白い炎を放った。
「同じ手は通用しないぞ」
ネスは氷の壁を作るとその炎を防ぐ。
「ミル。昔話はあとだ。龍の炎を避けながら俺と同時に攻撃する。できるか?」
ミルはネスの言葉に頷くと立ち上がり、槍を構える。
「デイよ。十七年前のようにそう簡単に俺を倒せると思ったら大間違いだ」
ネスはそう言うと『神石』のかけらを剣に変えた。
「十七年前の報いをうけてもらおう」
「お前にできるかな?」
デイはそう言うと水の龍の背中で三又の鉾を振り回した。龍は唸り声をあげるとネスとミルに襲いかかった。
☆
「セン。私は昔からお前が嫌いだった。こんな機会めったにないからな」
カルは『神石』のかけらで作った鞭を玩びながらそう言った。対するセンは相変わらず無表情なままだった。
「お前のそのきれいに澄ました顔、今日こそ醜く歪ませてやる」
カルは鞭を両手で掴むとセンに飛びかかった。
☆
「無駄な抵抗だ。痛みがますだけだ。俺が痛みがないように殺してやる」
ヤワンは相対する新米神官リナに微笑みかけながら、その血に濡れた剣を右手に握る。目の前で同じく新米神官だった少女が殺された。
リナは恐怖に顔をゆがめながら、ヤワンを見つめていた。
「楽にしてやるよ」
体が震えて動かなかった。武器を構えなければ、リナはそう思った。
しかし、先ほど殺された同僚の顔を脳裏によみがえり、リナは金縛りにあったように動けなかった。
こんなつもりで神殿に入ったわけじゃなかった。
ヤワンは無抵抗なりリナに近づくと、剣を振り上げる。
「やめろ!」
そう声がして、ヤワンの剣を燃えあがる。
「くっつ!」
ヤワンは熱さに耐えきれず、剣から手を放す。剣は地面に落ちると元の『神石』のかけらに戻った。
「タ…―ヤ?」
リナは頭上のターヤを愕然と見つめた。火の龍に乗っている人物が、ターヤであることは確かであった。しかしその雰囲気はまったく異なったものだった。可愛らしい大きな青い瞳は深紅に変化し、真っ白なその肌は赤く光り、まるで炎そのもののように見えた。
「ちっ、火の神か」
ヤワンは舌打ちをすると、地面に落ちたかけらを拾い、再度剣に変化させた。デイから火の神が石から解放され、火の神官に宿っていると聞いていた。目覚める様子はないと聞いていたので、まさかここに現れるとは予想外のことであった。
「リナ。遅くなってごめん。もう大丈夫だから。僕に任せて」
ターヤはリナに笑顔を見せると、地面に降りたった。火の龍はターヤの周りを旋回し、上空に舞い上がる。
「これ以上犠牲者を出させない。火の神、水の女神のこと、頼むね。僕はまずこの人をどうにかする」
火の龍はターヤの言葉に答えるように咆哮を上げると、水の龍の方へ飛び去る。
「この人?君のようなお子様に俺の相手が務まるとでも思うのか?」
ヤワンは龍の背中を見送りながら、不満げに眉を上げるとそう言った。
「ターヤ!」
「リナ。大丈夫だから。リナは黙って見てて」
心配そうなリナにそう答えるとターヤは鞭を作り出す。火の神を契約しているターヤは自由に火の力を操ることができていた。
すべてを僕が終わらせる……。
ターヤは鞭を握りしめるとヤワンに向かって跳んだ。




