フォーグレンの神官86
「大神官様……。僕は全てを知っています。僕が何者か。何をすべきか。フォーグレンの人達を守って見せます」
そう言って、ターヤは火の龍を呼びだすと空に駆けていった。
ターヤの顔に、タリザの面影が重なった。
十年前、センが少女を連れて戻って来たとき、予感がした。
予感は少女が成長すると共に確信に変わった。
記憶がないターヤに母親のことを聞くわけにもいかなかった。
センから幼いターヤを雪山で見つけたと聞き、カネリはタリザがすでにこの世にいないことを悟った。
青い瞳に白い肌、銀色の髪、父親が誰であるか、自ずと分かった。
無邪気だったターヤ……。
子供であったターヤ……。
ターヤが眠っている間に何が起きたのか、カネリには知る由はなかった。
しかし、十七年前に起きた真実を知っていることは確かだった。
すまない……。
カネリは老いた自分ではなく、まだ若いターヤに辛い経験をさせることを謝らずにはいられなかった。
マオはロセから状況を聞くと渋い顔をして、天井を見た。
自分が城を離れている間にそんなことが起きているとは、驚き以外何物でもなかった。
伯父のラズナンのことは子供のころに遊んでもらっていたので覚えていた。死亡したと聞いて悲しんだのを覚えている。
子供に無関心なマシラと違い、ラズナンはよくマオに乗馬を教えたり、剣の相手をしたりとマオにとっては父親のような存在だった。
そのラズナンが復活して、王家を乗っ取り、兵を繰り出しフォーグレンに向かっている。
信じがたいことだった。
しかし、ロセやティアナから話を聞き、信じるしかなかった。
「マオ様。俺はフォーグレンに向かいます。なんとしてでも戦いを止めなければ。ネス様と力を合わせれば、どうにかなるかもしれません。フォーグレンには火の神官もいますし」
ロセは考え込むマオにそう声をかけると、部屋を出ようとした。
「ロセ!」
しかしそんなロセを止めたのは青ざめた表情をしたティアナだった。
「ティアナ姫?」
ロセは訝しげに思いながらも、足を止める。
「私を、私もフォーグレンに連れていってください。ラズナン……父を止めなければなりません」
「ティアナ?」
マオは思いがけないティアナの言葉に呆然とその名を呼ぶ。
「兄上……私は、私はラズナンの娘なのです。娘として、父の誤った行動を止める義務があります」




